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【340】白黒黄青

 万全を期すために、その日の夜は魔巣山が見える山の麓で野営をする事となった。辺りが既に暗くなり始めていた為に、これ以上動く事は危険だとも話し合い、再び明るくなってから前回ルース達が渡った場所まで移動する予定になったのだ。



 そしてその夜、火の番を交代して眠りについたルースは、再びルミエールが居る夢の中にいた。

 今日の夢ではルミエールが魔巣山に辿り着き、物語に書かれたように()と対峙していたのである。


 そして闇の魔の者の名前を呼ぶルミエールは、今ルースの視点となっていた。

 自分の中から溢れ出す感情が、自分のものなのかルミエールのものなのかが分からない位、ルースは変わり果てた友を見て悲しみに囚われるのだった。


 そうしてやっと友の胸に剣を突き立てる事ができたところで、約束を果たす為にしなければと左手を見れば、握っていたはずの物が無くなっている事に、その時気が付いたルミエールだった。


「まさか…そんな…」

 ルミエールは約束が果たせぬと、絶望に駆られていた。

「これでは君を助けられない…ごめん…ごめんね、…ル…ィ…」


 そうして絶望の中でもフローラの存在に全てを託すことにしたルミエールは、この想いを消しはしないと誓ってフローラの魔法を受けとめたのだった。


「きっとこの先、僕は絶対に君を救いに来る…だからもう少し待っていて…」


 最後にそう呟いたルミエールが眩い光に包まれて行ったところで、ルースの視点はルミエールから離れていった。

 そして次に気付けば、ルースは残された者達から少し離れた所に立っていた。


 そのルースの視界の中には、光が消えた後忽然と姿を消した彼とルミエールが立っていた場所に、駆け寄るフローラの姿があった。そこで慟哭するフローラの周りに集まる3人の青年たちが、フローラを慰めるようにその背中をさすっている。


私は(・・)アレを、あの時に落としてしまった…)


 ルースは透ける自分の左手を見つめ、グッと握る。

 それは、ルミエールの記憶がルースへと繋がった瞬間であった。


『やっとここへ辿り着いたね』

 その声に振り返れば、いつの間にかルースの隣には時間(とき)の精霊が佇んでルースを見つめていた。


『あれは、心の精霊だったものの成れの果て。この時彼は既に、あそこまで壊れてしまっていたんだ…もう友と呼ぶ者も判らぬ程に』

「はい」

『これで君はもう、思い出した(・・・・・)はずだね、全てを』

「…はい」

『ルシアスと対峙した時の彼は、あの壊れた器のどこかで、ルミエールの存在を感じたのかもしれない。だから再び君はこうしてやり直しているのだろう、そう思っているよ…』


 その言葉を噛みしめるように、ルースは夢の中の風に吹かれながら、その光景を目に焼き付けるが如く見つめていたのだった。




 “ピピッ チチチッ”


 小鳥の声と人の気配にルースが瞼を開けば、そこには既に身支度をはじめていたキースの姿があった。


「起きたな。おはようルース」

「おはようございます、キース。皆は…」

 ルースが身じろぎした気配で、近くに座っていたキースに声を掛けられる。

 どうやらルースが最後に目覚めた様で、見渡せば他の3人と聖獣までもいなくなっていた。


「ああ、フェルが起き出した2人を連れて、散歩してくると歩いて行ったぞ?」

 キースとフェルが朝までの見張りだった為、フェルが起き出した2人を散歩に誘ったらしい。


「ルースが最後に目覚めるとは、余程気を張っていたんだな」

 キースは心配そうにルースの顔を覗き込むも、それには微笑んでルースは言う。

「いいえ、少し夢見のせいで遅くなっただけです。切りの良い所までみていたので…」

 冗談にも聞こえるルースの言葉だったが、その内容には触れず、キースは「そうか」と笑って頷いて返しただけであった。


 ルースはしっかりと立ち上がり、かつての友であった者がいる目の前の山を仰ぎ見た。


 前回にここに来た時には、その想いも記憶もなにも持ち合わせてはいなかったが、ルースとして再び運命を辿れた事で、様々なものの助けを借りやっと今全てを思い出す事ができたのだ。


