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【83】公平である為に

 それから冒険者ギルドに到着すれば、中には数人の冒険者がいる位で殆ど人の姿はなく、ルースとフェルはホッとする。

 だが人が少ないせいか、受付にいる職員は1か所のみとなっていた。


 そこへ3人は向かって行く。

 ソフィーはおっかなびっくり、初めて足を踏み入れた冒険者ギルドを珍しそうに見回しながら、フェルとルースの後ろをついて行った。


「こんにちは。今よろしいですか?」

「こんにちは。はい、勿論大丈夫です」

 今日の受付は時々顔を見た事のある女性職員で、名札には“ポーリン・ロロイ“と書いてあった。

 ルース達には余り馴染みがない職員だが、ロロイは二人の顔を知っているようだ。


「今日は、冒険者ギルドに登録していただきたい人を連れてきました。お願いできますでしょうか」

「はい。それではこちらへいらして下さい」

 ロロイは後ろにいるソフィーがそれだと分かったのだろう、そう言ってソフィーに視線を向けた。

「はい…お願いします」

 見つめられたソフィーは、受付の前に進み出る。


「それではこちらに、必要事項を記入してください。わからない場所は空欄で結構ですよ。お名前と年齢だけは必須項目なので、それだけは必ず記入をお願いいたします」

「分かりました」

 ルースとフェルの前で、ソフィーとロロイが手際よく手続きをしていけば、すぐに冒険者登録は完了となった。


「では、こちらでソフィアさんの登録は完了となります。今日からF級冒険者として、あちらの掲示板に貼ってあるクエストを受ける事もできます。勿論、クエストは必須ではありませんので、受けなくても問題はありません」

「はい。ありがとうございます」


 ロロイがソフィーに話し終わるのを待って、ルースが声を掛ける。

「ロロイさん、こちらのソフィアさんとパーティを組みたいので、その手続きもお願いします」

 ルースの話す内容に少し驚いた顔をしたロロイだったが、こうして連れてくる位だから初めからそのつもりだったと理解したのか、「承知いたしました」と言葉を続けた。

 そしてルースとフェルもギルドカードを提示して、ソフィーの真新しいカードと共に手続きをする。


「それでは、ソフィアさんが“月光の雫“に加入する形になります。ソフィアさんだけは冒険者ランクに違いがありますが、リーダーであるルースさんのランククエストを一緒に受ける事ができます。ですが、ソフィアさんだけでクエストを受ける場合は、ご自身のランクのクエストを受ける事になります」

「はい」

 ロロイの説明にしっかりソフィーは頷いた。

 ルースもランク違いの者が加入した場合、クエストのランクはどうなるのだろうかと思っていたのだが、ここでロロイが説明してくれた事で理解する。


「では3人で、C級クエストを受けてよろしいのですね?」

 ルースは念のため確認をする。

「はい、勿論です。冒険者とは自己責任で活動する人たちですから、もしご自分達が無理だとお思いでしたら、ソフィアさんが慣れるまでE級に下げたりD級を受けたり、要はC級クエストまでの間でご自由にしてください、という意味合いですね」


