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日の落ちた頃に

 自分はアベルを怒らせた。怒ったときの癖が全部出ていたから、本当の本当に怒らせてしまった。


 やり方を間違えたんだ、とわかる。


 ドラッヘは夕食を食いながら、アベルの無事を祈るしかできない今の自分が低くて仕方がなかった。


 アベルは旅の道中いつも優しかった。


 自分が勇者だからというより最年少だから。十七歳で剣を握る事を強要されて精神が崩壊しかけていたところに彼がやってきた。


 彼はよく自分のことを「化け物」と言ったけれど、そんなことがあるわけなかった。すくなくともドラッヘからしてみればアベル・タフという男は強くて優しい頼もしい仲間で、友人などいなく趣味も何もない自己のなかった色のない自分の世界に現れた閃光だった。


 だから惚れてしまった。


 惚れさえしなければまだこの別れも痛い失敗で済んだのかもしれないけれど、こうしている間にも自分の心を救ってくれた彼が死んでしまうかもしれないということを考えると、スプーンを持つ手にも力がはいらない。


 でも、連れて行くわけにはいかなかった。

 ドラッヘにとってアベルはとても優しい人で、とてもじゃないけれど、魔王なんていうクソ野郎と戦って死んでしまって良いような人間ではなかった。


「…………あいつよりも先に魔王に到達する……」

「ん?」


 治癒師のカリーナ・フライがパンから顔を上げた。


「アベルよりはやく魔王を倒して、あいつが死なないようにする。そうだよ、そうすればいいんだよ。あいつより先に魔王を倒しちゃえばさ、あいつは死なないだろ。死なないと死なないってことだろ」

「何言ってんだこのバカ」

「でも彼はつよいよ。目の前の敵なんて全部私たち無しで倒しちゃうし、彼個人なら私たちみたいな諸用もないだろうから……」

「諸々考えるとタフ坊より早く魔王に到着ってのは無理では?」


 今度は盾使いのトゥエルブ・ヘリンが言う。


「でもあいつは、目の前で困っている人がいれば、ほっとけないから、たぶん俺たちより歩みは遅い」

「たしかに。となるとワンチャンスあるか?」

「私たちが『目の前で困っている人』を無視して進むっていうんなら、彼よりは早くつけるんでしょうね」


 カリーナが言う。


「無理でしょ。あんたの性格で、ソレは」

「じゃあどうすればいいんだよ」

「どうして前後でばかり考えるかな」


 呆れてしまって、カリーナは少し笑いながら「一緒に頑張ろうでいいじゃん」と簡単に答えて夜が深いから眠りに行った。


「不器用すぎるよ、といつもこいつも」

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