第21話 明智光秀と竹中重治
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鳥羽川から長良川を経て津島湊に到着した信行は顔役の生駒弥平が営む生駒屋を訪れた。
「津島に来られるとは珍しいですね」
「込み入った事情があってね。ちょっとした人数を数日間滞在出来る場所を紹介して欲しいんだ」
信行が人数を伝えると少々驚いたが、湊にある集会所を使わせてもらう事になった。
「柴田様に背負われていたのは美濃の蝮では?」
「良く知っているね」
「商用で稲葉山を訪れた時に顔合わせさせて頂きましたよ。そういえば稲葉山の大店から米を買いたいと申し入れがありましたね」
「実はね」
信行は斎藤義龍が土岐義龍を名乗り、斉藤利政殺害と尾張侵攻を画策していた事とその企みを邪魔する為に美濃へ行っていた事を伝えた。
「御屋形様以上に無茶をされますな」
「兄上から許可は貰っているよ」
「それなら仕方ありませんか」
信行は話に区切りをつけると生駒弥平に那古屋城に遣いを出す事を依頼した。
*****
一足遅れて集会所に入った信行は目を覚ましていた斉藤利政に近付いた。
「蝮殿、具合はどうです?」
「良いとは言えんな」
「数日もすれば那古屋に案内出来ますので」
信行は那古屋城に遣いを出しているので迎えの者が来れば那古屋城に連れて行く事を説明した。
「義龍はどうなった?」
「派手に馬から落ちて大怪我をしたようです」
「何だと?」
信行は土岐義龍が落馬した直接の原因には触れず、河原に馬を乗り入れた時に躓いて馬から落ちた事とその後の様子を伝えた。
「油断が招いた結果だな」
斉藤利政は少人数で姿を見せた信行を簡単に捕まえる事が出来ると思い込んだ土岐義龍に原因があると考えた。
「それでも美濃に行かれますか?」
「行くと言えばどうなる?」
「行かせませんよ。義姉上から怒鳴られますから」
帰蝶は覚悟を決めているので斉藤利政の生死に関わらず信行に不満を抱く事はあり得なかった。
「帰蝶が怖いか?」
「蝮殿以上に」
「稲葉山にいた頃とは大違いだな。どれほど怖いのかこの目で見させてもらおうか」
「是非そうして下さい」
斉藤利政が無茶をする事は無くなったと判断した信行は柴田勝家と千賀地保俊に対して『見張りを最小限に留めて構わない』と指示を出した。
*****
信行は集会所の一角で土岐義龍に仕える事を拒んで斉藤利政と行動を共にした者と顔合わせをした。斉藤利政と縁戚関係(正室小見の方の従兄弟)にある明智光秀を筆頭に竹中重治、猪子兵助、武井夕庵の面々である。他の者は土岐義龍に睨まれる事を恐れて鷺山城から離れていた。
「この度は殿(斉藤利政)を救って頂きありがとうございます」
斉藤利政の一門衆という立場で明智光秀が代表して信行に挨拶をした。
「蝮殿は兄夫婦の父にあたるので私にとっても親類縁者にあたります。危機に陥っているのを見過ごすわけにはいきませんよ」
「土岐義龍は数千の軍勢を率いていた筈。どのように退けられたのですか?」
明智光秀は斉藤利政と縁戚関係である事から稲葉山城に出入りしていたので土岐義龍が直ぐに動かせる兵士の数も把握していた。
「ちょっとした細工をしましてね。後は土岐義龍が短気な性格だと聞いていたので色々と悪口を並べ立てて足場の悪い所に誘い込みました。そこに自ら突っ込んで自滅した次第です」
「悪口ですか。相当酷い内容だったとお見受けしましたが」
信行は明智光秀に悪口の内容を囁いた。
「そこまで言われたら土岐義龍も怒り心頭にならざるを得ません」
「足場の悪い所に馬で入れば」
「馬が躓いて乗っている者は落馬負傷致します。河原のような岩や石ばかりの場所なら大怪我。下手をすれば致命傷を負います」
「そういう事です」
信行と明智光秀は馬が合うようで土岐義龍を罠に嵌めた事から色々派生して長々と話をした。信行は明智光秀が与力として近くに居れば良い相談相手になると考えた。
「織田治部少丞様」
信行が蜂須賀正勝に挨拶する為に別室へ向かっていると後ろから声を掛けられた。
「竹中殿、どうされました?」
「土岐義龍を罠に嵌めた件で伺いたい事が」
「構いませんよ」
信行と竹中重治は空いている部屋に入ると腰を下ろした。
「土岐義龍は短気ですが、馬を操り損ねる事は滅多にありません」
「なるほど」
「私は筏に乗り込んだ後、河原の方に視線を向けていました。すると聞いた事がない音がした後、黒煙が上がりました」
「それで?」
「火薬を使いましたね?河原には掘り返した跡が有りました。そこに火薬入りの竹の筒を埋めて地均しを施した」
竹中重治は信行がやった事を近くで見ていたかのように細かく説明した。説明を終えた竹中重治を見てこの男を早く囲い込まなければならないと思った。
「竹中殿は兄上に推挙しよう」
「治部少丞様の与力になると思っておりました」
「兄上も竹中殿のように頭が切れる人物を探しているから間違いなく重宝がられる」
信行は少々捻くれてる部分があるので真っ直ぐな信長とは反りが合う。信行は竹中重治を一見して自身に似ているような気がしたので反りが合わないと判断して信長に推挙する事にした。
*****
「蜂須賀殿、貴殿の助けがなければ全てが水の泡になっていた」
「鷺山の爺さん(斉藤利政)には色々恩義があるからな。それに藤吉郎から頭を下げられたら断るわけにいかん」
「今後の事で話がしたい」
「そうだな」
蜂須賀正勝は土岐義龍を嫌っているので美濃に戻る気は無かった。津島湊に馴染みの材木商が居るので厄介になる道もあり、現に声も掛けられていた。
「貴殿ら川並衆を家臣として召し抱えたい」
「俺たちは樵や船頭を生業にしている。礼儀など知らんぞ」
斉藤利政は礼節をあまり気にしない質だったので蜂須賀正勝も気軽に城を訪ねて話し相手になる事もあったが、斎藤義龍は正反対で民を見下す様な態度を取るので心底から嫌っていた。
「構わないよ。僕も畏まった態度を取るのが苦手で普段はこんな感じなんだけど」
「何だよ。畏まって損をした気分だぞ」
「悪い事をしたね」
信行は大笑いして蜂須賀正勝の腕を叩いた。
「あんたも鷺山の爺さんと似ているな」
「僕は尾張の蝮と呼ばれるとか?」
「違うな。尾張の毒蛇だな」
「毒蛇ねぇ」
「噛まれると苦しんで死に至るってやつだ」
「最悪じゃないか」
嫌そうな顔をする信行を見て蜂須賀正勝は大笑いして肩を叩いた。




