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織田信行が行く  作者: あひるさん


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第1話 密談①

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

差し支え無ければ誤字・脱字の指摘もお願い致します。

 織田信行は尾張国の大半を支配している織田信秀の三男である。元服を機に古渡城を任されて今に至っている。信秀が若い側室を迎え入れた事が原因で正室の土田御前と不和になったので御前と同腹の妹弟を引き取って古渡城で同居している。


「信行様、末森から手紙が届いております」

「父上からか。内容は…」


 信秀から送られた手紙には『茜(信秀側室の岩室殿)が男子を産んだ』とだけ書かれていた。


「信行様、御前様に伝えるのですか?」

「嫌だけど伝えるしかないよ。伝えなければ叱責されるからね」

「伝えない方が良いのでは?」

「そんな事をすれば後が怖いよ」


 取次役を振り切るようにして信行は重い足取りで御前の部屋に向かった。


*****


 信行は土田御前に挨拶をすると手紙の内容を伝えた。扇子を持つ手が震えているので怒っているのは明らかだった。


「あの小娘がまた子を産んだと」

「何度も言いましたが、小娘と言うのは止めた方が」


 信行の発言が癪に障ったので御前は扇子を壁目掛けて投げつけた。


「三郎(信長)と変わらぬ年の女を小娘と言って何が悪いのです?」

「母上は織田家の正室。岩室殿は織田家の側室。側室が子を産んだ事で目くじらを立てても意味がありませんよ」

「意味がない?」

「後継者である三郎兄上を産んだのは母上です。側室が寄ってたかったところで覆しようがない事実」


 正室であり後継者の実母という立場が覆る事はあり得ないので鷹揚に構えておくのが無難だと信行は言いたかった。


「ならばどうすれば良いのです?」

「母子ともに無事で何よりと伝えれば岩室殿も喜ぶでしょうし、父上も余計な心配をする事も無いはず」

「分かりました。本意ではありませんが勘十郎の言う通りにしておきましょう」


 信行の発言に納得した御前は機嫌を直した。それを見た信行は政務に戻る事を理由にしてその場を離れた。


*****


 信行が御前の部屋を出ると近習の千秋季忠が近づいてきた。


「信行様、客人がお見えになられました」

「誰だい?」

「…」


 御前の耳に入れば拙い人物は限られている。そして古渡城に顔を見せるのは二人しか居なかった。


「分かった」

「申し訳ございません」

「こればかりはどうしようもないよ」


 御前の機嫌で左右される環境は将来的に宜しくないので折を見て手を打たなければならないと信行は思った。


「やはり兄上でしたか」

「すまんな勘十郎」


 信行を待っていたのは次兄の信長だった。


「母上に挨拶されないのですか?」

「したところで説教されるだけだ。面倒事は御免被る」


 信長と御前は似た者同士で反りが合わない。或る事が引き金となり御前が信長に噛みついたので嫌気が差して末森城を訪れても挨拶しなくなった。


「その身形では何を言われるか分かりませんね」

「文句を言う前に卒倒するかもしれんぞ」


 信長の身形は世間の常識から大きく離れており、予測不能な行動をするので『尾張のウツケ』と揶揄されている。本人は考えがあってやっているので気にしておらず、信行も事情を知っているので黙って様子見に徹している。


「親父殿はご機嫌だったぞ」

「でしょうね。母上の機嫌は最悪でしたが」

「だろうな。癇癪起こしている顔が目に浮かぶ」


 信長が末森城を訪ねていた時に岩室殿が出産したので信秀は上機嫌で信長に接していた。信秀が惚気話を延々と繰り返すので嫌気が差した信長は用件を済ませると末森城を離れた。


