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【84】餞別と鍋

「私…ただのバッグだと思ってたの。随分高いなとは思ったんだけど」


 店の奥にバッグが売っていた事を知ってはいたらしいが、どうもただのバッグだとソフィーは思っていたらしい。確かに普通のバッグが銀貨単位なら、手にも取らないだろう。

「でも、言われてみれば“なるほどね“って」

 ふふっと笑ったソフィーが、ルース達と一緒にバッグを見ている。


 こうしてマジックバッグの売り場に立ってみれば、カルルスでみた在庫よりも数が多かった。

 その奥に行ったフェルが、商品を手に取って声を発した。

「たっかー。20万ルピル…」

 手にするショルダーバッグの値札を見て、渋面を作っている。

 それは40cm位のバッグで、大きさだけで見るのなら高いと感じるだろう。

「ええ!?本当に20万ルピルもするのね…」


 20万ルピルといえば銀貨で20枚だ。

 確かに良い値段だと言えるが、新品なのか、もしくはそれなりに収容量が多いのだろうとルースは思った。


 今回買い足すマジックバッグは、今使う巾着よりも収容量が多い物が欲しい。手荷物が多くなることもあるが、回収できる魔物が1つ分位では心もとないという事もあるのだ。

 多少金額が高くとも、今回のスライムが高額で買い取ってもらえたため、奮発して買う事もできるのだとルースは気になる物を一つずつ手に取っていった。


 そうして見ていけば多少使用感はあるが、フェルが手にしていた位のショルダーバッグを見付け、手に取ってみる。こちらは15万ルピルだった。

 それをルースが見ていれば、フェルが先程のバッグを手にしたままルースの隣に立ち、それと見比べる。


「そっちのは…15万ルピルか。銀貨5枚の違いは、何だ?」

 フェルがそう疑問を口にすれば、3人の背後から店主が声を掛けてきた。


「その違いは、まず新品か中古か、だね」


 その声に、3人は店主を振り返った。膨らんだお腹を茶色のエプロンで覆っている店主は、3人へ何でも聞いてくれと言って笑みを浮かべた。

「すみませんが、これらの値段の違いをお教えいただけますか?」

 ルースの問いかけに頷いた店主は、笑みを浮かべてルースとフェルが手にする物を一つずつ説明する。


「まずは、こっちが新品でこっちは中古という違いがあるね。バッグ自体の大きさは余り変わらないけれど、収容量も違うんだよ。こっちの新品が100倍、中古の方は300倍。中古の方が収容量は多いけれど、外見に使用感がある分、値段が落ちているんだよ」


 店主の説明は、フェルが手にする物が新品で、ルースが手にする物が中古という事だった。

 収容量の違いがあるのに多い方の値段が安いのは、外見が少々くたびれているからだろう。せっかく大金を出して買っても脆くなっているのであれば、すぐに破損して使い物にならなくなってしまうのだ。


 悩ましい選択肢だなとルースが考えていれば、ルースの腰に下げた巾着を見た店主が、目を瞬かせて笑みを深めた。

「それもマジックバッグかな?きれいに使っているみたいだね…それ位の物も、確かあったはずだな」

 と独り言のように話してから、棚の上の奥をゴソゴソと漁りだした。


「ああ、まだあったね」

 そう言って出してきた物はルースが持つ巾着より少し大きく、使用感もなさそうな綺麗な物だった。


「それは新品なのですか?」

 品物の状態を見てルースが店主に聞けば、これも中古だという。


「このタイプは予備として持つ人が多いらしくて、このタイプを買ってもこれ以外を既に持っていて、そっちを主に使っているみたいなんだよ。だから余り汚れてない物が、中古で出回る事が多いんだ」

「はぁ…マジックバッグを予備で持ち歩けるなんて、金持ちなんだな…」

 フェルが素直な感想を漏らせば、その声に店主は頷いて笑みを向けた。


「そもそもマジックバッグは、安くはない物だね。だからそれを買う人はちゃんと目的をもっていて、必要な物だから購入していくだろう?」

 店主の話に同意して、ルースとフェルは頷いた。

「それでまず、考える事は…」

「沢山入る物が欲しい」

 店主の言葉にフェルが言葉を繋げれば、それに店主は頷いて口を開いた。


「そうだね。だとすると、やっぱり大きなバッグにしたいと考える。大きなバッグだと沢山入る様に感じるからね。だからリュック型の物や大きなショルダーが人気なんだよ」


 そうなのかと、ルースとフェルは感心するように店主の話に耳を傾けた。

 言われてみれば、中古だとすぐに判る物は中型から大型のバッグが多い。言い換えれば、少々くたびれている見た目をしている物だ。そして綺麗な物は、小さめのバッグが多いのだという事に気付かされる。


「それでこの辺りの商品を買っていく人は、使っていた物と同型か、それ以上の大きさで収容量の多い物に買い替えていく感じだね。それまで使っていた物を下取りに出して、大きなものに買い替えていくんだ」


 店主の説明に3人は神妙に頷いた。大変勉強になる話である。

 まずは手始めに中古でショルダーやリュックを買って、お金が貯まったら収容量の大きい物に買い替えていく。だから中古で中型のバッグは何人もの人の手に渡って使われ、特にくたびれた使用感のあるものになっているのかと納得した。


