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【43】目標

 銀の狩人とルース達は、ビッグボアのクエストを終えてカルルスへと戻り、そして今は冒険者ギルドの受付で、クエストの完了報告をしているところだ。


「はい。ではこのクエストは処理いたしました。こちらの素材分は後ほど、買取り額を入金させていただきます」


 ルース達の前にいるギルド職員は、いつもの様にハーディーだ。ハーディーはニコニコと6人を見て、そう説明する。


「ありがとうございます」

 カーターが嬉しそうにハーディーへ声を掛ければ、銀の狩人の面々が、訳知り顔でカーターを見ていた。

 どうやらカーターはハーディーに好意を抱いているのか、美人でスタイルも良くギルドの制服が良く似合っているハーディーに、一番近い位置で向かい合っている。

 そのカーターに笑顔を見せるハーディーは、大人の女性という雰囲気で、話しかけてくるカーターに事務的な対応で微笑みかけていたのだった。


 だが、ルースとフェルにはそんな事が解るはずもなく、今回の臨時メンバーとしての報酬とポイント、素材買取りをしてもらった事に興奮していた。

「ルース…買取りってどれ位なのかな?」

 フェルは鼻息荒く、ルースに聞いてくる。

 それを拾ったハーディーが、フェルへと視線を転じた。


「ビッグボアの買取りは、1体分で10,000ルピル位になると思いますよ?」

「「ええ?!」」

 金額の目安を知らなかったルースとフェルが、その金額に驚いて声を上げた。10,000ルピルは銀貨1枚、今の2人にとっては大金だ。


 そしてこの素材は、いわば銀の狩人に譲ってもらった様なものだ。2人はクエストの報酬も“臨時でもパーティだから“と、少額だが加味してもらっている上に、魔物のポイントと素材までも助力してもらった事になっている。


「気にしなくても良いよ?俺達はそこまで金に困っている訳でもないし、それは君たちが倒した物だから、当然の報酬だと思って良いからね?」

 とニードが、2人の狼狽えた様子を見て言葉を添えてくれた。


 彼らは後輩の冒険者に対し、魔物との戦い方もろもろ、親身になって手を貸してくれた。

「いつも、面倒見が良いですね」

 と、ハーディーからそんな声が聞こえる。


「俺達も昔は駆け出しだったから…。ある程度まで経験しないと、独り立ちできないと思うんですよね」

 ニードは頭を掻きながら、照れ臭そうにそう話す。

「そうそう。俺達も駆け出しの頃は、先輩たちに色々と教えてもらってたし。俺達も後輩たちに手を貸すのは、当たり前だよね?」

 カーターもそう言って、ハーディーに笑みを向けた。


 銀の狩人にも駆け出しの頃があり、その時には他の冒険者に色々と教えてもらったという。

 しかし、自分達がしてもらったからといって、それを後に同じことが出来るかと言えば、“喉元過ぎれば“という言葉もある通り、その時の事など忘れ、自分たちが行動を起こすなど普通は出来ないだろう。

 それを聞いたルースは、きっとこの人達は上位の冒険者にまで上り詰めるのだろうなと、心の中で独り言ちる。


 この国の最上位ランクはS級。

 そこまでたどり着くものは少数と言われているが、もし銀の狩人がS級まで上ったらと想像すれば、それは素直に納得できる事であった。

 人に対する思いやり、仲間同士の絆、冒険者としての在り方。その全てが良い方向に向いている銀の狩人と自分達が、今この時に出会えたことにルースは心から感謝をしたのだった。


「では、これで手続きは終了となります。お疲れ様でした」


 今日のクエストは、夕方には報告も終わった。

 今回のクエストはE級であるルース達では、まだ経験できないレベルのクエストだった事もあり、一気にポイントが加算された様だった。

 2人は町中のクエストばかりを受けて来た事も影響して、本当に少しずつしかポイントが稼げておらず、休みも取らずにクエストを熟しても、D級へ上がるには、まだまだかかりそうだったのだ。これならば後一か月、宿を引き払う頃にはD級へと昇級できる望みも出てきた。


 この経験を活かし、外でのクエストを積極的に受けて出会った魔物の素材も持ち込めば、2人の金を合わせて旅立つ前にマジックバッグを購入できるかもしれないなと、ルースは今後の予定を考えつつ銀の狩人に感謝を伝え、冒険者ギルドを後にしたのだった。




「フェル、少し道具屋を見てみたいのですが、よろしいのですか?」


 冒険者ギルドの前で銀の狩人を見送った後、ルースはフェルへと声を掛ける。

「ん?俺は別に構わないぞ?」

 そう返事をもらい、2人は町中へと歩き出す。


「実は、マジックバッグを調べたいのです。この町を出る前に2人でお金を出し合えば、買えるのかどうか…」

「ああ…そんな物もあったな。確か、すげー高かったんだよな?俺は無理だと思って、諦めてたんだけど」


 フェルは無理だと思って、すっかり存在を忘れていたらしい。

 しかし地道に素材を売っていき、どれ位の金があればどれ位の物を買えるのか、しっかり確認しておいた方が後々の目標ともなるし、やる気も出るという物だ。


「たとえ大きな鞄でなくとも、時間停止がついていますから、旅先で魔物を倒した時に素材を入れておいたり、保存食以外の食料も持って行けるのなら、とても便利だと思うのです」


