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第三章:広場へ

それから、かなりの時間が過ぎて、三人は、宿屋にいた。


「あー、疲れた」

二つあるベッドの、窓際の方にダイブするカイト。

もう、すっかり夜も更けている。

「都会ってさ、何でこう物で溢れてんだろ」

眠たいのか、欠伸をしながらセレが言う。

「だよなぁ。建物に囲まれてると、落ち着かないし」

うんざりした口調で話すカイト。そして、ここへ来た時の事を思い出していた。


時を遡る事約五時間前。二人(+α)は、すっかり迷っていた。

「ねぇ、ほらアッチ」

「うぉ、何アレ?」

「食べれると思う?」

「死んでも知らないぞ。ってかあそこの、欲しいー」

「あっ本当」

しかし、まるで緊張感も危機感も無い二人。

「……オイ、そんな事してる暇あるのか」

そんな二人に、見かねたフェルクが、呆れ顔で言う。彼は、保護者を自認していた。

「あっ、そうだったね」

「オイ、そんな大事な事は早く言え」

やはり緊張感の無い二人。

フェルクは、もう何も言うまい、と決めた。


それから約一時間。

「ハァハァ、多分、ここだと思う。……『フォウンテン』……」

「フゥ……やっと着いたの……?」

やったー、と力無く喜ぶ二人。ようやく探していた宿が見つかったらしい。

「最初から、キチンと探せばすぐ見つかったんじゃないか?」

やはり呆れた調子のフェルク。

カイトは、そんなフェルクを睨み付けた。

「何だよ、こんな所初めてなんだからしょうがないだろ」

田舎育ちの二人にとって、都会とは見るもの・聞くもの全てが珍しい。そして疲れる。

最初の方こそはしゃぎ回っていた二人だが、すでに飽きて、もうクタクタだったのだ。


そして今に至る。

「明日は仕事だろ?もう寝ろ」

フェルクが言った。

「確かに眠い……お休み」

欠伸をしながらセレが言う。連られてカイトも欠伸をした。

カイトは窓際のベッドへ。セレはドア側の方に入り込む。ほどなくして、規則正しい寝息が聞こえ始める。

フェルクは、そんな二人を一晩中見ていた。いつもより少し優しく、少し穏やかな瞳で、ずっと見つめていた。


翌朝。

「……というワケで、つまりこの事が世界規模の……経済効果が、……だからなんたらかんたら……」

セレとカイトとフェルクは、市長宅の応接室にいた。

床には、高級そうなフカフカした絨毯が敷き詰められ、大きな暖炉の傍には、鎧や剣などのコレクションが並ぶ。はっきり言って、趣味が悪い。

セレは、目の前で既に三十分も語り続けるクライアントを観察した。

暑いのか、ジャケットは着ていない。シャツにピンク色のネクタイを絞め、出っ張った腹部のため、ズボンがずり落ちないようサスペンダーで留めていた。

視線を上げると、眼鏡を掛けた少し白髪混じりの頭が目に入る。生え際が後退し、額を脂汗が光る。

隣で、同じく退屈そうにしているカイトも、いつかはこうなるのだろうか?

その想像に恐ろしくなったセレは、チラリと見えた映像を忘れる事にした。

カイトの先に見えるのは、動物の頭部の剥製。生気の感じらんないそれの目にはめ込められたガラス玉だけが、唯一光を放っていた。

セレは、視線をずらした。自宅にも掛かっているが、あの剥製は昔から嫌いだ。特に、あの目が怖かった。

「……と、いう事は我が……それがつまり……芸術の都という点に於いて……」

セレは、この男のどこが芸術だろう、と胸中で呟く。

フェルクは、我関せずとばかりに、市長の隣で体を丸めて眠っている。後で叩いてやろう、と心に決めた。

ふと横を見ると、カイトと目線がぶつかる。

(オイ、あの親父。まだ終わんないのかな?)

カイトが目で話し掛けてきた。同じように目線で返す。

(カイト、聞いてみたら?)

(えー、オレ?嫌だよ。話、全然聞いて無いし。セレが聞けよ)

(何やってたの?もぅ、しょうがないなぁ)

セレは、一度グッと力を込めた後、勇気を出して尋ねた。

「あの……依頼内容とはつまり、西区のサン・リトロ広場に出現した歪みの修復、という事ですね?」

そこまで一心不乱に語っていた男は、口を出された事に、眼鏡を掻き揚げながら、不機嫌そうに答えた。

「まぁ、そういう事ですね。というわけなので……」

「では、今から参ろうと思います」

再び始まりそうな熱弁を遮って、セレはきっぱり言い、立ち上がった。カイトも、

「お邪魔しました〜」

と、立ち上がる。

市長がカイトの方を向いた隙に、セレはフェルクを一発殴った。

「痛っ。……何だ何だ?」

「も、もう行かれますか?」

背後からそんな声が聞こえたが、二人はやんわりと無視し、颯爽と部屋を出た。


市長宅の豪華な門を出た二人は、凝り固まった筋肉を伸ばした。あまりに長時間聞いていたため、体中が軋んでいた。

「あー、それにしてもあの話、長かった」

「あっ、どれ位長かったか、時間測れば良かったなぁ。勿体無ぇ」

「おい、セレ。俺に対する謝罪は無いのか?」

「旦那様のお話は、いつも長いですからね。先程のは、短い方ですよ」

「ふーん、そうなんだ。あのオッサン、話のネタが尽きないのか?……って、お前誰だよ?!」

いつの間にか、会話に加わっていた青年。彼に気付いたカイトは、驚いた声を上げた。

「申し遅れました。私は案内人の、エリック・スバローです。エリックとお呼び下さい。旦那様から、お二人を広場まで連れて行くよう言われました」

エリックと名乗った青年は、自己紹介しながら、にっこり微笑む。セレとカイトは、顔を見合わせた。

「あっ、初めまして。セレーノ・ルグレです。セレでいいです」

「どうも。カイトです」

互いに名乗る。カイトは、本名を言わなかった。

「エリックさん。広場までは遠いですか?」

「いや、歩いて行ける距離ですよ。それでは、私に着いて来て下さい」

そして三人は、歩きだした。



お久しぶりです。こんにちは。


えー、前回から大分時間が経ってしまいました。

それというのも、寮に入ったからなんです。自由時間が寝る前の一時間だなんて……orz


愛読している方がおられるかは知りませんが、これからもよろしくお願いします。

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