【41】銀の狩人
銀の狩人のパーティは、ニードが剣士でカーターが火魔法の魔法使い、スカニエルが弓士であり偵察の役割も担っているらしい。そしてクーリオが騎士という事で、フェルが食いついた。
「クーリオさんは騎士だったんですか!」
「ああ。俺は騎士の職業を賜っているが、剣と併せて盾も使っているから、このパーティでは盾役的な事もしている」
「おお!」
フェルは、目を輝かせてクーリオを見ている。
「そういうフェルも騎士なのか?」
「はい!」
「では盾も使うのか?」
「いいえ、盾は使った事がないです」
「じゃあ、盾も使うようにして防御も上げるといい。…ただ、まだ体が小さいから大きな盾ではなく、腕に付けるタイプの小型の物から試してみると良いぞ」
「はい!」
フェルは前のめりになって、クーリオの話を聞いている。
同じ職業を持つ人物から聞くアドバイスはとても為になり、色々な可能性を教えてくれているのだ。
「ルースは魔法使いなのか?…って剣も持ってるんだったな」
ルースの隣に来たカーターが、そうルースへ尋ねてくる。
「私の職業は剣士です」
「そうなのか」
ルースの話を拾ったニードが、声を上げた。
「ルースは剣士だったんだな。じゃあ、魔法と併用すれば、魔剣士になれるな」
剣士が魔力を持っていれば、剣技に魔力を乗せて戦う“魔剣士“という職業になる事もできる。
ただそのためには、元の剣士レベルを上げてからという事にはなるのだが、本人の目標としての意味では、魔剣士になる為に努力する事も選択肢にあがってくるのだ。
「はい。できれば私は、魔剣士へ上りたいと考えています」
ルースの返事にニードは眉を下げた。
「羨ましいな。俺は魔力がないから、魔剣士にはなれないんだ。剣から魔法を放ったりして、格好良いから憧れるんだけど…そんな事で、俺は聖剣を目指している」
ニードはそう言って、最後には決意のこもった表情になった。
「俺は賢者になる予定だなっ」
カーターはニードの横から、そう言って顔を覗かせた。
確か、賢者は魔法使いの上位職だと聞いているが、ただ魔法使いのレベルを上げればなれるのか、ルースにはその必要条件は分からない。
「って言ってるけどなカーター、賢者は魔法使いのレベルを上げたうえに、知力値も確か、800以上にならないとダメだったんじゃなかったか?カーターの知力値はいくつだ?」
「あ~200ちょい下くらい…」
スカニエルの言葉に肩をすぼめたカーターは、「俺はこれからだよ」と前向きに話を進めるが、20歳位の知力値は100~400位と、職業に因ってかなりのばらつきがあり、知力値が高い者の職業は総じて“探求系“の職業が多く、学者になる者や官吏になる者、錬金術師や研究者などの知識を欲する職に就く。
しかし、言ってしまえば魔法使いも魔法に対する知識を渇望している為、それを極めれば“賢者“になれるのだろうと、ルースも魔法の知識と経験を欲する者として、納得するのだった。
それを思えばカーターの200という数値は、決して高い方ではないだろう。その為、スカニエルに目標だけは高いのだなと、揶揄われたようだ。
この2人は、いつもこの様な感じでじゃれあっているのだろうなと、他の2人の苦労を思い、ルースはこっそり苦笑するのだった。
「スカニエルさんは、弓士なのに偵察もできるのですか?」
スカニエルとカーターの会話にルースが話を変えて尋ねれば、ニードが向こうで親指を立てているのが見えた。
「ん?そうだよ。俺はスキルに“偵察“があるからね。弓士は、どれだけ気配を消すかも大事なんだ。だから偵察スキルは、弓士にはとても相性が良いスキルなんだよ」
スカニエルはそう言って、ルースに笑みを向ける。
言われてみれば、偵察をする者なら気配を消す事と、身軽な動きができるのだろう。
その両方があれば弓士は身を隠したまま、相手に悟られずに攻撃をする事もできるのだ。確かに弓士には相性の良いスキルだな、とルースも感じた。
こうして互いの話をしていれば、ビッグボアが出たという場所に着いた様だ。
ここは、カルルスを出て3時間位経った西の森の中である。
「この辺りのはずだ。皆、気を付けておいてくれ」
ニードの言葉に皆が頷く。
「俺はちょっと、周辺を見てくるよ」
続けてスカニエルが、足音を立てずに木々の中へ消えていった。
「凄いですね…」
その姿を目で追っていたルースが、思わずといった風に感想をもらせば、フェルも、同じ方向を見ながら頷いている。
ルース達では、あの様に気配を消すことは出来ないだろうと驚くほど、動き出した途端、スカニエルの気配が完全に消えたのだ。目の前で動いていなければ、きっと気が付いていなかっただろうと、ルースは尊敬の眼差しを向けた。
「凄いよなー」
とカーターも、ルース達に同意している。
その言葉を本人の前で言えば、もう少しカーターへの当たりも柔らかくなるのではないのか…そう思うも、ルースは口をつぐんだ。
「全く…カーターは、本人にもそう伝えれば良いのに…」
「いやだよ。何か負けたみたいで、言いたくない」
