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【343】黒き影は人にあらず

「……“心の精霊(カルディア)”」


 ルースの囁きはとても小さいものであり他の皆は聴こえた様子もない中で、遠く離れて佇む黒い影の気配が膨らみ大きく手を上げたのだった。


「―!― 来ます! “水壁(アクアウォール)“」

 ルースが皆を隠す程の大きな壁を作った途端、それが打ち抜かれた様に弾け飛んで空に散っていった。


「なっ!いきなりかよ!」

「あれが何かと、確認するまでもない様だな…」

「ソフィー、魔法をお願い!」

 デュオがすぐに戦闘に入れる様にと、ソフィーに加護を依頼する。


「わかったわ! 勇気は善に、その輝ける魂を、慈悲と恵愛を以って導きたまえ。“聖者の加護セイントプロテクション”」


 その眩しい光は、ルース達5人を包み込んで消えて行った。

 ルースは加護の魔法を受け取ると、最後まで残らねばならないソフィーを下がらせる。


「ソフィーは障壁を張って離れていてください!」

「みんな頑張って!」

「はい!」


 ルース達はソフィーの声援に応え、彼女が下がって行くのを視線の隅で見届けてから武器を構え直す。

 その間にその黒い影は、一歩一歩ゆっくりとこちらへと近付いてきていた。

 そして少しずつ近付いてくるその黒い影からは、距離を詰めるごとに重く圧し掛かってくるものがあった。


「なんつー圧だよ」


 フェルがギリギリと奥歯を噛んで、その威圧に耐えるように眉をひそめた。キースとデュオもまだ何もしていないのに、額から汗が伝い落ちている程である。ルースも奥歯を噛みしめ、その圧に屈しないように腰を落としながら下半身を固定する。


「もう準備はいいのか?人間」

 ルース達をただの物のように言い捨てる黒い影は、長い髪を靡かせて歩き、その距離は後40mへと迫っている。


「あれが精霊だったと言われても、にわかには信じられない程に禍々しいな…」

「しかも何でアレが結界の中に入ってこれるの?」


 混乱している2人が、それぞれに言葉を落としている。

 キースが言う禍々しさは尋常でなく、精霊が纏うものとは乖離(かいり)している。そしてデュオが言うように、悪意を弾く結界になぜ彼が入ってこられたのかも謎であった。

 しかし、ルース達にそれを知る術はない。


「今度の人間は、多少は手応えがありそうだ。これまでの人間は、全て虫けらであった」

 身に纏う長いチュニックの布を靡かせ、まるで地を滑るように近付いてくる黒い影。


「言いたい放題だな…」

 チッとフェルが舌打ちすれば、見えない視線がフェルに向かう。

「ほお、前にも見た顔だ。では今回も虫けらだな?クックック」


 何が可笑しいのかは理解できないが、今の話しから闇の魔の者も前回の記憶が残っているとルースは気付いた。

「覚えている…?」

 とルースが独り言ちたところで、デュオが焦ったように叫んだ。

「みんな!気圧(けお)されてる場合じゃないよ!」

 そう言い放つデュオは一早く戦闘状態に入り、矢筒から聖魔力の乗った矢を番え放つ。


 ― ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ ―


 その声でルース達も我に返り、即座に戦闘態勢に入って散開する。そこで真っ先に魔法を放ったのはキースだ。


「“竜巻槍(トルネードランス)“」


 渦を巻く風の槍が、デュオの放った光る矢を追随するように40mまで距離を詰めていた黒い影に向かって行った。しかし黒い影は片手を上げ、それを薙ぎ払うような仕草だけで簡単にそれらの軌道を変えさせると、攻撃は離れた木々の中に落ちて行った。