「追憶の漂流者…」

 ルースが呟いた言葉は、風にそよぐ木の葉の囁きによって誰にも聞かれる事はない。


 ルースはそのスキルの意味を、やっと今理解する事ができたのだ。

 記憶を失ったルースには、そこから新しい記憶が積み重なった。そしてその中で精霊の力を借り、前回の記憶も得ることが出来た。その前回の記憶は良い結果だったとはとても言えないが、しかしそれがあったからこそ、こうして今再びやり直す事ができ、その先に埋もれていた想いにも辿り着く事ができたのである。


 そしてそれは今の生の中で得た、雲外蒼天というスキルがあってこそだとも思っている。何もない所から始まったルースとしての生は、何かに導かれるようにして本当の目的を…やっと本当の望みを、記憶に掛かっていた暗雲から指す光の中に見つけたルースであった。


 そんな思考に留まっていたルースは視点を空へ転じると、朝陽に輝く晴れ渡る青空に目を細めたのだった。




 それからすぐに、フェル達は戻って来た。

「おー。ルースは起きてるな」

「おはよう、ルース」

「おはよう、体調に問題はない?」

 それぞれがルースに声を掛け、ルースとキースの傍に集まって来た。


「おはようございます。しっかり眠らせてもらいましたので、体調も良好です」

 そうルースが答えたところで彼らをよく見れば、フェルの後ろにヒョコヒョコ歩くものがいると気付く。

 その視線に気付いたネージュが口角を上げ、ルースに笑みらしきものを向けた。


『今しがた呼び寄せたのじゃ。こやつもそれを望んでおったからのぅ』

『そうそう。飛んで来たよー』

 軽い感じで言うのは、先日会った青きものだ。


「ああ、文字通りに飛んできたって奴だな」

 フェルは青きものへと振り返り、可笑しそうに笑っている。

『飛んでこないでどうやって来いというんだよ』

 何が可笑しいと、青きものはフェルに目を細めた。


『飛べるなら飛ぶのがどおり。儂では何日掛かるか分からんぞ?走らねばならないからな』

 ククッと場を和ませるように笑ったブリュオンに、ルースも笑みを向けた。


「わざわざご足労いただきありがとうございます、青鷺火(アルデーア)

『いいや、私が来たかっただけだから、礼はいらないよ』

 長い首を緩く振る青きものは、目を細めてルースを見る。


『これで、聖獣が全て揃ったようじゃのぅ』

『我も数百年ほど己を喪っていたため、これは初めての事だろう』

『儂が知る限りでも初めての事だな。これから先、どのような未来が待っているのか…』

『私は明るい未来であると、信じるよ』


 4体の聖獣は5人と向き合うように立った。

 ここには人もいない為、それぞれが本来の姿を保っている。


 ネージュは体長3mに。シュバルツも黒い体を3m程にし、その翼を広げれば6m近い大きさとなる。

 ブリュオンは尻尾まで入れると5mはあるだろう。当人は小型の龍だと言っていたが、太くなった脚で立ち上がればその大きさは見上げる程もあった。

 そして青きものはそのままの大きさで、3m近い高さだ。普段から大きさを変えない青きものは、その為姿を隠せる魔法を使っているのだ。それゆえに、幻獣“青鷺火(アルデーア)”と呼ばれていた。


「うわぁ、存在感が半端ない」

「流石にデカいな…」

「圧巻ですね」

「確かにな…」

「…これが聖獣なのね」


 ルース達は思い思いに、その感想を口にした。

 こうして今まで揃う事の無かった4体の聖獣が、魔巣山の前に集結したのである。


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