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第5話  入学

「優馬さーん。

そろそろ時間ですよー。」


メリッサがこちらの世界に来てから一週間が過ぎていた。

今日はメリッサが初めて学校へ行く日だ。


「おう!すぐ行く!」


父である優蔵が、メリッサのビザやパスポートを造ったり、その他もろもろ、メリッサがヨーロッパの小国 エル王国からの留学生として問題がないように様々な手配を行った。ちなみにエル王国は、メリッサの国であるエルランドから取ったものだ。


メリッサはというと、この一週間は、この世界についての勉強と、高校で通用する程度の勉強を教わっていた。恐ろしく覚えが早く、留学生なら語学が堪能でなければということで始めた英語とフランス語を、記述、会話共に一週間でマスターしてしまった。

メリッサ曰く(いわく)


「今までずっと勉強ばかりでしたから、勉強は得意なんです。」


だそうだ。得意とかのレベルではないと思うが、流石に天才魔導士なのだろう。



「よし、じゃあ行くか。」


と、優蔵が声をかけてきた。


「おい優馬。今日くらい車で行ったらどうだ?」


優馬はいつも歩いて駅まで行き、電車に乗って学校最寄りの駅からはまた歩くという通学を行っている。

ヤクザの黒塗りベンツで送迎されるのは嫌だし、他の生徒の手前もある。とは言っても、優馬の通う学校は送迎されるのが普通の人間ばかりなのだが。


「いや、いいよ。メリッサにもいつもの道を覚えさせた方がいいだろ?」


優馬は当然断る。


「おめえ、メリッサちゃんにもあの疲れる通学をさせる気か!?」


歩く距離だけで10km以上はあるので優蔵からすればとんでもなかった。

しかし、優馬にとっては自分の町を見回るという意味もあった。そんなことは誰にも言わないが。


「私は優馬さんと一緒で大丈夫ですよ。」


そこでメリッサが言った。


「そうかい、ならまあいいが、言ってくれればいつでも車を出すからね。」


優蔵はメリッサに『にっ』と笑いかけた。


「じゃあ行ってくるぞ。」


「ぼっちゃん、あねさん!いってらっしゃいやし!」

『いってらっしゃいやし!』


庭に子分達がズラッと並んで二人を見送った。

優馬は少し恥ずかしいが、毎日の事なのでもうつっこまない。

しかもメリッサは子分達から『あねさん』と呼ばれていた。

どう考えてもあねさんという感じには見えない。




「そういえば電車に乗るのは初めてだよな?」


「はい!本では読みましたが、車と同じく大きな鉄の箱が動くのが少し信じられませんね。」


優馬にとっては魔法のほうがよっぽど信じられない。

まあお互いの文化の違いのようなものか・・・。



学校の最寄り駅に着くと、同じ制服を着た学生や、違う制服の学生など、多くの高校生らしい人々がいた。

この駅の付近には、いくつかの学校があり、その一つが優馬の通う、私立 国護学園高等部くにもりがくえんこうとうぶである。


国護学園は、明治初期から続く財閥である国護家が運営する学校で、小等部から高等部までの一貫教育を行っている。

高額な入学金を支払い且つ審査を通れば、形だけの入学試験を行い入学できる。

審査というのは家庭環境についての調査で、一定以上の家柄の者しか審査を通ることはできない。

そのため、主に社長子息や令嬢などの上流階級者が通う。

また、ヤクザの家系の者も同じく階級が高いとみなされ入学の対象となる。


さらに、クラス分けは成績ではなく、家柄によりA~Eクラスに分けられるが、特別にSクラスというのも存在する。

Sクラスはいわゆる一芸入試で、家柄は関係なく受験することができる。

とは言っても、基本的に在学中または卒業後に、学園の名声を上げる事が期待できるなど、利益になる者しか入ることはできない。



「大きな建物ですねー。うちの城よりも大きい気がするんですけど・・・。」


メリッサは感嘆と共に少しショックを受けたようだ。

何しろこの学園はデカイ。某有名遊園地と同じくらいの敷地面積の中に小等部から高等部までの建物がそれぞれあり、国際大会が開ける程の規模の体育館や陸上競技場、1万人以上を収容するホールや一流シェフや板前等を揃え、世界各国の料理が堪能できる食堂等の施設がある。

