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【57】一人前の冒険者

「ダスティさんは強いんですね」

 フェルが目を輝かせて伝えれば、ガルムはC級討伐の魔物であり、自分はB級だからだなとサラリと告げた。


 しかしいくらB級であっても、C級相当の魔物を3匹同時に相手ができるのは、やはり凄いことだとルースは思う。

 先程チラリと見た限り、ダスティが魔法を使っていた様子はない。

 だとすれば、それは剣1本で対峙したことになり、ルースは自分に置き換え、魔法を使わず魔物と対峙すれば…まだまだダスティの足元にも及ばないのだと、己の未熟さに気を引き締めたのだった。


「しかし…2人はD級でも、すでにC級のガルムを倒せるのか。随分と真面目にクエストの数を熟してきたんだな」

 馬車の方へ戻りながら、3人は話を続けた。

「いえ、魔物のクエストは受けてきましたが、まだD級ですし低級魔物ばかりでした。ですが、ガルムは4回目なのです」


 ルースとフェルは今まで3回、ガルムと遭遇した。

 2回目の時は色々と困難を極めた2人であったが、3回目はクエストの途中で遭遇し、その時は前回の失敗も踏まえたうえで、ガルムを倒せたのだ。

 ただし、言ってしまえばルースの魔法が使えた事で対応できたに過ぎなかったのだが、それも一つの進歩としておく事にする。

 そして今日が4回目、という訳だ。


「後でガルムの素材を回収しよう。乗客達が怯えていた様だったし、これから何をするのかも一度向こうに話しておいてからだけどな。でないと急に俺達が魔物の解体を始めれば、彼らはビックリして余計俺に近付かなくなりそうだ」

 そういってニヤリとダスティが口角を上げた。


「ダスティさんに対してそう思うか分かりませんが、魔物の解体を見た事がなければ、ビックリするでしょうね」

「だよな。俺達が初めて解体した時は、血まみれになったせいで“お前たちは人間か?“って聞かれたもんな」

 ハハハとフェルが昔話を笑ってすれば、さもありなんとダスティも笑った。


 そうして辿り着いた先に、怯えた表情の4人が立ってこちらを見ていた。焚火に照らされているのに、顔色が青く見える。


「魔物はガルムが5体だったが、全て討伐済みだ。もう大丈夫だと思うが、血が流れたから魔物避けの丸薬を焚いて注意しておいてくれ。それと、俺達はアレを解体して回収してくるが、皆はここにいて欲しい」

 ダスティの説明に4人は頷くが、そこで何かに気付いたかのようにハッとしてラリーが声を上げた。

「お礼が遅くなりましたが、助けてくれてありがとうございました」

 そしてラリーは、ダスティへと向けていた視線をルース達へ向けた。


「君たちもありがとう。やはり2人にも乗ってもらって良かったよ」

 気の抜けた声で、ラリーはルース達にも感謝を伝えた。

「いいえ、こちらのダスティさんが殆どを倒してくださったので、私達は少しお手伝いをした位です」

「強い人が乗っていて、良かったですね」

 フェルも、ダスティの強さを強調するように補足すれば、皆の視線が一斉にダスティへと向かい、ダスティは困ったように頭を掻いた。


 今まで寝たふりをしていたダスティと乗客は、話したことも無ければ顔を見た者さえいなかったのだろう。一瞬驚いた表情をした乗客達だったが、思い直したように口々にダスティへ感謝を伝え始めた。


 その様子を見て、ルースとフェルは顔を見合わせて微笑む。

 ルース達が下車した後ダスティは、彼らの会話に付き合わされる事になるかもしれないが、後2日の間、寝たふりを続けるよりは良いだろうと、2人は彼らを見ながらそう思っていた。


 3人は焚火からまたガルムが倒れている場所へ戻り、素材の回収にかかった。

 フェルもルース程きれいには出来ないが、解体手順をルースから教えてもらい、今では一人で出来るようになっている。

 しかしここは熟してきた数の違いで、3匹の処理を手際よく済ませたダスティに対し、2人のスピードは1匹ずつが精々だ。フェルに至っては、ルースが終わった後もしばらく解体を続けていた。


「やっとできた…」

 ハランに包み終わったガルムの肉を並べ、ダスティが近付いてくるのを待つ。程なくして2人の下へダスティが戻ってくれば、彼は手ぶらなので既にバッグに収納してあるのだろうとルースは思った。


「終わったようだな。あちらの3体は俺がもらっても良いか?」

 そう聞いてくるダスティに、彼が倒したのだから勿論だと頷く。

「じゃあこっちは2人で納めてくれ。お?肉はハランで包んであるのか。用意が良いな」

 うんうんと頷いたダスティは、2人が肉と皮をルースの巾着に入れ始めた作業を見つめていた。


「小さいが、マジックバックか」

「はい。これ以上のサイズは買えなかったという処ですが」


 ルースが苦笑しつつ話せば、D級でマジックバッグを持っている方が珍しいのだと、ダスティが話した。

 言われてみれば銀貨単位のマジックバックも、生活を切り詰めて何とか買えるかどうかというところだろう。ルース達は運よく、手頃な値段の物を見つける事が出来たが、もしこれが売っていなければ最低価格は70,000ルピルだったのだ。それしかなければもしかすると、今もマジックバッグを手に入れていなかったかもしれない。


