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【38】悪戦苦闘

「フぇル…休憩してぃる暇はなさそぅですよ」

「う゛~」

 ルースの言葉に森に視線を向けたフェルが、唸り声をもらす。


 今の戦闘音で気付かれたのか、それとも血の匂いか…。森の中から先日見た覚えのあるガルムが1匹、飛び出してきていたのだった。


「またアレかよ…」

 フェルも、カルルスへ向かっていた時に見た魔物を覚えているらしく、そんな言葉を呟くが、この魔物はただのE級冒険者が、相手を出来る魔物ではないだろう。


「……」

 ルースは魔法が使えないかもしれないのだ。先程はたまたま一度で発動できたから良かったものの、魔物に対する魔法は、焚火に火を着ける時の様に何度も機会を与えてくれるとも思えない。


「フぇル…」

 かすれた声の呼びかけに、ルースの懸念を察したフェルが苦笑をもらす。

「ああ…俺も多少は腕を上げているはずだから、何とかなるかもしれないし、何かあればポーションを頼むよ」

「はい…」

 冗談なのか気安く言うフェルに、ルースはそれもしっかり考えていた。


「きます」

「おう」

 2人はゴブリン達から離れ、足場を確保するために平原へと入っていった。


 駆け出してきたままの勢いで、離れて立つ2人の内、フェルへと飛び掛かったガルムは、剣を構えてたフェルが横へ転がり出た為に、2人の後方へと抜けてクルリと向き直る。

 ガルムは、チラリとゴブリンを見てから2人へ視線を戻した。今の様子からすれば、血の匂いでここへ出てきたのだろうと推測できた。


 2人と1匹は間合いを取って対峙する。


 ここまで1週間以上、文句を言いつつも毎日剣の練習でルースから指導を受けているフェルも、むやみに突っ込んで行く事もなく、様子見できるまでには余裕が出てきている様だ。

 というか、フェルは隣にルースがいる事で、安心できているだけなのだが。


 ガルムが動いて今度はルースへ飛び掛かる。

 ルースは“土壁“と一応魔法も唱えるが、やはり発動はせず剣を横なぎに振る。だが、俊敏な魔物はスルリと避けて、再度向かってくるのだった。

 ガルムの素早い身のこなしは、2人の速度では追いつかない。

 ルースに向かうガルムにフェルも動くが、それすらも気付かれていた様で、2人は一方的に振り回される形となる。


 魔法がなければ戦闘経験の少ない2人に、ガルムは荷が重い。

 たかがガルム1匹にと、ルースは眉間にシワを寄せた。


「フろ…」

 ルースは小声で呟く。

 ここ数日、ルースが考えていた魔法を試しているのだが、やはり声が途切れて認証されないらしい。しかし、一度では無理でも、これは魔物に対する魔法ではない為、タイミングも何も関係がないので、ルースは気合を入れ直し呟き続けた。


 その間にもガルムは右へ左へと位置を変え、まるでステップを踏むように2人へアタックを掛ける。

 フェルは剣を前に出し、取り敢えずはガルムの攻撃をまだ直接受けずに済んでいる。

 ルースも動き回るガルムに剣が当てられず、はたから見れば2人はガルムにもてあそばれている様にして、剣を振るっていた。


「“風衣(フロー)“」


 ルースが発した言葉がやっと音となり、ルースの体に薄い風を纏いつかせた。

 ルースは自分と剣を軽くするために、風衣(フロー)という魔法を発動させようとしていたのだった。それはルース自身と剣に風を乗せて速度を上げる魔法で、自分にブーストを掛ける効果が期待できるものだ。

