表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/348

【39】泣きっ面に蜂

「すんげー疲れたな…」

「はい」

 2人は歩きながら、そんな会話をしていた。


 先程切り出した素材は、牛のクエストで借りたマジックバッグに入れさせてもらった。一応、帰りは使って良いと言われていたこともあり、肉は布で包み、皮と一緒に入れさせてもらっている。その為、荷物の重さは変わっておらず、それだけはとても助かっていた。


 先の戦闘で疲れてしまった2人は、言葉少なく、黙々とカルルスを目指して歩いて行った。

 やはりあそこで時間を取られてしまったために、朝出てきた村からは夕方までに着く事が出来ず、辺りは夕闇に染まりつつある。

 予定では、早々にカルルスに戻るつもりでいたのだが、これは仕方がないとはいえ、少々キツイことは確かである。


「なぁ…今日中に戻れるかなぁ」

「たぶん…」


 ルースから心もとない返事が返ってくるも、疲れ果て、突っ込む事さえできないフェルであった。

 服も魔物の解体で汚れてしまっており、早く帰ってさっぱりしたいのにと、2人はそんな事を考えつつ、夜遅くになって、やっとカルルスの門前へと辿り着く。


 だが、辿り着いた時にはもう夕食の時間をとうに過ぎている頃で、その為大きな門は閉ざされていた。

 取り敢えず、門の横にある小さな扉へと向かってみる。


「開けてもらえなければ、野宿って事か?」

「ええ…」

 2人のしおれた声が、夜の闇へと溶けていく。


 門が締まっているカルルスを初めてみた2人は、夜勤で配置されている門番がいる事も知らずに戸惑っていたが、扉を叩いてみるしか方法が浮かばず、それを叩く。


 コンッコンッ


 すぐに中から反応があり、カチャリと鍵を開ける音がして扉が開いた。

 しかし、ガルムの血で汚れた少年2人が暗闇の中で立っている姿に、ギョッとして狼狽えた門番は槍を向け、動かない2人へと声を掛けた。


「…人間か?」

「「………」」


 まさか、そんな問いかけがくるとは思っていなかったルースとフェルは、血で汚れている自分達を忘れて固まっている。


「おいっ」


 再度声を掛けられ我に返ったルースが、ペコリと頭を下げてお辞儀をした。

「こんば…は。とぉれま…か?」

 とぎれとぎれの言葉で一層怪しさを増してしまった2人に、更に槍を突き出されて後退る(あとずさる)ルースとフェル。


「え?夜は通っちゃダメなのか?」

 フェルが困り果てて声を出す。

「怪しい奴らだな…」


 容赦のない言葉を掛けられ固まる2人は、自分たちの姿を確認してルースが眉を下げた。

「俺達は、怪しいものじゃないです!E級冒険者のフェルとルースです!」

 焦ったフェルが、そう大声で訴える。


 フェルの大声を聞きつけたのか、門番の後ろから別の人物が顔を出した。

「おや?君たち、どうしたんだ?その恰好は…」


 そう声を掛けてきたのは、銀の狩人と一緒にいたときに見掛けた門番のサムだった。

「サム、知ってる奴か?」

「ああ。前に、別の冒険者と一緒にここを通った少年達だよ。それで、どうしたんだ?その血は…」

 サムは門番と話してから、続けてルースとフェルへ問いかける。


 ルースが解体の時に付いた血で、服が汚れている事を聞いているのだろう。

「これ…まものの処理で…」

 ルースの解体技術が未熟なため、服を汚してしまったと言いたいのだが、うまく説明する事ができない。


「ん?魔物と言ったのか?…確か冒険者登録は、したばかりのはずだったな?」

「はい。俺達はまだE級です。さっきキニヤ村から戻ってくる途中で、魔物に襲われて…」

 フェルがそう伝えれば、門番2人の顔色が変わる。


「おい…」

「ああ…」

 門番たちに緊張が滲む。

「怪我はなさそうだな。魔物が出たのはどの辺りだ?」

 最初に立っていた門番が、2人へ尋ねる。

「この先の道、森が近付く辺りです。ここから半日位の場所でした」

 と、フェルが大体の場所を伝える。


「この前も、あちら側で出たって話だな。今度はこっちの道か…」

「物騒だな…」

 そう門番たちは話しているが、早く町に入りたいルースとフェルは顔を見合わせた。


「あぁ…悪い。一応、冒険者カードを出してくれるか?」

 そう言ったサムは、2人の冒険者カードをもう一人の門番と確認し、ルースとフェルへやっと町へ入る許可が出た。


「悪かったな」

 門番はそう言って謝ってくれるが、怪しい者を町へ通さないのが門番の仕事だ。

「お騒がせしました」

 と2人は謝って、無事に町へと入っていく。


 やっと入れた町も、2人の血で汚れた服は目立つ様で、すれ違う人もこちらに気付けばギョッとした顔をする。

 これは早く帰って着替えなくては…。2人は足早に、冒険者ギルドへと入っていったのだった。



 やっと冒険者ギルドへ入ればもうほとんど人はおらず、数人が奥のテーブルで食事をしている位で、後は受付に立つ職員一人だけだ。

 ルースは、この時間に職員がいる事に驚くも、まぁ扉が開いている以上、職員はいないとおかしいのか、とも思う。一応冒険者ギルドへ来てみたものの、もしかしたら、もう業務は終了し職員も不在なのではと心配していたのだった。


