第4話 内憂の排除
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父信秀の葬儀を終えて古渡城に戻った信行は信長排斥を目論む林秀貞と林通具から説得された。
「今が蜂起する最大の好機です」
「信長を追放して信行様が当主に就くのが最善の策」
「ウツケでは織田を纏めきれません」
二人は信行を煽ててその気にさせようとしているが、裏で権力の私物化を画策しているのは明らかだった。
「私の腹は決まっている。正式な場で伝えるから待つように」
「承知致しました」
信行は決断を迫る二人に自重するように言い含めると自室に戻った。部屋には信行から呼び出された柴田勝家が一人で待っていた。
「待たせたかな」
「いえ」
「どうするつもりだ?」
「迷っております」
柴田勝家は林兄弟に従って蜂起するか、林兄弟に従わず自重するかを決めかねていた。
「信行様はどうされるのですか?」
「兄上に付く。悪いが兄上に歯向かうなど天地がひっくり返ったとしてもあり得ない」
「それでは林殿に勝ち目はありませんな…」
信行にその気が無い事を聞いた柴田勝家は林兄弟に従わず自重する事を決めた。
「某は信行様に従います」
「良い判断だよ」
「一つお願いがございます。義弟(佐久間盛次)を説得する時間を頂けませんか?」
柴田勝家の妻は佐久間盛次の姉である事から二人は義兄弟の関係に当たる。自分が説得に当たれば佐久間盛次も林兄弟から離反する可能性があると考えた。
「おそらく勝家が動かなくて済む事になると思う」
「どういう意味でしょうか?」
「私の意を受けた者が盛次の説得に当たっている」
「盛次が簡単に首を縦に振るとは思えませんが」
信行が自信ありげに笑みを浮かべているので柴田勝家はそれを信じるしかなかった。
「信行様、季忠です」
「入ってくれ」
普段は近習として信行の傍に控えている千秋季忠が別行動を取っていた。
「首尾は?」
「成功致しました」
「勝家、心配は杞憂に終わったと思って構わない」
信行が千秋季忠を佐久間盛次の説得に向かわせて力づくで認めさせた事を柴田勝家は察した。千秋季忠なら佐久間盛次を強引に捻じ伏せる事が出来るので話し合いが決裂しても何も気にしないだろうと考えた。
「盛次の方も上手く行ったから明日の夜に不満分子を一掃する。勝家は手勢を率いて城外で待機するように」
「心得ました」
勝家を送り出した信行は部屋の外に誰も居ない事を確認すると床の間の壁を数回叩いた。すると壁にある隠し扉から内藤勝介が出てきた。
「勝家は覚悟を決めたようですな」
「私が兄上に付くと聞いて諦めがついたと思う」
「これで確定ですな」
「余程の知恵者が居れば分からないけどね」
柴田勝家と佐久間盛次は反信長側の主力を担う存在だった。その二人を引き抜かれた事で勝ち目は完全に無くなった。
「ところで某の手勢はどちらに?」
「会合が始まるまで城内にある蔵で待機してほしい」
「承知致しました」
「今回は采配に専念するのかい?」
「広間と言っても狭い場所になるので采配だけというのは無理がありますな」
「程々に頼むよ」
「相手が相手だけに自重するのは難しいでしょう」
内藤勝介は信行の傅役を務めた後、信長に請われて与力として那古屋城に移った。その後を引き継いで古渡城の城代に就いたのが林秀貞である。大風呂敷を広げて信秀の機嫌取りをする林秀貞と傍若無人な態度を取る林通具を嫌っており排除する機会を窺っていた。
「身から出た錆だから仕方ないか」
「そう言って頂ければ心置き無く殺れます」
「怪我をされたら困るから程々にね」
*****
古渡城の広間には林秀貞を筆頭に反信長掲げて信行擁立を画策する者が領内各地から集まった。那古屋城や末森城に所属する者の姿もあったので林秀貞と林通具は笑いが止まらなかった。そこに信行が具足を身に着けて現れたので集まった者から歓声が上がった。
「ご決断されたのですか!」
「那古野城へ兵を向ける命令を!」
「先陣は某が承ります!」
信行は広間を見渡すと大きくため息を付いた。
「馬鹿な連中だね。私が兄上に歯向かうなど天地がひっくり返ってもあり得ないのに」
「何と?」
「勝介、出番だよ」
広間の襖が一斉に開かれて内藤勝介率いる兵士が雪崩込んだ。
「生死は問わぬ。何人たりともこの部屋から出すな!」
「「応!」」
内藤勝介は信行から『広間に居る者は全員死罪にするから殺すか捕まえるように』と指示されていたので抵抗する者は容赦なく斬り捨てた。
*****
林通具は信行の周囲に人が少ない事を見て足早に近付いた。しかし信行まで残り数歩の所で一人の男に立ち塞がれた。
「林通具、往生際が悪くないか?」
「千秋季忠!」
千秋季忠は手に持っていた刀を構えた。『俺を倒さなければ信行様に近付けないぞ』と目が語っていた。
「儂にも意地がある!」
「何だそれ?ちっぽけな意地だな」
「減らず口を塞いでくれる」
林通具は千秋季忠に襲い掛かったが実力の差はどうにも出来ず、数度の鍔迫り合いを演じたものの呆気なく討ち取られた。
「逆賊林通具を討ち取った!」
柴田勝家と佐久間盛次が居ない中で林通具を討ち取られた反信長の面々は反抗する術を失ったが、信行の指示もあって首謀者の林秀貞以下全員がその場で討ち取られた。
「一族郎党は連座させますか?」
「新たな因縁を生む事になるから難しいね」
「罪に問わないという方向で話を進めます」
「それで構わないよ。但し監視の目は必要だよ」
信行の判断で関係者に連座させるのは取りやめになったが、少なからず恨みを抱いているのは間違いないだろと考えて一定期間監視する事を決めた。




