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【331】結界の中で

 キリリコの町からは、以前通ったメイフィールド方面の道を進んで行く。


 この道も前回通り、その先の分岐を南下すればメイフィールドへ。そしてそのまま西に進めばその突き当りに、キースがいたルカルトがある。

 今回はその道を西へ進み、前回商人の護衛として通ったミンガの先で、北上する道に入って行く予定だ。


 ここまで、王都を出て2か月弱の道のり。

 その時間は歩きだった時よりもかなり早いもので、町に長期留まる事がなかったことがひとつ大きな理由である。


 今は報酬を得る為にクエストを熟す必要もなく、その上無限に入るマジックバッグも持っているため、容量を心配する事がなく小忠実(こまめ)に町による必要もない。


 しかし、まさか勇者パーティがこんなに地味な旅をしているとは思ってもみないだろうという位、その内容は依然と変わりないといって良いものであった。


 そうしてキリリコから西へ進み、初めの分岐に到着する。

「ここ、前にも通ったよね」

 デュオは手綱さばきも随分と慣れ、肩からも力が抜けリラックスした顔で皆に言う。

「ええ。デュオとパーティを組んですぐ、この道に入りました」

「おお、よく覚えてんなデュオは」

「当然だよ。その時はまだ、皆に迷惑になるなら一人で引き返そうかって思ってたから、帰り道の事も考えて道を覚えるようにしてたんだ」

「まあ!デュオはそんな事を考えていたの?」

 デュオとフェルのやり取りに、ソフィーが驚いた顔をする。


「オレはまぁ、分からなくもないな。パーティに入った当時、オレも自分の事は不安ばかりだったから、もしも迷惑になるようなら抜けた方が良いだろうと考えてしまう…のはわかる」

 キースもデュオの気持ちを理解できると、デュオに苦笑を向ける。


「私達はパーティに入っていただいた時点で、誰の事も見放すなんて絶対にありません。そこはせめて感じて欲しかったですね」

 ルースは2人に視線を向け、いたずらっぽく笑った。

「悪い…」

「ごめん」


 キースとデュオはバツが悪そうに言うも、そこでフェルが頭を掻きつつ口を開く。

「皆、色々考えてたんだなぁ。オレは別に迷惑をかけるとか、そんな事は考えた事もないぞ?皆気にし過ぎだってば」

「「「「………」」」」


 フェルの言葉に皆は口を閉ざし、一瞬の沈黙の後4人が同時に口を開いた。


「「「「フェルはもう少し考えてよ(くれ)(下さい)(ちょうだい)」」」」


 語尾こそ違うが同義で攻め込まれても、フェルは目を瞬かせた後なぜか照れたように笑った。

「へへっ」

「“ヘヘ”じゃないよ~もう」

「…プハッ」

「プッ」

 デュオに突っ込まれているが、これがフェルなのだと皆声をあげて笑い出すのだった。



 穏やかな日差しの中でその分岐を通り過ぎて見覚えのある道を進んで行けば、ソフィーが御者席の方から身を乗り出し、周りの景色を見ながら呟いた。


「そう言えばここは、“加護の道”だったかしら」

「そうでしたね。その結界は、今ありますか?」

 誰にともなくルースが聞けば、馬車の屋根に留まっているシュバルツが、右の方角を見て肯定した。


『青きものは元気らしいぞ』

『何だってぇ?』

 その念話に、一番反応したのは珍しくブリュオンだ。ブリュオンはいつも静かに眠っている事が多く、今もキースの胸ポケットにいたはずだ。

 そう言ってキースの外套の中から這い出して来たブリュオンは、キースを伝い近くにいた馬の背に飛び移る。その一連の動きが思いのほか俊敏で、皆はあっけにとられブリュオンを見ていた。


「どうかしたのか?」

 キースが飛び出したブリュオンに、心配気に尋ねた。

『あやつが前回聖女についていた時、儂の近くを通って行ったのを見たんだよ。向こうは儂の気配には気が付いてはいなかったけどな。それでその後はどうなったかと気になってたんだ』


