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【44】防具屋

 ルースとフェルは、道具屋に又出直すと伝えて店を後にした。


「でっかい鞄は、もう読めない桁だったぞ」

 フェルの口からそんな言葉が出るが、考えるのが面倒なフェルが、読む気もおきない桁という意味だと解釈しておく。

 フェルは割と大雑把な所があるのだと、ここ一か月でルースは学んでいたのだった。

 ただ、あのバッグ…巾着でさえ30,000ルピルだったことを考えれば、大きな物はフェルの言う通り、それなりの値段だったとは思うのだが。


「それで次は、防具屋に寄ってみようと思います」


 ルースが続けた言葉に、フェルが勢いよくルースを見た。

「お?いいのか?」


 今日のクエスト時にクーリオから助言を受けたフェルは、やはりその話が気になっていた様だ。言ってくれれば防具屋に行くというのに、なぜかフェルは遠慮していたらしい。


「そんなに気になっていたなら、言ってください。私もフェルが行くところには、付き合いますよ?」

 フェルは、ルースへ振り返ると頭をかく。

「個人的な事だから、ルースに時間を取らせるのは悪いと思ったんだよ。でもこれからは、ちゃんと俺も言うようにするな」

 照れ笑いを浮かべたフェルは、そう言って嬉しそうに歩いていった。



 そして道具屋から続く、商店街の中にある防具屋の扉を開ける。


「いらっしゃい。おや、また来てくれたんだね」

 一か月近くも経っての再来店だが、店主はフェルを覚えているらしい。

 まぁフェルは、その時に買った胸当てを今も付けているので、それを見たからかもしれないが。


「こんにちは、おやじさん」

「こんにちは」


 ルースは前回、フェルが胸当てを買いに来た時には一緒に来店していなかった。店先までは来たが、その時ルースはズボンを買いに、別の店へとわかれて買い物をしていたのだ。


「今日は友達と一緒なんだね」

「はい。彼は一緒にパーティを組んでいる、ルースです」

 そうフェルから紹介されれば、ベコリと頭を下げて挨拶をするルース。


「そうか。私はギミットという、この店の店主だよ」

 50代位でがっしりとした体格の店主は、柔らかい笑みをルースへ向ける。

「今日は、俺の盾を見に来たんですが、また教えてください」


 フェルは前回の胸当ての時に、店頭で一人さんざん迷ってウロウロしていたらしい。それを見かねた店主が、フェルの希望を聞いて、それに近い物を出してくれたという経緯がある。


「ああ、勿論だよ。その為の店員だからね」

 と、茶目っ気を含ませた言い方で、店主がフェルに笑いかける。

「えっと…まだ体が小さいんで、普通サイズじゃなくて、小振りの物にしたらどうかと言われたんです」

 フェルは店主に、身振り手振りで相談を始めた様だ。

 ルースは一応そちらに耳を傾けつつも、せっかくなので店内を見て回る事にした。


 一つ一つをゆっくり見ながら、どうやって使う物かを想像して歩く。

 ルースは基本、防御は魔法で行うため、防具を使った事がない。剣の師匠マイルスも、村に来た時には防具らしき物は着けておらず、頑丈そうな服にマントといういで立ちだったはずだ。