「早く孫の顔を見せろとしつこくてな」

「仕方ありませんよ。妻を娶っているのは兄上と信広兄者(長男だが側室の子)だけですから」


 信長は美濃国主である斎藤利政の娘帰蝶と一昨年祝言を挙げており、信広も家臣の娘と数年前に祝言を挙げている。


「俺はやる事が沢山あって多忙なのだ。親父殿はそれを分かった上で言っているからタチが悪い」

「そういうのは聞き流すのが一番です」


 最近の信行は親兄弟から愚痴を聞いたり助言をするのが役目になっているのであしらい方も心得ている。


「用件は別にあってな」

「何でしょうか?」

「林秀貞の動きを教えてくれ」


 林秀貞は古参家臣で古渡城の城代家老を務めており信行の補佐役に当たる人物である。元々は那古屋城で信長の与力だったが、信行の元服に合わせて古渡城に移った。


 周囲を省みず単独行動を取りウツケと呼ばれている信長とは反りが合わないので毛嫌いしている。この事は家中において周知の事実であり、古渡城に移ったのもこの事が影響している。


「通具(林)と共謀して兄上の排斥を狙っています」

「二人が古渡や末森の連中を集めて談合している噂は聞いていたが…」

「私にも持ち掛けてきましたよ」

「何だと!」


 林秀貞は城代家老に就くなり信長の悪癖を並べたてた上で『信長の真似をすれば家臣の離反を招く事になる』と伝えて信行に釘を差した。また『信長が当主になれば織田家は崩壊するので信行を当主に推したい』趣旨の発言もしている。


「戯け共が舐めた真似を」

「今は仲間を集めている段階ですが、末森に関しては多くの者が相手にしてませんよ」

「勝介(内藤)が上手く纏めていると考えて良さそうだな」


 末森城の城代家老を務める内藤勝介は武闘派として家中に目を光らせており信秀からも信頼されている。那古屋城の城代家老を務める平手政秀とは肝胆相照らす仲だが、林秀貞に対しては『媚を売って世渡りする卑怯者だ』と公言するほど嫌っている。


「勝介が健在である限り末森が乱れる事はあり得ませんね」

「それなら安心だが」

「こちらは少しばかり拙い状況ですね」


 古渡城は林秀貞が城代家老を務めている事から賛同している者も少なくない。信長が誰にも知られず城内に入り込めたのは隠し通路を使ったからである。


 林秀貞は林通具の他に柴田勝家と佐久間盛次の二人を仲間に引き入れており、二人が関係者の説得に当たっている。


「勝家と盛次が林に付いたのか」

「あの二人も兄上を嫌っているので仕方ない面はありますけど」

「態度を改める気は一切ないからな」


 信長は平手政秀から身形と態度を改めるように再三に渡って指摘されているが、或る目的の為に無視し続けている。その態度が気に食わないと信長に愛想を尽かす者も居て柴田勝家と佐久間盛次もその類である。


「勝家と盛次が敵となれば苦戦するのは必至だな」

「それに関してお願いしたい事があります」

織田信行…織田信秀の三男。古渡城主。兄信長の知恵袋的存在。母を引き取って同居中。

織田信長…織田信秀の次男。那古野城主。天下統一を密かにに狙っている。

織田信秀…織田家当主。古渡城主。女好きが原因で土田御前に愛想を尽かされた。

土田御前(織田綾)…織田信秀の正室。信長と信行の実母。夫信秀とは別居している。

岩室殿(織田茜)…織田信秀の側室。信秀と同居している。土田御前に恐怖心を抱いている。

千秋季忠…織田信行の近習。実家は熱田神宮。実家に戻る気は全くない。

織田帰蝶…織田信長の正室。斎藤道三の実娘。気が強く物怖じしないので『蝮の娘』と呼ばれている。

織田信広…織田信秀の長男。実母が側室なので後継者になれなかった。それが原因で塞ぎ込んでいる。

林秀貞…城代家老(古渡城)。自称信行の側近。裏で信長排斥を画策している。

林通具…古渡城付家臣。林秀貞の実弟。信長排斥の賛同者を集めている。

柴田勝家…古渡城付家臣。佐久間盛次の義弟。信長嫌いが高じて信長排斥に加わった。

佐久間盛次…古渡城付家臣。妻が柴田勝家の姉。勝家に誘われて信長排斥に加わった。

内藤勝介…城代家老(末森城)。織田家随一の武闘派。過去に信行の傅役を務めていた。

平手政秀…城代家老(那古野城)。織田家の筆頭家老兼外交担当。信長の事で頭を悩ませている。

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