第2話 兄弟の密談
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信行が末森城から戻った数日後、夜中に古渡城から早馬が到着した。知らせを聞いた信行は飛び起きて寝間着のまま客間に現れた。
「お休みのところ申し訳ございません」
「どうした?」
「御屋形様が身罷られました」
「本当なのか?」
「間違いございません」
「…」
気を失った信行はその場で倒れこんだので傍に居た家臣が慌てふためいた。
「信行様!」
「千秋殿、千秋殿!」
隣の部屋に控えていた千秋季忠に担がれると自室に運ばれた。家臣数名が様子を見守っていたが、しばらくすると千秋季忠に後の事を任せて部屋から離れた。
「部屋に居るのは季忠だけだね?」
「その通りです」
「悪いけど大学頭(佐久間盛重)を呼んでくれ」
「承知しました」
千秋季忠は別室に居た佐久間盛重に声を掛けて信行の部屋に連れてきた。部屋に入ると信行が普段着に着替えて何事も無い様子で座っていた。
「大丈夫ですか?」
「どこも悪くないから心配しないでくれ」
「意味が分からないのですが…」
事情を理解していない佐久間盛重は困惑しているのを隠せなかった。
「色々事情があってね」
「事情と申しますと?」
「一日だけ留守にするから上手く誤魔化してほしい」
「何とか致しますが、理由を教えて頂けませんか?」
「簡単に言うと、」
信秀の死が家中に伝わると信行の擁立を目論む家臣(林秀貞と林通具)が動き出す可能性が高く、信行が二人に掴まると自由に行動出来なくなる恐れがあった。
「それでしたら信行様は体調を崩して寝込んでいるので誰にも会えないと伝えておきます」
「助かるよ」
「季忠、行こうか」
「承知致しました」
信行は床の間に設けている隠し通路を抜けて搦手門から城外に出るとその足で城下にある千秋季忠の屋敷に入り馬を借りると那古野城へ向かった。
*****
信行と千秋季忠は馬を走らせて夜明け前に那古野城へ辿り着いた。
「古渡城から参りました。織田信長様に目通りを」
「こんな明け方に?」
「火急の用件なので」
「素性を明かさなければ通せない」
信行は懐から取り出した印籠を門番見せた。その印籠は織田一族だけが所持しており、これを見せれば領内の城に無条件で入る事が出来るという代物である。
「これは…。お通り下さい」
「ありがとう」
信行が編笠を上げて門番に顔を見せたので門番は驚いて呆気にとられた。
「信行様!」
「私が来た事は口外しないように」
「承知致しました」
信行は城内入ると人目を避けるようにして信長の部屋に向かった。部屋は明りが点いており誰かが起きている様子だった。
「夜更けに申し訳ございません。勘十郎です」
「外は寒い。中に入って暖まれ」
「失礼致します」
部屋に入ると信長は寝間着姿で正室の帰蝶と共に茶を飲んでいた。
「親父殿が亡くなったな?」
「ご存じでしたか」
「夜中に目が覚めた後、何故か胸騒ぎがして眠れなくなった」
信長は寝ている最中に違和感を感じて目を覚ました。普段なら直ぐに寝ていたが、今日に限って全く寝付けなかったので何かあった事を察していた。
「もう少し長生きして欲しかった」
「確かに」
二人はしばらく無言になったが、それを見ていた帰蝶が手を叩いて二人を現実の世界に引き戻した。
「二人ともいつまで悲しむつもりか?」
「少しくらい良いではないか」
「旦那様と勘十郎の関係が険悪であるのは公然の秘密。御屋形様が亡くなったのを機に良からぬ事を企む者が動き出す事くらい分からぬか?」
「確かにその通りだ」
「その不埒者に対する策を考えるのは御屋形様となる旦那様の役目ではないのか?」
「俺の役目か…。良い事を思い付いたぞ」
信長は閃いた計画を二人に話した。
「正気ですか?」
「度が過ぎますが不埒者の動きを煽るにはうってつけじゃ」
「姉上も煽らないで下さい」
「旦那様からすれば当然の事だと思うが?」
「ウツケと呼ばれる俺に相応しいやり方だと思うぞ」
「分かりました。兄上がそこまで言うなら私も腹を括りましょう」
*****
信行は用を済ませると誰にも会う事なく城を出て、那古屋城代を務める平手政秀の屋敷を訪ねた。
「信行様、朝早くにどうされましたか?」
「父上が昨晩亡くなった」
「御屋形様が…」
平手政秀はしばらく顔を伏せて肩を震わせていた。信行も平手政秀を慮って声を掛けずに様子を見守っていた。
「古渡の連中が煩くなる」
「林秀貞、林通具、柴田勝家、佐久間盛次の四人ですな?」
「父上には悪いがこの機会を利用して兄上に反抗的な者を一掃する」
「どうやって連中を動かすつもりですか?」
「兄上が考えた策なのだが、」
信行は先程信長から聞いた内容を伝えたが、平手政秀は渋い表情になった。
「それは承服出来ません」
「私も無謀だと思ったが最終的に賛成した。政秀が首を縦に振らなければどうにもならない」
信長の計画は余りにもぶっ飛んでいるが信行を担ごうとする一派を炙り出すには最も効果的である事を信行は何度も強調した。
「信行様がそこまで仰せなら従いましょう」
「私は古渡に戻る。兄上からが話があれば私から聞いていると言って詳細を詰めてほしい」
「承知致しました」
平手政秀の屋敷を離れた信行は那古屋城に寄らずそのまま古渡城に向かった。




