表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/348

【35】配達先

 翌日の夕方前には、キニヤ村へ無事到着し、今2人は村の入口に立っていた。

 仔牛を連れていた為、2人で歩く時よりも当然ペースは遅くなったが、まあ、それでも許容範囲内だろう。

 そして魔物に会う事も危惧していたが、こちらも幸いそれは回避できた様で、2人はホッと胸を撫でおろしていた。

 後は仔牛と手紙を渡せば、一応届け物は渡したことになる。


「先に牛…か?」

「はい」

 2人は頷きあって村の中へと入っていく。


 村を出たばかりの2人には、目の前に広がるのんびりとした雰囲気は、少々ホッとする気もする。

 人も少なく緑豊かな景色に、少なからず癒される思いの2人だった。


「誰に持ってくんだっけ…」

「ブルーノ・フぁロス…さんです」

「おう」


 フェルの問いにルースがクエストの書類を確認すれば、取り敢えずはそのまま道なりに奥へと進んで行く。

「あれっあそこに人がいるな」

 フェルが奥の畑で立っている人を指さす。

 そろそろ畑仕事が終わろうとしている時間の為、人が少ないようではあるが数人の姿を見つけ、ぎりぎり間に合ったという所だろう。

 これ以上遅くなっていれば皆家の中に入ってしまうだろうし、人に聞く事もできなかっただろうとルースは思った。


「あの人に声を掛けてみよう」

 フェルに続いてルースも歩いていくが、ルース達が気付く前に牛を連れた見知らぬ者がいれば、当然村の者が先に気付く訳で、畑にいた村人から2人のそばに近寄ってきた。


「何だ?どうかしたのか?」

 近付けば2人が少年だった為だろう、多少警戒を解いた村人が、そう言って2人に声を掛けてきた。


「俺達は、カルルスの冒険者ギルドのクエストで、この牛をブルーノ・ファロスさんに届けに来たんです」

 フェルの言葉を聞いた村人は、笑顔を見せて頷いた。


「そうか。遠くから大変だったなぁ。ブルーノの家はあそこだ」

 と、後ろを向いて村の奥を指さす。

「あの青い屋根の家…ですか?」

「ああ。家の裏で動物を飼っているんだ。行けば鳴き声がするから、すぐに分かるぞ」

「わかりました、ありがとうございます」


 フェルがそのまま歩きだそうとすれば、ルースが声を出す。

「ぁの…ロドロスさん…家は…」

 ルースの言にそんなのもあったなと、フェルが話を引き継ぐ。


「すいません。手紙も届けるので、ロドロスさんの家も知りたいんですが…」

 村人はルースから視線をフェルに向け、そういう事かと頷く。

「手紙…ノーラか?ロバートも喜ぶな」

 カルルスの町へ、彼の娘が行っている事を知っているらしい男性は、嬉しそうにロドロス宅も教えてくれた。

「ありがとうございました」


 今度こそ2人は会釈をして、ファロス宅へと歩き出した。

 少ししてその村人から離れれば、フェルが小声で言う。

「明日はロバートさんって人、皆に色々聞かれるんだろうな」

 と、可笑しそうに笑っている。


 村では小さな話も皆に筒抜けになる為、今日の事が翌日には村中で知らぬ者はいないという有様だ。

 それを知っている2人はフェルの言葉に笑いながら、仔牛を届けに青い屋根の家へと向かった。


 そのファロス宅へ近づけば、教えられた通りに動物の鳴き声が聞こえてくる。

 “ココッ コッコッ“

 鳴いているのは鶏だろうし、家の前には猫が丸まって寝ている姿も見える。


「いるな…動物」


 フェルの言葉にルースも頷けば、2人は家の前に辿り着く。先程こちらに気付いた猫は、既に姿を消していた。

 仔牛の綱をルースに預け、フェルは家の扉をノックする。


 コンッコンッ

「こんにちは!」

 フェルが元気よくそう声を出せば、ルースの連れている仔牛がビックリした様で、嫌がる様に3歩後ろへ後退し、当然ルースも引きずられてよろける。

「………」


 体勢を立て直してフェルを睨めば、ルースへ振り向いたフェルが「へへっ」と苦笑する。

「わるい…」

 と、一応謝るフェルだった。


「はいはい」

 遅れてその頃、中から声がしたかと思えば家の扉が開き、細身の男性が顔を見せた。

 その人物は一瞬キョトンとしたものの、仔牛を目に止めると満面の笑みを浮かべる。

「ああ…」

