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【42】成果

「お疲れ様」


 荒い息を吐く2人へニードが声を掛ければ、フェルは声の主を振り返って「はいっ!」と元気よく返事をした。


 ビッグボアは、話で聞くよりも硬く剣の通り辛い魔物で、素材を生かすために火魔法は使えず、この4人はいつも剣と弓で対応しているのかと驚きつつも、確かに火魔法で焼いてしまった方が早いなとも考える。

 そして次回、この魔物と出会った時のシミュレートを始めたルースであった。


 ゴブリン程度ならE級でも対応できるかもしれないが、それ以上となるとまだ2人だけでは、荷が重い事を痛感する。

 いくらルースの魔法があっても、4体も出てしまえば、逃げるという事も想定に入れておかなければならないが、果たしてこの魔物から逃げ切れるのだろうかとも、不安になるルースであった。


「さて、解体するぞ」

 スカニエルの声にそちらを見れば、小さなナイフを手に、嬉しそうにニコニコしている様子が目に入る。

「ルース、フェル、見ておけよ?」

 やる気満々なスカニエルに促されて、2人はそこへ近づいて行った。


 手際よく刃を当てて皮をはぐ動作を見ていれば、これも尾…尻からナイフを入れていっている。

 そこから腹へと続けて動かすナイフは、まるで柔らかいものを切っているがごとく、軽やかに動いていた。


「硬くないんですか?」

 先程の剣の手応えを思い出したフェルが、作業中のスカニエルに質問する。

「ああ。もう死んでしまえば魔法を発動していないから、硬さも普通の獣位にはなってるよ」

 と、当たり前のように答えるスカニエルに、フェルはキョトンとした顔を見せる。


「こいつらはさっきまで、風魔法を纏って防御力を上げていたんだ」

 と、ビッグボアの硬さの秘密を伝えるスカニエル。そう話しながら、手が止まる事もない。


「風魔法で防御力…」


 ルースは魔物の魔力を感知していた為、ビッグボアが魔法を纏っていた事に気付いていたが、言われて初めて“それで硬かったのか“とルースは納得した。


「ビッグボアは、猪が風魔法を使えるようになった感じの魔物って事だね。風魔法を常時発動させて、スピードと防御力を上げてるんだよ」

「さっきはそんな話、聞きませんでしたけど…」

 と、フェルがしょぼくれている。


「ああ、それを先に言って警戒し過ぎてもいけないかなと思って、敢えて言わなかったんだ。こちらに魔法を放ってくる訳でもないから、魔法の事はそんなに気にしなくても良いからね。ごめんよ」

