表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/348

【70】ギルドのクエスト

 ソフィアの店で初めて食べた料理は、この町の領主が他の地域から持ち込んだ料理だと教えてもらった。世の中には色々な食べ物があるのだなと、2人は漠然とした感想をもらす。

 見た目が少し変わっていても美味しいものであったり、その町ならではの珍しい料理もあるのだと、こうして新たな経験をした2人だった。



 そんな日を過ごしたルースとフェルは、そろそろ次に行く町をどこにするかという事も話し合う頃になった。スティーブリーは大きな町ではあるが、ずっとここにいる訳にもいかないのだ。

 そんな話も進めつつ、今日も冒険者ギルドにクエストを受ける為、いつもの時間に顔を出したルースとフェルは、今日はギルド内の雰囲気が違うと気付いた。

 2人はどうしたのかと顔を見合わせるも、緊張した雰囲気でもない為、そのまま様子見だなとクエストの貼り出されている掲示板へ向かった。


 ルースとフェルはいつも、朝の混雑時より少し早目に顔をだしていたのだが、今朝は既に混雑が始まっており、その中で掲示板から少し離れた場所にも、人が集まっているところがあった。

 首をかしげつつ掲示板を見て行けば、1枚の掲示物に数人が集まっているなと気付いたルースは、フェルから少し離れてその掲示物へと近付いていった。


 その掲示物には今日の日付が書いてあり、他に何が書いてあるのかと読み進めると、それは冒険者ギルドが招集しているクエストであると分かった。


『“奉仕の日“ 参加者募集(自由参加) 内容:北地区の清掃 報酬:一人600ルピル 時間:朝~昼頃まで』


「奉仕の日?」

 随分と大雑把なクエストで、依頼内容は清掃としか書いていない。

「どうかしたのか?ルース」

 離れて別のクエストを見ていたフェルが、ルースの隣に立った。


「いえ、今日はこんなクエストがあったので、何かなと思いまして…」

 ルースは読んでいたクエストを指さし、フェルに示す。

「へぇ、奉仕の日ねぇ」

 フェルはそう読み上げてじっとそれを読む。

「これって何でしょうね?私はこの様な類のクエストを、始めて見たのですが…」


 ルースがこう話すという事は、ルースと行動を共にしているフェルも同じ条件という事になる。ルースとフェルが首をひねっていると、フェルの背後から声が掛けられた。


「そのクエストは、この町独特のものだよ。年に4回、冒険者ギルドが人を集めて北側地区の清掃や整備なんかをして回るんだ。北側は行政地区と居住地区だな。皆が使うところを、きれいに保ちましょうってやつだよ」


 声は中低域で聞き取りやすいなとその人物を振り返れば、20代位の男性が立って2人を見下ろしていた。

 きれいに切りそろえられた短髪に人の良さそうな笑みを乗せて、ルース達にそう説明した人物も当然冒険者の格好をしている。

「2人はこの町に着たばかりなのか?」

 と、続けてルースとフェルに質問が出る。


「いえ、一か月程経っています」

「それじゃあ知らないよな。このクエストが貼りだされる頻度は、3か月に1回位だから。前回出たのは3か月前だったし」

 うんうんと一人頷いている人に、ルースとフェルは“誰?“と顔を見合わせれば、それに気付いたのか、その人物はニカッと笑って自己紹介を始めた。


「俺は“ジェイク“、C級冒険者だよ。君たちは?」

 そう言った人物を少しだけ見上げる形で、ルース達も自己紹介をする。

「俺はフェルっていいます。D級です」

「同じくD級で、フェルとパーティを組んでいるルースと申します」


 そう伝えるとジェイクは「おお」と言って目を見開いた。

「そっか、まだ若そうなのにD級なのか。それは凄いな」

 うんうんと頷いて一人納得している風のジェイクに、マイペースな人なのかなとこっそり思ったルースだった。


「あの~清掃って何するんですか?」

 フェルはクエストに興味を持ったのか、ジェイクに内容を確認している。


「町をきれいにするって事で、ゴミを拾ったり壊れている所を直したり、危険な箇所があればそれを報告したりって感じだ。2人も参加してみるか?でも報酬は少ないから、気持ちの問題だね。懐が心配なら、終わった後に別のクエストを受ける事もできるよ。掛け持ちになるかも知れないけど」

「おいジェイク、また一人でウロウロして何してるんだよ…」


 今度はジェイクの後ろから、別の人物がジェイクへ声を掛けた。

 どうやら2人は知り合いらしいなと、ルースはその2人を見つめた。


「ウロウロって言うなよ。彼らが今日の奉仕クエストを見ていたから、その説明をしていただけだって」

 キョトンと見ているルースとフェルに視線を移動させ、ジェイクと話していた人物はルース達へ笑顔を向けた。

「俺はジェイクとパーティを組んでる“ウクリー“だ。こいつがいつもチョロチョロしてるから、お目付け役みたいな者かな」

「ひで~人をネズミか何かみたいに言ってるし」

 そう言って話ながら、2人は仲の良さそうな雰囲気をしており、ルースとフェルもそんな2人のやりとりを見て笑っていたのだった。


「で、どうかな?君たちもやらない?」


 ルースとフェルは、まだ今日のクエストを決めていない。

 このクエストは一人600ルピルで下級クエスト程の報酬でしかないが、それを大勢の人数に支払うのなら、このクエストを依頼している冒険者ギルドには大きな金額となるのだろう。しかしそれを用意する冒険者ギルドはこの町と共存するために、割と荒くれ者と思われている冒険者にそれを依頼し、心象を良くするためにも行っているクエストであろうかと、ルースは感じていた。


