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94.可愛い女神には棘がありすぎました

皆さん覚えているかは不明ですが、邪神サイドの転生者君視点です。

◇◇◇◇


は、腹減った……。

この世界に落とされてから、何日経ったんだよ……。

あのクソ邪神野郎、人里離れた森の中に落としやがって。

俺、この世界に来てからまだ水とキノコしか食べてないって!

腹減り過ぎて死にそう……。

門番の人たちが生暖かい目で冷たい水をくれたからなんとか頑張れるけど、いい加減やばい……。

これもあんな森の中に落とした邪神の野郎のせいだ。




「マジで封印解いた瞬間、髪の毛毟ってやるからな!!」




「ちょっとあの人、急に叫んで何?」

「珍しい黒髪イケメンなのに残念だわ」

「お母さーん。あのお兄ちゃん、なんか叫んでるよー?」

「見ちゃダメよ」



遠巻きに冷たい視線を投げかけてくる周囲の人々。

……もう街中だったのを忘れてた。


ぐぅううううう!!!


と、とりあえず腹ごしらえだ。

ここがどんな国かは知らないけど、人通りも多いし店もたくさんある。

適当にレストランっぽい店に入ろうとして……。


「お客さん……。すみませんが、お金、持っていますか?」


店員さんに止められました。

まぁ、ずっと森を歩いていたから服もボロボロだしな。

俺が店員でも止めるわ。

だが、腹が減りまくった俺は開き直る!


「いや、お金ないです。ないけど腹減って死にそうなんです。お願いですから食わしてください」


……開き直ろうとしたんだけど、やっぱりここは下手に出といた。

ついでに土下座もやってみた。

プライドなんか捨ててやる!


「え、いや……あの、土下座されても困るんですけど……」

「マジで腹減ったんです。本気で水と森に生えてたキノコしか食べてないんです。飯食わしてください」

「……よく生きてましたね」


呆れ交じりに生暖かい目で土下座中の俺を見下ろす店員。

この世界で一番頑丈な体だからな!

もちろん胃袋もな!

多分俺には毒も聞かないぞ!


「ぷっ……」


店員が呆れかえった時、店の中から笑い声が聞こえた。

誰だ、俺の死活問題を笑う奴は!


「あはは……ごめんなさい、面白かったから」


俺を笑ったのは、寝ている子どもを抱えた長い銀髪の可愛い女の子。

え、ドストライクなんですけどっ!?


「その人の食事代、私が出すからご飯食べさせてあげてもらえます?」

「あなたは神か!?」


こんな怪しさ満点の俺に対して、ご飯を恵んでくれるという少女。

もう天使を抱えた女神に違いない!!


「まぁ、間違ってはないかなぁ……」


女神が何か小さく呟いていた気がするが、今は女神と飯だ!

次々と注文してくれる女神と、テーブルに並ぶ数々の料理。

やばい、美味くて泣きそう。

しかも安心して食べれる飯、最高。

そして俺の様子を見ながら新しい料理をどんどん追加してくれる女神の優しさに、俺のハートはさっきから射抜かれています。

可愛い美少女、最高!


「ふはー!食った食った!」


いやー美味かった!

可愛い女神を眼福しながら、大量の飯を平らげた俺。


「……よく食べたねぇ」


女神は呆気にとられながらテーブルを凝視している。

なぜならテーブルの上には大量の皿が積み重なっているからな!

俺の胃袋は世界で一番だ!

いや、身体能力も一番だけどな?


「お客様……、申し訳ありませんが、支払いは大丈夫でしょうか?」


そんな俺たちのテーブルに、顔を引きつらせて近づいてきた店員。

……そういや、俺文無しだった。

しかも、女神におごってもらうってことを忘れて食いまくってしまった。

やべぇ……。


「いくらです?」

「24万6千コルになります。……払えますか?」

「ああ、別に問題ないです。支払はギルドカードでいいです?」


コル?

俺、この世界のお金の単価とかよく分からないんだけど、店員のこの反応ってやっぱり高いんだよな?

