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【60】久々の休日

 翌日、朝に少しゆとりをもって起きた2人は、今日は久しぶりの休日としていた。

 連日の移動と新しい環境に慣れる為というのもあるが、今日はさっそく図書館へ行ってみようとも話し合ったからである。


「「おはようございます」」

 そしてギルドの受付に顔を出したルースとフェルは、昨日対応してもらったギルド職員の前に立つ。


 今のギルドは昨日の賑わいが嘘であったかの様に閑散としており、朝の混雑時が過ぎた場所には、まだクエストに迷う冒険者や、食堂でのんびりしている者達がちらほらと居る位だった。


「あぁ昨日の…おはようございます。ルースさんとフェルさん、でしたね」

 さっそく名前を憶えてくれたらしいギルド職員のメレトニーは、忙しい時間を過ごした為か少々疲れた顔になっているが、そんな中でも2人に笑顔を向けてくれた。


「今日は素材の買取りと、他に聞きたい事があって参りました」

 ルースはそう告げると、ガルム2体分の素材をメレトニーの前に出した。

「はい。では承りますので、カードもお願いいたします」

 2人が冒険者カードもカウンターへ置くと、メレトニーは魔導具を操作して入力を始めた。


「ガルムが2体ですね…状態も良さそうです。1体が3,000ルピル位になるかと思いますが、よろしいですか?」

 メレトニーの話に、ルースは疑問を感じたため口を開く。

「あの…魔物の買取り価格は一定ではないのですか?他の町とは金額が違うので、少し気になったのですが」


 確かガルムの買取り額は、カルルスからサンボラまでが1体4,000ルピルだったはずだ。それがここでは3,000ルピルになると聞いたのだから、疑問に思うのは当然であった。


「そうでしたか。基本的に魔物のポイントは固定ですが買取価格は一定ではなく、時と場所の流通量に関係します。要するに“時価“といいますか、多少は上下いたします。たとえば大量にガルムが取れて出回れば値は下がり、今まで安い買取りであった物でも、需要が多くなれば買い取り価格は上がります。お二人は以前、東の町にいらっしゃった様ですので、こことはまた流通量も異なり、価格も違ったものとなっていたのだと思います」

 メレトニーは、そうルースの疑問に答えてくれた。


 その町々での流通量に伴った需要と供給によって、魔物の買取り価格には変動があるらしい。確かに需要のないものを持ち込んでも価値はないに等しいだろうし、欲しがる人が多くても持ち込む量が少なければ、何としてでも欲しい者が値段を吊り上げる事もあるだろう。だとすれば他の町よりも、ここはガルムの流通が多いのだろうと即座に理解したルースである。


 ルースが納得して頷いていれば、フェルが新たな質問を口にした。

「スライムの買取りは、いくらなんですか?」

 先日のスライムが記憶に新しいのか、フェルがメレトニーにここぞとばかりに聞いた。

「フェル、今手元にないものを聞いても…」

「だって、どうせどこかで回収するんだから、やる気を出すために先に聞いておいても良いだろう?」

 フェルの言いたい事はわかったが、ちゃっかりしているなとルースは困ったように微笑んだ。


「あ、すいません。そんな訳で先にスライムの買取り価格が知りたいんです」

 と再びフェルが言えば、メレトニーは微笑みながら2人を見ていた様で、一つ頷いて手元の資料を確認してくれる。


「そうですね…今はグリーンスライムが1体7,000ルピル、ブルースライムは6,000ルピル、イエロースライムは8,000ルピル、レッドスライムが12,000ルピルで、ホワイトスライムは…20,000ルピルですね」

 メレトニーがそう言って金額を伝えたが、2人から何の反応もない。その為、手元から視線を上げたメレトニーがルースとフェルを見れば、2人共ぽかんと口を開けて固まっていた。


「あの…どうかされましたか?」

 次に掛けられたメレトニーの言葉で、先に我に返ったルースが何も反応しなかった事を謝罪する。

「実は先日、緑のスライムを始めて見たのですが、それ以外の種類があるとは知らず今のお話に驚いてしまいました」

 苦笑しつつもルースがそう説明すれば、メレトニーは「そうでしたか」と微笑みを返した。


「スライムは色で値段が異なりますが、それは流通量の違いがある為です。レッドスライムは、火を噴く山に住んでいる為、スライムだけを目的にする冒険者も少ないので高値が。ホワイトスライムに至っては、ほとんど見かけることも無く、どこで生息しているのかも定かでない為、この金額は最低価格で、その時の需要によっては大幅に高値となるでしょう。グリーンスライムとブルースライムはその点見付け易く、納品される方も割といらっしゃるので、基本はその位の値段となっています」

