【47】当然と思うなかれ
ルースとフェルはカルルスの町を出発し、西へ向かう道を進んでいる。
次に行く方角は西。以前に行った西の森を超えて、2人はひたすら進んで行く。
出発する前には夜な夜な次に行く方角を話し合い、冒険者ギルドや町の人に話を聞いたりと、情報を仕入れていた。
ここカルルスもウィルス国の東に位置するらしく、その話を聞いた時、2人は何処まで行っても国の東なのかと、顔を青くしたものだ。
2人の村も国の東にあると言われて育ち、そこから随分と遠くにあると思っていたカルルスも東にあたると聞き2人は驚いた訳なのだが、それは国の大きさをまだ分かっていない子供ゆえの感想なのであった。
ルースが村を出て歩き始めた方角は魔の山へと向いていたが、別にルースは魔の山を目指している訳ではない。目的はあるが、目的地がある訳でないルースは、何となく進む方向をそちらに決めているというだけだった。
そして今回も目的地がある訳でない為、また西へ向かって行こうかという話になっただけの大雑把な感じだ。
その西へ行けばしばらくは小さな村しかないらしく、町と呼ばれるものは、歩けば5~6日はかかるらしい。
普通町から町への移動は乗合馬車を使ったり、商人の馬車が出れば乗せてもらうのだという。しかしルースとフェルの出発時には、残念ながら西へ向かう馬車がないとの事で、2人は体力作りもかねて歩いていく事にしたのだった。
ルースとフェルは急ぐ旅でもないしと、そんな方針で話が進んでゆき、今に至るという事なのである。
そして次の町へ到着したら、念願の魔物討伐クエストを受けてみるつもりでいる。
D級では小さい魔物位のクエストになるだろうが、しっかりとクエストとして実績を積み上げて行きたいという思いと、倒した魔物も素材になればお金も貯める事ができるからだ。
こうして、次の町はどのような町なのかどんな魔物がいるのかと、ルースとフェルは想像と思考に没頭しつつ道を進んでいた。
「あぁそういう事ですか…」
ポツリとルースが独り言ちれば、「ん?」とフェルから声が返ってくる。
「いえ、少し考え事をしていたのです。私達は積極的にカルルスでは、F級クエストを受けてきましたよね?」
「おう」
「それは、F級のクエストが消化されないから、受けていたのです」
「そうだったな」
「なぜ皆さんはE級へと昇級したら、F級クエストを受けなくなるのか、私には理解できなかったのですが…」
「………」
「お金の問題だったのですね」
「……ルース、今更か?」
フェルは、ルースが何を言い出すのかと思い聞いていれば、今更な事を言っているルースに半分呆れてしまっていた。
それについては、フェルは初めからそう思っていたのだ。
F級のクエストは報酬の少ない物が多い為、E級に昇級できれば、クエストの報酬も上がるE級クエストを受けた方が楽だし、薬草などの買取りなども発生し加算もあって金が稼げる。
だから、2人がE級のクエストを受けだしてから、日々の収入も少し増えた事で、何とかマジックバッグを買う事もできたのだ。
いつもしっかりしているルースがそこに気付いていなかったのかと、ある意味フェルはビックリした。
一方ルースは、ギルドの安い宿に泊まれていた事で、1日の必要最低額を低く設定できていた為、複数ではあるが報酬の安いF級のクエストでも、その目標額をクリアできていた事を改めてありがたく思っていた。
「私は今まで、お金の面を重視してクエストを選んでいなかったのです。よくよく考えれば、私達はすぐにE級へ昇級できたことで受けられるクエストの幅も広がり、その上ギルドの安価な宿に泊まらせてもらえたため、お金の心配は余りありませんでした」
「うん」
「しかし普通は、F級からE級へ上がるのでさえ、それなりの日数がかかりますよね?」
「まあ…そうだろうな」
「という事はもしかするとE級に上がる頃には、安宿に泊まれなくなるかも知れないのですよね…」
「あーそうなるのか」
「あのF級優待がなければ、冒険者は普通の宿代を出して宿泊します。ギルドの宿も、普通に泊れば素泊まりで1泊600ルピル、その他食事代などかかりますから、1日に必要なお金は、一人1,000ルピル~2,000ルピルという事になります」
「げっ」
ルースの説明を聞いたフェルも、これからの自分達へと当てはめた様で、1日の収入はそれ以上なくてはいけないのかと、うんざりした声を上げた。
「私達はまだD級に上がれたから良いのですが、E級ではなかなか稼げない金額でしょう。だからE級に上がった人達は、少しでも報酬の高いクエストを奪い合うようにして受けていたのかと、今さら納得したのですよ」
フェルは分かっていたと思っていたが、それは“金の問題だろ“と漠然と分かっていただけだ。
こうして日々いくら必要だなどと具体的に言われれば、フェルもそこまでは気付いていなかったなと思う。
これからは自分たちも余剰を含めれば、日々3,000ルピル位は収入を得ないとならないのかという現実に、フェルはため息をこぼして、今までの安宿がどれだけありがたい物だったのかと、改めて冒険者ギルドに感謝をしたのであった。