 ルースの言葉、特に“保存食以外“に食いつくフェル。

「おお!干し肉以外を持ち歩けるのは、魅力的だな!さすがに干し肉ばっかりだと、飽きるんだよなー」

 すっかり買う気になっているのか、フェルが全力の笑顔をみせる。

 ルースも干し肉ばかりでは栄養バランスが悪いので、何とかならないものかと考えていた。


 さすがに、大きなサイズのマジックバッグを買えるとは思っていないが、果物などの痛み易い物を持ち歩けるのなら、多少はその辺りも改善されるのではと考えていた。


「それが買えそうなのか、大きさはどれ位なのかなど、事前に調べたいのです」

 ルースの話を聞いていたフェルも乗り気になった様で、どれ位持って行けるのかな?と楽しそうに話している。


 程なくして、町の中心にある商店街の道具屋へと辿り着いた。

 店の扉の中心には四角いガラスがはめ込まれ、店内が見える様になっており、中に入ればそのガラスから外の光が差し込み、店内が暗くなり過ぎないような工夫であることも知る。


 フェルは入って早々、大小さまざまなものが並ぶ店内に目を輝かせている。

 2人がこの町に来て入った店と言えば、ギルドの売店と冒険者用の服が売っている店、フェルの胸当てを買った防具屋だけだ。

 そう言えば今日は、クーリオから防具のアドバイスを受けていたのだったのだなと、後でそちらの店も覗いてみようと考えるルースだった。


 今来ている道具屋には、生活用品や雑貨、ランタンなど冒険者にも必要な小物も並んでいる。

 鍋も一人前の物から、いったい何十人前かわからない程の物まであり、1つ1つを見ていけば、時間はあっという間に過ぎそうだ。


「フェル、他の物を見ていたら、終わりませんよ?」

 ルースから離れて、奥の魔導具コーナーまで行ってしまったルースに、声を掛けて呼び戻す。フェルに今日の目的を思い出させて、2人はマジックバッグのあるコーナーへと足を向けた。


「いらっしゃい」

 カウンターの傍にマジックバッグが置いてあった為、その前へと足を進めれば店主から声を掛けられる。

 店主は細身で30代位の、一見神経質そうに見える男性である。


「こんにちは。マジックバッグを見せて欲しいのですが」

 ルースはそう店主へと伝えた。

「その辺りは新品だよ。中古だったらその後ろ側だな」

 2人の風体(ふうてい)をみてか、店主が中古の売り場を教えてくれる。


 ここの店主は、2人が駆け出しの冒険者だろうと何も言わずとも見抜く辺り、今まで色々な人を見てきたであろう事がうかがえた。


「ありがとうございます」


 ルースは言われた通りにその後ろ側の棚へと進み、ほどほどに在庫があるバッグを手に取る。

 フェルは、いきなり大きなバッグを手にして、「うげっ」と値段を見て声を上げた。

「フェル、まずは小さい物からですよ」


 ルースは長さ20cm位の、腰に下げる仕様の巾着を手に取った。腰から下げる物ならば、戦闘の邪魔にもならないだろうと思っての事だ。間口は紐で左右から絞る形になっていて、袋の大きさで言えば、10cmの球がちょうど入る位のサイズである。

 小さい物だがどれ位入るのか、そして一番は値段だ。


「その巾着は100倍入る…といっても想像し辛いだろうけどね」

 店主は、ルースが手にしている物を見てそう補足する。


 10cm角の箱が100個位入るという事だなと、おおよそのイメージをしたルースは、次いでそれに付いている値札を見る。それは30,000ルピル、銀貨3枚の品物だった。


「ああ、それは美品だから少し値が張るんだ。まだ長い間、使えるからね」

 さらりと又、店主から声が聞こえた。


 なるほどなと思うも、やはり高価なものだなとも思う。

 これより小さいマジックバッグはないし、ざっと見た限り他はこれ以上の値段設定だった。

 まずは銀貨3枚を目標に、後一か月を過ごすことになりそうだなと、ルースは心の中で予定を立てたのであった。


補足:ルースが買おうとしている巾着のマジックバッグですが、収容量の目安は…。縦50cm×横50cm×高さ40cmの箱1個分位になります。

余り大きくはありませんが、小さな巾着にそれだけの物が入る事と重さを気にしなくて良いという事で、購入を検討しています。小さくても魔導具という事ですね…高い。笑


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

前話のあとがきで7万ポイントに乗りそうだとご報告した為か、どなたかお優しい方が評価を入れてくださった様で、ギリギリ、7万ポイントに乗り続けています!(まだ気は抜けませんが^^;)

いつも応援してくださって、本当にありがとうございます!!

盛嵜 柊

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