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【330】不安に揺れる町

 今回の旅の道中では、多少の出来事はあれど順調に進んで行くルース達だ。


 先日倒したボーンディアは、その後待ちきれぬフェルの為に翌朝焼いてみれば、これがとても香り良く口当たりも滑らかで人気の食材であると、満場一致で絶賛された。

 脂の乗りが悪いと云われている時期でこの旨さであれば、脂ののった季節は口の中で溶けてしまうのだろうと皆も目を輝かせていた事は余談である。

 そして大声で皆を混乱させたフェルが、あの後全員に説教を食らっていた事は言うまでもない。


 そんな普通の青年達である勇者パーティは、イヌーシャを出て次の町を経由し、10日後の昼過ぎには“キリリコ”という町に到着するのだった。


「久しぶりのキリリコね」

「あ~そっか。どうも見た事があると思ったら、前に来てたっけ…」

「ええ。町も変わりないようで安心しました」


 ルース、フェル、ソフィーは以前、このキリリコには数日滞在した事がある。それはネージュと出会った後の事で、この町を出た後に南下した町でデュオと出会う事になった。


「そう言えば僕と会う前、この辺りも通ったって言ってたね」

「はい。この町でメイフィールドにあるヤドニクス湖の話を聞いて、行ってみようという事になったのです」


 それからもう2年も経ったのだと、ルースはキリリコの門前で目を細める。


「それじゃ、行くか」

 フェルの声で停めていた馬車を再び動かし、ルース達はキリリコの町へと入って行った。

 この町も小さな町であるが、今ルース達が来た道やスティーブリー方向から続く道、デイラングから来る道と、そしてメイフィールド方向へと繋がる道の分岐に当たる為、物価も安く町も賑やかだったとルースは記憶している。


 ルース達は町中で馬車をゆっくりと走らせながら人々の様子を見ていたのだが、ルースは少しの違和感を覚えて眉をひそめた。殆ど変わらないようには見えるものの、何かが引っ掛かるのだ。


「ルース、どうかしたのか?」

 キースはルースの表情に気付き声を掛ける。

 キースは今御者席を降り、ルースとは反対側の馬の横で歩いていた。


「…少し雰囲気が違う気がするのです。気のせいかとも思うのですが」

 ルースの答えに、キースは御者席のデュオに視線を向け首を捻った。

 キースもデュオもこの町は初めてで、違うという意味は分からないのである。


「俺は特に気になる所はないけどなぁ」

「あら?フェルは覚えていないだけじゃないの?私もちょっと…」

 とソフィーが途中で口を閉ざす。

 ルースもそうだが、何かが違うと思うのにそれが何かは分からない為、ソフィーも言葉で表す事ができなかったのだと感じた。


「でも、町が壊れている様子もないし何かに襲撃されたって感じもなさそうだよ。気になるなら、誰かに話を聞いてみようよ」

 デュオはそう言って、ルースに笑みを向ける。

 そういう事だなとフェルもルースの肩を叩き、5人は町の宿を探しに進んで行くのだった。


 そうして宿に馬車を停めたルース達は、いつもの様に冒険者ギルドへと顔を出した。

 今は昼時であるし、ギルドの中は人も少ない様だ。


 先にクエストをチェックして急ぎのものが無い事を確認すると、次は受付へと向かう。

「こんにちは」

 挨拶の言葉だけを言って、ルースはギルドカードを出した。

「こんにちは。お疲れ様です」

 ギルド職員がルースからカードを受け取り参照すれば、ルースに視線を向け改めて頭を下げた。

「ようこそキリリコにおいで下さいました。今ギルドマスターは奥におりますが、お会いになりますか?」

 気を利かせてくれたのかそう言ったギルド職員に甘え、ルース達はギルドマスターと会うことにした。


 そうして通された応接室でお茶を飲みつつ待っていれば、扉が開いて白髪頭の男性が入って来る。

 この男性は確か、ギルドマスターの“ネイサン・ルーカス”だったという名だとルースは記憶を探る。


「お待たせしたね。久しぶり…で大丈夫かな?」


 ここのギルドマスターは、冒険者ギルドという場所に似合わず温厚な外見をしており、白髪が占める髪をオールバックにして、常にニコニコと笑みを浮かべている。しかしそんな外見からは想像もつかないが、この人物は他のギルドマスターからは一目置かれていると聞いた事もある。普段温厚そうに振舞う彼だが、実はこのネイサンは頭脳派で切れ者と言われているのだった。

 それは前回ここを訪れた時には知らぬ事で、こんな荒くれ者とも呼べる冒険者達を良く纏めていけるものだと、この温厚な顔を見て思ったのであるが、今思えばそれは失礼と言うものだろう。