そして冒険者ギルドといえば、旅の途中に食べるための食料として、ギルドの“お弁当“なるものを購入していたなと思い出す。
これは銀の狩人に教えてもらった冒険者ギルドの裏メニューであり、クエストに出る時に持っていく者が多いという、日替わりで、何種類かの料理が詰められて1箱に収まっているボリュームある一品だ。
この品は冒険者ギルドのオリジナルで、冒険者が携帯しやすいようにと考案された物であるらしく、今回の出発にあたり購入してきたのだった。
それも先日買った、時間停止の付いたマジックバッグがあってこその物で、マジックバッグを買う計画を立てたルースへ、フェルは心の中で感謝したのであった。
「じゃぁ次の町では、1日の目標額は3,000ルピルなのか?」
フェルは思考を切り替え、まだ着かぬ次の町での事を先立って確認する。
「そうですね…宿の相場も町ごとで違うかもしれませんし一概には言えませんが、最低でも一人あたりがそれ位になるでしょうね」
「またギルドが安く宿を貸してくれないかな…」
フェルが情けない事を言えば、ルースは苦笑する。
「あの値段設定は、駆け出しへの救済措置ですよ?私達はまだ、駆け出しのF級ですか?」
ルースの言葉に、フェルも気を引き締めた。
「俺達はD級になったんだ…駆け出しとは言わせないぞ…」
と、少し違う方向へと思考を飛ばしたフェルだったが、これから先の方針も話し合いながら、清々しい空気の中を歩き続ける2人であった。
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こうして国の東側から少しずつ町を移動しながら、ルースとフェルは冒険者ギルドで積極的にクエストを熟すという日々を送っていく。
そして気付けば、ルースとフェルが出会って1年が経とうとしていた。
今いる町はカルルスからは西側に位置するが、国の中ではまだ東に位置する“サンボラ“という町だ。
この町は、移動を始めてから6か所目の町で、1つの町には1~2か月位を目安に滞在し、今まで過ごしてきたのだった。
そして初めに話していた1日に3,000ルピルという金額は、思っていたよりも大変で、それは積極的に魔物の討伐クエストを受けるという考えに辿り着き、D級で受けられる小さな魔物を討伐するクエストを淡々と熟し、素材の納品も積極的に行ってきた2人であった。
その為随分と魔物の討伐には慣れた…と言って良いのかはわからないが、小さい魔物ならば手際よく仕留める事ができるようになっている。
そして、魔物に出会った時の心構えも出来て来たのだと思っている2人であった。
「フェル。今日辺り、そろそろ教会に行ってみますか?」
今いるサンボラの町にも当然、教会はある。
教会がない街の方が珍しく、ルース達がいた村と同様に、町の教会にも勉強をしに通う子供たちがいるし、自分のステータスを確認するために、年に一度は教会へ行く大人達もいる。
今話しているルースとフェルも、前にステータスの確認をしてから既に1年以上が経過している事もあり、冒険者としては自分達の能力を知っておくことも、大切な事なのだとルースは思っている。
フェルは、ルースからの提案に目を瞬かせると、「もう1年経ったもんな」と同意する。何を言わなくても、教会へ行くのはステータスを見るためだと、フェルもわかっていたようだった。
本当はいつ確認しても良いのだが、大人になればステータスの確認は有料…感謝の“気持ち“を渡さなければならないのだ。
その為、大人は気軽にステータスの確認はせず、平均して年に1回位を目安に行っているようで、ルース達も職業を賜った事で大人の仲間入りをしており、ステータスの確認は有料となっているのである。
先程、サンボラの冒険者ギルドにクエストの完了報告をしてきた際、この町の教会の事を聞いてきていた。
今日は短い時間でクエストを終えたので、折角の機会だと、ルースはフェルへ教会へ行く事を提案したのだった。
「支払う“気持ち“は銀貨1枚らしいのですが、1年に1回の事なので、これは必要経費と考えましょう」
「あ~そうだな…しかし思っていたより…高いんだな」
フェルは、子供の頃まで無料だったステータス確認に、お金を支払う事自体を疑問に思っている様な口ぶりだ。
「子供の頃は職業確認の為に、毎年教会が助力してくれていたに過ぎません。そしてその職業が出れば、後は自分達次第という事になりますし、お金を出したくない人は見てもらわなくても良いでしょう。それにその“気持ち“は、教会の運営の一部にあてられています。教会がなくなれば、子供たちのステータスを視てもらう事も、できなくなるでしょう」
ルースの説明に、フェルもなるほどなと思う。確かに金を払ってまでと考える者は、ステータスの確認をしてもらわなければ良いのだ。
こうして2人は教会の事などを話し合いながら、教えてもらったその場所へと、1年ぶりに足を向けたのであった。
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