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織田信行が行く  作者: あひるさん


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第18話 無礼討ち(二)

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

差し支え無ければ誤字・脱字の指摘もお願い致します。

 信行が太刀を構えながら拾阿弥に一歩ずつ近付いていると背後に二人とは異なる者の気配がした。信行が振り返ると帰蝶が侍女と共に姿を見せた。


「何をしておるのじゃ?昼間から騒々しい」

「義姉上」

「奥方様!」


 帰蝶を見た拾阿弥の顔に安堵の表情が浮かんだ。拾阿弥は信行の横をすり抜けて帰蝶の前に膝まづいた。

「奥方様、お助け下さい」

「これはどういう事じゃ?」

「信行様が、」

「どけ。貴様には聞いておらぬ」


 拾阿弥は帰蝶に払い除けられて廊下に身体を打ち付けた。


「勘十郎、答えよ」

「その茶坊主が不埒な真似をしたので追求しているところです」

「不埒な真似とは?」

「母衣衆の前田利家を陥れようと偽情報をバラ撒きました」

「偽情報ではない!」

「黙れ。誰が口を開けと申した?」


 帰蝶が拾阿弥の言葉を遮り睨みつけた。


「ひぃ!」

「勘十郎、証拠はあるのか?」


 信行は懐から手紙の束を取り出して帰蝶に渡した。


「茶坊主が噂を広める為に書いた物です」

「これ、読んでみよ」


 手紙を受け取った侍女が読み上げるのを帰蝶は黙って聞いていた。帰蝶と信行に挟まれた拾阿弥は逃げ場を失い血の気の無い顔になっていた。


「同朋衆は御屋形様に気に入られていると勘違いして増長しており、家中の統制に悪影響を及ぼしております」

「ならばどのような処分を下す?」

「斬首の上で晒し首が妥当でしょう」

「お待ち下さい!その手紙は偽物で、」


 拾阿弥は縋るように帰蝶の羽織を掴んだ。


「戯けが!」


 帰蝶は拾阿弥を蹴り飛ばした。


「茶坊主如きが妾に物を申すなど百年早いわ!」

「ひぃ!」

「貴様は人を陥れるだけでなく物も盗んだ」

「何を証拠に?」

「貴様が同朋衆に見せていた笄は妾がまつに与えた物じゃ。無礼者が!」


 帰蝶は懐から鉄扇を取り出すと起き上がった拾阿弥の顔を思い切りぶっ叩いた。


 拾阿弥は母衣衆が宿直を務めている部屋に無断で入り込んで利家の刀から笄を抜き取って自分の物にしていた。それを信長から下げ渡された物だと偽って同朋衆に自慢しているのを帰蝶の侍女に目撃されていた。


「勘十郎、同朋衆の首を刎ねよ。一人残らずじゃ!」

「承知致しました」


 騒ぎを聞き付けて集まった者に対して信行が事情を説明すると『失礼致しました』と言っただけでその場を後にした。拾阿弥たちが『助けてくれ!』と叫んでいたが誰も相手せずその場から立ち去った。


「長秀と勝家に任せる」

「承知致しました」

「お任せ下さい」


 丹羽長秀と柴田勝家は兵士たちと共に同朋衆を引きずるようにして御殿の外に連れて行った。行く先は城内の一角に設けられている刑場である。


*****


「クソ坊主共め。ようやく清々したわ」

「義姉上も相当な嫌いようですね」

「当たり前じゃ。クソ坊主を好んで使う旦那様の頭の中を覗いてみたいと思わぬか?」


 帰蝶が物騒な事を言うので信行は笑って誤魔化した。


「勘十郎、あのようなフリをするのは疲れるのじゃ」

「義姉上が般若に見えました」

「妾に角は生えていないぞ」


 帰蝶は笑いながら頭を差して角が無い事を主張した。


「今回の件は私が独断で動きましたので兄上にはそのように報告致します」

「ならば勘十郎に任せるが、妾も同席させてもらうぞ」


 帰蝶に命じられた侍女は慣れた手付きで部屋の粗探しを行って拾阿弥の文箱から件の笄を見つけた。


「これを利家に渡してやるのじゃ」

「承知致しました」

「妾の侍女を見て不思議に思ったか?」

「中々の手練れだなと」

「紅梅は百地三太夫の縁者。これだけ言えば分かるか?」


 帰蝶の侍女は全員忍びで固めており、周囲で不穏な動きがあれば即時対応出来るようにしていた。紅梅と名乗る侍女はその者たちを纏める上忍である。


「なるほど」

「この事を知っているのは旦那様と平手政秀、それに丹羽長秀の三人だけじゃ」

「承知致しました」


 信行と勝家は小さく頷いた。


*****


 信長と平手政秀が清州城から戻ると那古屋城で一騒動があり、同朋衆が全員首を刎ねられていた。信行が関与している事を聞いた信長は本人を呼び出して事情を聞いた。


「という訳で処断する結果に至りました」

「で、あるか…」


 信行から同朋衆処断の話を聞いた信長は不機嫌な表情を隠さなかった。


「今回は兄上にも原因があると思います」

「それ以上言うな」

「御屋形様、この件については某と長秀が何度も申し上げておりました。厳しい態度に出なかった事で状況が悪化したと」

「分かっている」


 信行だけでなく平手政秀からも苦言を呈されたので信長は苛ついた。


「情けない。己の不注意で招いた事を注意されただけで癇癪を起こすとは」


 帰蝶が呆れ顔で嗜めると信長は睨み返した。


「何だと?」

「政秀が言うように茶坊主の横暴を放置した旦那様様に非があるのじゃ」

「…」

「拾阿弥という茶坊主は妾がまつに与えた笄を盗んでいた痴れ者」

「初めて聞いたぞ。その話、詳しく聞かせろ」


 篠原まつが父篠原一計の供をして城に上がった際、控え部屋で待っていると城内を散策していた帰蝶に出くわした。手持無沙汰だった帰蝶はまつの話し相手になって色々聞いていると、『許嫁が出来たので何か贈り物をしたい』と言ったので父斎藤利政から貰ったものの使い道が無かった笄を与えた。しばらく後、利家から盗んだ拾阿弥が同朋衆に自慢しているのを見掛けた紅梅がその一部始終を帰蝶に報告していた。


「儂が全面的に悪かった。あの連中がそこまで腐っているとは思わなかった」


 事情を知った信長は素直に非を認めて頭を下げた。


「旦那様も頭を下げている。妾に免じて旦那様を許してほしい」


 信長が見ていないのを良い事に帰蝶は笑いを堪えながら間を執り成した。


「分かりました」

「利家には悪かったと伝えてくれ」

「それと利家は私が引き取っても宜しいですね?」

「構わない。利家もその方が良いだろう」


 引け目を感じた信長は神妙な顔つきをして何度も頷いた。

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