10.もう少し考えたほうがいいと思います
ギルドの地下。
魔力値を測る水晶に現れた数字を前に、私とカイン、マスターは唖然としてしまいました。
「……なんというか、なぁ」
「もう運命としか言いようがないわぁ。愛良ちゃん、本当に私の義娘にならないの?」
「なりません」
呆れた様子のカインと、ちょっとしつこいオカマスター。
水晶に現れた数値を見てから、ずっとこんな感じです。
1199万9999。
あと1でも高かったらカインと契約は成立しなかったんだけど、微妙に足りなかったみたい。
「惜しいなぁ……あと1高かったら自由だったのに。頑張って魔力を上がったら、使い魔の契約から解放される?」
「それは、無理……だな」
「うん、無理ね。契約って一生ものだから。お詫びに好きなだけカインを弄ったらいいわよ」
はい、私の人権奪った人のお義父さんから許可でましたー。
「じゃ、遠慮なく。おまぬけ。おバカ。おっちょこちょい全帝」
「ぐっ……」
「そのおまぬけで全帝が務まるのか疑問だわ」
「うっ……」
「力があるだけで全帝になったんなら、あのヘタレに全帝の座奪われちゃうよ?」
「……グス」
はい、思ったこと散々言ったら鬱りましたー。
めんどくさいから放置です。
「じゃ、愛良ちゃん。次は属性を調べるから、こっちの水晶に魔力流してね~」
マスターにまでも放置される全帝。
実はこの子、なんちゃって全帝なんじゃない?
とりあえず、魔力値を測る水晶の隣にあった水晶に触って魔力を流したんだけども。
「んん?」
なんか、いっぱい色変わりました。
え、属性って一つくらいで別にいいんですけど。
すでに怪力持ちですし。
カインに新しい怪力を抑える腕輪を造ってもらったけど、それでも思いっきり殴ったら壁とか余裕で破壊できますからね?
それにプラス、いろんな能力付随しちゃったら私、なんだか人外っぽいじゃないですか。
怪力の時点ですでに人外っぽい目で見られてはいるんですけどね。
しぃちゃんとカインから。
私、人間だからね?
「えーと。とりあえず、私の属性って何なのかなー……」
「……全部」
「へ?」
なんだか、ぶすっとしたカインがぽつりとつぶやきました。
全部とな?
何が全部?
「俺と、お前の幼馴染が持っている属性、全部持ってる。他にもいくつがあるが、見たことがないから知らん」
カインさん、すっごく投げやりです。
拗ねてます?
というか、私の属性ってどんだけあるの。
いや、創造はちょっと予想してたけどさ。
だからって、多くないですか?
「え、そんなにいらないんですが、返品は可能ですか」
「不可能に決まってんだろうが。何とち狂ったようなこと言ってやがる。むしろそれだけ持ってるんだから喜べよ」
むすっとしたまま腕を組んで言い張るカインさん。
いやいや喜べませんって。
そんだけ色々あったら絶対に面倒事に巻き込まれやすいでしょ。
むしろ巻き込まれるのが王道でしょ。
龍雅がそれだもん。
絶対に拒否します。
「まぁまぁ。カイン、不貞腐れないの。それより愛良ちゃん、うちのギルドに入らない?」
オカマスターがぶーたれてるカインを押さえながら、ニコニコ笑って提案してきた。
ギルド?
カインがやってたみたいに、生き物の討伐とかするギルド?
「え、やだ」
「わん!」
「即答かよ」
何で平和な日本育ちの子が、好き好んで危ない事しないといけないんですか。
生き物を殺したりするのとか、絶対無理。
泣く自信あります。
普通にのんびり稼ぐ方法ってないの?
……すぐにお金を用意できる職業なんてないか。
日本に戻れるのかは分からないけど、この世界で生活するには慣れないといけないことなんだろうし。
……仕方ないから、ギルドには入っていたほうがいいかな。
別の方法でお金を稼ぐ方法も考えながら、採取系の依頼を受けたらいいよね。
「んー……自分の生活費くらいは稼ぎたいから、ギルドには入ります。お金に困ってなかったら、別に依頼を受けなくてもいいんですよね?」
「それはそうだけど……生活費なら気にしなくていいのよ?カインはこれでも、一応、全帝だし。一生困らないぐらいのお金はとっくの昔に稼いでいるんだから」
「どうせ、俺なんて……」
いちいち強調しながら言うマスター。
またカインさん、鬱りだしたじゃないですかー。
ジメジメし過ぎてキノコまで発生さしちゃってますよ?
あ、しぃちゃんが隅っこでイジイジしてるカインにおしっこかけちゃった。
……気づいていないみたいだから、ほっとこう。
「一応カインとは契約しているけど、ずっとカインのお世話になるわけにもいかないです。私たち魔力強いから、半径1000㎞圏内だったら離れても問題なさそうだし」
ちゃんと契約については、契約の破棄ができないかを重点的に調べるために本を読み漁ったから、そこは確実だと思う。
だいたい魔力1万を1㎞とするみたいだから、これだけ魔力が多かったら契約とか特に気にしなくてもよさそう。
遠いところの依頼だったらカインにも着いてきてもらわないといけないけど、近くのばかり依頼を受けていたら十分だよね。
「そーお?なら、とりあえずギルドカードを渡しておくわね。このカードに魔力を流したら使えるからね」
「はーい」
オカマスターがくれた黒いカードに自分の魔力を流す。
あ、白い文字が出てきた。
名前と、年齢、性別にギルドランク……あれ?