「そのうえで、巾着タイプの物は予備として買って行く人もいる…というか、ショルダー型などと比べれば、巾着タイプ自体、もともと余り数は出回っていないんだけどね」

 今まで聞いた事を思い返せば、確かに巾着タイプは需要が少ないのだろうと分かる。


「それに、予備として巾着タイプを買って行く人たちは、新品を買って行くような人達が多いんだよ。いうなれば上位の冒険者が、不測の事態に備えて念のために買って行くという事らしいよ。それである程度してもっと大きな物…たとえば無限に入る物を入手したりすれば…」

「もう予備は要らなくなる」

 店主の話にフェルが考えている事を伝える。

「そういう事だね」


 そう言った店主は、手に持っている巾着をルースへ手渡した。

 ルースがそれを見ていれば、隣からフェルも覗き込む。そして値段を確認すれば、110,000ルピルと書いてあった。

「これは中古…でしたよね?」

 ルースの呟きに、フェルも「11万」と呟いて止まった。


「おや?思っていたよりも高かったのかな?それは800倍入るものだよ?」

「「「ええ?!」」」

 店主の解説に、ルース達は驚いた。

「だから、こっちのショルダーの100倍と同等の収容量になる」


 そう言って店主が示した物は、牧場のアランが使っていた物と同じ位の30cmのバッグだった。手元にあるこれは、15cm程の物が入る位の巾着だ。

 その説明にルースは頷いて、それでアランのバッグと値段が同じ位なのかと納得するも、それでもまだ少し高いかなとは正直思った。アランのバッグは100,000ルピルだと言っていたからだ。


 その考えを見透かしたかのように、店主は言葉を補足する。

「それは美品である事と、流通が少ないタイプの商品という事もあって、その値段なんだよ」


 そう言われてしまえば、そうなのだろうとも思う。

 しかし10,000ルピルの違いだが、ルースはそこが少し納得しきれない。

 だが、魔導具は食品を買うように手軽に買える物でもなく、同じ商品を扱っている店が軒を連ねている訳でもないのだ。気に入る商品があればそこにしかなく、そして店主の匙加減一つで、高くも安くも出来るものなのだ。


 そうしてルースが考え込んで眉間にシワを寄せていれば、ソフィーが声を上げた。

「あの…これ以上、値段は下がりませんか?」

 少々上目遣いにソフィーが言えば、ううっと店主が声を漏らした。


「まぁ…ソフィアちゃんも使う物だからなぁ。よし、分かったよ。ソフィアちゃんの餞別として、100,000ルピルにしよう」

 そう言った店主は、眉尻を下げてソフィーを見た。一気に10,000ルピルも値下げしてくれるらしい。

 それにパァっと笑みを広げたソフィーが、「ありがとうございます」とお礼を述べる。

 それに続いてルースとフェルも頭を下げ、感謝の言葉を添えた。


 こうしてなんだかんだと言いながら、その巾着を購入する事にしたルース達は、一つの達成感を得て安堵の息を漏らした。

 そして早速ルースが支払いをしている間、時間を持て余すソフィーがフェルと店内を見回っている。


「どうした?何か欲しい物でもあったのか?」

 フェルが立ち止まるソフィーに言えば、ソフィーは目の前の鍋をじっと見つめていた。

「いえ、旅の途中って、食事はどうするのかと思って…」

「ああ、食事か。いつもは町でパンとか手軽に買える物を買い込んでるな。そんで汁物は水筒に入れてもらって、なくなれば終了。後は果物とかも買っていくな。前は干し肉だけだったから、マジックバッグのお陰で、これでもまともな物が食える様にはなったんだ」

 干し肉生活を思い出したフェルが、苦笑しながら説明した。


「どうしました?何か欲しい物でもありましたか?」

 そこへ合流したルースがフェルと同じことを聞くので、ソフィーはクスリと笑みを漏らした。

「いいえ。ただ旅の途中で、食事はどうしてるのかと思って聞いてたの」


 その言葉に、流石は女の子だなとルースは微笑んだ。

「私達は料理ができないので、すぐに食べられる物を買ってから移動しています」

「だったら私、少し料理は出来るので…」

 そう言ったソフィーの前にある鍋を見て、ルースは頷いた。


「ではお手間でなければ、スープなどを作ってもらっても構いませんか?いつも汁物が足りないと思っていたのです」


 ルースにそう言われたソフィーは、喜色を浮かべて大きく頷いた。

「勿論です!私、頑張りますね」


 嬉しそうにそう言ったソフィーの選んだ鍋を新たに購入する事にして、それと共に使う道具などもフェルと一緒に見回って手に取っていく。

 それを見守るルースは旅の楽しみができましたねと、満たされた気分に目を細めたのだった。


余談:今回は15cmの物が入る位の巾着を購入しましたが、800倍と言われても…という事で補足です。

これのサイズ感としては、横150cm×150cmに高さが120cm位の箱1つ分位の収容量だ、という事でよろしくお願いします。笑


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 マジックバッグ事情や市場も色んなエピソードがあって面白いですね。そして改めて『無限アイテムボックス』系のチートスキルって、持ってない人から見たら卑怯千万な能力だと感じ…
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