第二章:初めての都会
プシュー、ガッコン。
またしても大量の煙を吐き出しながら、汽車が停止した。ドアが開き、人々が下車していく。
その人の群れの中に、セレとカイトと+αはいた。
「ふぅ、やっと着いた」
プラットホームに足を着けたカイトが、ペキペキと体の筋を伸ばしながら言った。
「流石に汽車で五時間っていうのはキツいね」
続いて降りたセレが、ウゥーンと背伸びをしながら言った。
「そうか?そんなに長かったか?」
セレの肩に乗っかったフェルクが、ケロッとした表情で言った。
その言葉に姉弟は、明らかな非難の表情を浮かべてフェルクを見つめる。
「うゎ、あれだけ長時間だったのに、退屈じゃないなんて」
「流石長生きだね。二五〇歳」
「人間だったらお年寄りだぞ」
よほど退屈だったのか、いつもは諌め役のセレまで文句を言ってくる。その口調には、恨みがたっぷり込められていた。
「待て。俺は魔族の中では若いほうだ。……っていうかお前ら、声を落とせ。周りの人が不審がっているぞ」
気づかなかったらしい。あっ、と声を上げながら、二人は互いに顔を見渡した。
周りの人にはフェルクが見えていない。何も無い空間に話し掛ける二人は、はっきり言って不審者だった。
「全く。気を付けろ。俺がいる事、バレたらヤバいんじゃないか?」
「それはフェルクがいけないんだろ。フェルクが何も言わなかったらバレない」
カイトは豪語した。
「よし、フェルク。オレ今からお前をシカトする!話し掛けても無駄だかんな」
悪戯を思い付いた子供のように顔を輝かせるカイト。
フェルクも、何かを思い付いたらしく、ニヤリと笑う。
「じゃあ、俺が何を言っても気にするなよ」
「あったりまっ……って、今のは無し!ノーカウントだぞ」
ついつい答えてしまったカイト。
セレは、
「違うトコでやってよ」
と、小さく呟く。その言葉が二人に届く事はなかった。
一方カイトは、スタスタと早足で歩き出す。フェルクは、早速からかっていた。
「おい、カイト」
「……」
無言。
「こっちを見ろ」
「……」
無言。少し顔を背けた。
「諦めろ。お前はどうせ負ける」
「……」
無言。こめかみがピクピク動く。
「前から思っていたんだが、お前バカだろ」
「……」
無言。握り締めた拳が、わなわなと震える。
セレは、弟の我慢強さに、感度さえ覚え始めてきた。
フェルクは、更に畳み掛ける。非情にも、小さくボソッと呟いた。
「……インヒニカイト……」
「……!」
とうとう爆発。カイトは般若の如く顔を歪ませ、大きな声で吼えた。
「こんのバカフェルクぅ!その名前だけは呼ぶなー!」
辺りを行く人が、その声にギョッと振り向く。勝負は、フェルクが勝った。
「カイト!それにフェルクも!」
セレが叱る。不審な行動は、控えた方がいいからだ。
「だって、フェルクの野郎。あの、ダサくて変で付けた人とそんな名前の人の品性が疑われるような名前で呼びやがった!」
カイトは、怒りに震えながら言った。
インヒニカイト。カイトに言わせれば、ダサくて変で付けた人とそんな名前の人の品性が疑われるようなその名前は、彼の本名であり、そして禁句である。
セレは何回目かの、大きな溜め息を吐く。こんなにしょっちゅう吐いてたんじゃ、幸せは、とっくに逃げ出したんだろうな、と思いながら。
駅を出た時、街は既にオレンジに染まっていた。
道行く人の影は長く、皆帰路を急ぐ。夕方独特の喧騒に包まれている。
その中に、ポツンと取り残される様に二人はいた。
「えーと、この街でいいんだよね……」
「間違ってはないと思う。ホラ、芸術の都・セリアスシティってあるし……」
戸惑うように確認しあう二人。どうやら、間違ってはいないようだ。
しかし二人は、
「あー、でっかいなぁ……」
「今日中に『フォウンテン』っていう宿にたどり着けないと思うんだけど……」
初めて見る大きな街に、ただただ圧倒されていた。
しかしそれは仕方がない。二人が住んでいるのは、ドが付くほどの田舎。
先代ルグレ家当主は、国の何処へでも行きやすいよう屋敷を国のど真ん中に構えたまでは良かった。
しかし、如何せんそこは山に囲まれた田舎だったのだ。
そして現在。国の南東に位置するセリアスシティは、別の修復士が受け持っている。しかし、その修復士は今、別の地方へと赴いているらしい。
そこで、急遽ルグレ家に白羽の矢が立ったのだった。
草木を遊び相手に育った二人にとって、初めての都会。大きな建物、数々の店、レンガの広い歩道、そして人・人・人。
言葉を無くした二人に、フェルクが言った。
「そうか?そんなに大きいか?俺が育った魔界の都市のほうは、これより大きかったぞ」
「えっ、これより大きな街があるの?」
「嘘だろ。こんな悪魔の言うことなんか信じるな」
「魔族だ」
またしても始まった、辺り構わずの言い争い。
「おい、お前らこんなことしている場合か?今日中に着かなきゃならないんだろ」
「あぁ、そうだった」
嫌な事を思い出したように言うカイト。
「とりあえず、そこら辺の人に聞いてみる?」
しっかりとした口調で尋ねるセレ。
「それがいいんじゃないか?」
フェルクはそう言った。
かくして、田舎っ子二人と、自称都会育ちの魔族の、宿探しの旅(?)が始まった。
あぁ、中途半端で終わった(笑)
今書いている短編が終われば、こっちももっと沢山書きます。
出来れば、感想をお寄せ下さい。