「いや、小さくても今は十分だろう。色々と計画して物を買っているんだな」

 ダスティは肩眉を上げ、驚きの混じった表情を浮かべた。

「優先順位を決めて、これを買うために金を貯めたんです」

 フェルが鼻の下を擦りながら、少し自慢げに話す。

「私達は旅をしつつ、冒険者としてクエストを受けています。その為、移動の事を一番に考えれば、時間停止機能のあるマジックバッグが一番必要な物だと気付きました」

 ルースがフェルの言葉に、補足する形で話を繋げた。

 それにダスティは、深く頷きを返す。


「素材を入れておくのにも良いからな。腐った素材は、ギルドでも買い取ってはくれないんだ」

 と、ダスティが2人に向けて苦笑いを見せる。

 ルース達は傷んだ素材を買取りに出したことはないが、ダスティはもしや、やったことがあるのだろうかと、こっそり失礼な事を考えていたルースである。



 3人はガルムの素材を回収した後、ルースが残りを焼却とした。

 まさか、乗客のいる場所の焚火にくべる訳にも行かず、離れた場所で処理をする。魔物の血がついてしまったところも匂いが残っている為、そこの地面も火魔法で焼く。ルースは暗闇の中、手の平に炎を出しつつ地面を確認して回った。


「もう大丈夫だな。ルースが火魔法を使えて助かった」

 ダスティの前で風魔法の集音も使っていたが、それはスキルだと思ったのか気付かれなかった様だ。ダスティの礼に頷き返したルースは2人と共に歩き出し、落ち着いてきたらしい乗客達の下へ戻っていった。


「魔物の痕跡は消したからもう大丈夫だと思うが、明るくなり始めたら、ここを出発した方が良いだろう」

 ダスティがラリーへ助言すれば、それに頷いたラリーが乗客へと指示を出した。

「皆さん、聞いた通りに明るくなり始めたら、ここを出発しましょう。それまで少し休んでいてください」



 それから数時間もすれば空が明るくなり始め、馬車は出発した。

 しばらくすれば馬車の中で、乗客から安堵の息が漏れる。今度はダスティも顔を上げ、荷台からラリーと話をしていた。


「馬も眠れていないのか…」

「そうなんです。魔物の匂いがまだ残っていたのか、しばらく興奮したままだったんですよ」

「では馬にも休憩が必要だな」

「ええ、予定が少し遅れるかも知れませんが、一旦どこかで馬を休ませないと、ワッツに着く事も難しくなるかも知れないんで…」

 2人の会話を乗客は黙って聞いている。これからどうするのかを、自分も把握しておきたいと思っているのだろう。

「この先の分岐で、2時間程休憩しましょう。昼前にはそこへ着きますんで」

 ルース達をおろす予定の分岐路で、自分達も休憩をとることにした様だ。

 聞こえているはずの乗客からも異論はないらしく、誰も口を開かないまま穏やかな道を進んで行った。




 こうして野営地から4時間程で、その分岐路へと到着した。

 道から少しだけ逸れた馬車は、近くにある木立ちの傍で停まると次々に乗客は降りていく。

 背伸びをする者、あくびをする者、腰をさする者と様々だが、皆一様にさえない顔のまま、一か所に集まり座り始めた。


 ルースとフェルは、ここでも皆から少し離れて周辺を見ているダスティへと、迷わず近付いていく。

「「お世話になりました」」

 馬車に揺られた1日の、その中の数時間しか話してはいないが、ダスティとは一番濃密な時間を過ごしたため、真っ先に2人は挨拶をした。


「いや、世話をした覚えはないぞ?それに俺も数を減らしてもらって助かったんだ。ありがとうな」

 強面ながら笑みを浮かべれば、柔和な雰囲気になるダスティに、「こちらこそ」と感謝を伝えて礼を言う。


「また、どこかで会うかもな。頑張れよ2人とも」

 と、大きな手を差し出したダスティの、その手を握り返して感触を知れば、大きな手は分厚くゴツゴツとしており、ダスティが経験を積み上げてきた上級冒険者である事を実感した。


 そして今までルースとフェルは、こういった場面では頭を撫でられる事もあったが、ダスティが握手を求めてくれた事で、一人前の冒険者として認められた様な、そんなくすぐったい喜びも感じた2人であった。


 そこへラリーが来て、3人へ銀貨を一枚ずつ手渡した。

「皆で出し合ったんだ。少ないが感謝の気持ちだと思って受け取ってくれ」

 そう言われてダスティを見れば困ったように頷いたため、ルース達もありがたく受け取って頭を下げた。


 それからダスティのそばを離れ、乗客の下に行き銀貨のお礼を含めて挨拶を済ませれば、ルースとフェルは北へ向かう道を歩き出し、2人の姿はゆっくりと皆の視界から消えていった。


蛇足:お礼の銀貨を“皆から“としましたが、御者のせいだろうと思う方もおられると思います。ですが、他の皆も気付かなかった事を反省したうえで御者のせいだけではないと、皆でお金を出し合ってルース達へ渡したのでした。しかし旅の途中という事もあり、大きな金額は出す事はできませんので、一人に銀貨一枚という額になったという裏話がありました。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

明日も引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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