それを顔色変えずに払う女神って、実はかなり金持ち?


「も、もちろんギルドカード払いで構いません。お預かりしてよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


女神は突然何もないところに手を差し出した。

うえっ!?

手の先が消えましたけど!?

けど手を引っ込めた女神の手には黒いカードがあった。

あれ、どうなってんの!?


「確かにお預かりしました。……失礼ですが、お客様はフィレンチェ王国の方ですか?」

「そうですけど、どうして分かったんです?」

「この国で魔法が使える方は、王族や貴族の方以外おられませんから……。一般人も魔法を扱えると言えば、フィレンチェ王国しかありませんので」

「へ~……王国から出たことがなかったので、知りませんでした」


俺そっちのけで話をする女神と店員。

……除け者とか嫌なんですけどー!?

ぼっちにしないで女神!!


「それでは、支払いをさせていただきますのでお待ちください」


よっしゃ!

邪魔な店員は出て行った!


「女神!飯おごってくれて助かった!ありがとう!」

「女神って……まぁ、いいや」

「俺、東野真!よろしく女神!あとコルって、お金の単価のこと!?」


俺は笑って女神と握手をしようと手を伸ばしたんだけど、女神は笑ったまま動かなかった。

あ、そうか。

女神、天使を抱っこしてるから動けないんだ。


「この世界では、シン・ヒガシノって名乗った方がいいよ。それとお金は1コルを1円と置き換えてたらいいかな。物価も日本と対して変わらないね」

「あ、そうなのか。じゃあ、俺はシン・ヒガシノで、1コルは1円……って、え?」


今、この世界って言った?

しかも、日本って……。

俺が唖然と女神を見ていると、女神はニヤっと笑みを浮かべた。

……あれ?

女神、可愛いんだから普通にニッコリ笑ってくれないかな?

いや、なんか悪どい笑顔も妙に似合ってるんですが。


「始めまして。邪神からこの世界に送り込まれた転生者君。君のことは放置しておこうかと思ったけど、なかなかに面白い子だったから声をかけさせてもらいました」

「……」


思わず女神の前で、体を固くしてしまった俺。

何で俺が邪神から送り込まれた転生者って知っているんだ?


「それは乙女の秘密です」


しかもさらっと心読まれた!

というか、こんなレストランの中でしていい話!?


「ああ、それは時間を止めているから安心していいよ」


あ、確かに俺たちの周りの人、微動だにしてないや。

いや、それよりも!

なんなの、この俺のプライバシーが何もない会話!

マジであのクソ邪神と話している感じがするんだけど!


「私のお兄ちゃん曰く。『神とは気まぐれでめちゃくちゃなことを平然とするものだ』だって」

「そんな豆知識いらないんですけど!?」

「まぁ、そういわずに。君、面白い子だったから、この世界のことを色々教えたげようと思っただけだから。それとも文無しで何もわからないまま、一人でこの世界に放り出してほしい?」

「ありがとうございまっす!」


女神のありがたいお言葉に、即刻目の前で床に這いつくばって感謝。

俺、このまま一人で放り出されたら、そのうち絶対に餓死するに違いない。


「分かればよろしい。ちょっとお願いね」

「わう」


足元で丸くなってた大型犬の上に眠っている天使を置いた女神は、軽く腕を伸ばしてから椅子に座りなおした。


「さて、君は邪神さんからどこまで話を聞いているの?」

「えーと。邪神の封印を解いてほしいってのと、できれば勇者を殺しといてほしいってのぐらい?」

「……勇者を殺す?それはどの勇者のこと?この世界に召喚されたヘタレ馬鹿のこと?それとも邪神と本来戦う予定のうっかり鬱帝のこと?」


あ、あれ……?

女神の目が、すっげぇ冷え冷えと冷え切ってんだけど。


「し、知りません……」


俺、言ったらいけないことを言っちゃった?


