100.愛良ちゃん捕獲完了
ついに100話到達ー!
……この話は、いつまで続くんだろうか。
◇◇◇◇
コス王と別れて1時間。
宿屋を中心に聞き込みを行って、ようやく愛良が入ったであろう宿屋を見つけた……が。
「銀髪のお子さんを連れたお客様ですか?昨日予約を頂きましたが、夕方になってキャンセルされました」
な・ん・で!
あいつは一つの場所にじっとしていないんだ!?
探している俺に対する嫌がらせなのか!?
「そうですか……。どこに行くか、言っていませんでしたか?」
「知人が別の宿屋を予約していたため、と申されましたが」
「知人?」
この帝都に愛良の知り合いなんているわけがない。
あいつ、この宿屋をキャンセルするために適当に理由をつけたな。
くそ……振り出しか。
「あ、それと……関係するかは、分からないのですが……」
どこか言いづらそうに口を濁し、周囲を憚るように声を落とした宿屋の店主。
「昨晩、銀髪の子どもを探しているという連中が来ました。見るからに怪しい連中だったので話しませんでしたが、昨日のお客様が連れていたお子さんも、銀髪でしたので……」
つまり、愛良が連れているという子どもを狙っている連中がいるかもしれないってことか。
なるほど、愛良が急に宿屋を変えた理由はそれだな。
「ありがとうございました」
店主に礼を言って大通りに戻る。
また別の宿屋を探すしかないな。
狙われているなら、この宿屋からは離れた宿屋に行くはず。
……いや、あの愛良に一般的考えが通じるはずがない。
また地道に探すしかないか……。
なんであいつは髪の色を変えたり宿屋を変えたり、見つかりにくいことばっかりするんだ。
探す方の身にもなれよな……。
「…………あ。」
俺なら適当に一人で夏休みを過ごすとか考えて、俺が捜しに来るって選択肢が最初から頭にない可能性があるか?
いや、むしろ愛良ならそっちの可能性の方が高い。
あいつはあいつで、自分一人で何とかできるだけのスキルは身に着けているし。
何かしでかした時の後始末をしないだけで。
……自分で考えていて、なんか悲しくなってきたぞ。
「はぁ……」
もう帰っていいだろうか……。
商店街の中を歩きながらも、思わずため息が何度も出てしまう。
「あいっかわらずの鬱帝だねー」
もう言われ慣れたから、別にいいし。
最近、親父にも『鬱帝』って言われるし、俺も普通に返事するようになったし……。
他の帝連中にも、会議の時に普通に『鬱帝』って呼ばれて、しばらく何も気づかなかったし……。
いいんだ、俺は鬱を極めた鬱帝で。
「まぁ、何日か会わないだけで性格が激変するのも変だから、こんなもんかなー」
当たり前だ。
そんなに簡単に性格が変われるなら、鬱帝を克服している。
「あ、でも鬱帝が鬱帝じゃなくなったら、単なる出落ちに降格しちゃいそうな気もするし、むしろ鬱帝でよかったねー」
うるさい。
鬱帝鬱帝と何度も言いやがって、お前は愛良か。
「……は?」
いや、さっきから聞こえてきた声って、愛良……だよな?
思わず勢いよく後ろを振り返れば、いつもの黒髪をした愛良がニッコリ笑いながら立っていた。
「愛良!?」
「やっほー。カイン、久しぶりー。呆れるぐらい気づかなかったねー」
最後に見た時と変わらない様子に安心しながらも、一つ疑問がある。
「おまっ、いつからいたんだ!?」
本気で全く気配を感じなかったんだが!?
俺、どんだけ悩んでたんだよ!?
「カインが宿屋を出て、一人で百面相していたぐらいから?」
「いやいや、すぐに声をかけろ!」
「だって、一人百面相が面白かったんだもん」
「そーゆーと思った……」
人が悩んでいるのを傍から観察するのが好きな愛良。
もう諦めるしかない……。
思わず肩を落とした俺の目の前で、首を傾げながら俺を見上げてくる愛良。
「それで、カインはなんで帝国にいるの?」
「お前が鬼畜太子にフィレンチェ王国の外に飛ばされたって聞いたから、捜しに来た。まぁ、無事でよかった」
「ありゃ?わざわざ捜しに来てくれたんだ?別に夏休みが終わる前には戻るつもりでいたのに」
よし、完全に俺が捜しにくるとは全く考えていなかったんだな。
一言でいいから、ねぎらってくれないか?
「そこは素直に探しに来てくれてありがとうって言ってくれ」
「ありがとー?」
なんでお礼を言わないといけないのか分からないけどー、と言わんばかりに首をかしげたまま礼を言ってきた。
棒読み……よりは少し、ほんの少しだが心がこもっている気がするから許す。
思い込んでないと、愛良の相手はやっていけない。
「あ、私買い物の途中だった!急いで戻らなきゃ、リーンが起きちゃう!じゃ、カイン!またね!」
「ああ。……って、おい!?」
何か普段の流れの延長のような会話だが、こいつ、さらっとどこかに行こうとしたぞ!?
これ以上俺の心労を増やすな!!