 そう言えば銀の狩人のメンバーも、防具を持っていたのはクーリオだけで、身に着ける物をだれ一人として着けていなかったなと思い返した。


 ゆっくりと店内を見ていけば、一角に服が売っているコーナーがあった。

 防具屋に、服も売っているのかと手に取ってみれば、ルースに近付いて来た店主が「それは防御の魔法が付与されている服だよ」と、説明してくれた。


「魔法が付与?」

「そうだよ。冒険者は防具をゴテゴテ付けると、動き辛くなるだろう?だからある程度のランクになれば、そういった物を身に着けて、防御力を上げているんだよ」


 店主の説明に納得して値札を見れば、6桁である。これらは銀貨数十枚単位の商品だった。

 確かにこれでは、ある程度のランクにならないと買えないなと、ルースは苦笑する。


「おやじさん、どうかな?」

 フェルはどうやら、試しに盾を装着していたらしく、その間に店主がルースの様子を見に来てくれた様だった。

「ああ、つけられたかい?」


 店主がフェルの方へと戻っていけば、ルースは再度、目の前の服を眺める。

 ではマイルスも、防御の付与された服を着ていたのかもしれないなと、腑に落ちたルースだった。


 そうこうしていれば、フェルが気に入った物があったらしいなと、ルースはフェルの近くへ戻る。

 だがフェルの顔を見れば、嬉しそうでないのはなぜだろうか。


「どうしたのですか?それを気に入ったのではないのですか?」


 フェルの左手の前腕部に、30㎝程の金属製の円盾が革ひもで固定されていた。

 確かに腕に固定して使えれば、右手が負傷した時には、左手に剣を持ち替える事もできるので、利便性もよさそうだなとルースは思う。


「ああ…気に入ったんだけど…」

 とルースに値札を見せるフェル。


 ルースが近付いてその値札を見れば、10,000ルピルと書いてある。これならカルルスに来てから貯めた金で、何とか足りる金額だ。

 2人が最初に倒したガルムの素材と、半値になったガルムの素材、日々のクエストで積み立ててきた金を合わせて、2人共それぞれこの一か月でそれ位は貯めているはずだ。町中のクエストも毎日数件受けて頑張ってきたし、それにビッグボアの入金予定もある。


「お金が足りないのですか?」

 ルースがそうフェルに問えば、フェルは首を振る。

 なるほど、とルースはフェルの考えに気付き、先に道具屋に行ったことを少し後悔する。


「フェル、まだ一か月ありますから、何とかなりますよ。あっちを気にしてフェルが怪我をするよりは、盾で防御力を上げておいた方が、効率が良いと思います」


 フェルはきっとマジックバッグを買うために、盾を諦めようとしていたのだろう。

 ただ、今ルースが言った様にそちらにばかり気を取られ、魔物と戦う時の防御を後回しにするのは、本末転倒というものだ。

 ルースの言葉に、フェルも「そうかな」と納得してくれたらしい。


 その近くで2人のやりとりを見ていた店主は、「しょうがないなぁ」と笑って値引きを申し出てくれ、10,000ルピルを8,000ルピルにしてくれるという。

 いきなり2割も引いてくれるという言葉に、2,000ルピルといえばギルドの宿代20日分だと、ルースは即座に計算したのだった。


 フェルは嬉しそうにお礼を言って、しおれた顔から一転、ニコニコ顔へと転じた。

「よろしいのですか?」

 ルースは店主の傍へ寄って、そこまでしてもらって良いのかと尋ねる。

「まぁ、少年たちは気にしなさんな。お金のありそうな客からもらえば、いいだけだよ」

 と、店主はケラケラと笑っている。


 ルースとフェルは店主の心遣いに感謝して、フェルの盾の代金を支払い、防具屋を後にしたのだった。




「フェル、町中に魔物は出ませんよ?」


 店から盾を付けたまま町中を歩いているフェルへ、ルースはからかい半分でそう話す。

 フェルは新しく手に入れた盾をすっかり気に入った様で、歩きながら前に出したり引っ込めたりと、忙しく動いている。


「何か…うれしい」

 フェルの目尻は下がりっぱなしなので、“嬉しい“と聞くまでもない。


「ギルドの食堂で食べる時は、さすがに外してくださいね。着脱がスムーズにできなければ意味がありませんから、外す事も大事ですよ」

 ルースが尤もらしく言えば、フェルは素直に「そっか」と呟いている。


 フェルは基本的に素直な人物の為、それなりに理由を言えば納得してくれるので、ルースはとても助かっている。

 そう思われている事も知らないフェルは、留め具を熱心に見始めていた。

 これはどちらにしても前を見ていないなと、ルースが誘導する必要を感じて苦笑するのであった。


 今は街灯のともり始める時間となっている為、冒険者ギルドへ到着すれば、完了報告の冒険者も大分少なくなっており、ギルドの食堂もほとんどの席が埋まっていて、2人は何とか空いている席へと滑り込んで夕食を摂る。


 食後は今日も剣の練習だが、今日からフェルの盾も考慮して練習しなくてはならない。

 ルースは、ボリュームのある定食を食べながら、嬉しそうに食事をするフェルの練習内容を考えていたのだったが、当のフェルにそんな事は知る由もない。


 それはフェルの、束の間の幸せな時間であった。

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