「ふ~ん……どちらにせよ、勝手に殺そうなんて考えたりしたら……君、男として機能しなくなるようにするからね?」

「ひっ……!?」


こ、こわっ……。

女神こわっ!

笑顔黒くてこわっ!?


「君は女の子に向かって何てことを考えるのかね?」

「すいません!ていうか、これ以上心を読まないでください!」


プライバシーは保障してください!

あ、そういや俺人を操る魔眼があった!

これで女神を操って心を読まないようにしたらいいんだ!


「はい、残念でした。私には効きません」

「あっれー!?俺の最強のはずの能力が!?」

「なんちゃって最強能力だったね。残念。というか、もらった能力が何で人間相手なわけ?この世界には魔物も魔族も他の種族もたくさんいるってのに」


だって知らなかったんだもん!

いいよ、俺には強靭な体と一番強い魔力があるから!


「まぁ、君がそれでいいならいいけどね。とりあえずは、これどうぞ」


女神が渡してきたのは、石。

何かの鉱石か?


「君が邪神を復活させようが復活させまいが、この世界で生きていくなら武器は必要でしょ?」


この石っころが武器?

はっ!?

これを敵に投げるんだな!


バシンッ!


……痛い。

いつの間にか、女神の手の中にハリセンが握られていた。

しかも、非常に堅そうなハリセンが。

もしかして、アレが世に言う鉄ハリセンってやつか?

俺、本当に世界一頑丈な肉体なんですか……。


「これを投げつけたらいいなんて、そんなわけないでしょうが。君もお馬鹿団の人なのかと勘違いしそうになる馬鹿考えるのはやめてくれる?これは純度100%の魔鉱石。これに君の魔力を流したら、君専用の魔武器が手に入るから」


おお!

これで武器を作るのか!

あれか!

ケータイ小説とかでよく出てくる自分だけの魔武器!

やっべ、かっけーよ!!

やっぱ王道の剣か?

いや、でも刀も捨てがたい!

とりあえず、カッコいい武器がいいよな!

てか、ワクワクしてきたんだけど!

すっげー!

異世界万歳!!


ズバンっ!


「はい、人の話は聞こうか?」

「ズビバゼン……」


だから、何故にハリセン。

何故ハリセンで頭から血が出てくるんだ……。

俺ってこの世界で一番頑丈っていうの、実は嘘なんじゃねぇの……?


「君、魔力を流すこととかできる?」


そして、血を流している俺を無視して話を進める女神。

女神のさっきまでの優しさが恋しいです、はい。


「魔力……持っているのは知っているけど、使い方は知らない」

「あ、そう。けど、カインみたいなうっかりミスをする気はないし、適当に体内にある魔力を感じ取って流して」


うわ、説明がすっごい適当なんですけど!?

てか、さっき勇者を殺すって話したぐらいから、女神がめちゃくちゃ冷たい!!


「あの……」

「何?」

「えっと、なんかごめんなさい……?」

「それは何に対しての謝罪?どうでもいいから、さっさと流したら?」

「はい……」


勇者を殺すって、言うんじゃなかった……。

女神が冷たくて泣きそうだ……。


「えーと……とりあえずなんか流れろ!」

「……台詞ダサ」


ダサいって言われた!

女神にダサいって言われた!!

涙が出そうだ……。

誰かハンカチください!!


「あ……言い忘れてたけど、変なこと考えてると、たまに武器の形状に影響あるからね?」

「へ?」


変なこと?

あ、てかそんなことより、石が光った!

おお!

形をどんどん変えていくぞ!

光が収まって現れたのは……黒いハンカチ。

……え?

…………ハンカチ?


「ノォオオオオオオオ!!!!」

「予想外の魔武器作成、ごちそうさまー」


女神ぃいいいいい!!!

ようやく笑ってくれて嬉しいけど、ひどい!!!


「やり直しを求む!!」

「めんどくさいし却下。なにより私がつまらない」

「だってハンカチだぜ!?手を洗った時に使うハンカチだぜ!?涙を拭くときに使うハンカチだぜ!?」


もう本気で涙が出そうなんですけど!?