 そして期待通りその風が乗った剣は、先ほどよりも軽く素早く動き出す。


 フェルもルースの動きが変わったことに気付いたらしく、ガルムの後方へと移動して行った。ガルムの正面はルースが、ガルムの後方からはフェルがつく形で陣形を組む。

 ルースはガルムを自分へ引き付ける為に、絶え間なく剣を動かしていく。


 ―― ズバッ! ――


 ガルムの背後から、フェルが水平に振った剣が背中を切り付け、フェルへと視線を向けたガルムが動く。

 飛び掛かるガルムにフェルが横へ飛べば、執拗に追いかけるガルムにフェルが焦りだす。


「フぇル!」

 ルースが走り出し、フェルの前に出て剣を振り下ろす。袈裟懸けに繰り出した剣は、向かってきたガルムの正面をとらえた。


 ―― ザクッ!! ――

『ギャウンッ』


 片目に剣先が当たったガルムは、血を流しながら後ずさる。

 片目になった事で間合いが取れなくなったのか、動きが鈍っている。


「フぇル!」

「おう!」

 2人はこの機に足を踏み出し、ガルムへと駆け出す。

 左右に別れた2人に、ガルムは一瞬のためらいをみせ…その隙をついて2人は同時に剣を振るった。


 ―― ザクッ!! ――

 ―― ズバッ!! ――

『ギャー!!』


 2人の剣はガルムを深く切りつけ、大量の血があふれ出す。


 ― ドサッ ―

 ガルムは自重に耐えかねたように、その場で膝を折った。

『ガルルル…』

 しかし、まだ生きている。

 深手を負わせはしたが、まだ(とど)めは刺せていないのだ。


「フぇル!」

「おう!」


 ルースの声にフェルが動き、フェルはガルムの首に剣を振り下ろす。


 ―― ガツンッ! ――

「いってぇ」


 フェルの剣は首を落とすことは出来ず、半ばで止まってしまった。やはり少年の腕力では、魔物の首を断つことは出来なかったのだ。

 それに、衝撃で手に痛みが走ったフェルは、思わず剣から手を放してしまったのである。


 しかし、まだ途中までではあるものの、ガルムの首に剣を落とした事で、ソレはやっとこと切れた様だ。

 ドサリと体を地につけたガルムから、カランとフェルの剣が転がり落ちた。


 ルースとフェルは肩で息をしながら、さすがにそのまま立ち尽くしていた。

 ゴブリン4体を倒し、立て続けにガルムと戦ったので、かなりの体力を消耗していたのだった。


「おわった…のか?」

 フェルの声にルースは頷きを返す。

 辺りに魔物の気配もないので、今度こそ戦闘は終了と言ってよいだろう。


「一匹で…たすか…ました…」

「いや、この一匹は余計だよ…」

 それぞれの感想をもらせば、2人は顔を見合わせ苦笑する。


 2人は息を整え、まずは現状の確認をする。

 ガルムが出た事で道から外れ、2人は森と道との中間位へ移動していた為、ガルムを引きずってゴブリンが転がる場所へと移動する。


 ゴブリンは一応耳を切り、後は処分だ。ガルムは前回教えてもらったように、皮を剥ぎ、肉を切り出すことにする。


「俺はゴブリンの耳を切るから、ルースはガルムを頼むな」

 勝手にフェルが分担を決めたらしく、ルースへ声を掛けた。まぁルースも、言われなくても自分でやるつもりだったのだが。


 それに、今までは町中でのクエストばかりだった為、魔物と対峙すること自体が冒険者になる前の、あの日以来という事になり、ルースもフェルも当然、魔物の解体は初めての挑戦である。


「…わかり…した」

 ルースは、スカニエルがやっていた解体時に手元をじっと見ていた為、何とか作業内容は覚えている。しかし、見るのとやるのは大違いであるという事は、今までの経験から既に学んでいる。


「スカ…エルさんのよぅには、ぃかない…思います」

「おう、わかってるって」


 フェルは、自分がルースよりも不器用である事をわかっているので、ルースに頼む形をとったのだ。任されたルースは緊張しつつも気合を入れ、ガルムを見つめた。

 それから腰に差している小さなナイフを抜いたルースは、初めての魔物解体という作業を始めたのだった。



 スカニエルよりも随分と時間をかけ、皮を剥ぎ、肉を切り取っていく。簡単そうにやっていた作業は、ルースにはやはり難易度が高いものだった。

 切り出した肉はガタガタで、力を込めねば刃も通らなかった為、かなりの重労働となった。


 やっと解体が終わったルースは、長いため息を吐く。

「はーーーーー。……」


 見学していたフェルはそれを見て、やはり自分がやっていたら、もっと大変な事になっていたであろうと思っていた。フェルは案外、自分の事を解っているらしい。


「これぃじょうは…ムリです…」

「おう」

 フェルは“おう“しか言っていないが、一応押し付けた事も自覚しているらしく、労いを込めた視線を向ける。


 残った残骸とゴブリンを何とか燃やして処分した2人は、ここで随分と時間を取られてしまったため、休憩もそこそこに、再びカルルスの町へと歩き出して行ったのだった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

明日も引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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