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【34】詠唱への影響

いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

ここからルースの会話が読み辛くなっておりますが、6話ほどご容赦ください。

引き続きお付き合いの程、宜しくお願いいたします。

 仔牛を連れ、カルルスの防壁の外に出れば、時刻は昼過ぎとなっていた。

 仔牛はフェルに引かれて、今のところは嫌がるでもなく歩いてくれている。ルースはマジックバッグを肩に下げ、2人は並んでキニヤ村へと出発する。


「南でいいんだよな?」


 キニヤ村は、カルルスの南に位置すると聞いている。ルースがこくりと頷けば、フェルは前を見て歩みを進めた。

 この道は聞いていた通りに見晴らしがよく、遠くから、馬車や人が向かってくるのが見えている。


「やっぱりカルルスは、人通りが多い。俺達が来た道は、人通りが全くなかったもんな」

「え゛え…」


 ルースとフェルがいた村は、カルルスから見れば東に位置し、今歩いている道は初めて歩く道だ。

 カルルスより東にある集落は、皆こじんまりとした村が多く、町と呼ばれる所の規模もカルルスの町より小さく、防壁もないと聞いていた。そのため道の往来も、行商人が時々通る位のものだったはずだ。


 今まで2人は、自分たちが居た村しか知らなかったし、カルルスの町を見た時には、こんなに大きな町があるのかと驚いたものだ。

 そしてカルルスの町中は皆が知り合いという訳でもなく、特に冒険者はよそから来た者が殆どで、ルースやフェルの様に小さな村から来た者は、町中を移動するだけでも一苦労、未だに迷子になりそうな2人なのであった。


 そんな町から続く道はやはり人通りが多いと言えて、行商人や旅人風の者たちの姿も時々見かける。


「こっちの道は、どこか大きな町に繋がってるのかな?」

 カルルスの南に続く道は、行き止まりという事もないだろうし、南と言えば王都があるはずで、多分そこへ続いているのだろうと考えられる。


「国内…の道は、王都につながってぃるはずです」

「そっか…王都かぁ。その内、行ってみたいな」


 以前フェルから聞いたお爺さんの話では、その人は王都で騎士をしていたと言っていた。フェルはその人から、王都の話でも聞かされていたのだろう。憧れを含んだ眼差しで、遠い空を見上げていた。


「……」

 ルースは、自分の記憶についての手がかりを求めているが、ボルック村で拾われたのなら、遠く離れた王都には全く関係がないのかもしれない。だが未知の場所という意味では、ルースも王都に興味を持っている。


「私は冒険しゃとして、慣れてき…たら、カルルスを離れる…つもりです」

「え?そうなのか?」

 フェルの問いに、ルースはしっかりと頷き返す。

「わた…には、きおくがありません。冒険しゃ…をしながら旅をして、記憶の手がかりを、探そうと思ってぃます」

「ああ…そうだったな。そっか」


 取り敢えず2人は、冒険者になりパーティを組んだ。だが目標を(たが)えれば、そのまま続けていく訳にも行かない。こうして初めに先の事を話しておけば、フェルも自分の進む方向を考えてくれるだろうとルースは思っていた。


「そうだな。まぁずっとあの町にいるのも何だし、移動しながら、冒険者としてやっていくって事もありだよな」


 フェルの言葉にルースは振り向く。

 別に、フェルに付き合って欲しくて伝えた訳ではないのだが、フェルは自分と一緒に旅をすると言っている様に聞こえる。


「フぇル…別に私…につきあぅ事はなぃのですよ?」

 ルースが掛けた言葉に、今度はフェルが振り向いて驚いた顔を見せる。

「何だよ。俺達パーティだろ?ルースにやりたい事があるなら、俺も一緒にやるよ。…って、迷惑なのか?」

「いいぇ…そぉいう訳では…ぁりません」

「じゃあ、俺も旅をしながら強くなっていくから、いつかは王都に行ってもらってもいいか?」


 ニカッと笑ったフェルを見れば、無理に自分に合わせてくれている訳でもなさそうで、ルースは一人で旅をする覚悟をしていたのだが、それが杞憂であった事を知る。


「で…は、よろしくおねがぃ…ますね」

「おうっ」

 フェルは嬉しそうに牛を撫でながら、ルースに返事をする。

 こうして2人は先に続く未来を、一緒に行動する事に決めたのだった。


「それで何か…思い出す事はあるのか?」

 フェルの問いにルースは首を振る。

「ぃいえ…。ですが、あの山…見ると、ぃつもモヤモヤした気持…になります」

 ルースは背後を振り返って、遠くの山をさす。

「ん?あー魔の山か…」

 フェルの言葉に頷く。

「それぃがいは、全くで…す」

「そっかー。まぁ気長に行こうぜ。先は長いんだしな」

「はい」


 どこまでも続く道を歩きながら、2人は南へ向かい歩き続ける。

 この道は多少の緩急をつけながら、轍の残る道だ。時々すれ違う馬車には旅人も乗っているらしく、手を振ってくれる人もいて、2人も手を振り返しながら仔牛と共にゆっくりと歩みを進めていった。




