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織田信行が行く  作者: あひるさん


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第22話 兄は西へ、弟は東へ

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

差し支え無ければ誤字・脱字の指摘もお願い致します。

「土岐義龍は不随になったらしいぞ」


 那古屋に戻った信行は美濃の状況について信長から説明された。土岐義龍は落馬した際に全身を強打して身体が動かくなった。


 本人は尾張侵攻を強行しようとしたが、家臣総出で反対されたので取り止めになった。戦場で指揮を執る事を想定して輿まで準備させようとしていたので信長や斎藤利政に対する恨みが相当なモノである事を証明していた。


「親を殺そうとした罰が当たったのですよ」

「誰かが手を下そうとしたと小耳に挟んだのじゃが」


 帰蝶が薄笑いを浮かべながら信行をじろっと見た。


「誰でしょうか?私は土岐義龍をおちょくっただけなのですが」

「閻魔様が殺ろうとしたが運悪く仕損じたのだろう」

「旦那様がそう言われるならそういう事にしておく」


 帰蝶は土岐義龍を実の兄と思っておらず、父を殺そうとした仇として見るようになっていた。


「話は変わりますが、織田に仕えたいと言う者を連れて参りました」


 信行は明智光秀、竹中重治、猪子兵助、武井夕庵、蜂須賀正勝の名を挙げた。


「十兵衛が来たのか?」

「もしかして明智光秀殿の事ですか?」

「妾の従兄弟で頭が切れる男なのじゃ」

「それなら俺が引き取るぞ」


 信長は軍事面における補佐役を探していた。政事面は平手政秀や丹羽長秀が居るので問題ないが、軍事面では物足りないところがあり信長を悩ませていた。


「十兵衛はお薦め出来ぬ」

「何故だ?」

「回りくどい言い方をするから旦那様とは合わぬ」


 結論を先に求める事が多い信長からすれば明智光秀は反りが合わない事になる。短気な面があるので人前で文句を言ったり怒鳴るなどして明智光秀の心証を悪くしかねない可能性があった。


「私に預けてもらえませんか?」

「勘十郎はそういうのを気にしない質だったな」

「津島湊で挨拶しましたが、馬が合ったのか長々と話をしましたよ」


 信行は那古屋城への道中でも明智光秀と延々と話をして盛り上がっていた。


「十兵衛なら勘十郎と上手くやれるのではないか?」

「なら決まりだな」

「代わりに兄上と気が合う者を推挙しますよ」


 信行は竹中重治とのやり取りを信長と帰蝶に説明した。


「菩提山の竹中じゃな。あの男は頭が恐ろしく切れるが変わった癖がある」

「どんな癖だ?」

「人を見定めるのを趣味にしておる。駄目と判断した者は基本的に相手にしないが…」

「別に構わんと思うが?」

「癪に障る者には直言して怒らせるのじゃ。斎藤義龍を見て『謀反の相がある』とか『身の丈に合わない事をして失敗する』と言ったらしい」

「そのまんまじゃないですか」


 竹中重治の豪胆さに信行は驚くと共に寒気がした。


「斎藤義龍は切れて刀を抜いたが父に止められてその場は収まった。そんな事があって誰からも相手にされないから父が近習として傍に置いていたのじゃ」

「面白い奴だ。俺が義龍と同類か否かを見定めてもらおう」


 この後に信長と対面した竹中重治は信長の顔を見るなり『傑物に出会えた』と言って自ら頭を下げたので帰蝶と信行は驚き、信長は『それ見た事か』と自慢げな表情を見せる一幕があった。


*****


「勘十郎、美濃を攻めるぞ」

「確かに好機ですが…」

「橋頭堡を築く場所は竹中と蜂須賀に決めさせた」


 信長は美濃が描かれている地図の一点を指した。


「墨俣ですか。確かに要衝ではありますね」

「長良川と木曽川の合流点で大垣と稲葉山を両睨み出来る場所でもある」

「父が美濃攻めをした時も築城を試みたらしいですけど悉く潰されたと聞いていますよ」

「時間を掛けてやったから潰されたのだ」


 先代信秀が美濃を攻めた時に城や砦を築こうとしたが、斎藤の警戒網に引っ掛かり全て返り討ちに遭っていた。


「カラクリは次に会う時までに説明してやる」

「楽しみにしておきます」


 信行がカラクリの正体を掴めていないのを見て信長はニヤニヤしていた。普段なら推論を言って信長の反応を見るが今回は地図を見て悩んでいるのがその理由である。


「勘十郎、お前もやる事があるだろう」

「三河ですね」

「それは序の口だ。遠江と駿河も取れ」

「今川を潰せと?」

「直虎に約束したのを忘れたとは言わさんぞ」

「忘れたらとんでもない事になりますよ」


 今川を潰して井伊家を再興する約束を破れば、直虎だけでなく三遠駿に散らばっていると思われる井伊家縁の者から恨みを買う事になる。


「策は考えているのか?」

「一向宗を使います」

「エセ坊主をか?」

「毒も扱い方を間違わなければ使えますから」


 三河国は一向宗の門徒が多く、今川家に属している旧松平家臣も例外ではない。信行は一向宗が幅を利かせている西三河に目を付けた。三大拠点とされる本證寺、上宮寺、勝鬘寺を煽って一揆を起こさせて三河全域に拡大させて今川家の戦力を消耗させつつ最終的に三河から手を引かせる。そこを狙って三河国に攻め込み一揆を鎮圧すると共に一向宗を根切りにするというものである。


「火種になるモノはあるのか?」

「噂を流します。三河には『今川義元が一向宗の勢力拡大を嫌って弾圧を目論んでいる』と。今川には『一向宗が加賀のように支配権簒奪を狙っている』と」

「上手く行くのか?」

「上手く行かなくても構いません。お互い疑念を抱くようになれば思う壺です。後は勝手に動き出します」

「東については勘十郎に委細任せる」

「ありがとうございます。随時報告するのでご安心下さい」


 信行は誤解を招かない為に報告を随時する事にしていた。兄弟である事に加えて信長から絶大な信頼を寄せられている信行だが、どこに落とし穴があるか分からないので常に警戒をしている。また信長も同様に考えている事から兄弟仲は良好な状態を維持されている。二人が美濃と三河に分かれたら顔を合わせる機会も少なくなるので第三者に付け入る隙を与えない為にも必要な措置だった。

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