「承知いたしました」

「なるほどな」

「分かりました」

 3人はそれぞれ、理解したと返事をする。


 そしてロロイは手元の情報を見ながら、話を続けた。

「ルースさん達は現在、冒険者ギルドの宿にお泊りの様ですが、ソフィアさんはどうされますか?」

 ルースとフェルがソフィーを振り返れば、「宿は大丈夫です」とソフィーが話した。


「承知いたしました。それで、冒険者ギルドの説明と冒険者としての注意事項については、こちらの冊子に記載してありますので後程お読みください」

「はい」


 ロロイは、以前ルース達ももらった冊子をソフィーに渡した。それを久しぶりにみたルースは、懐かしいなと笑みをもらす。


「ご不明点があれば、お気軽にお聞きくださいね。と言っても、先輩冒険者とパーティを組まれるので、先輩に聞いた方が早いかも知れませんが」

 笑みを浮かべたロロイが、ソフィーに補足する。


「そんな事はありません。C級になったと言えど私達もまだ知らない事ばかりですから、ご指導よろしくお願いいたします」

 ルースもフェルも、冒険者になってまだ一年であり知らない事の方が多く、教えを乞う側の者だ。

「ええ、勿論です」

 と、ロロイはルースに向けて笑みを浮かべた。


「早速ですが、お聞きしてもよろしいですか?」

「はい、何でしょうか」

「F級冒険者は冒険者ギルドからの救済措置で、安価にギルドを利用する事ができたはずですが、彼女の場合も…たとえば食堂の利用など、安価に利用できるのですか?」

 その点ですか、とロロイは頷くが申し訳なさそうに眉を下げた。


「申し訳ございませんが、ソフィアさんの場合は対象外となります。F級の冒険者ではありますが、既にC級の方とパーティを組んでおられます。そもそも、クエストにおいてF級以上を受けられる事が既に“救済措置“の様なもので、そのうえ他のF級冒険者と同じく施設を安価に利用できるとなれば、不公平になってしまう為そこはご了承ください。ですが補足で言えば、F級の方がE級パーティに加入された場合、それは救済措置の対象になりえるという例外もございます」


「なるほど…。F級は報酬が少ないからこそギルドの施設を安価に利用できるけれど、ソフィーは既に高い報酬のクエストを受けられるので、その限りではない、という事ですね」

「左様でございます」


 ルースが問いかけたものの答えに、ルースとフェルは頷いた。

 ソフィーはまだそこまでの情報を持っていなかった為、今の話は良くわからなかったようだ。

 後で説明しますねと、ルースがソフィーに伝えればソフィーも素直に頷く。


「それでは以上になります。他に何かございますか?」

「ソフィー、何かありますか?」

「いえ…まだ何も分からないので、質問も分かりません」


 確かにその通りだなと、ソフィーの答えにルース達は笑みを浮かべた。

「ではまた何かございましたら、お声がけください」

「はい。よろしくお願いします」

 ソフィーが笑顔を浮かべてお礼を述べれば、ここでする事は終わりですねと、ロロイに挨拶をしてから冒険者ギルドを退出した。



「ふぅ~」

「どうかしましたか?ソフィー」

「ちょっと緊張してたの…」


 冒険者ギルドを出たところで、ソフィーは大きく息を吐いた。

 ソフィーには初めて入った冒険者ギルドであり、冒険者になるのも今日が初めてなのだ。

 それは緊張するよなとフェルも自分の時の事を話しながら、ソフィーを元気づけていた。



 それからちょうど昼頃になった為、軽く食事にしようという事になり、人が賑わう東地区に足を進めて屋台で昼食を摂る。そこで屋台が用意している簡易テーブルに腰を下ろし、サンドパンとスープで軽く腹を満たす。


「ソフィー、今日のお仕事は?」

「今日は夜までお休みをもらったから、夕方までは自由なの。後少しでこの町を離れるから、それまではしっかりお手伝いするつもり」

 少し寂しそうにソフィアが話し、それを微笑んで見守るルースとフェル。


「では、今日中に買う物の見通しをたて、それで出発日を確定させましょう」

「おう」

「はい」

 3人は食事を摂りつつ軽く打ち合わせをして、まずは道具屋へと足を向けたのだった。


 歩きながらソフィーが話す。

「この町には道具屋が3軒あるの。でも私は、お遣いで通っていたお店しか知らないわ」

「ではそちらで構いませんので、案内していただけますか?」


 ソフィーから町の道具屋の情報を聞き、ルースはソフィーに案内を頼む。この町の者が利用している道具屋ならば、変な店ではないだろうと思っての事だった。

 以前カルルスの町の道具屋から、マジックバッグを購入する際の注意は受けている。不良品や正規品外のものも出回っていると聞いたので、まずはお店の信頼度が高い所へ行く事に決めていた。



 そうして案内された道具屋に、3人は入っていった。

 入店した道具屋は、カルルスにあった道具屋よりも規模が大きいが、広い店内でも所狭しと商品が並んでいる為か、余り解放感はない。しかしそれだけ商品の種類が豊富なのだろうし、それは雑多に積まれた物ではなく、奇麗に見える様にきちんと整頓されている。


「こんにちは」

「いらっしゃい、あぁソフィアちゃんか」

 知り合いになら変な物を売りつけないだろうと、その様子を見つつも、こっそり失礼なことまで考えていたルースだった。


「今日もお遣いかい?」

「いいえ、今日は違うんです。私、町を出る事にしたので、その為に買い物にきました」

 ソフィーの話を聞いた店主は、浮かべていた笑みを引っ込めて眉を下げた。

「そうか…寂しくなるね。じゃあ、店の物をしっかり見てってくれ。忘れ物がないようにな」

「はい」


 軽く会話を交わしたソフィーがルース達の傍にきて、3人は店内を歩く。

 今日の目的はマジックバッグだ。

 店の奥にチラリと見えるバッグの山に向かって、まっすぐにルース達は進んで行った。


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