表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第五章:近づく影

ガタンゴトンと、汽車が走る。時折煙を吐き出しながら、東へ東へと進む。

最後尾に近いコンパートメントの中に、セレとカイトとフェルクはいた。地平線へと沈み行く太陽によって、室内はオレンジ色に染まっている。

 誰もが無言だった。詳しくいえば、セレは膝の上のフェルクを撫で、フェルクは撫でられながら、時折その体がピクリと動く。カイトはシートを丸々一つ使って寝ていた。

 尚も東へと進む汽車。

 そして日は暮れる。


「お前らなぁ。俺が起こさなかったら、乗り過ごしていただろ」

 すっかり夜も更けた山間の無人駅。そこには、頭を垂れた子供が二人と、常人には見えない悪魔がいた。

「はい、すいません」

「次からは気を付けます」

 二人の子供――セレとカイトが謝る。

「分かればいいんだ」

 フェルクは、飛び上がってセレの肩に乗った。

「帰ろっか」

 セレが弟を振り向きながら言う。カイトは疲れたー、とだけ言った。



「ふう、やっと着いた」

 大きな屋敷の豪華な玄関を前に、カイトが言う。勿論この屋敷はルグレ家だ。

「結構遅くなっちゃったね」

 セレの言う通り、既に夜も遅く、夜空には三日月が架かっている。

「オレは早く寝たい。疲れたよ」

 カイトはそう言いながら、玄関を開けた。


「ただいまー」

「帰りました」

 玄関ホールに足を踏み入れる二人。すぐに執事のハワードが出迎えた。

「お帰りなさいませ。セレーノ様、カイト様。お食事はどうされますか?」

 セレは初老の男性を向きやると、テキパキと応える。カイトは眠かったので、そのやり取りをぼーっと眺めていた。

「夕飯はもう済ませたから。それより、父に報告しなきゃ」

「かしこまりました。ミランダにそう伝えておきます。旦那様は書斎ですよ」

「ありがとう。――カイト、行くよ」

 眠りかけていた弟の腕を引っ張るセレと、ハッと我に帰るカイト。ハワードは、二人に微笑んだ。

「今書斎へ行かれると、お二人共お喜びなられますよ」

 その言葉に、すぐさまカイトが反応した。

「え、何かあんの?」

「それは、ご自分の目でご確認下さい」

「ケチー。教えてよ」

 子供のように膨れるカイト。

「カイトー、早く行くよー」

 しかしセレに従って、階段を登りはじめた。


 ルグレ家当主の書斎は三階にある。そこまでの道すがら、三人は、ハワードが述べた事について、色々と予想していた。

「何だろ。小遣いとか貰えるのかな」

 そう言ってカイトは、セレの方を振り向く。

「違うんじゃない?書斎から、三つの魔力反応がある。多分その一つはお父様のだと思うけど。――フェルクはどう思う?」

 セレは肩の上のフェルクを向きやった。フェルクは、ああと言って話し出す。

「俺にも微かに感じられる。やっぱり一つは、お前らの親父さんだろ」

「後の二つは魔道具?」

 カイトは魔力を感知する、という点では二人に劣る。彼には、三つの魔力反応が感じられなかったようだ。

「ごめん、そこまでは分かんない」

「龍眼でも分かんねぇ事ってあるんだ」

 カイトは馬鹿にした口調で言う。一人だけ仲間外れで悔しかったのだ。

「仕様がないでしょ。龍って言ったって、所詮は人なんだし。それに、この屋敷には、色々な結界が施してあるんだから」


 そうこうしている内に、書斎の前に辿り着いた。セレがその扉をノックする。

「お父様、セレとカイトが報告に参りました」

 すぐに応答される。

「入りなさい」

「失礼します」

 その声に、扉を開けるセレ。カイトも後に続いた。

 するとそこに見えたのは――


「兄さん!」

「おっ、兄貴じゃん。義姉さんもいるし」

 とある名門修復士の家に婿養子に行った長兄・エミリオとその妻・ティーナだった。

「やあ、二人共。久しぶりだね」

「お邪魔してるわよ。セレもカイトも、しばらく見ない内に大きくなったわね」

 少々線の細いエミリオと、お嬢様らしさを感じさせないティーナ。会うのは実に一年ぶりであった。

「それより二人共、まずは報告をしなさい」

 兄弟達の父親であるルグレ家当主・ダニエルが口を開く。

「あっ、はい。やはりセリウスシティには、歪みが生じていました。これは私が修復をしました。あと、歪みから『咎』が一体現れました」

 すぐさまセレが応える。

「『咎』だと?して、被害は」

 ダニエルの問いに、今度はカイトが引き継いだ。

「それは問題ありません。俺が倒したんだ」

 ダニエルはカイトの言葉に何かを考える様子だったが、やがてこう言った。

「そうか、二人共ご苦労だったな。今日はもう遅い。早く休みなさい」

 やっと退出を許されて、カイトはホッとした。もう限界だったのだ。

「失礼しました」


 扉が閉まったのを確認して、エミリオは父の方へと向き直る。

「やはり父上……。各地で歪みが、多発していますね」

「ああ。それに『咎』の動きも活発化している」

「お義父様、あの二人には、いつ告げるのてすか?」

 ティーナの問いに、ダニエルは逡巡した後、応える。

「もう少し様子を見てみよう。満月までは、今しばらく時間がある」



「それにしても、久しぶりだよな。兄貴達に会うの」

 カイトが嬉しそうに言う。たとえ八歳も年が離れていても、兄は兄なのだ。

「でも変じゃない?何でこんな時期に里帰りなんてするんだろ」

 セレは、腕を組んで考え始める。

「何でもいいじゃん。俺、明日は兄貴と遊ぼっと。――じゃ、お休み〜」

 カイトは自室の扉を開け、すぐにその中へ消えた。余程眠たかったのだろう。

「そうだな」

 フェルクはセレの肩から飛び降りると、器用に窓枠へと着地した。

「どうしたの?」

 セレもフェルクにつられて、窓際まで寄る。フェルクは、空を見上げながら言った。

「そろそろ満月だ。魔界の動きも、活発になっているだろう。理由はそれに間違いない」

 空には紅く、大きな三日月が架かっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