97.親馬鹿スキルの力って偉大
「はい、お待たせしましたー。この子が銀髪で生まれてきたのは、魔力が体内で封印されている影響だそうです。遺伝でも何もないでーす」
「でーしゅ!」
「わーう!」
はい、私の言葉を真似してくるリーンとしぃちゃんが可愛いです!!
もうこの子たちがいる限り、シリアスな雰囲気なんかつくれません!!
最初から作る気もありませんけど!
「……なぜそんなことを知っている。そして、今のは何だ?」
「あれ?まだスマホってこの国じゃ普及してない?」
まぁ、造ったのは2,3か月前だったから、しょうがないかぁ。
頑張って広めて、もっとお金を稼げるように頑張ろう!
すでに十分お金持ってるけど!
「今フィレンチェ王国で普及しているスマホです。ボタン一つで相手に念話ができて、さらには色々な情報ネットワークも完備している優れものです!」
本来のものには遠く及ばないけどねー。
相手の居場所を魔力を使って探索してから念話を飛ばすよりもずっと早いし。
とりあえず、便利なものを作った私はえらい!ってことで。
「念話の相手は物知りな変態さんです。まぁ間違ってることはないと思うから、この子の髪の色は関係ないです。というか、皇帝さん。あなた、この子を一度王家しか入れないルクレイチャ湖に連れて行ったんだから、皇帝さんの血を引いているのは確実じゃないですかー」
「なぜ知っている?」
私の言葉に、また警戒心を膨れ上がらせた皇帝さん。
だけども、私が知っているのはリーンが覚えている記憶を見たからなんだけど、そんなのが通じるとは思わないしなぁ。
説明めんどくさいし。
「まぁまぁ、そこは深く考えなくていいですから」
「しかし……」
「リーンも、気にしないよねー?」
「あい!」
「………そうか」
リーンを巻き込んだら、皇帝さんも諦めました。
この皇帝さん、やっぱり親馬鹿スキルを持ってると思います。
「それで、この子は皇帝さんの血を引いていないかもって理由で存在が隠されて不当な扱いを受けていたってわけですか?」
「……そうなるんだろうな。妃やさっきの家臣が勝手に産後で弱っていた皇妃とともに死んだと国民に発表をしおったからな。私にも子は死産だったと偽って」
手に持っていた剣を机にまた立てかけながら、淡々と話す皇帝さん。
いやいや、そこはもうちょっと怒ろうよ。
……と思ったところで、皇帝さんが徐に口端を上げた。
「……まぁ、あの馬鹿どもには罰を受けさせたがな」
わぁ……皇帝さん、冷やかな笑みが似合いますね。
というか、怖さに磨きがかかってリーンが怯えてるからやめてほしいです。
どんな罰をやったのか知らないけど、あの豚犬の様子を見た後だから聞くのはやめておこう。
その方がリーンの教育上よろしいと思う。
「皇妃の子が生きていたと知ったのはつい先日のことだ。あの馬鹿どもが密会している所を聞いたのでな」
「それでこの子を連れてルクレィチャ湖に行ったんですか?自分の子どもか確認するために」
「……それだけではないがな。外の景色を見せてやりたかった。湖に連れて行ったのは、あの湖には癒しの加護があるからだ。肉体的にせよ、精神的にせよ、な。泉の効果で怪我や辛い記憶は癒されたはずだ」
つまり、皇帝さんがリーンを見つけた時は、この子はひどく傷ついていたってことね。
泉のおかげで、何とか癒されたけど。
「……この子を傷つけた奴ら、全員肉片にしてやろうかな」
こんな可愛い子を傷つけるとか、死刑だよね。
死刑しかありえない。
「うぅ~……」
しぃちゃんも殺る気満々になってるし。
よし、殺ってやる!
「好きにしていい……と言いたいところだがな。一応仮にも皇族の中に入っている奴らをそう簡単に消されると帝国の面子に関わる。今は奴らの不祥事を集めている所だから邪魔をするな」
「……はい」
「わう……」
はい、殺る気満々になったところで皇帝さんにピシャリと言われてテンション落ちました。
まぁ、身内のことは身内でやってるみたいだから別にいいけどさ。
「というか、不祥事って邪神復活のことですか?」
さっき豚犬が何か言ってたし、絶対にそうだよね。
確認の意味で聞いてみたら、皇帝さんもあっさり頷いたし。
「ああ。邪神が復活しようがしまいが、奴らを糾弾するには十分なだけの証拠が揃うだろ」
「ふむふむ。その糾弾する中にあの豚の皇子様も入ってます?」
あの豚もリーンを捨てたのに関与してるっぽいこと言ってたけど、一応この国の皇太子なんだよね?
問題ないのかなぁ?