 ― ザクッザクッザクッ ―

 ―― ドーンッ! ――


月の雫(ムーンドロップ)!!」

 その音が聴こえると同時、黒い影に迫っていたフェルが輝く剣を横凪に振った。


 ― ガキンッ! ―

「んなっ!」


 驚愕したフェルの顔が、至近距離でその黒い影を見つめる。

「ふん。これでは嬉戯(きぎ)にもならんな」


 その言葉通りフェルの振り抜いたはずの刃は、その刃先を握る黒い手の中で止められていた。

「ぐっ…」

「フェル離れて!」

 ルースも敬語を話す余裕もなくそう叫んだ。


 その声には黒い影が応えたかの如くフェルの剣から手を離すと、フェルの腹部に魔法を当てて吹き飛ばしたのだった。


 ―― ズドンッ! ――

「ぐはっ!」


 そのフェルは勢いよく、ルース達の後方まで飛ばされて行く。そして芽吹き始めた樹木に激突して地に落ちると、地面に膝をついてフェルは血を吐き出した。


 ―― ドーンッ! ――

「ガハッ!」


「キャー!フェル!」

 そこに駆けつけるソフィーが見え、ルースはそんなフェルから視線を外した。


 ギリリとルースは奥歯を噛みしめる。やはり人の力は遠く及ばず、ソフィーが能力値を上げてくれてさえ、この違いであると知る。

 だが前回はこのソフィーの加護さえない中での戦闘だった事を思えば、ルースはまだ始まったばかりであると気を引き締めた。


 その時、後方にいたはずのシュバルツが隣に舞い降りてきた。

 その姿は凛々しく、背筋を伸ばし闇の魔の者を見つめる眼差しの中に、ルースは煌めく光を見付けた。

『我も援護しよう』

「良いのですか?」

『フン。我もあれには一矢報いたいと思っていたところだ』


 以前シュバルツからは闇の魔の者と対戦した時に受けた闇魔法で、聖獣としての存在を消されていたと聴いていたのだ。


「そうでしたね。それではお願いします」

『了解した』

 ルースは促されてその背の上に乗り立ち上がると、シュバルツは一気に空へと舞い上がって行った。



『おい、お前は何をボサボサしている。我の背に乗れ』

 デュオが声の主を振り返れば、ブリュオンがデュオを見下ろしていた。

「…うん!ありがとう!」

 デュオは何もいう事なくその申し出に有難く返事をすると、ブリュオンの背にまたがり矢を番えた。

『では我らも行こう』

「はい!」


 こうしてブリュオンは地を蹴って走り出していった。

 ブリュオンは速い。間合いを取りながら走るその背から、デュオは続けて矢を放っていく。その矢は光り弧を描き、黒い影へと降り注いでいく。

 だがそれは全てが弾け飛んだかのように軌道を変え、バラバラと周辺に落ちて行った。


『当たらなくても良い。他の者達への注意を反らせるんだ』

「うん!」

 ブリュオンの助言に従い、デュオは魔力の矢と聖の矢を織り交ぜながら、その気を散じるだけでもと、矢を打ち続けていくのだった。


 そんな中でキースは、ソフィーとフェル達の前に立ちはだかる様にしてロッドを構えている。

 “この先には行かせない”

 そう言いたげな眼差しは、悠々と歩いてくる黒い影に固定されていた。


 その隣にスッと気配が並び、その温もりにキースは勇気を得る。

「良いのか?出てきて」

『ふん。魔の者には出鼻をくじかれたからね。あいつに仕返しくらいはしたいかな』

 カカッと笑って目を細めたアルデーアに、キースはひとつ頷いて返す。

「ああ、それは良い」


 キースが同意すればアルデーアは隠蔽の魔法を掛け、キースと自分を隠した。この魔法は姿だけでなく気配も消すことができる為、アルデーアは幻獣と呼ばれているのである。ただし、掛かっている本人たちは互いに姿を認識する事ができた。


 と、ここでキースはこの機を利用し、無詠唱での魔法発動を試みる。皆が離れている今こそ、キースが魔法を打ち込む時だと判断し、イメージを膨らませ、放つ魔法を最大値まで引き上げてキースはロッドを掲げた。

 そして黒い影の周りに誰もいない事を確かめると、キースは以前使った時のイメージを更に効果の大きなものへと変換し、聖魔力を織り交ぜた魔法を放つ。


(“氷杭(アイスピケット)“)


 ――― ドォンッ! ―――


(“雷激爆(サンダーバースト)“)


 ――― ドドーンッ! ―――



(“超火焔乱舞オーバーフレイムロンド”)

 ――― ドドドォーンッ! ―――


 キースは魔力をロッドに託し、魔法を連発していった。

 そして最後に放った踊る炎は闇の魔の者がいた場所に着弾し、爆発と共に暗闇を明るく照らした。

 その時上空にいたシュバルツから炎に飛び込むように、ルースが剣を振りかぶって舞い降りていった。


 そのルースの姿は一瞬にして炎に包まれるも、次の瞬間にはその炎は何もなかったかの如く消え去り、傷一つなく立つ闇の魔の者が、目の前に立つルースの剣を素手で受け止める姿が露見したのだった。


こんばんは 盛嵜です。

いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

重ねて誤字報告もお礼申し上げます。<(_ _)>


いよいよ“月明かり”に突入し、そして例の彼もやっと出てきました。笑

人には滅ぼす事のできない精霊の成れの果て…ルース達はそれをわかって戦闘を開始しました。

物語は後数話…。

ここまでルース達の長い旅路にお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。

そして最後までお付き合いの程、何卒よろしくお願いいたします。<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 わかってた事ですが、やはりめちゃくちゃ強ぇ…!? 正直逆転の一手が見えないなぁ……せめて剣の穴の謎とか解けていれば、また違う盤面になってたかもですが。 それでは今日はこの辺りで…
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