【49】成長の速度
「スキルが出てたのもあるんだけど、俺この1年で魔力値以外、全部が10くらい…体力値と筋力値が特に、めちゃくちゃ伸びてたんだ」
フェルは嬉しそうに、ルースに視線を向けた。
「そうだったのですか。良かったですねフェル」
「おう…って、そんな淡々と言わないでくれよ。喜んでる俺がバカみたいだろぉ…」
「あぁ、それはすみません。こう見えて私は、とても喜んでいるのですよ?フェルが強くなれば、これからもっと冒険者として、成長する事ができますからね?」
ルースはそう話して、野菜をパクリと口へ放り込む。
「それで、だ。俺は村にいた時、毎年ステータス確認をしてもらっていたんだけど」
そう続けるフェルに、子供は15歳になる年まで教会でステータスを見てもらえるので、咀嚼しつつルースは頷く。
「その時は、平均値ですねって毎年司祭様に言われてた。そう言ってもらって“あー普通なのか“って安心してたんだけど、それは疑問に思うべきだったと今は思ってる」
「そうなのですか?」
首をかしげるルースに、フェルは手にしているパンを突き出す。
「だってそうだろ?俺は前にも言ったけど、自分なりに毎日剣の練習をしていたんだ…いや、していると思っていたのに、平均値っておかしいなと思うべきだった…」
フェルはそこで言葉を止めると、肩を下げた。
「毎日、他の奴より体を動かしているつもりだったんだけど、やっぱり自分でやっていた練習は、あまり結果に繋がってなかったんだなって、今日改めて思った。ルースと会って剣を教えてもらって、2人でクエスト熟したり魔物と戦って、やっとすごく成長する事ができた。それはルースが俺に、ちゃんと身になる事を教えてくれたからだと思った…だから、ありがとうルース」
フェルは手にしていたパンを置いて、ルースへと頭を下げた。
「ちょっと待ってください、フェル。それはフェルの思い過ごしかも知れませんよ?たまたま職業が出た後に、適性を活かした事をフェルが続けてきたから、ここで伸びたのかも知れません。だから自分で積み上げてきたフェル自身の成果だと、私は思います」
ルースはしっかりと、フェルの目を見て伝える。
「もしそうだとしても、俺はルースと会ってなければここまで伸びてなかったと思う。だから素直に、俺の言葉を受け取ってくれよ、ルース」
そこまで言われれば、ルースも黙り込む。
確かに、人との出会いによって物凄く成長する事もあるのだと、マイルスと出会えたルースは知っているのだ。
ルースは、フェルの素直な感謝の言葉を少しくすぐったく感じながら、はにかんで「わかりました」と言葉を添えた。
そしてその後も2人は食事を楽しみつつ、ステータスの話を続けて行った。
「ルースの数値は凄かったな…これが前に言ってたスキルの影響ってやつなのか?」
「はい、多分そうですね。ですが筋力値はすでに、フェルの方が上でしたね」
「そうだったかな?でも俺、この1年で自分でもわかる位、筋肉が付いてきた気がしてたから、ステータス見て“やっぱりな“って思った」
フェルは出会ってから、目に見えて体が大きくなっているとルースも感じていた。
ルースは服を着ていれば、一見余り筋肉が付いている様には見えず、いわば“着やせ“であるのに対し、フェルは服を着ていても筋肉が付いている事が一目でわかる位には、筋肉が付いてきていた。
出会った頃は2人共まだヒョロヒョロの子供であったが、たった1年で少しずつだが体が大きくなってきた2人である。
そして身長も伸びており、ルースはこの1年で10cm位、同じ位の身長だったはずのフェルは、今ではルースよりも3~4cmは大きくなっていたのだった。
「私のステータスも、割と伸びていましたが…次回は多分、フェルには色々と抜かされていそうです」
ルースには倍速というスキルがあるが、それは伸ばす事の出来るものを伸ばしているに過ぎず、適性がないもの…ルースでいえば、筋力値や耐久値がそれにあてはまるが、伸びしろが小さければいくら倍速があってもそれなりにしか成長しなくなるはずなのだ。人には適正というものがあり、ルースの伸び幅でいえば、魔力値や知力値がそれに該当するのだろう。
「俺はまた1年、もっと体力をつけてルースのステータスを目標に、頑張るつもりだ」
フェルはそう言って、ガブリと大きくパンを噛みちぎった。
「では私も、フェルに抜かされない様に頑張りますね」
ルースもパクリとパンにかぶり付き、2人は顔を見合わせて笑いあった。
「それよりフェルの新しいスキル、内容はわかっているのですか?」
ルースはフェルの新しいスキルが、どのような作用を持っているのかが少し気になっていた。
「え?俺のスキルは“加護“だったか…いや、まったくわからん。そもそも俺に、スキルが出ると思ってなかったから、スキルを調べた事もない…」
フェルは嬉しそうではあるが、少し困った様子も見せる。
「私の倍速というスキルは司祭様が効果をご存じだったので、どういうものかを教えていただいたのですが…ここの司祭様からは、そういった説明はありませんでしたね」
教会での様子を思い浮かべ、ルースは考えていた。