「ちょうどいいから今使えば?」

「そーゆー問題じゃないですけど!!?」

「それより、名前決めれば?能力分かるよ?」


俺にとって大事な問題を、女神は華麗にスルー。

むしろ、どうでもよさそう足元にいる犬と天使の頭を撫でてる。

あ、俺も撫でてほしいな~……。

てか、俺が女神の髪を撫でたい!


「……ぐるぅう」

「……はい、大人しく名前を付けます」


あの犬も、もしかして心読めるのかな。

めちゃくちゃ睨まれたんですけど。

こっわ……。


「えーとなー……名前、名前……女神、なんかいい名前ない?」

「風呂敷」


どーでもよさそーに雑誌を見ている女神。

こっちを見てすらいない……。


「いや、そこまででかくないし!」


思わず女神にツッコんだ瞬間、頭に何かが書き込まれた。


名前:風呂敷

能力:巨大化、スーパー折り紙、異次元ワールド、清潔・消滅・滅菌可能(選択可)


「うそぉおおおおお!!名前が風呂敷で決定しちゃったんですけど!!?」


こーゆーのって、造った本人しか名付けれないんじゃないの!?

てか、能力が訳分からねぇし!!


「私だから問題なし。むしろ、まだマシな名前だと思うけど」


ハンカチを風呂敷って名付けるのが、まだマシなのか!?

女神ってネーミングセンスがないのか!?


「ないね」


自分で認めた!?


「君、さっきから煩い。防音の結界張ってるにしても、この子が起きちゃうでしょうが」

「ご、ごめんなさい……」


いや、でも普通は驚くよな?

つっこんじゃうよな?

なのに、女神にはやっぱり華麗にスルーされるけどさ!


「んで、他のことも教えようかと思うのだけど、すぐに理解したい?」

「そりゃ、まぁ……」


てか、すぐに理解ってどーゆーこと?


「簡単に言うと、頭に直接情報を送り込むってこと」

「へ~!女神、そんなこともできるのか!すごいな!」

「そりゃどうも。じゃあ、歯、食いしばりなよ?」

「……へ?」


……どーして女神はさっきのハリセンを構えていらっしゃるんでしょうか。


「コレで君の頭に直接送り込むから、一瞬で済むよ」


ちょ、女神!?

ビュンビュン音を立ててハリセンの素振りしないで!?

てか、ハリセンの風圧だけで俺後ろに飛ばされそうになってんですけど!?

え、マジで!?


「マジマジ大マジ。じゃあ、情報とちょっとばかりのお金を置いといてあげるから、異世界ライフ頑張れ」

「ちょいと女神!?頑張れってどうゆーこと!?」


まさか、ここにきて放置!?


「うん、そう。というか、邪神側の君に魔武器と情報、お金を上げただけありがたいと思ってね?……まぁ、君がここにいるの、ちょっと私にも責任あるからってのが一番理由的に大きいけど」

「へ?」


俺がここにいる責任が、女神にもある?


「まぁ深くは気にしなくていいよ」


にっこり笑った女神は可愛い!!

めちゃくちゃ可愛い!!

だけど手に持っているハリセンが怖い!!


「じゃあ、またどっかで会えるといいね」


女神の可愛い声と、迫ってくる迫ってくるハリセンを最後に、俺の意識は完全に落ちた。

俺、女神の名前、まだ聞いていないのに……。

転生者のシン君、異世界チート転生最高!この世界は俺の自由!ってなるはずだったのに……。


・しょっぱなから人間も動物、魔物にも合わない森の中でサバイバル

・動物にも合わないから、肉にありつけない。

・その辺に生えていたキノコと水で何とかしのぐ。

・ようやく人に会えたと思ったら、みんなに生暖かい目で見られる。

・食べ物のために、プライドを捨てる。

・最強のハズの能力が全く効かない女神に甚振られる。


……以上の点から、なんだか可哀相な子になってしまった……。

頑張れ、シン君。

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