 ニードがフェルに、そう説明する。


 ニード達は意地悪で情報を伏せていた訳でなく、構えすぎるなという意味で、風魔法が使える事を話さなかったようである。


「ルースは気付いてたんでしょ?」

 カーターがにっこりと口角を上げる。

「はい、魔力を感知していましたので。ですが風魔法で防御力を上げているとは、思っていませんでした」


 ルースの返事に、クーリオが話を続ける。

「このビッグボア以外にも、風を纏っている魔物は割と多い。ワイバーンなんかもそうだ」

 ワイバーン。2人には初めて聞く魔物の名前だ。


「そのワイバーンって、よく見る魔物ですか?」

 フェルがクーリオに質問すれば、皆が渋い顔になった。

「おいフェル。ワイバーンがゴロゴロいたら、ヤバいって…」

 カーターが頭を掻きながらそう返した。


 そんなに危険な魔物なのか…。


「ワイバーンは空を飛ぶ魔物だ。だからリーチが短い剣だけでは、戦闘が難しい。それに風魔法を放って攻撃してくる、厄介な奴だ」

 ワイバーンの話を出したクーリオが、そう補足してくれる。

「姿はコウモリがでかくなったみたい…ん~ちょっと違うけどそんな感じかな。ワイバーンは竜種になるから、討伐クエストはB級以上になってるよ」

 と、ニードも情報を付け足してくれた。

 なるほど。どうやらルースとフェルが、出会ってはいけない魔物の様である。


「銀の狩人は、そのワイバーンを見たことがあるんですか?」

 すっかりそちらの話に興味を持ったフェルが、目を輝かせて聞いている。

 ルースも話は聞きつつ、しっかりと視線はスカニエルの手元を見続けていた。


「よしっ1匹終了」

 スカニエルが立ち上がり、まだ手付かずの他のビッグボアへと移動した。

 もう一人クーリオが解体をしているが、手際が良いスカニエルはスピードが違うらしく、クーリオはまだ1体目の途中だ。


「私も解体をしてみて良いですか?」

 おずおずとルースは、スカニエルに尋ねる。せっかく学ぶ機会を得たので、スカニエルのいる所で解体をしてみたいのだ。

「勿論だよ。じゃあ、ルース達が倒したビッグボアでやってみて」


 スカニエルからお許しをもらい、自分たちが倒したビッグボアへ移動すると、ルースは腰からナイフを取り出し、今見せてもらった手元を思い出しながら、さっそく尻尾の方からナイフを入れた。

 その近くで解体中のスカニエルが、時々ルースを見てアドバイスをくれる。


「そこはもう少し、刃を立てて押し込むと通りやすいよ」

「はい」

 スカニエルから教えてもらいながら、ルースは黙々と解体作業に集中した。



 他の3体が終わり、残りはルースが処理をしている物だけになる。

 ルースも、後は肉を切り分けるだけとなった時、スカニエルが“ハラン“を出してくれた。

「ありがとうございます」


 それを受け取ったルースは、小分けにした肉をその葉で包みながら切り出していき、スカニエルがそれをずっと見守ってくれる中、無事に解体は終了する。


「うん、いいね。初めてだろう?上出来だよ」

 スカニエルのその言い方だと、やはりまだまだといった感じなのだろうが、ルースの中では前回よりも綺麗にできたと思っている。

「ご教授いただきありがとうございます。でも、解体は2回目です」

 ルースの返事にスカニエルが、“ん?“という表情をする。


「あれ?魔物の討伐クエストは、初めてだったよね?」

 銀の狩人の面々は、ルースとフェルがまたガルムに襲われたことを知らないので、E級クエストでは魔物の討伐がないのに、と思ったらしい。


「クエストでは初めてですが、以前キニヤ村への届け物の道中で、またガルムに会いまして、その時に…」


 ルースの説明に、4人が苦笑した。

「またガルムと会ったのか…」

「あらら」

「運が悪いというか…」

「あ~…」

 と、口々に言葉を漏らしている銀の狩人であった。


「怪我はしなかったかい?」

 ニードが気遣って聞いてくる。

「はい、それは大丈夫だったんですけど、ルースの魔法が使えない時だったんで、やばかったです」

 フェルがその時の状況を説明した。

「ああ、確かに魔法がないと辛いな…」


 ルースとフェルのパーティには、銀の狩人のように弓士もいない為、魔法が使えなければ接近して戦う事になり、素早い動きのガルムでは、なかなか剣が届かなかったのだ。


「でも1体だけでしたので、何とかなりました。その時に解体をしてみたのですが、やはり見せていただいた様には出来ず、買取り額が半値に落ちました」

 ルースが元気なく話せば、「今回のは大丈夫だと思うよ」とスカニエルは言う。


「では良かったです。私のせいで買取り額が下がってしまえば、皆さんにご迷惑をかけてしまいますし…」

 苦笑するルースを、4人は“何で?“という顔で見ている。

 そして何かに思い当たったのか、クーリオが声を出す。


「ルース、フェル、この1体は2人で倒したんだ。これは2人の成果だから、買取り料金も2人の物だぞ?」


 その言葉に、ルースとフェルは目を見開いて4人を見つめる。

 今日は、ルース達の学びも兼ねてクエストに連れてきてくれただけでなく、そのクエストの魔物もルース達の成果にして良いと言ってくれている。


 そんな銀の狩人の人達は、人間性も素晴らしくお手本の様なパーティだなと、2人はありがたく思い、深く感謝して頭を下げたのだった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

明日も引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。


P.S.

「シドはC級冒険者」の総合評価が、7万ポントに一瞬乗りました。嬉しいです!

完結済みなので、ブックマークを解除する方がいらっしゃるとまた下がってしまいますが、それでも、7万というポイントに乗せていただいて、ありがとうございます!!(できれば乗り続けたい…^^;)

ルースのお話を進めたいので、シドは月に1回位でお話を投稿できるといいなと考えつつ、シドの方も、まだまだお付き合いくださると嬉しいです。

盛嵜からのご報告でした。^^

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