「どうします?フェル」

「んー」


 そろそろルース達はこの町を離れるつもりでいる為、少し稼いでおきたいところではあるが、1日位は金にならない日があっても、急いで出発する旅でもないので問題はない。


「では、これが終わってから薬草でも採りに行きましょうか」

「ん?ああ、それなら午後も無駄にはならないな」


 どうやらフェルが懸念していたのは、時間だったらしい。この奉仕クエストは午前中だけになっており、午後の縛りはない。その為、中途半端に解放されてしまう事になり、続けて魔物討伐クエストを受けるのには、時間が足りないと考えたのだろう。

 その点薬草の採取であれば、時間は自分達で配分できる。魔物クエストの様に、見付けるまでの移動時間や戦闘時間を考慮する必要もない。

 それに、運が良ければスライムに会うこともあるかもしれない…とでも思ったか、フェルは二つ返事でOKした。


「じゃあ頑張ろうな」

 ニコニコと笑みを向けて離れていくジェイクに巻き込まれている感は否めないが、悪い気はしないなとルースとフェルは笑いあった。

 それではとルースとフェルは、奉仕クエストと薬草採取クエストの2つを受けるために受付へと向かえば、ジェイク達は先ほど見掛けた集団へと合流していった。彼らが合流したところをみると、あの集団はこれから奉仕クエストに行く者達が集まっている所だろうと納得する。


 こうして成り行きで北側の清掃をすることになった2人は、その後パラパラと歩く冒険者たちに交じり、冒険者ギルドから北へ向かって歩いて行った。

 その間まわりを見回せば、冒険者ギルドの制服を着た者も混じっている。監視なのか一緒に清掃に加わるのかは分からないが、指示を出す者も必要なのだろうとルースは一人納得した。


 今日の参加人数は、50人位だったらしい。

 ルース達と同じ位の年齢らしき冒険者も多く見かけ、他は先程のジェイクの様にいつも参加していると思われる者や、落ち着いた雰囲気を出している冒険者も混じっている。


「なぁルース、あの人達はどう見ても上位冒険者だよな?」

 フェルもその落ち着いた雰囲気の人達に気付いたのか、ルースに小声で話しかける。

「そうですね。多分ですが、B級以上の方達だと思います。気配がダスティさんに似ていますから」


 この様に他の人達の様子を確認しつつ歩いて行けば、静かになった中央通りに着いた。

 この辺りからが今日の活動範囲になるらしく、皆がそこで足を止めれば、冒険者ギルドの職員が前に進み出て話し出す。


「それでは、これから北側の清掃活動に入ります。公園や役場、教会や図書館周辺を中心にお願いします。時間があれば居住地区の道まで行っていただいて構いませんが、町の方々のご迷惑にならない様、くれぐれもよろしくお願いいたします。ゴミはこの袋に集めて、後でギルドまで持ってきてください」


 そう話している職員から離れ、別の職員がゴミを入れる袋を配っている。ルース達も2人で1つを使うようにと袋を渡され、そして散開となった。


 ルース達はまだ誰もいない公園を通り過ぎ、先日行った図書館に向かった。

 他の冒険者が次々に別の施設へと散っていく中、2人は先日利用させてもらった図書館周辺をきれいにしようと、そこへ足を向けたのだった。

 勿論、図書館に行く者はルース達だけではなく、他の冒険者も同じ方向に足を向ける者達もいて、平均的にばらけるように作業をするようだとルースは思った。


 そんな中、冒険者ギルドで話しかけてきた人物を探すも、別の場所へ行ったようだった。その後接触がないところをみると、このクエストの人集めで皆に声を掛けていたのだろうと思い至る。ゴミを拾いながら話しかけられれば、このクエストの作業ができなかっただろうと、逆に接触がなかったことにホッとしたルースだった。


 こうしてルース達がきた図書館は、鬱蒼(うっそう)とした木々と静寂に包まれる場所だ。ルースとフェルはその木々の中に足を踏み入れ、図書館の建物を一周することにした。

 他の冒険者の姿も時々見え、普段の図書館より、今日は少しだけ賑やかなのだろうなと、ルースは他愛もない事を考えつつ、木漏れ日の中を歩いて行った。


いつも拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。

明日の朝は、『シドはC級冒険者』の番外編を投入いたします。

こちらの本編は完結しておりますので、まだお読みでない方もご一読下さると幸いです。

併せてお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