ニードのアドバイスも、カーターは訳の分からない理由ですげなく断っている。
「負けるって、そもそも何も競ってないだろうが」
クーリオもそう言って苦笑していた。
この4人は、良いバランスのパーティなのだなと、再度ルースがそんな事を考えていれば、『ブゴーッ!』と遠くで何かの叫び声がした。
「居たみたいだな」
クーリオの言葉に、皆は気を引き締めて剣を抜く。
ニードとクーリオがその場に残り、カーター、ルースとフェルは後退して距離をとり、ニードの指示で後衛を任された者達が下がる。
程なくすれば木の上にスカニエルの姿が見え、木々を伝いながら矢を放ち、こちらへ来るように誘導しているらしいと理解する。
「来るぞ!」
ニードの言葉と同時に、4体の大きな魔物が木々の隙間から姿を現した。それらは一度、こちらに視線を向けた所で立ち止まると、地面を引っ搔いて息を荒くする。
「後衛、左右に展開!」
ニードがルース達へと指示を出す。この魔物は突進してくるとの事なので、進路の正面に立っていればそのまま激突されるのだろう。
「「おう」」
「はい」
3人はそれぞれ声を発して左右に割れた。ルースは右に、フェルとカーターは左へと離れ、おのおのが戦闘態勢をとる。カーターはいつの間にか手に赤い石の付いた杖を持っており、それを前方へと突き出して構えていた。
魔物が動く。
4体同時に動き出したビッグボアは、ニードとクーリオへ向かって真っすぐに突っ込んできた。
2人は左右に分かれ、それをかわしながら剣を振る。
―― グサッ! ――
―― ズバッ! ――
『ブュギー!』
切り付けられた2匹は、足を止めずに切り付けた相手へと方向を変えて突進する。
残りの2匹は、そのまま真っ直ぐにルース達3人のいる方へと向かってくる。
「美しい灯火となりて。出でよ“火球”」
カーターが3人の後方、ビッグボアが突き進んで行くであろう方へと魔法を放った。
―― ボンッ! ――
炎は木々の間に着地して、大きな音を出して爆ぜる。こうして2匹の進路を妨害しつつ、音と炎で怯ませているのだ。
さすがのビッグボアもそれを見て手前で減速すれば、そこはちょうど3人の前となり、左右から挟み込むようにしてルースとフェルが剣を振る。
― ザクッ ―
― ザクッ ―
しかし2人の剣は、魔物の表面をかすった程度しか、ダメージを与えられなかった。
今当たった剣の感触は“硬い“のだ。
「うっ」
フェルが思わず声を出す。ビッグボアの皮の硬さにびっくりした様だ。
「かたい」
ルースもその感触に驚く。
前衛の2人は、何でもない事の様に切り付けていたのだが、実際に剣を当ててみれば、それはとても硬いものだった。やはり先輩たちは経験を積んでいる為か、ルース達がまだ少年だからかは分からないが、歴然の差がそこにある事を痛感する。
ルースは意識を切り替え、魔物と対峙する。
地上の5人は、走り回るビッグボアに当たらない様かわしながら、ルースは両手に力を込めて剣を振っていく。
そして新人2人の援護には、木の上から矢が魔物へと降り注がれる。
カーターも少し離れた場所へ火球を出しながら、魔物の動きを乱すために援護してくれている。
ニードとクーリオの相対していた魔物が倒れれば、残りはルース達が相手をしている2体となった。
「ルース、フェル、2人は1体に集中してくれ」
ニードからの指示が入る。
「「はい!」」
ルースがフェルへと近付き、フェルが対峙していたビッグボアへと集中する。
もう1体はすかさず近付いたニードとクーリオが、ルース達の方へと行かない様に制御しつつ、剣を振るって対峙する。
ルースとフェルから少し離れ、カーターはルース達が危なくなれば魔法を放てるように、待機してくれていた。
そして木の上からも、魔物の行く先を阻むかのように時々矢が降ってくる。
銀の狩人の皆は、こうして2人に危険がないよう見守りつつも、しっかりと魔物と戦う訓練をさせてくれていた。
―― ザクッ!! ――
ルースの突き出した剣が、ビッグボアの胸を突き刺した。
『グギィーイ!!』
「フェル!」
それでもまだ倒れない魔物に、ルースがフェルへと追撃を頼む。
「おう!」
―― グサッ!! ――
フェルが横から突き刺した剣は、後方から前方へと斜めに深く刺さり、腹から剣が沈み込むとビッグボアはその場で横へと倒れた。
―― ドサッ! ――
少しずつ剣を当てて薄くなった所へフェルの剣が刺さり、止めをさしたのだ。
やっと終わったと周りを見れば、銀の狩人4人がそっと2人を見守ってくれていた事に気付き、ルースは荒い息を吐きながら、彼らへと笑顔を向けたのだった。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。
ルースのお話を、最初に投稿してから丸一か月経ちました。
これからも、毎日更新をしていきたいと思っています。
これからも引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。