「もちろん入っている。というよりも、皇妃の子を捨てた最たる原因と言えるだろう。皇妃の子というだけで皇太子の座は移る可能性が高かったからな。それを恐れた妃と皇太子、それに妃の兄であるあの男が動いていたということだ。私がその子を見つけて湖に連れて行った次の日には、私が傍を離れた隙をついてどこかに捨てたからな。むしろ、その子が魔盲であるなど知らなかった」
つまり、ライオン皇帝さんの側室はビッチで豚のお母さんなんだね。
ライオンよりも強い豚のDNAって、もはや不思議以外のなんでもないわ。
「しゃっきのぶたしゃん?」
「そうそう。さっきギャーギャー喚いていた豚さん。よく覚えてたねー。偉い偉い」
「えへへー!しーたん、えらーねー!」
「わ~う」
あ、またしぃちゃん情報だったのね。
可愛いから別に気にしないけど。
気にするのは皇帝さん。
「……アレと会ったのか?」
自分の息子をアレ呼ばわりですか。
一応仮にもあちらもあなたの息子さんですよー。
「会いましたよー。なんかこの子のことで、ギャーギャー喚いてました」
「リーン、ぶたしゃんきりゃい!」
「わうわう!」
そりゃ、気持ち悪い餓鬼とかなんや言われて好きにはなれないよね。
次に会った時は、さらにからかいまくってやるから覚悟しとけよ、豚の王子様?
「お前……アイラと言っていたか?宿はもうとっているのか?」
「とってますよ?」
「場所は?護衛を送る。その子が生きているのが知られたらなら、刺客を送りかねない奴らだ」
あらまぁ、物騒ねー。
刺客とか暗殺とか無縁の世界で生きてきたから実感わかないわー。
「けど、その護衛の中に刺客が混ざっている可能性は捨てきれないし、別にいいかなぁ」
「マーマ、ちゅよい!しゃいきょー!」
「わう~」
常に神級魔法5発分は耐えられる強度の結界を張ってるから、問題なしです。
怪我したくないって理由じゃなくて、結界を常に一定に張りつつ生活することで魔力コントロールの特訓をしているだけだけどね。
だって私、もともとのスペックが高いから、神級でもかすり傷しかつかないし。
神族の頑丈肉体万歳。
「お前に問題がなくとも、この子が怪我をしたらどうする」
「可愛い子はしぃちゃんが自発的に全力で守るから問題なし」
「わう!」
任せろ!と言わんばかりに返事するしぃちゃん、可愛いくて頼もしいです。
本当に最高の相棒です。
「というか、やっぱりこの子は城に置いておくのは危険なんですか?」
なんか皇帝さん、私がリーンを連れていくの前提で話しているよね?
別にいいんだけどさ。
ちょっとは説明しようよ、皇帝さん!
「危険だ。私の傍に常にいることはできんし、信頼できるものもいつ裏切るかは分からん」
「いや、そこはもうちょっと信頼できる部下を作ろうよ」
「それならば、その子が懐いているお主に預ける方がいい。これまでも守ってくれたようだからな」
スルーですか?
さっきの私の言葉はスルーですか!?
「ということだ。お前にその子を預けるから、奴らを潰すまで立派に育ててくれ」
完全にスルーでした。
しかも、なんかリーンを預かることが決定してます。
「というか、これまで守ったにせよ、よく初対面の人間をそこまで信用できますねー……」
「人をみる目は備わっているつもりだ。お前に悪意や野心はない。なにより、その子が懐いている」
いや、最後の方が重要視してますよね。
この人、やっぱり絶対に親馬鹿スキルを持ってるよ!
「あー……この子を預かるのは了承しました。で、質問なんですけど」
「なんだ?」
「この子の本名って、なんですか?いつまでも仮の名前というのもアレなんで」
いい加減、ちゃんとした名前で呼んであげたいよね。
『リーン』って名前はしぃちゃんにダメだしされまくって、ようやく合格点もらえた名前だけど。
うん、どうして『プリンちゃん』とかダメだったのかしら?
可愛いのに、不思議です。
「名前は……産まれてすぐに死んだと思っていたため、ないな」
「あらまぁ」
「リーンなの!」
私の腕の中で手を上げて名乗るリーン。
リーンも自己主張強いねー。
そんなリーンの様子に、即座に頷く皇帝さん。
「うむ。構わん」
「わう!」
はい、名前はリーンで決定しました。
改名は受け付けません。
「苗字は?」
「リーン・ギルフォードだ。しかし、本名を名乗っては帝国の皇子であることを公言しているようなものだからな。目立たない苗字を適当に名乗らせておいてくれ」
「目立たない苗字ねぇ……」
私の苗字だと、確実に目立つよねぇ。
日本の苗字なんて、学園じゃ聞いたことなかったし。
「まぁ適当に考えます。私、夏休み中はこの世界を色々旅行してるけど、学園が始まるころにはフィレンチェ王国に戻ってると思うんで。あ、スマホを渡しておくんで、何かあったら連絡してください。使い方は直接頭に叩き込みますね」
「は?……っ!?」
皇帝さんが構える前に紙ハリセンで頭を軽く叩く。
うん、ほんとにペシリってくらいの威力だからね?
