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【71】森閑と殷賑の狭間

(しんかんと いんしんの はざま)

 ルース達が足を踏み入れた木々の中は爽やかな風が通り過ぎ、それに躍らされる繁った葉がサワサワと軽快な音をたて、とても気持ちの良い場所であった。


「ここは静かだなぁ」

 フェルは町中の喧噪とでも比較しているのか、柔らかな表情でそう話す。

「はい。先日来た時より人の気配はありますが、図書館の傍は静かで気持ち良い空気が流れていますね」


 人の多い町中は活気があり閑静とは無縁な場所だが、この木々の中はとても落ち着いていてリラックスできるなと、2人は和やかに話す。

 しかし、こんな閑散とした場所にゴミが落ちているのかと思っていたが、いつ捨てにきたのかと聞きたくなるようなゴミが、所々に落ちていた。


「なぁ、何でこんな所に魔石が落ちてるんだ?」

「え?」

 フェルが言った言葉を聞いて、いくら何でもそれはないだろうとルースが振り返れば、フェルは拾った3cm程の青い石を手に、繁々と見ていた。

「これもゴミか?」

 その石をずいっとルースの前に出して、フェルが尋ねた。


 もしフェルが言った魔石であれば、ゴミとは呼べないだろう。しかし、フェルが持っている物からは魔力を感じなかった。

「それは魔石ではない様ですね、魔力がありませんから…」

 ルースはフェルの持つ石を見つめ、魔力を感知できない事を伝える。

「綺麗な石ですが…なんでしょうね?」

 と2人は首をひねって、取り敢えずはゴミとは分けてフェルが持っている事にする。


 こうして歩き回っていると、人の出入りが余りなさそうな図書館の周りにも、ゴミと呼べるものが思いのほか落ちている事に驚く。木製のカップやズボンだったり、何だか良くわからない物が時々落ちているのだ。


「誰がわざわざ、こんな所に捨てるんだ?」

 とは、フェルの言だ。


 確かにルースもそれは不思議に思った。人の多い町中ならいざ知らず、人のいない所にわざわざゴミを置きに来る者がいるとは、ルースの想像の範疇を超えている。

 ただ多少は動物の気配もするため、想像ではあるがもしかすると、それらが運んできた可能性もあるのではと、ルースはゴミの謎を考えつつそのゴミを拾っていった。


 図書館の周りを一周すれば、思っていた以上にゴミが落ちていた。きれいに見えていた所にも人がいればゴミが落とされるのだろう。

「カバンとか服とか靴とか、もう意味が分かんない。本ならわかるけど」

 フェルが、ここまでで拾ったゴミの感想を漏らす。確かにルースもそれは思うところであったが、本は絶対にないと思う…。


 こうして袋に集めたゴミはなかなかの量になった。ルース達が所持するマジックバッグの容量よりは少ないが、ルースが旅に使っている袋位の量にはなっていた。

 それを持って図書館の表まで戻れば、他の冒険者たちも道に姿を現しており、そろそ終了となるのか、皆は南へ向かって歩いている。

 ルース達はそれを見留めると、同じ方向へと足を向けた。


「ゴミって思いもよらない所にあるんだな」

「そうですね。きれいで人がいない図書館周辺にまであるとは、私も思っていませんでした。ここでこんなにあるのなら、役場や教会の方にはもっとありそうですね。こうして時々人を集めて、清掃をしている事も頷けます」


 人がいれば何処にでもゴミは落ちている、という事なのだろう。

 自分はゴミを持ち帰り外に捨てる事はなくとも、中には何も考えていないのか、何処にでもポンポンと捨ててしまう者もいるのかと、ルースは少し残念に思いながら中央通りを歩いていた。




「お。今日もいるな」

 そう言って、フェルがみているのは公園だった。

 町中へ戻る途中にある大きな公園で、今日も魔法の練習をしている者達が目に留まる。公園の端に集まる人達の辺りに、魔力が揺れているのをルースは感じた。

 その中に銀の髪も見て取れる。

 ソフィアもいつも通りに参加しているのだなと、ルースとフェルは何気なくその公園へと足を向けた。


 少し見学していこうかと邪魔にならない程度に近付いて、そのままルースとフェルはその練習風景を見つめる。

 的を並べ、それぞれが自分の使える魔法を放っている様だ。

 水球(ウォーターボール)火球(ファイヤーボール)石塊(ストーン)押風(エアーシュート)、様々な色の魔法がルースの視界の中で動いている。放つ魔法は初級であり威力はないが、的を外さず当てているのを見れば、良く制御ができているなと感心する。


 そんな中、今日もそこから離れて、一人ソフィアは風を出す練習をしていた。

「なぁルース、ソフィアは何の魔法を練習しているんだ?」

 ルースには使っている魔法属性の色が見えているので、風魔法の練習をしている事がわかるのだが、フェルには魔力が感知できない為、威力の無い風魔法を放っていれば何の動きも見えず、何をしているのかが分からないのは当然と言える。