 2人が受付まで行けば、汚れた服を着た2人に驚いた顔を見せた職員だったが、そこはやはり冒険者と接しているだけあり、すぐに冷静な顔へと変わる。


「こんばんは。まだ窓口はやってますか?」

 フェルがそう声を掛ける。

「こんばんは。遅くまでご苦労様です。はい、まだ業務は行っていますよ」


 にっこり笑って話をしてくれる職員は男性で、胸元のプレートを見れば“フランク・ローパ“と書いてある、2人は初めて見る職員だった。


「えっと…クエストが終わったので、その報告をしたいんです」

 フェルがルースに代わりそう話すと、隣のルースはクエストの書類をフランクの前に出した。


「はい。では処理をさせていただきますので、カードもご提示ください」

 言われて2人は、慌ててカードを出す。するとフランクは、テキパキと作業を進めて行ってくれた。


「では、こちらのクエスト2件は完了です。それにしてもお二人は、魔物にでも会われたのですか?」

 血で汚れた衣服をまとった2人へ、フランクが心配そうに声を掛ける。

「あ…すぃませ…。よごれて…」

 ルースが申し訳なさそうに眉を下げると、フェルが続きを引きついだ。

「クエストの帰りに、ゴブリンとガルムが出たんです。そのガルムを解体した時に、服が汚れてしまいました」

 フェルの服も、ガルムを動かす手伝いをした時に血がついてしまい、2人共汚れている状態なのだ。


「そうでしたか。お怪我がないようで安心しました。ところで今、ガルムと言われましたか?」


 フランクが2人へ視線を向ければ、ルースは牧場のアランから借りているマジックバックから、ゴブリンの耳とガルムの素材を取り出し、フランクの前に置いた。

 それを見たフランクは、目を見開く。


「ガルムですね…」

 そう呟いたフランクへ遭遇した場所も話し、それは森から出てきたと言えば、納得したようだった。ガルムは森の中にいる魔物なので、たまたま遭遇したルース達は、運が悪かったという事の様だ。


「それで、これの買取もお願いします」

「では、確認いたします」


 ガルムの素材を見ていくフランクだが、段々と眉が下がってきた様に見える。

「解体は、初めてでしたか?」

 その言葉に、2人は素直に頷いた。


「そうですよね…まだE級でしたね。という事は魔物にも初めて会いましたか?」

「いえ、ゴブリンとガルムは初めてじゃないです。前にも戦いました」

 フェルの言に何かが思い当たったのか、フランクは2人の情報を魔導具で確認していた。


「ああ…先日のガルムが出た時に、居合わせていた方々でしたか」

「はい。その時は、銀の狩人の人に解体してもらったんで、自分たちで解体したのは初めてでした」


 フェルの話に納得したのか、フランクが頷く。

「初めての解体であれば上出来…というところですが、素材としては少し値が下がりますね。それでもよろしいですか?」

「はい」

「では、ガルムの方はお預かりして、後日ご入金させていただきます。ガルムとゴブリンは、ポイントを加算しておきますね」

「ポイントを加算…?」

 そこでフェルが呟いた。


「ええ。クエストや魔物にはそれぞれ、ポイントが設定されています。先日のガルムもそのポイントが加算されて、お二人はF級からE級へと昇級したのです。そして今回のゴブリンとガルムも、本日ポイントを加算させていただきます」

 フランクはそう言って、手際よく魔導具へ入力してくれた。


「あり…とうござぃます」

 話し辛そうにしているルースへ、フランクが笑顔を向ける。

「冒険者になりたての人達には、声変わりの方もよくいらっしゃいますから、気にせず話して下さって大丈夫ですよ」

 と、男ゆえの苦労を解ってか、そう言って気遣ってくれるフランクであった。


「あり…とぅござぃます。それで…かぃたぃのコツ…ありますか?」

 上手く解体できなかったルースは、何がいけなかったのかを知りたくてフランクに尋ねれば、フランクは快く目の前の素材を使って教えてくれる。


「まずは血抜きをしますが、時間がなければ内臓を傷つけない様、この肉の部分…このように筋肉の繊維が通っています。それに沿って刃を当てると、力むことなくきれいに切り分けできるそうです。それから、皮をはぐときは、後ろ…ガルムで言えば尻尾の方から刃を入れると、抵抗が少ないと聞いています」


 ルースはそこまで気にしていなかった為、皮は頭の方から刃を入れて剥いだのだ。そういえばスカニエルも、尾の方からやっていたなと思い出し、「勉強になりました」とフランクへ、しっかりと頭を下げたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