「今日…あの辺り…で野営にしましょぅ」

 辺りは夕日に染まり、道行く人の姿も減ってきた頃、2人は道の脇にある一画へと入っていく。


「今日は半日しか歩いてないから、まだ元気があるぜ」


 ここまで2人は、休憩も取らずに歩いていた。というより、仔牛が時々止まるので、人間の都合では休憩をしていないという意味である。そして半日しか歩いていないので、確かに余り疲れてはいない。


「つかれ…いなくても、明日…の事を考…ておかねばなり…せん」

「おう…」


 ルースはフェルから仔牛を受け取ると、数歩歩かせてからそこでマジックバッグを開いた。カバンの中のものに気付いたのか、仔牛がルースに鼻を寄せる。

「まだ…すよ」

 仔牛の鼻を押し返しながら、ルースはカバンに手を入れて中の物を掴むと、バサリとそれを地面に出す。それを目で追っていた仔牛は、勢いよく地面の飼葉に顔を寄せて食べ始めた。

 カバンから何度か掴んで出してやれば、仔牛の注意はそのまま餌へと固定される。


「これ位…しょうか」

 少しこんもりと出した飼葉を満足気に見て、ルースはフェルを振り返る。フェルはルースの後ろから、それをずっと見ていた様だ。


「すげぇーな、そのカバン。そんなに入ってんだもんなぁ…」

「まだ…入ってぃるみた…です」

「おお、すげーな」


 フェルは、目をキラキラさせてルースが持つカバンを見ている。それに微笑んでから、ルースはフェルに指示を出す。

「枝…積んでくだ…い」

「ああ、枝か」

 焚火の用意を失念していたらしいフェルが、拾ってきていた枝を置く。

 2人はもう誰に言われずとも、枝を拾いつつ歩く様にしているのだ。


「あんまり落ちてなかったな…枝」

 フェルが言う通り、この道には木々がないのもあって、風で飛ばされてきたであろう小枝しかなかった。ただ、今日の分には何とか足りるだろう。

 フェルが出してくれた枝に向かって、ルースは詠唱する。


「“(ふぇゴ)“」


 しょっぱなから声が引っ掛かった…。

 むむっと眉間にシワを寄せたルースが、それから何度か挑戦すれば、やっと枝に火が付いた。

「やっぱり、魔法にも影響があるんだな…」

 フェルの言葉に頷くルース。


 だが、これでも簡略詠唱だから何とかなっていると言えて、普通の詠唱であれば、もう少し手こずるのだろうとルースは思う。

 そう考えながらフェルを見れば、フェルも眉間にシワを寄せて考えているようだった。

 頭ではこうなると分かってはいただろうが、実際にルースの魔法を見て、意識を切り替えてくれるのならば問題はないな、とルースは焚火を見つめる。


「がんばる…」

 ポツリとフェルが呟いたのでルースが苦笑すれば、2人も干し肉と水を出して食事を始める事にした。

 今回は、ルースも水筒に水をいれてきている。魔法が全く上手くいかなくなれば、ルースの飲み水が無くなってしまう訳で、その予防という事だ。


「なぁ、牛を繋ぐところがないけど、どうする?」


 食事をして落ち着いたフェルが、まだ飼葉を食べている牛に視線を向ける。

 アランが付けてくれた綱は、そのまま地面に垂れ下がっており、どこにも固定してはいないのだ。


「ちょっ…やってみます」


 ルースは焚火の傍から立ち上がると、牛のそばまで行って地面の綱の先に手を出した。

「アー…フぃクスト。…ん、ん」

 ルースも一発で発動するとは思っていないので、気を取り直して続ける。

「アース…クスト」

 フェルから視線を感じるが、じっと見守ってくれている様な安心感もある。

「ぁースフ…ト」


 何度か繰り返し、やっと「“固定(アースフィクスト)“」と、綱を土で覆い、なんとか地面と固定させる事が出来た。


 2人はそれから、元気があると宣言していたフェルとしこたま剣の練習をして、火の番を交代しながらこの日の夜を無事に終えたのであった。


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