「ご無沙汰しております。覚えておられましたか」

 ルースがそう返せば、ネイサンはホッホッと笑った。

「ああ覚えているよ。まだ生憎、耄碌(もうろく)はしていないようだしね」

「いえ、その様な意味では…」

 ルースが焦ったように言えば、ネイサンは目元のシワを深くする。

「ああ、こめんごめん。僕の冗談は時々、対応に困ると怒られるんだった」


 この人物を始めて見たキースとデュオは固まっており、ルースとネイサンのやり取りをはらはらとしながら見詰めている。


「初めての人もいるから、改めて自己紹介だね。僕はギルドマスターの“ネイサン・ルーカス”。見ての通り、そろそろ追い出されそうなお爺さんだけどね」

 ネイサンはまた微妙な事を言い、キースとデュオが対応に困っていると分かる。

「ギルマス…」

 フェルが眉尻を下げて声を掛けた。

「ホッホッ、悪い悪い」

 言葉とは裏腹な様子で、ネイサンは2人へと笑みを向けた。

「彼がキースで、彼はデュオーニです。…その節はお世話になりました」

 キースとデュオが会釈をするのを待って、ルースは話しを続けた。


 ルース達は前回、このギルドの宿を利用していた。

 そのため滞在期間中、ギルドに顔を出した際にネイサンとも顔を合わせており、この町の事や付近の魔物の事などの情報を教えてもらう位には付き合いがあったのだ。


「…どうぞ、お手柔らかにお願いします」

 ルースが困り顔で言えば、ネイサンはニッコリと笑みを浮かべ、ルースから皆へと視線を巡らせていく。


「随分と大所帯になったんだね。以前は確かフェル君とソフィーちゃんの3人だったのに。いいや、今は勇者パーティだからこの人数なのかな?」

 ネイサンは増えた者達を見て目を細めた。

「いいえ、彼らとはその前に知り合ってパーティを組んでいましたから、このメンバーでは1年以上の付き合いになります」

「そうかい」


 ルースの返事を聞いたネイサンは、キースとデュオに改めて視線を向けた。

「ルース君と一緒じゃ大変だろうが、よろしく頼むよ」

「「はい」」

 “勇者”という意味を込めて言ったネイサンに、デュオとキースは歯切れの良い返事を返す。


「あの…町に何かあったのですか?」

 とそこでルースが気になっていた事を尋ねれば、おや?というように眉を上げ、ネイサンはルースへ視線を戻す。

「君達にもわかる位か…。別にこの町に何かあった訳ではないんだけどね、北部の村の話が流れてきてから、皆の不安が拭えずに町には笑顔が少なくなっているんだよ」


 ルース達はそれを聞き、顔を見合わせた。その北部の村とは、壊滅したガジット村の事であろうと思い至る。キッゾ村はこの国の北西部にあると聞いた事がある。正確な位置まではわからないがこの町とは随分と離れているはずであるが、この町も一応は北部地方という括りにもなるからだろうか、町の人々は、次はどこが襲われるのかと怯えているという。


 魔の者は神出鬼没であるがゆえに、それについてはルース達から掛ける言葉もない。

 実際この町より南のノーヴェやデニス、それについ先日はイヌーシャの町にも表れている。どちらかと言えば、出現場所はここを飛び越えて南に下っているようにも感じるが、それはルース達が遭遇した魔の者だけの話で、一概に“大丈夫である”とは言い切れないのだ。


「そうでしたか…」

「ああそういえば、つい最近もイヌーシャの町に現れたと聞いたが、そこは君達が?」

 ネイサンは時期的な事を鑑みて、ルース達が手を貸したのだろうと推測した様だった。

「はい。イヌーシャが襲われた後で応援に向かったのですが、遭遇したのは別の村の近くでした」

「そうか…。少々僕たちは、のんびりしすぎているのかも知れないね…」

 ネイサンは考え込むように顎の下に手の甲を当てる。


「封印されしものの力が増している…という事だろう。となれば復活も近いはずだね」

 そう言って言葉を止めると、ネイサンはルースにその慧眼を向けた。

「はい…」

 ルースもそれを感じ取っており、深く頷き返す。


 こうしてキリリコの町のギルドマスターと再会したルース達は、町中で食料など備品を買い求めると、その翌日には急ぎ旅路へと戻って行ったのであった。


【2025.1.13】このパーティメンバーになってからの期間が間違っておりましたので修正いたしました。

過去の襲われた村の名前を間違えていた為、修正いたしました。

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