第5話 鳴海城
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反信長集団の大掃除を終えた信行は詳細を報告する為に那古野城へ出向いた。案内された部屋には信長の他に平手政秀、内藤勝介、佐久間信盛の三人が信行の到着を待っていた。
「勘十郎、お前の働きで家中の統制が滞りなく進んだぞ」
「有難うございます」
信行の動きに合わせて信長も那古屋城の反対勢力を一掃して風通しを良くして同年代の家臣を要職に抜擢するなど当主として動き始めていた。
「年明け早々に清洲を攻める」
「援軍は必要でしょうか?」
「大掃除の後始末を優先させろ」
「分かりました」
信長は同族の織田信友が支配する清洲城を手に入れるべく準備を始めていた。清洲城を取れば交通の要衝を押さえる事になるので信長自身も出陣する予定である。
「勘十郎、お前に預けたい物がある」
「何を預かれば良いのですか?」
「末森城だ」
「本当ですか!助かります」
反信長反派の粛清で多くの血を流した事が原因で広間に入るのを嫌がる者がいて広間が使えなくなっていた。信行は末森城を預かる事になったので古渡城を取り壊す事を決めた。
「加えて勝介を末森城代としてお前に付ける」
「ありがとうございますと言いたいところですが、戦力的な事を考えれば」
「心配無用だ。伯父貴の取り込みに成功したからな」
「伯父上の首を縦に振らせるとは驚きました」
信長は守山城に出向いて伯父の織田信光と直接話し合い、清洲城を任せる事を条件として臣従させる事に成功した。
「兄上にお願いしたい事があります」
「何だ?」
「鳴海城の安堵状を頂きたいのが一点。物見を兼ねて三河、遠江、駿河へ足を伸ばすのを認めて頂きたいのが一点」
「信元から『国境周辺がキナ臭くなっている』と知らせがあったな」
「はい。それに関連する話で山口教継が今川の間者と会っている噂も流れてきていますので」
「一切を任せる。好きなようにやってみろ」
信長はその場で山口教継宛の所領安堵状を書き上げるて信行に預けた。
「一寸待て。まだ用が済んでいない」
「何でしょうか?」
「何か官職を名乗れ」
「いきなり言われても困りますよ」
「因みに俺は尾張守にしたぞ」
「それは当然じゃないですか」
信長は主だった家臣を集めて 官職を名乗れと命じた。信長は尾張守(従五位下)、信光は尾張介(従六位上)、平手政秀は中務大丞(正六位下)、内藤勝介は兵部大丞(正六位下)、佐久間信盛は主殿允(従七位上)を自称ながら名乗る事になった。
「これにします」
「治部少丞か」
「目についたので何か縁があると思いました」
「なるほど。お前らしい理由だな」
信行は治部少丞を自称する事になった。信長に伝えた理由は単なる建前であり、治部大輔今川義元に対する挑戦状的な意味合いがあった。
*****
信行は先触れを出さず鳴海城を訪れた。出迎えた山口教継は平静を装っていたが、今川との密会が知られて詰問に訪れた可能性があると思っていた。
「教継、父の葬儀以来だね」
「はい。その節は申し訳ございませんでした」
山口教継は萬松寺で行われた信秀の葬儀に出席していたが、所用があるという理由で式が終わると直ぐに姿を消していた。
「今日はこれを渡す為に訪れた」
「拝見させて頂きます」
山口教継は信行から安堵状を受け取ると中身に目を通した。
「御屋形様から伝言を預かっている。『三河への備えとして教継の力が必要だ』と言っていた」
「…」
「今川からの安堵状と比べているのか?」
「お戯れを」
「御屋形様を甘く見ない方が良い。お前が今川に接触している事は知っているぞ」
「それは…」
山口教継が返答に詰まっていると信行の背後に控えていた千秋季忠が信行に何かを伝えた。
「隣に刺客を控えさせているな?」
「何を証拠に?」
「殺気がダダ漏れだと季忠が言っている」
「季忠…、千秋季忠か?」
山口教継は信行に何事か囁いた者が千秋季忠と知って驚いた。千秋季忠は兄の千秋季直(元織田家臣、現熱田神宮大宮司)と共に凄腕の剣術遣いとして家中から恐れられていた。
「教吉、直ぐに姿を見せろ。お前が勝てる相手ではない」
襖が開いて隣室から山口教吉(教継の嫡男)が姿を見せた。千秋季忠は鯉口を切っていつでも刀を抜ける状態にしていたが、山口教吉にその気が無い事を見て刀を納めた。
「さあ、どうする?」
「某も織田を裏切りたくありません。しかし御屋形様がウツケである以上従う事は出来ません」
「教継の気持ちは理解できる。この者の話を聞けば気も変わるだろう。入ってくれ」
障子が開けられて外で待機していた柴田勝家が部屋に入ってきた。
「柴田勝家か」
「山口様、ご無沙汰しております」
「勝家も御屋形様を嫌っていた」
「某は林秀貞に従い謀反に加わろうとしておりました。しかし御屋形様様の本心を聞くに及び己の無知を恥じました」
「信長様の本心?」
「ウツケを演じていたのは我々家臣を見極める為です」
信長は家臣の本心を見極める為にウツケのフリをしていた。ウツケであっても従う者と従わない者に振り分けて従わない者は問答無用で俸禄を取り上げて反抗的な態度を取る者は処断した。残っているのは一部を除いて信長に従う者しか居ない。
「本来であれば儂も処断されていたかもしれん」
「教継は信元(水野信元)と共に東尾張を守っていたから御屋形様も手を下さなかった」
「今なら間に合います。山口様も御屋形様に従うと申し出て下さい」
「御屋形様はウツケではなかったとは…」
山口教継は己に人を見る目が無い事を恥じた。信行と柴田勝家が『今からでも遅くはない』と言っているので従う事にした。
「山口教継は今川とは縁を切り、改めて御屋形様に忠誠を誓います」
「そうか。ならばこれまで通り水野信元と協力して東尾張を守ってくれ」
「承知致しました」
自称する事になった官職一覧(未登場含む)
織田信長…従五位下・尾張守
織田信行…従六位上・治部少丞
織田信光…従六位上・尾張介
織田信広…従七位上・尾張拯
平手政秀…従六位上・中務少丞
内藤勝介…従六位上・兵部少丞
佐久間信盛…正七位上・大膳少進
佐久間盛重…正七位下・大学大允
柴田勝家…従七位上・主殿允
佐久間盛次…従七位上・内蔵允
丹羽長秀…正八位上・民部少録
池田恒興…正八位上・弾正少疏
千秋季忠…正八位上・刑部少録




