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【72】人の想い

 教室の終わり時間だと先生が皆の所に戻っていけば、生徒たちは先生の周りに集まり、公園にそのザワザワとした話し声が響く。

 それから暫くすれば、終わったとばかりに生徒たちは各々片付けに動き出す。

 その中の銀の髪の少女がこちらに気付き、ルースとフェルの下へと駆け出してきた。どうやら先に片づけが終わったらしい。


「こんにちは。フェルさん、ルースさん。来てたんですね。今日はクエストじゃなかったんですか?」

 魔法を使った後の疲労感を滲ませたソフィアが、それでも笑顔を描きルース達に声を掛けた。


「お疲れさん」

「こんにちは。今日もクエストでこちらに来ていたのですよ」

 フェルとルースがそれぞれに返事をすれば、「クエストで?」と言った後、ソフィアは何かに気付いたかのようにフェルの手にする袋を見て、納得した様に頷いた。


「男の人に媚を売る時間があれば、魔法の練習をすればいいのに…」


 そこへ、ソフィアの背後に歩いてきていた集団から声が聞こえた。

 あからさまな嫌味の言葉に、ビクリとソフィアの肩が揺れる。ルースが声の主を見れば、帰り支度が済んだのか5人がこちらに近付いてきていた。

 通りすがりに言う言葉としては不適切ではないだろうかと、ソフィアに向けていた笑みを消してルースはそちらを見つめた。


「何言ってんだよアイツは…」


 フェルが2人にだけ聞こえる位の声で呟けば、「いいんです…」とソフィアが眉尻を下げて寂しそうに笑った。

 その言葉を受けて口を噤んで見守っていれば、「フンッ」と先程の少女が鼻を鳴らして近くを通っていく。

 その周りにいる者達の表情を見れば、同意する者と苦笑する者に同情する者がいるのを見て取れるも、特に何かを言うつもりはなさそうで、これ以上騒ぎにはならぬだろうと安堵する。


 フェルはギロリとその少女たちを睨んでいるが、足早に3人の傍を通り過ぎたその集団は、こちらの事は既に忘れたかの様に話し声を上げて賑やかな町の中へと消えていった。

 先生も少し遅れて彼らの後に続き、「ではまた次回に」とソフィアへ声を掛けて通り過ぎて行く。

 先生にペコリと頭を下げたソフィアは、それらを見送ると「ふ~」と大きな息を吐く。


「言い返せばいいんだ、あんな奴…」

 フェルが静かになった公園でソフィアに言う。

 そんなフェルに、困ったように微笑んだソフィアが口を開いた。

「仕方がないので良いんです。言い返しても言い争いにしかなりませんから。それに彼女は、本気で魔法使いとして自立しようと頑張っているのも事実ですし。それを邪魔しているように見えれば、やっぱり誰でも腹が立つのかなって…」


 ソフィアは自分にきつく当たる者でさえ、その人の立場で考えて受け入れている様だった。自分は一生懸命にやっているのだと訴えても、きっと現状は変えられないからと、批判も含めてそれを受けとめているという。

 しかし、そうは言っても内心では悔しいのだろうなと、拳を握り締め少し強がっている様にも見えるソフィアに、ルースは微笑む事で励ましとし、話題を転じる為に声を出した。


「今日は冒険者ギルドの奉仕の日でしたので、それに参加してゴミを拾ってきたのですが、思いのほか沢山あって驚きました」

 ルースの気遣いに気付いたらしく、ソフィアは大きく頷いた。


「私も何度か、冒険者の人達がご奉仕している所を見た事があるんですけど、大きな袋を持って帰ってきたのを見て、見えない所にもゴミが沢山あるんだなってビックリしました」

「おう。今日は服とか靴とかも落ちてたぞ?そこで脱いだら帰りは裸だろうって想像して、騎士団につかまらなかったのかと心配するよ」

「服まで?…裸で帰ったら、絶対つかまるわ…」

 と、ソフィアはフェルの話にクスクス笑う。


「そのご奉仕は、もう終わったんですか?」

「おう。後はこれを冒険者ギルドに持っていったら終了だ。それでその後は、薬草を取りに森に行くつもりなんだ」

 フェルはソフィアの問いに答え、今日の予定を話した。

「じゃあ、私もその薬草採取に付いて行っても良いですか?」

 目を輝かせ、ソフィアがそう申し出た。


「おや?今日も午後からお仕事ではないのですか?」

 ルースが以前聞いた話からそう問いかければ、今日は一日お休みをもらったのだとソフィアは言った。


 どうしますか?という視線をフェルに向ければ、承諾の視線が返ってきた。今日は危険のある場所まで行くつもりもなかったので、彼女の気分転換という意味も込めて了承する。


「勿論構いませんよ。では私達はギルドに一旦戻りますので、その間にお店の人に一声かけてきたらいかがですか?いくらお休みといっても町の外に出るのですから、行先は伝えておいた方がよいでしょう」