 外へ出てきた男性は30代位、仔牛にその顔を向けて嬉し気に微笑む。


「キーニヤ」

 そう声を発する男性に、何の事かと思ってみれば、仔牛のところまで行って頭を撫でながら、「キーニヤ」と呼んでいる。

 きっと、この牛が来る前から名前を考えていたのだろうなと、ルースが微笑んでみていれば、その男性は2人へ振り向き、今気付いたかのように苦笑した。


「悪い、キーニヤしか見えてなかったよ」

 そう言いながら頭をかいている。余程、仔牛が来るのを楽しみにしていたのだなと、初対面の2人にもそれが分かるほど、この人の態度はあからさまであった。


「あの…俺達はカルルスのディートルさんに頼まれてきました、フェルとルースです」

 フェルがそう話せば、その男性も自分が“ブルーノ・ファロス“だと名乗った。

 何だか順番がグチャグチャにはなってしまったが、これで一応、仔牛を渡したことになるのだろう。


「こち…に、サイン…」

 ルースがクエストの書類を出して、ブルーノに差し出す。

「ああ、そうだったね」

 と手早くサインをしてくれたブルーノは、仔牛の事が気になるらしく仔牛の頭を撫でまわしていた。


 ルースがフェルに視線を送ると、フェルが(いとま)を申し出る。

「ああ、ありがとう。ディートルさんによろしく」

 そう言ってそそくさと、仔牛を連れて裏へと連れて行ってしまった。


 ルースとフェルは、そんなブルーノを見送って一つ笑うと、次のクエストの手紙を渡しに、今度はロドロス宅へと向かった。


「よっぽど待ってたんだな」

「え゛え」

 嬉しそうな人を見れば、届けたこちらまで嬉しくなるものだなと、2人は笑いながら歩く。

 次のクエストでこの村の用事は終わるが、そろそろ夕日の赤い光が村を照らす時間となっていた。


「フぇル…今日は村の外…野営になりますね」

「あーそうなるのか。やっぱり2日じゃ終わりそうもなかったな」


 2人はカルルスを出てから仔牛のペースに合わせて歩いていた為、クエストの日程が延びそうだなと話していた。普通に歩けば1日で済むかもしれないが、やはり動物を連れていたので、思っていたよりも時間がかかってしまっていた。


 フェルの言葉にルースも苦笑を返すが、まぁ収入面では3日になってしまったところで、目標はクリアしている為、そこまで焦っている訳でもない。

 今回は、一応何があるのか分からなかったので、保存食も多めに用意していた事も功を奏した。“転ばぬ先の杖“である。


 そうこう話している内に、2人はロバート・ロドロス宅へと到着し、ルースがフェルに頷けば、フェルは扉をノックする。


 コンッコンッ

「こんばんは。ロバートさんはいますか?」

 今度は、普通の音量でフェルが声を掛けた。その様子にルースは苦笑している…“今更ですね“と。


「はい」

 歯切れの良い返事がして、家の中から中年の男性が姿を見せた。

「私がロバートですが…どちら様?」

 とその男性が声を出す。


「俺達、カルルスの冒険者ギルドから来ました、フェルとルースと言います。ロバートさんに、ノーラさんから手紙を預かってきました」

 フェルがそう名乗れば、ロバートは目を見開いて破顔する。


「ノーラの手紙を持ってきてくれたのか、ありがとう」

 と、一気に雰囲気が柔らかいものとなった。


 ルースは、荷物から手紙を取り出しロバートに渡してから、手早く書類にサインをしてもらった。

「ありがとう」

 ロバートは、その手紙を大事そうに握り締めている。


「君たちは、もう帰るのかい?」

 ロバートがそう2人へ切り出したので、村の外で一泊しますとフェルが話した。

「じゃあ、今日はうちに泊まりなさい。この家には私しかいないから気兼ねしないだろうし、部屋もある。ついでに夕食も食べていくといい。今できたところだからね」


 そうロバートからありがたいお誘いをいただいた2人は、お言葉に甘えて、喜んでお願いしたのだった。


「じゃあ入ってくれ」

 そう言って2人を招き入れたロバートは、柔らかな表情をルースとフェルに向けたのだった。


拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

明日も更新いたします。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