ここの教会は大きな町だから、わざわざ一人一人にそういう説明まではしないのか、司祭が加護のスキルを知らなかったとも考えられるが、いっさい2人のステータスには触れなかったことから、先ほど聞いた個室の件も踏まえ、ここの司祭は個人の事に口出しをしなようにしているのでは、という考えに辿り着く。
「なぁルース、スキルの事って、どうすればわかるんだ?」
フェルがキョトンとルースに尋ねる。
確かに何万とあるスキルの情報は、どうすればその内容と効果を知る事ができるのか…。
ルースの知識といえば、人に教えてもらったり本で読んだことしかないが、多分この2択なのだろうとフェルに伝える。
「だったらルース、その本はどこで読めるんだ?俺達、本を買う金なんか持ってないし、その本が何ていう題名なのかも知らないんだけど…」
フェルが言う通り、本は個人で買える物ではない。
昔より少しはお金の使い方が分かってきた2人にも、本の値段すら知らない位、本とは縁がないし見掛けた事もない。
「知らない私達が話し合っても答えは出ないと思うので、その本については冒険者ギルドで聞いてみましょう」
「そうだな。2人だけで話をしてても、きっとわかんないままだもんな」
と、フェルのスキルに付いては全く進展がなかったが、これからどうにかして調べてみようという事になった。
16歳になった2人はこの1年で、考え方も少しは大人になってきた様で、知らない物、分からない物はどうするか、やりたい事、出来ない事はどうやって解決するかなど、2人で話し合う習慣がつき情報を共有する事を覚えた。2人で無意識に行っている“報・連・相 “は、人として成長する上での基本である。
「あぁそういえば、私も新しいスキルが増えていました。“波及“というスキルです」
今になってルースは、サラリと自分の事を言った。
「はぁ?俺はルースのスキルを見てなかったから知らなかったけど…人のを聞いておいて自分のは?それってどんなやつなんだ?」
フェルも気になる様でかぶり付く様にルースに聞くが、ルースは思うところもあったがシレっと言い放つ。
「さぁ…知らないので、気にしない事にしました」
こんな会話を繰り広げながら、それからも暫く2人はステータスの事やこの1年の感想など、今まで余り話してこなかった事も話していった。
ルースとフェルが出会って1年、ルースの記憶について、実はフェルと出会った時に何か見えた気がしたのだとその時初めて報告したが、それ以降は特に進展がない事を伝えると、フェルは自分の事の様に残念がってくれた。
そして、ルースがいつも下げているペンダントが気になっているというフェルに経緯を伝えたり、敢えて話していなかった話も掘り下げて2人は夜遅くまで…ではなく、剣の練習を始めるまで、思い思いに語り合ったのだった。
そして翌朝も、2人は宿近くにある冒険者ギルドに顔を出す。
結局カルルスからここまで、宿といえば冒険者ギルドが運営する宿に泊まっている。やはり冒険者は、毎日の様にギルドに行き、そして夜には又ギルドへ報告に向かう為、起点が冒険者ギルドであって、そこに近い場所に泊まるのは一番効率が良い事だと、2人の意見は一致した。
それに小さな町以外の冒険者ギルドには、売店も食堂もあり、1日の行動殆どをそこで済ませる事ができるし、目移りしない分、要らぬ金を使う事もないからだ。
その為、2人はしっかりと少しずつお金も貯める事ができており、年齢の割にしっかりと計画を立てて過ごしているのだが、これは明らかに、ルースがいた事で実現できているといえよう。
2人が出会った頃は、村を出たばかりの少年であったのだが、いち早くルースは金の使い方を学び、必要な物にはしっかりと金を使い、あまり必要でない物は多方面から吟味して判断する事を、ルースはフェルにもしっかりと教え込んできたのだった。
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「「おはようございます」」
早朝の冒険者ギルドに顔を出した2人は、受付の職員へと声を掛けた。
今の受付は男性で、“プラント“という人物の顔なじみである。
「ルースさん、フェルさん、おはようございます。今日も早いですね」
七三分けした髪をきれいにセットして、スッキリとした印象を与える姿に笑顔を乗せたプラントは、2人へ目を留めると挨拶をした。
「朝早くから、すみません」
と苦笑するルースに
「早い方が助かります。混雑時の職員は鬼の形相なんです」
とプラントは笑って話す。
「少し伺いたい事がありまして…。調べたい事があるのですが、どこに行けば本が読めるのでしょうか」
ルースが昨日の話を尋ねれば、プラントは困ったように眉を下げる。
「調べものなら図書館がよろしいかと思うのですが、この町には図書館がないので、隣町…ここから歩いて1週間のところにある“スティーブリー“という町に行けば、多くの本が置いてある図書館があると聞いています」
プラントから情報を聞いたルースとフェルは、互いに顔を見合わせると、何を言わずとも深く頷きあったのだった。
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