皇帝さんは頭を押さえて俯いてたけど、すぐに顔をあげた。
あの転生者君みたいに、一気に大量の情報を送り込んでないから、さすがに復活早い。
「……今、何をした?」
「これの使い方の情報を頭に直接送りましたー。早くて便利、時間短縮で素晴らしい能力ですね!」
「マーマ、しゅごいー!」
「わ~う~!」
「……そうか」
この皇帝さん、めんどくさくなったら話を続けるのを諦めるモットーなようですね。
うん、そのモットーは私が楽で素晴らしいと思います!
「その子を……いや、リーンを預けている間の養育費を先に渡しておこう」
はい、話をそらした皇帝さんが机の引き出しを漁り始めました。
だけど、養育費とか私には必要ないよねー。
「別にお金には困ってないからいらないです。その代わり、お願いがあります」
「お願い?なんだ?」
「王家しか入れない『ルクレィチャ湖』を見てみたいんです」
「………」
私のお願いを聞くなり、難しい顔をして黙り込む皇帝さん。
やっぱりダメかなぁ?
「……案内することは構わない。だが、あの泉は私の血を引く者以外は入ることはおろか、見ることもできんぞ」
「たぶん大丈夫だと思います」
そこらへんは、設定能力でどうにでもなるからね。
「……それで構わないなら、別にいいぞ」
「やった!」
これでお兄ちゃんの課題、1個クリアだ!
「マーマ、うれし?リーンも!」
「わうわう!」
うん、二人も万歳ポーズで可愛いです!
しぃちゃんが二本足で立って前足上げてるのは何か違和感あるけど、可愛いから問題なし!
そんな私たちのテンションに、釘を刺してきたのは皇帝さん。
「ただし、今日は駄目だ。私は今から会議があるからな」
「あれまぁ、残念」
せっかく見れるかと思ったのに……。
でもお仕事ならしょうがないよね。
皇帝の座にいるなら忙しいだろうし。
「いつなら大丈夫そうです?」
「明日の昼ごろに時間を空ける。昼前にまた勝手にこの部屋に侵入しておいてくれ」
「はーい。勝手に侵入しときます!」
「しーにゅ?」
「わう!?わうわうわう!!」
はっ!?
『侵入』という言葉に、しぃちゃんが大変怒って私に吠えてきた。
そうだった、言葉をあまり知らないリーンは私のマネをしちゃうから、気をつけなきゃいけないんだった……。
リーンの教育によろしくない言葉をむやみに使っちゃダメ!
しぃちゃんナイス!
次から気を付けます!
「はい、リーン。お父さんにばいばーいって」
リーンを抱っこしたまま、片手を掴んで皇帝さんに向かって振ってみる。
そんな私の動きに、不思議そうに首を傾げるリーンちゃんが可愛いです。
「う?とと?ばばーい?」
うん、意味分かってなさそうだけど、まぁいいか。
皇帝さん、めちゃくちゃ嬉しそうにニヤついてるし。
人を寄せ付けないライオンさんが、いきなりデレちゃった感じです。
ツンデレ甘皇帝さんです。
「それじゃあ、皇帝さん。また明日のお昼に来ますねー」
「ああ。気を付けるのだぞ」
挨拶だけして、さっさと転移!
場所は、帝都内の大通り近くの裏通り。
「リーン、本当のお父さんが見つかってよかったねー」
「とと、こわーねー」
「あ、あはは……」
ずっと無表情だったから、お父さんは怖い人って思い込んでるよ。
実のお父さんなのに……。
まぁ、笑った顔も犯罪者顔負けの顔だったから、しょうがない気もするけど。
「よし。とりあえず、動けるのは明日だからね。もう宿に戻って休もうか。一応宿屋さんの場所は変えておこうね」
「あい!」
「わう!」
どうせ明日の午前中は暇だし、お弁当の準備をしてピクニックにするのもいいね!
よし、明日の朝は買い出し決定!
あ、リーンの家族には会えたから、目印の銀髪はいらないね。
黒髪に戻しておこーっと。
愛良「髪の毛を黒色の設定、と。よし、元通り!」
しぃ「わうわう!」
リン「あえー?マーマ、おしょろいはー?」うるうる
愛良「……やっぱり銀髪のままにしとこうかな」
しぃ「わうっ!わうわうわーう!!」(だめなのっ!鬱帝とお揃いだからダーメなのーっ!!)
リン「しーたん、リーンはー?」
しぃ「わうわうわう!!わう、わうう!」(リーンは銀髪でいいの!だけど、愛良はダメなの!)
リン「おしょろい……」
しぃ「わうわう!わううう!」(リーンはボクとお揃いなの!白と銀って似てるの!)
リン「しょっかー!」にぱー
しぃ「わうっ!」尻尾ブンブン
愛良(この子達のやり取りが分からない……)
愛良大好きなしぃちゃんと、しぃちゃんの言葉が分かるリーンは、だいたいこんな感じの会話をしているそうです。