……んん?
『ギルドランク:Z』
おかしい。
ちょっと疲れてるんだな、私。
よし、癒されよう。
「しぃちゃん、モフモフさせて」
「わう?」
部屋を走り回って遊んでいたしぃちゃんを抱っこしてモフモフ。
チラ
『ギルドランク:Z』
モフモフモフモフ
チラ
『ギルドランク:Z』
モフモフモフモフモフモフ
「えー、愛良ちゃん?どれだけ頑張って現実逃避しても無駄だからね?あなたは間違いなくZランクだからね?」
一生懸命現実逃避していたのに、オカマスターにくぎを刺された。
いやいや、待ってください。
「……初心者にいきなり最高位ランク付けちゃうとか、ダメだと思います。私、まだ魔法も使えないのに」
「ちゃんと教えるし、大丈夫よ。力を持っているのに使いこなせないと、逆に危ないもの。大丈夫、アイラちゃんは責任感ありそうだし、すぐにランクに見合うだけの実力が身に着くと思うわ」
そんな優しげな眼で諭されても、見た目は筋肉マッチョなオカマさんだと脅されてるみたいです。
ランクに見合うだけの実力が身に着くかどうかじゃない、身につけろって副音声が聞こえます。
怖い、泣きたい。
「親父……また、能力だけでランクを判断したのかよ」
隅っこで鬱っていたカインが突っ込んできた。
「あら、カイン。私の見立てで間違いはないわよ?それより、ちょっと匂うから近寄らないでくれる?」
確かにしぃちゃんにおしっこかけられてたから、微妙にプーンって匂いますね。
「……」
無言でしぃちゃんにおしっこかけられた上着を脱いで隅っこに捨てたカイン。
何で捨てるの。
後で洗うから、ちゃんと回収して下さい。
「……飼うならしつけをしっかりしろ」
「キノコ発生させたりするから、そこらへんの木と間違えたんだよ、鬱帝くん。分かったかい、鬱帝くん。君にも責任があるのだよ、鬱帝くん」
「なに鬱帝を定着させようとしてやがる」
いや、だってすぐ鬱るし。
もう全帝から鬱帝になったほうがいいと思うの。
ちょっと抜けてるカインは、全帝より鬱帝が似合うよ、絶対。
「うふふ。愛良ちゃんにはね、カインの補佐をしてほしいと思ってるの。鬱て……じゃない、全帝として、この子、ちょっと抜けてるところがあるから、そこを埋めてもらおうと思って」
マスターにも鬱帝が定着しかけている件について。
もうカインは鬱帝でいいよね。
「親父、今鬱帝って言いかけたよな?」
「おだまり鬱帝。お・か・あ・さ・んは!今愛良ちゃんと話しているのよ?」
「………」
もうカインの心がすでに色々折れかけています、マスター。
というか、そのナリでお母さんは色々キツイです。
私にも精神的ダメージが食らいます。
ようやく慣れてきたのに鳥肌がぶり返すじゃないですか。
「だからね、愛良ちゃん。全帝補佐としてZランクを引き受けてくれないかしら?」
「ひぅっ!?」
筋肉マッチョのワンピース着たおじさんが、両手を組んで上目遣いしてきた。
「引き受けます引き受けさせてください!だから少し離れてください!」
いやね、鳥肌ぶり返した時に上目遣いでどんどん近寄ってこられるとね。
泣きそうになりましたとも。
「よかった!もう愛良ちゃんの二つ名は考えているのよ!『万物の操者』よ!」
「「……」」
カイン→『万物の覇者』
私→『万物の操者』
つまり、万物(全帝)を陰で操れってことですね、分かります。
「だって。カイン、これからよろしくね?」
もう諦めたほうが早い。
修行とかはカインとマスターにつけてもらったらいい。
依頼に関しては、できるだけ討伐系は避けよう。
「……俺に拒否権は」
「「ない」」
私にだってないのに、カインにあるわけないじゃないですか。
「……はぁ」
カインが諦めた所で本題に入りましょう。
「学園編入の書類に、そのまま魔力値とか書くの?」
「さすがに予想以上だったからね。カインと同じように学園長に話しておくわ。カイン、あなたと同じくらいで誤魔化して書きなさい」
「分かっている」
「手続きよろしく」
「ああ。とりあえず帰るか」
んー……結局、面倒事を引き受けるはめになっちゃったような気がする。
仕方がないから、頑張ろう。
全ては龍雅を見つけた時、あの子をフルボッコにするために。
絶対に顔面の原型が留めないぐらいに潰してやる。
そのためにも、頑張ります!