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織田信行が行く  作者: あひるさん


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第19話 美濃へ向かう

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

差し支え無ければ誤字・脱字の指摘もお願い致します。

「御屋形様、少々込み入った話がありまして」


 部屋には帰蝶、平手政秀、丹羽長秀、柴田勝家の他に近習が数名控えていた。 


「分かった。お前たちは席を外せ」

「失礼致します」


 信長に指示されて近習が部屋から出ていった。


「こちらをご覧下さい」


 信行は小さい木箱を信長に差し出した。


「首だな?」

「はい。謀反人の首でございます」


 信行の言葉を聞いて信長は木箱に入っている首の素性を察した。


「兄者は説得に応じなかったか…」

「残念ながら。あわよくば私の首を狙おうとしましたので」

「安祥城で失敗しなければこのような事にならなかっただろうに」


 織田信広は一時期三河国の安祥城を任されていたが、今川と手を組んだ松平勢の反撃に遭って安祥城を失い自らも捕虜になった。その後織田側に居た松平竹千代との捕虜交換で尾張国にもどったが、評価が下がった事に加えて出自の兼ね合いもあり後継者の資格を失った。


「そこを斎藤義龍に漬け込まれたわけです」

「百地から聞いたが、今川にも援軍を要請したらしいな」

「はい。水野信元と山口教継に遣いを出して警戒態勢を取らせているので心配ありません」


 信行が那古屋城に向かった後、留守居役の内藤勝介が刈谷城と河和湊に援軍を向かわせて今川勢による奇襲に備えている。


「後は斎藤義龍だけだが、厄介な事態になりつつある」

「どういう事ですか?」

「斎藤義龍は名前を土岐義龍に改めた」

「実父の姓を名乗った事になりますね」

「その上で実父の仇討ちをすると言い出した」

「蝮殿を討伐すると?」

「そういう意味だ」


 信長は百地三太夫に指示を出して美濃を探らせていた。斎藤義龍は濃尾国境の山中で織田信広に蜂起を促した後、稲葉山城に戻ると土岐義龍への改名と尾張侵攻を宣言した。これは斎藤との決別と濃尾同盟の破棄を意味しており、翻意を促そうとした弟二人(斉藤龍重と斉藤龍定)をその場で殺害して敵討ちを名目に斉藤利政の討伐をぶち上げた。


「そんな事をすれば家臣が黙っていないでしょう」

「西美濃三人衆を含めた実力者を引き込んだ上でやったらしい」

「根回しした上ですか。そういう所は蝮殿に似ているような気がしますが」


 斉藤利政は鷺山城に移った際に土岐義龍と衝突する可能性を踏まえて籠城出来るように準備を整えていた。稲葉山城から息子二人が殺された事の知らせが入ったので直ぐに籠城する態勢を取った。


「帰蝶から『覚悟は出来ている』と聞いているが、義父殿を見殺しにするような事になれば寝覚めが悪い」

「土岐義龍の視線をこちらに向けて時間稼ぎをするわけですね?」

「その間に義父殿が血路を切り開いてくれたら良いのだが」


 信長は大軍を率いて美濃に向かい土岐義龍との直接対決を目論んでいた。主たる目的は美濃の戦力を削る事にあるが、注意を尾張側に逸らす事で斉藤利政が鷺山城から脱出出来る状況作りも含まれている。


「私も美濃へ向かいます。幸いな事に勝家が居りますので不意の襲撃にも対応出来ますので」

「何をするつもりだ?」

「土岐義龍に不満を持つ者を味方に付けて蝮殿を救い出します」

「鷺山城に行く気か?」

「その通りです」


 信長はしばらく沈黙した。斉藤利政を助ける事が出来れば土岐義龍の暴挙を公にする事で美濃侵攻の大義名分を得る事になる。しかし信行を危険に晒す可能性もあるので許可を出すのは躊躇われた。


「鷺山城が手遅れだったら直ぐに引き返しますのでご安心下さい」

「分かった。くれぐれも無理をするなよ」

「それでは行って参ります」


*****


 那古屋城を出発した信行は夜を徹して北上。犬山付近で木曽川を渡り美濃へ入った。そこから引き続き北へ向かい長良川に到達した。北側にある山の中で休息を取り、夜を待って西へ進んで鷺山城北側の鳥羽川の河原に到着した。


「土岐義龍はまだ来ていないようだね」

「そのようです」

「百地殿」

「何でしょうか?」


 信行は那古屋から同行してきた百地三太夫に二言三言囁いた。


「出来る範囲でやってみましょう」

「無理を強いる事になるけど」

「いえいえ。成功すれば面白い事になるので」


 百地三太夫は配下の忍びと共に河原に残って穴を掘り始めた。信行はそれを確認してから柴田勝家と共に鷺山城に向かった。


*****


「織田治部少丞信行と申します」

「儂が斉藤利政だ。婿殿と帰蝶は元気にやっているか?」


 斉藤利政は土岐義龍に家督を譲ったものの『美濃の蝮』の異名は伊達ではなく信行も一瞬たじろぐ雰囲気を醸し出していた。


「はい」

「今日は何の用でまいられた?」

「蝮殿をお迎えに上がりました」


 斉藤利政は一瞬驚いた後、信行を睨んだ。


「断る。儂を敵に回した義龍に一泡吹かさねば気が済まぬ」

「一泡吹かせた後は?」

「自刃にする」

「犬死するつもりですか」

「犬死とは酷い言い草ではないか」

「一泡吹かすくらいなら兄上と手を組んで潰した方が良いと思いませんか?」

「婿殿に力を借りては申し訳が立たぬ」

「そう言われますが、兄上は美濃に向かっていますよ」

「何だと?!」

「蝮殿を救った上で美濃も獲ると言っていましたよ」

「尚更義龍に一太刀浴びせてやらなければ」

「それは兄上に任せて下さい」

「ならぬ」

「頑固な人だな。これでは堂々巡りだよ」


 信行は会話が前に進まないのでどうしたものかと思案しかけた時に千賀地保俊が姿を見せた。


「土岐義龍の軍勢が稲葉山城を出ました」

「拙いな」


 土岐義龍が自ら軍勢を率いて稲葉山城を出発して鷺山城に向かった。このままでは一刻もしない内に鷺山城は包囲されてしまう状況だった。


「お前たちはここから離れろ。後は儂の役目だ」

「蝮殿を連れて帰らないと私が怒られるんですよ」


 斉藤利政が譲歩しないので説得を諦めた信行は合図を出した。すると忍びが斉藤利政の背後に現れて羽交い締めにして千賀地保俊が峰打ちで斉藤利政を気絶させた。


「治部少丞様、城内に残っていた者は説得に応じて鳥羽川に向かっております」


 柴田勝家が斉藤利政配下の説得を終えて姿を見せた。信行は柴田勝家に斉藤利政を背負わせると足早に城から脱出した。

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