 その答えにルースは皆を見回してから、ブリュオンに提案する。

「それではジャコパ村の方へ行ってみましょう。ただしお邪魔になるので村には寄りません。直接山に行ってみる事になりますが、よろしいですか?」

『いいのか?』

 ブリュオンはルースに顔を向け、チョロッと舌を伸ばした。


「仕方ない。そこまで言うなら付き合うぜ」

 フェルがニカッと笑って馬の背に乗るブリュオンを見れば、ブリュオンはフェルに顔を向けて半目になった。

『なぜお前にそんな言い方をされるのかは分からないけど…まぁいっか。行く!』


 ここで5人は、ジャコパ村を囲むようにそびえる山へと向かって行く事となったのである。

 ただし馬車は奥までは入れない為、山の麓、少し森に入ったところで停めてからエポナを外し、「休憩していてくださいね」とエポナに言って、ルース達は歩いて山を登って行った。


 この山自体に青きものが結界を張ってある為、馬車に何かあれば青きものが気付くだろうと思う。

 そうして村の脇から入って行ったルース達は、30分程掛けて前回青きものが倒れていた場所へと回り込んだのだった。


 ネージュの背に乗るソフィーが、崖になった所まで出て皆を振りかえる。

「前はこの辺りに居たのよね?」

「そのはずだよ。その崖から飛んでいった覚えがあるし」

 5人はその周辺から上空を見上げるも、空には流れていく雲が見えるだけであった。


『やはり結界の中は、空気が美味いなぁ~』

 当の本人は探している様子もなく、のんびりとキースの頭の上で顔を上げ、空気を食べるかの如くパクパクと口を動かしている。

『結界じゃからのぅ』

『我も、心地よいと感じられる事が嬉しい』

 ネージュに続き、シュバルツもそんな感想を漏らした。


 と、そこへ急に突風が吹き抜けてルース達が顔を覆えば、それが収まった時、いつの間にか目の前には青い鳥が下り立っていたのだった。


『あれ?また会ったね。何か困りごとかな?』

 長い首をコテリと傾けた青い鳥は、目を瞬かせてルース達を見る。

「ご無沙汰しております。いえ、困りごとではなく、貴方に逢いたいという方がおりまして」


 ルースがそこまで言った時、キースの頭の上にいたブリュオンがジャンプし、草むらの上に降り立った。そして光に包まれたかと思えば、その体はみるみる大きくなり体長が1m程まで成長していたのである。

 苔の比率はそのままに背中に緑を背負い、これは“龍”だと云われれば頷ける程度には見た目も変わっていた。


 フェルは口をあけたまま目を見開いて驚いているし、他の皆も、ブリュオンがここまで大きくなった所を始めて見た為に固まっている。


『ああ、君もいたのか。という事は皆揃ってるの?』

『いたのかーではないだろう!さっきから居たわ!』

 ブリュオンはどうも突っ込み担当なのか、青きものにも突っ込んでいる。


『だって小さすぎて、気配があっても何処にいるのか分かんないんだもん』

『だもん、じゃねーよ。この高貴な姿を見せるのは面倒だから、先に気付けってんだ』


 何だか2体で勝手に盛り上がっているところを見れば、仲が良いのかとも思う。

『こやつらは昔からこうでのぅ。互いの思考が似たようなものゆえ、いつのもことじゃ』

『とはいえ、前回会ったのは千年近く前のはずだ』

 ネージュとシュバルツの言葉に、固まっていた5人も息を吹き返したように身じろぎした。


『あれ?君からは黒きものの気配がするけど、何で?』

 青きものは前回もシュバルツがいた事を覚えており、気配が変わっている事に疑問を呈した。

『我は黒きものゆえ当然だな。まあその辺りは話せば長くなる。その内にな』

 流暢(りゅうちょう)に話すシュバルツに、青きものは目を瞬かると素直に一つ頷いた。

 彼らには時間はゆっくりと訪れるのであり、別段急いでする話でもないと納得したのかも知れない。


 青きものはそれから皆を見回し、見慣れない顔に小首を傾げた。

 それに気が付いたキースがぎこちなく自己紹介をすれば、青きものは頷く様に首を振り、皆を見渡して言葉を紡ぐ。


『時は満ちて、役者は揃った…という事だね』


 何かを見ている様に目を細めた青きものに、ルース達は神妙に頷いていた。

 ルース達がいる場所には爽やかな風が木々を触り木の葉の囁きが満ちる中、ここにいる者達はその時が迫る事を実感していたのである。


 ただその横で、構ってもらえず不貞腐れたように青きものを見ている大トカゲが、尻尾をパタパタと振っていた事は見なかった事にしようと思うルースであった。


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青きものさん! ハブられなくて良かった良かった。
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