さっさと離れようとした愛良の腕を、がしっと掴んで確保。
ようやく見つけたのに、そう簡単に見失うわけにはいかないからな!
「カイン?私買い物の途中なんだってばー」
「分かった。分かったから一人で行こうとするな。シリウスは?」
いつもなら必ず愛良と一緒にいるシリウスの姿がまったく見えない。
あの危犬はどこに行った。
「しぃちゃんは宿屋でお留守番兼子守り中」
「子守り?」
そういえば、子供が一緒にいたんだったな。
宿屋で寝ているのか?
「あのね、お兄ちゃんに飛ばされた森で子どもを見つけたの。詳しくは後で説明するから、買い物に行くよ。あの子、今はまだ寝ているからいいけど、起きてしぃちゃんしかいなかったら不安になっちゃうもん」
愛良は本気で早く戻りたい様子で、俺の手を握ってぐいぐい引っ張っていく。
子どもをできれば一人にしていたくない、という様子だな。
「分かった。で、何を買うんだ?」
「ピクニックに持っていくお弁当の食材。ほら、行くよ。……あれ、コス王は?」
歩いてから気づいたというように愛良が聞いてきた。
……そういえば、コス王と手分けして探していたんだよな。
うっかり忘れていた。
「あいつもこの帝都にいる。手分けしてお前を探していたんだ」
とりあえず、愛良を見つけたと連絡しとくか。
念話をしようとスマホを取り出すが……それより先にコス王がこの近くにいるのが分かった。
もちろん、魔力感知が俺よりも高い愛良も気づいている。
「……ん?コス王、結構近くにいるみたい」
「……近くにいるのは何だ?」
コス王の近くに、禍々しいまでに巨大な魔力を感じるぞ。
あまり関わりたくない感じだ。
むしろ、関わるのは危険じゃないのか?
「あ~……うん、邪神側が送り出した転生者くん」
「はぁっ!?」
「ま、気にしない気にしない。転生者くん自体は悪い子じゃないから」
会ったのか!?……と、聞く前にコス王たちのすぐそばに転移させられた。
そして聞こえてきたコス王と転生者らしき男の話声。
「絶壁だったか?」
「絶壁だった」
何が絶壁だったのか、聞かなくても分かってしまった。
恐る恐る隣にいる愛良の顔を見れば、お前が実は邪神なんじゃないか?って聞きたくなるくらい非常に真っ黒なオーラを漂わせていた。
……こいつら、死んだな。
「うん、間違いない!絶対お嬢だ!」
コス王、絶壁と断言した当の本人が背後にいるぞ。
恐ろしい笑み付きで。
「なぁなぁ、そのお嬢って子の名前って、何て……「さっきから人のこと絶壁とか抜かしやがった失礼な人たち、こんにちは~」……」
転生者の言葉を遮っての愛良の言葉に凍り付く二人。
愛良が纏う空気が冷え切っている……。
「「……」」
無言のまま振り返ろうとした二人だが、いつのまにか転生者の方は地面に倒れている。
その傍にはニコニコと効果音が付くんじゃないか、というくらいの笑顔を振りまいている愛良。
その手には、いつの間にか鉄ハリセンを握られている。
……ちなみに、俺には愛良の動きが見えなかった。
目に魔力を込めていたら別だっただろうが、普通の動体視力では追いつかなかったんだ。
愛良は馬鹿力セーブの腕輪を外しているわけでもなく、魔力で身体強化をしているわけでもないのに。
こいつの強さに限界はないのか?
……これからの朝練で、愛良と組手をするのはやめよう。
もう接近戦で愛良に勝てるわけないって。
そう心の中で誓った俺を、顔色を青ざめさせたコス王が掴みかかってきた。
「いやいや、カインさん?黄昏てないで助けて!?」
「俺には無理だと何回も言っているだろう。一体何回言わせる気なんだ?」
「お嬢!許して!?お嬢を探すために特徴を言う必要があったんだって!」
さらに火に油を注いでどうするんだ、コス王。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、そこまで馬鹿だったのか……。
ほら見ろ。
愛良の白い額に青筋がくっきりと浮かんでいるぞ。
「ふふふ……。コス王?君、ちょっと特別空間で反省しておいで?」
「え!?何その特別空間ってぇえええええええええ!!?」
ツッコんでる途中のコス王を、落とし穴的にして別空間に落とした愛良。
……直接ボコるのかと思ったんだが。
というか、特別空間って何だ?
「時間がないんだからしょうがないです。さっさと行くよ」
「あー……まぁ、そのうち出してやってくれ」
空間すらも超えてコス王の断末魔が聞こえてきているような気がするが、全力で気のせいだと思い込んでおこう。
自分で自分の首を絞めている事に気づかない中身中年のおっさん、コス王。
ここでクイズ!
彼が飛ばされた特別空間とは、いったい何なのでしょうかー?
1.大兄ちゃん特製の拷問部屋で拷問中
2.カインさんの魔物料理保管空間で料理に襲われ中
3.愛良ちゃんのお薬実験空間で人体実験中
4.小さくなって、しぃちゃんの胃袋で消化中
……どれをとっても、ロクでもない結果にしかならない。