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【336】襲われる村

 シュバルツは、ルース達がいた場所から約1km離れた場所の村を示していた。

 そこへ皆は数分で駆け付ける。


 そこは木の柵と木々に囲まれただけの開放的な場所で、どこにでもありそうな村の様相を呈していた。

 しかしルース達はその奥に魔物の気配がする事を感知し、土を蹴って村の道へと入って行った。


『あの奥だ』

 合流したシュバルツが空から舞い降りてきて、ルース達の少し前を低空で飛んでいく。

「人が少ない様ですね」

『ここは人の気配が少ない。それで対応にも難儀しているようだ』

 ルース達はシュバルツの話に頷いて、魔物がいる場所へと走って行った。


 そこは、村の奥まったところにある家畜の飼育場所だった。

 手前にある大きな建物の向こうに放牧できる柵の付いた空き地があり、そこに放たれているモウは叫び声をあげ、柵の中を逃げ惑っている様子がうかがえた。

 その柵の中には人間が3人、一人は建物へとモウを誘導し、他の2人はピッチフォークを魔物に向けて追い払おうとしていた。

 3人は30代から40代位の若い男達であるが、戦闘経験がないのだろう、及び腰でフォークを振り回していた。


「くるな!あっちに行け!」

「このやろー!俺達をなめんな!」


 しかし、その声の主に纏わりつく魔物は…。


「ワイバーンじゃん…しかも2体」

 フェルが渋い顔でそう呟く。

『我が行って仕留めてこようか?』

 シュバルツは何でもない事の様に言うが、村人の前でシュバルツが大きくなれば、更に大混乱になるだろう。


「有難いお申し出ですが、私達でも大丈夫です。デュオ、1体はお願いします」

「了解」

「キース、落としてもらえますか?」

「落とすだけで良いんだな?」

「ええ」


 デュオは、すぐさま魔弓を番えて1体に狙いを定めると、弦を鳴らして魔矢を放った。

 ― カンッ ―

 キースも即座に魔法を発動する。

水槍(アクアランス)

 ― シュンッ ―


『ギャアーー!!』

『ガルルル…』


 デュオの放った矢はワイバーンの額に吸い込まれ、一瞬にして翼が止まり急降下を始める。

 そしてキースが放った氷の槍は、もう1体の片翼を打ち抜いて大きく穴をあける。それでバランスを崩した魔物は体勢を立て直そうと羽ばたくも、傾いて地に落ちていった。


 ―― ドォーンッ! ――


 ―― ドンッ! ――


 デュオが狙ったワイバーンはそのまま地面に激突して静止し、キースが撃ち落とした物は翼以外のダメージはなかったらしく、地表で体勢を整えると、攻撃したルース達に視線を寄越す。


「今の内に、皆さんは建物の中に避難してください!」

 駆け付けるルース達をあっけに見ていた村人達は、ソフィーの声で我に返る。

「おっおお、すまない」

「助かった…」

 声を掛けたソフィーがその村人達に駆け寄って行く。動揺しつつも言葉を返した村人達は、家畜を集めながら厩舎へ移動していった。


「そんじゃ俺達の出番だな」

「ええ。前回の物を試しましょう。フェル、良いですか?」

 3人が囲むように離れて間合いを取る中、ルースはそう提案する。

「キース、今回は氷壁(アイスウォール)の中に樹人の手(セルバメレーナ)を重ね掛けしてください」

「…やってみる」


 いきなりルースは、魔法の二重掛けという高難度魔法をキースへ提案する。それは“キースならば出来るはず”という信頼の上に成り立っている言葉でもある。

 そしてこれならば氷壁(アイスウォール)が壊れた後、蔦がキースの行動する時間を稼いでくれるはずなのだ。


『ギィィー!!』


 目の前の魔物を無視するように話すルース達に、自分の存在を再確認させたいのかワイバーンは威嚇の声をあげる。


「おう、忘れちゃいないって」

 ニヤリと口角を上げたフェルがチラリとキースを見て、キースはその視線に頷いて返す。

「そんじゃ行ってくる」


 フェルは身体強化を掛けた体を使いトップスピードで走り出すと、10m程の距離をあっという間に詰め、ワイバーンの側面に移動した。


「行くぞ!」

「応!」


 フェルとキースの掛け声が響く中、ルースは剣を構えて腰を落とす。そしてフェルがワイバーンを盾で弾き飛ばすと同時に、ルースはキースの下へと走り出していく。


 ―― ボコーンッ!! ――


 フェルが弾き飛ばしたワイバーンは、一瞬何が起こったのか分からないように抵抗もせず飛んでいく。

 その速さはルースが到達するよりも前に、キースの下へとそれを飛ばしていた程だ。


「“樹人の手(セルバメレーナ)氷壁(アイスウォール)”」


 先に蔦を網目の様に広げて出していったところへ、重ねるように氷の壁を展開していく。

 一見簡単そうに見えるこの魔法は、樹人の手(セルバメレーナ)への魔力を維持しながら氷壁(アイスウォール)を発動させている為、コントロールと魔力量の配分が難しいのだ。