「はい。そうします」

「俺達は昼飯を買って持っていくから、ソフィアも何か持ってきなよ。森で一緒に食べよう」

 ピクニックの様なお誘いではあるが、外で食べる食事は美味しく感じるはずで、たまには良いだろうとルースも頷いた。


「ありがとうございます、私も何か持っていきますね。じゃぁこの前の東門に待ち合わせ、で良いですか?」

「ええ。では一時間後位に、東門に集合しましょう」

「はい、ではまた後でっ」

 ソフィアは嬉し気に2人へ話すと、先に戻って準備してきますと走っていった。

「では私達もゴミを渡して、クエストを終了させましょう」

「おう。で、昼飯は何にする?ギルドのサンドパンでいいか?」

 ルースとフェルもソフィアの後を追うように歩き出すと、冒険者ギルドへクエストの報告に向かった。


 こうしてルースとフェルは奉仕のクエストを終わらせ袋を返すと、そのまま冒険者ギルドの食堂で軽食を買い、ソフィアの待つ東門へと向かっていった。




 今日の東地区も人が多く行き交い、昼の時間を迎えた店は美味しそうな匂いを漂わせている。

「う、早く食いたい…」

 その匂いに負けたフェルから、呟きが漏れた。

「では森の中に入って、まずは昼食にしましょうね」

「おう、そうしてくれると助かる」


 後ろ髪引かれる香りをやり過ごし2人が東門へと到着すれば、ソフィアは既に来ていたようで、門番と話しながら門の前に立っていた。


「お待たせ」

 とフェルが声を掛ければ、こちらに気付いたソフィアがパッと花が咲いたように笑った。

「いえ、私も今来たところです」

 そう言ってくれたソフィアに笑みを浮かべ、ルースとフェルは門の前に立った。


「気を付けて行くんだぞ?」

 と門番がソフィアに言うところをみると、この後の事を話していたのだろう。

「はい。では行ってきます」


 ソフィアの言葉に笑みを向けた門番は、続けてルース達に視線を向ける。言葉はないがその意図するところを理解したルースは、大きく頷いて門番を見た。「この娘に怪我をさせるなよ」と、その鋭い視線は言外にそう言っていたのだった。



 こうしてルースとフェルそしてソフィアが東門を出ると、フギンと会った森の方角へと足を向けた。

 先日レッドスパイダーを探して歩いていた時、薬草が生えている場所を見つけていたため、今日はそこに向かうつもりであった。


 森の中を歩き30分程で少し開けた場所に出た為、そこで食事にしようと一旦足を止める。

「お腹が空いていると思いますので、先に食事を摂ってから採取に向かいましょう」


 ルースがそう促せば異論はなしとばかりに、フェルとソフィアは腰を下ろして荷物から食料を出し始めた。

 ルースもマジックバッグから、まだ温かなスープを3つ取り出す。

 いくら食べ物を各自で持ち込めといっても、スープなどの汁物をソフィアは持ってこられないだろうと、3人分を予め買っておいたのだった。


「どうぞ。熱いので気を付けてくださいね」

 ルースがそのスープを配れば、ソフィアは目を見開いて受け取った。

「本当にまだ熱々ですね…何でカップに入っていて、こぼれてもいないんですか?」

 ルースが渡した物を不思議がるソフィアは、きっとマジックバッグの存在を知らないのだろう。

 普通、町中で生活するだけなら、マジックバックは必要のないものだと思い至る。


「これはマジックバッグといって、時間停止機能がついている魔導具です」


 ルースがソフィアにマジックバッグの説明をしていた時、バサバサと近くで羽音がしたかと思えばシュバルツがフェルの肩に留まり、その真っ黒い目でルースを見つめたのだった。


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

誤字報告も、重ねてお礼申し上げます。

いつも皆様にご助力いただき、とても感謝しております!^^

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