さらに、高等部の建物はまさに『城』と言うにふさわしい造りと規模である。


「まあバカみたいにでかいんだよなー。

慣れない内は道に迷うかもしれないから、とりあえずちゃんとついてこいよ。

とりあえず、最初に校長に挨拶に行くように言われてるからな。」


「は、はい!」


二人が校長室に向かい歩いて行くと、後ろから声を掛けられた。


「あら、優馬さん、ごきげんよう。

そちらの方はどなたかしら?ああ、そういえば今日から留学生が来ると噂になっていましたね。

なぜ優馬さんといっしょにいるのですか?」


声を掛けてきたのは3年A組の生徒である綾小路あやのこうじ さきであった。

世界的な財閥である綾小路家の令嬢である。

ウェーブがかったロングヘアーと大きな瞳、スラリと伸びた足と、体の線は細いものの、出るところは出ているため町ですれ違えば誰もが振り向くという。

優馬は面倒なのに見つかったな、と思った。


「綾小路先輩、おはようございます。

彼女は俺の家に居候してますので、今から校長室に案内するところです。」


咲の目がキッと光った気がした。


「あなたには咲と呼ぶよう言ったはずですが・・・。

ああ、ご挨拶が遅れましたね。日本語でよろしいのかしら?

私は綾小路 咲と申します。3年生ですのであなた方の先輩となります。

わからないことがあればいつでも私を頼って下さって結構でしてよ。」


咲は大仰な仕草で挨拶をして見せた。


「メリッサ・エルランドと申します。

ありがたいお言葉、痛み入ります。

何分この国に来たばかりで、文化についても、学校についても疎いことばかりですが、機会がありましたらご教授を承りたいと存じます。」


さすがは、王族である。

完璧な礼節で挨拶を返すメリッサを見て、優馬は改めて実感した。


「あら、すばらしい方ですのね。

ではお二人ともごきげんよう。」


優馬は胸を撫で下ろした。

咲とは顔を合わせる度に小言のようなことを言われるので、正直あまり得意ではなかった。



校長室に入ると、他にも2人の人物が待っていた。

学園の理事長と、優馬の担任教師である山田やまだ 一郎いちろうである。


「待っていましたよ。さあどうぞこちらへ。」


校長が促す。

優馬とメリッサが3人の前に立つと、理事長が口を開いた。


「初めまして、メリッサ・エルランドさん。私がこの国護学園の理事長である、国護くにもり かなめです。我が校に来ていただいて光栄に思っておりますよ。」


この理事長はいつも上から目線だ。

言葉こそ丁寧だが、目の奥では常に他人を見下している様に見える。

しかし、メリッサはそんなことは気にせずに答えた。


「メリッサ・エルランドと申します。

急な留学を受け入れていただき感謝に堪えません。」


「ふふ、よくできたお嬢さんだ。

では私はこれで失礼するよ。これでも忙しい身なのでね。」


そう言うと理事長は部屋を後にした。


「ふー・・・。

いやー、すいませんね。急に理事長も挨拶をしたいと言い出したものですから。」


校長室の緊張感が一気に解消した。


「では、優馬君。細かい事情は知らないが、君のお父さんの紹介だから訳ありなんでしょう?山田先生にもそのことは伝えてあるから。メリッサさんの事はくれぐれも怪しまれないようにね。

この学園には私や君のお父さんでもどうにも出来ないほど大きな力がたくさんあるからね。」


校長が釘を刺す。

メリッサが異世界から来たなんて誰も信じないだろうが、この学園には政府の中枢に繋がる人間や、裏社会のトップに近い人間までいる。

本当に魔法が使えるということがバレれば各方面で利用されることも考えられるだろう。


「わかっています。

何もないように細心の注意を払います。」


実は優馬はそんなに深い所まで考えていなかった。

しかし校長の言葉でそれを気付かされ、一緒に学校に行くことに賛成したことに後悔した。


きっと親父もそこまで考えてなかったんだろうな・・・。

まあ、親父もメリッサの為と思って学校を薦めたんだろうし、とりあえず俺がうまくやらなきゃな。


優馬は心の中で溜息を吐き、そう決意するのであった。


「よろしくお願いしますね。

山田先生、そろそろ教室に連れて行って下さい。」


「わかりました。

よしっ、行くぞ。

それでは失礼します。」

作者です。

やっと更新できました。

時間がないというのは言い訳にしかなりませんが・・・。


これからもちょいちょい間が開くと思うけど、よろしくスミマセン。

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