「ぐっ」

 キースは奥歯を噛みしめそれを展開していくと、衝撃に耐えるように片足を引いた。


 ―― ドンッ!! ――

 そこへ向かって来ていたワイバーンが激突し、パリーンッ!という甲高い音を立てながら、氷の壁を砕き蔦に絡まる様にして地に伏せた。


 その時到着したルースは、迷うことなく上部からワイバーンの心臓の位置に刃を突き刺した。


 ―― ズサッ! ―― 

『ギャアーー!!』


 網の様な蔦の中で一度頭を(もた)げたワイバーンであったが、その見開いた目からは次第に光が消え、抵抗を失った頭をドサリと落として動きを止めた。

 キースはその間一足飛びに後退し、次の魔法が放てるように間合いを取ってロッドを掲げていた。


「終わったか?」

「ええ、こと切れたようです。どうでしたか?今の感じは」

 フェルの声に振り向いたルースは、ワイバーンを仕留めた剣を抜いて鞘に収めると同時に、今の戦闘方法の確認を取った。

「俺は何も問題ないが、キースの方だろう?どうだった?」


 フェルとルースが話している間にワイバーンの傍まで来ていたキースに、フェルは眉を上げて尋ねた。

「ああ問題はなさそうだ。だが流石に二重詠唱は、もっと練習が必要だ」

 肩を竦めて言うキースに、フェルがポンッと肩を叩いて励ましている。


「お疲れ様、終わったのよね?」

 ソフィーがネージュを連れて、厩舎の方からやってくる。

「ああ、終わった」


「そういう事だったんだね」

 と、そこにデュオも合流し、なぜ1体だけ残せと言われたのか、その答えを見つけたように笑った。

 急所を理解するデュオであれば、今回2本の矢だけでワイバーンを仕留められたのだ。


「ええ、前回のおさらいをしたかったのです」

「ルースは勉強家だからね」

 フフっと笑ってデュオが言えば、厩舎から人が出てきた気配がした。


「おーい!君達は無事かい?」

「助かったよ!ありがとう!」


 村人達の元気な様子に微笑みあった5人は、振り返り厩舎へと手を振り返すのだった。



 そうして村人3人はモウの状態を確かめながら、まだ興奮している物をなだめる様に世話をする傍ら、ルース達もモウに怪我がないかと手伝って行く。


「貴方はちょっと興奮しているわね。大丈夫よ、もう魔物はいなから落ち着いて」

 ソフィーが魔力を乗せた手で撫でてやれば、フーっと鼻を一つならして穏やかな顔に戻るモウ。流石、聖女である。


「お嬢さんは動物をなだめるのが上手いな」

「ああ、俺の嫁に欲しい位だ」

 はははと笑いながら話す村人に、ソフィーは照れたように顔を赤らめた。


「ソフィー、こっちのモウを頼む!」


 そこにフェルの声が割って入り、ルースとキースは顔を見合わせて笑う。

「悋気だな」

「ですね」

 こそこそ話すキースとルースに、デュオも目配せして肩を竦めた。


「後はもう大丈夫そうですね」

「そうみたいだな」

 ルース達が話していれば、村人が3人とも寄って来て頭を下げた。


「礼が遅くなってすまない。危ないところを助けてくれて、ありがとう」

「いいえ。こちらこそ来るのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」


 ルースが謝ったのは、駆け付けた時には既にモウ1頭がワイバーンの鉤爪に因って傷つけられて、死んでしまっていたからだった。

「あの魔物に、犠牲が出ない方がおかしいのさ。1頭で済んだのは君達のお陰だ」

 そう付け加え、村人達は再び頭を下げたのだった。



 その後、外に倒れているモウとワイバーン2体の解体まで済ませて行った。


「解体まで手伝ってもらって本当に助かる。お礼と言っちゃなんだが、牛の肉は全部持って行ってくれ。なにせ、村にはもう俺達しかいないんで、消費する者もいないからな」

「皆さんは避難されている、という事ですか?」

「そうだ。子供や年寄りがいる家は、他の町に出て行った。この先の村が酷い有様だったから、皆怯えて人の多い所に避難しちまってる」


 しかし家畜がいる以上、誰かが世話をしなくてはならず、この3人が残って世話をしているのだと教えてくれた。


「しかし魔物も出るからな…早く落ち着いてもらわないと、魔物すら追い払えない…」


 確かに、戦闘経験のない者が少人数で魔物に食って掛かろうとも、犠牲を伴う上に追い払う事が精々だろう。だが現状は人もおらず、この3人が村を護って行かねばならないのだ。


「フェル、あれを差し上げても良いですか?」

 そこでルースはニッコリと笑みを作り、フェルへと視線を向けたのだった。


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