「この前は水の球を出していたよなぁ?今日は水切れか?」

 少々的外れな事を言ってはいるが、フェルは良く見ているなとルースは感心した。

 フェルが言った通り、前回ここで見た時と森の中では水球(ウォーターボール)の練習をしていたソフィアだが、今日は風魔法を使っているという違いがあった。


 彼女も二属性以上の魔法が使えるのだなと思い当たり、ルースはフェルに伝える。

「今日は風魔法の練習をしているようですね。彼女は水と風、二属性の魔法が使えるという事でしょう」

「なるほどな。風だから何も見えないのか…」

 フェルはルースの説明に納得する。

 水は小さくとも現れれば見えるが、風は空気を揺らすだけなので、それで何も見えないと気付いた様だ。


 そうして暫く見ていれば、そこからこちらに向かってくる者がいた。

 この人物は前回も同行していた大人なので、ソフィアが先生と呼んでいる者なのだろうとフェルに伝え、その人物の到着を待った。


「こんにちは。あなた達は見学ですか?」

 話しかけてきたのは50代位に見える男性で、魔法使いが纏うローブを身に着けていた。そう声を掛けてきたのはルース達が暫く動かなかったからで、自分たちの様子を見に来たのだろうとルースは思った。


「お邪魔してすみません。通りかかったので、少し見学させていただいていました」

 そう言って無難に返したルースは、先生と呼ばれる人物をみて早々に質問を投げかけた。


「実は以前にも少し見学させていただいた事があるのですが、その時は言い争いをしていました。それを見てしまったので今日も気になってみていたのですが、なぜ先生はその人達を止めなかったのですか?」

「おいルース…」

 小声でフェルが注意する。初対面の人物に、いきなりそんな事を言って大丈夫か?という意味だろう。


 ルースの問いかけに、先生は苦笑しつつ口を開いた。

「私が“先生“だとご存じなら、この中にお知り合いがいるのでしょう。確かに言われた通り、私が彼らの言葉を止める事はできますが、それでは火に油を注いでしまうのですよ」


 言われた言葉の意味が分からず、2人は黙り込む。なぜ止めてはだめなのかと考えていると、再び先生が話を続けた。

「その時は銀の髪の娘が、他の娘に言われていた時だったのでしょう?私がそれを止めれば、私が彼女を贔屓(ひいき)したと思われるからです」

 そう言って先生は寂しそうに微笑んだ。


「銀の髪の娘は、他の者よりも多くの魔力を保持しています。私が初めて彼女を見た時にそれに気付き、魔法の練習をしてみないかと彼女に勧めました。その為、私が精選(せいせん)した様な形に見えてしまったらしく、通いだして早々他の子どもたちから、私に特別扱いされていると勘違いされてしまったんです。それに彼女は懸命に努力していても、あの様に魔法を上手く使う事ができない。なぜそんな人が特別扱いされるのか…と、他のものには悪い方へと勘違いさせてしまいました。だから敢えて、私は口を出さない様にしています。もっと上手く立ち回る事もできるかも知れませんが、私は黙って見守る事にしています。流石に口以外で何かが起これば、それは必ず止めるつもりではいますけどね」


 先生は、魔法の練習をしている彼らを見つめたまま、そう話した。

 ルースは前回の口論をみて、なぜ止める者がいないのだろうかと憤ったが、先生は先生なりにソフィアの事を思い、そして言っている者の気持ちも解るから、敢えて口を出さなかったのかと理解した。

 フェルは眉間にシワを寄せているが、先生の話に言い返すことはしない。


「先生は、その銀の髪の娘さんがなぜ魔法を上手く放てないのか、お分かりなのですか?」

 ルースはそれも疑問に思い尋ねるも、先生は困った様に苦笑して首を横に振った。

「私は人に魔法を教えてはいますが、ただの魔法使いです。魔力も人並みしかありませんし、世に名を残す様な人物でもありません…そんな私では彼女の悩みを解決する事は、できませんでした」


 一気に10歳程老けたような微笑みを浮かべ、ルースとフェルを振り返りそう答えると、また生徒たちへと顔を向け、遠くを見つめた。


 ルースはその横顔を見つめ、口を開く。

「私も少々魔法を使えますので、彼女のどこに不具合があるのかと…。詠唱を間違えている訳でもなく、魔力も込めている様子。気持ちの問題が伴うのだとしても、彼女は真面目に、魔法を放つ為に努力をしている様に見えます」

 ルースがそう話すと、先生は振り向き大きく頷いた。

「私も同じ見解です。最早これは、人には理解できない事なのかもしれません」

 そう話すと、先生はピタリと口を閉じた。


 これ以上は誰に聞いても分からないのだろうと、ルースとフェルも魔法の練習風景を見ながら、先日彼女が涙を浮かべ話していた時の事を思い出していた。

 今目の前にいる彼女も、不発に見える魔法を何度も何度も放っている。

「自分にもできる事があるはずだから」

 そう言っていた彼女は、今日も自分の存在を確かめるように生きていた。


 昼も近くなった公園に降り注ぐ光の中、魔法の練習をしている5人の傍に立つソフィアが、その中で一番輝いているように見えたルース達であった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

本日は、“シドはC級冒険者“の更新にもお付き合いいただき、ありがとうございます。

そちらもまた更新できれば、とは思っておりますが、まずはルースを安定してお届けできるように頑張ります。^^

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 中世のフランスなんかは現代からは考えられない位きちゃなかった(逆に日本はわりかし綺麗だった)そうですが、それと比較したら不法投棄された粗大ゴミ(?)は有れどまだマシっ…
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