 メレトニーはそう話すと視線をルースへ向けた。


 ルースは「分かりました」と先に呟いてから横にいるフェルを見る。

「だそうですよ?フェル」

「お…おう…」

 フェルはまだ色々と混乱しているらしいが、話を先へ進める事にする。


「すみません、お教えいただきありがとうございました。先程のガルムの買取りは、それでお願いします」

 途中から話がそれてしまったため、ルースが本筋へと戻す。

「はい。では処理はいたしましたので、後程入金となります。後でご確認ください」


 手早く入力を済ませ2人へカードを戻すと、メレトニーは再度ルースを見た。

「それで、他にも何かあるとおっしゃっていましたが…」

 と促してくれたため、ルースはありがたく言葉を続けた。


「はい。この町に図書館があると聞き、今日はそこへ行こうと思っています。ですが場所が分からないので、図書館への行き方をお教えいただけないかと」

「なるほど、図書館ですね?北側の一画にありますが…簡易でよろしければ地図をお作りしましょう」

 そう言うとメレトニーは手早く羊皮紙に、この町の大雑把な地図を描いてくれた。


 大きくエリア分けされ描かれた地図には、何本かの線が並び、その角にある店など目印となるものを書きこんでくれていて、とても分かりやすいものだと感謝を伝えた。

「お二人はこの町に来たばかりですし、何もないと不便ですからね」

 そう言って親身になってくれるメレトニーに頭を下げ、受付を離れたルースとフェルであった。


 2人が話をしていた間に、ギルド内は更に人が少なくなっていた。

 これからルース達は、朝食を兼ねた昼食を摂ってから図書館へ行く予定で、のんびりとした1日を過ごすつもりだ。


「食事は外で食べようぜ」

「ええ。物の相場もみたいので、そうしましょう」

「町中も確認しつつ、というやつだな?」

 フェルはルースの言葉に同意して、もらったばかりの地図を手に2人は町へと繰り出した。



 穏やかな日差しが降り注ぐ町中は、道幅の広い通りを歩く人々で賑わい、スティーブリーが大きな町であるという事を実感させる。


 冒険者ギルドの位置は、南にある門から少し距離があり町の西側にあった。

 西側のエリアは武器屋や鍛冶屋、防具屋などもあり、冒険者ギルドに関連される店が建ち並ぶ。

 一方、手渡された地図によれば、南門から町の中心とそこから東側へ向かって飲食店に始まり食料品、道具屋や服飾店など日常の生活に必要な店が軒を連ねているらしい。

 そして門から続くメイン通りから北へ抜ければ図書館へと出るらしいのだが、北側には店はなく住宅や公園、役場などが集まっていると書いてあった。


「では、この東側のエリアに行ってみましょう」

 ルースが地図を指さし、フェルに確認を取る。

「おう。じゃぁこう行って中心に出て、そのまま真っ直ぐって感じだな」

「そうですね。まずは町の中心に向かいましょう」


 いったん地図をしまい、2人は東へ向けて歩き出す。中心にあるメイン通りに出てしまえば、後はどうとでもなるだろう。

 西側に並ぶ防具屋や武器屋などの看板も確認しつつ、2人は中心へと辿り着く。流石にメイン通りというだけあって、道幅は更に広く人通りも多くなった。2人は道行く人を避けながら、どうにかメイン通りを横切り東側へと抜けた。


 東側のエリアは西側よりもずっと人が多く、皆せわしなく動いているように見える。こういう風景を“活気がある“というのだろうと、ルースは賑わう通りに目を細めた。


 それから食堂らしき店の前で足を止めてそこへ視線を向けるが、正午までは後2時間ある。残念ながら、まだ食堂は開いていない時間であった。

 少なくとも後一時間は食堂の営業時間外だろうと、ルース達は顔を見合わせ苦笑する。

 飲食店は通常、昼よりも少し前に開店し、夕方前に一度閉めて休憩を取っている。その後夕食の時間になればまた再営業するという習慣となっており、今はまだ開店前の時間であった事を2人はすっかり失念していたのだった。


「パン屋さんでも覗いてみましょうか」

「そうだな。干し肉パンみたいなのがあると嬉しいなぁ」


 スティーブリーの町では、どのような物が流通しているのかわからないが、気を取り直した2人はパン屋に入り、気になるものなどを少し多めに購入すると、パンの袋を抱きしめるフェルと共に、途中屋台でスープなども買い求め、ルース達は図書館のある北へと足を向けた。



「公園だ」

「ではここで、休憩がてら食事にしましょう」


 少しずつ静かになる中央通りを北へ進んで行けば、少し行ったところで通りの西側に大きめの公園があり、手入れのされた花々が咲き目を楽しませてくれ、のどかな空間を演出していた。


 公園には小さな子供を連れた者や、端の方では少年少女…といってもルース達と然程年齢は変わらない位であろう者達が集まって、魔法の練習をしている。

 それらの邪魔にならぬよう、ルースとフェルは大きな公園の見晴らしの良い端に腰を下ろすと、買ってきたばかりの食料を出し、それらの情景を見ながら早めの昼食を摂り始めた。


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