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【325】野営地での異変

 焚火の明かりと頭上の月だけが闇を照らす中、そろそろフェル達と見張りの交代をする時間となった時だった。


 ““ リーン ””


 焚火の傍に座っていたルースとデュオの武器が音を奏でたと思えば、続いて少し離れたフェル達の武器も音を鳴らした。


 この音が何であるかは、最早何の説明も要らないだろう。

 その音に、体は無意識に反応を示していた。


 焚火前に座る2人はもとより、眠っていた3人もすぐに目を開くと体を起こす。

 フェルとキースは武器を手にルース達の下へと走り寄り、ソフィーもネージュと一緒に馬車から降りてくる。


「どこだ!」

 立ち上がり、緊張しつつ周辺を警戒しているルースとデュオにフェルが声を掛けた。

「わかりません…」

「今スキルを使ってるんだけど。……見つけた!あっちだ!」

 そこでデュオがその気配の方角を探り当て、村がある北よりやや東を指さした。


「チッ、村がある方かよ!」

「すぐに行きましょう」

「おう」

「シュバルツとブリュオンは魔物の警戒のため、ここに残っていてください。馬をお願いします」

『承知した。何かあれば呼べ』

『気をつけてな』

「はい!」


 キースはルースの会話を聞きつつ、焚火に水をかけて一気に鎮火する。そして真っ暗になった中で月の明かりだけを頼りに、ルース達5人は村の方角へと走り出していくのだった。


 林を駆け抜けると直ぐに、車輪跡が残る整備されていない道がぼんやりと見える。その向こうの北側には木の柵に囲まれただけの村が見えてくるが、村はシンと静まり返り明かりの灯っている家もない。


「あっち」

 道で立ち止まっていたルース達の中からデュオの声が降って、デュオはイヌーシャの方角である東を指さし、顔を強張らせた。


 まだ幸いにも村へは着ていなかったらしいと安堵するのも束の間で、その声に皆が頷いて返せば、すぐさま東へと走り出していく。


「いた!」

 それから少しすれば、目の良いフェルが前方を指す。

 他の者にはまだ月明かりだけでは何も見る事はできないが、この道の先にいるとフェルは言った。


「できるだけ村から離れる為、このまま行きましょう」

 ルースの意図を察し、一気にスピードを上げルース達はその方向へと駆け抜けていく。


 そして村から200mも進めば皆の目からもハッキリと影を纏った人型が見え、向こうもルース達に気付き待ち構えるようにして足を止めたのだった。


 ““““ リーン ””””


 更に近付けば、カルテットの鈴の音が響く。

 その涼やかな音とは不釣り合いなものが口元だけを動かし、まるで嗤ったような表情を作ったと分かる。


 その黒い闇と20m程の距離をあけ、ルースを中心にして左右へと広がるように並び立った。

 ― シャリーンッ ―

 ルースがスラリと勇者の剣を抜けば、皆も武器を構えて衣擦れの音を発する。


 目の前のものは、精霊の成れの果てから溢れ出る力が実体化されたものであると、あの本を読んだルース達には想像がついた。封じられてもなお、こうして表層にいる世界へと干渉する負の力は、底知れぬ脅威さえ感じる。


「1体だな」

「ええ」

 フェルの呟きにルースは首肯する。


 こんなものが一度に何体も出てきては、流石のルース達でもこの人数ではまず無理であろう。

 だがルース達も皆成長しており、1体であれば余裕とは言えずとも必ず消滅させられる。これは魔の者との3度目の遭遇であり、これまでの経験と新たな装備品、そしてルース達のステータス値の上昇がそれを証明してくれるはずである。


 そうしてルース達5人が魔力を溢れさせれば、それに気付いた魔の者がジリリと片足をすり下げて体勢を低くしていく。


 目を瞑り祈るソフィーは、それに気付かぬまま皆へと加護の魔法を掛けた。

「勇気は善に、その輝ける魂を、慈悲と恵愛を以って導きたまえ。“聖者の加護セイントプロテクション”」


 そして光がルース達を包んだ瞬間、ルースが叫ぶ。

「きます!ソフィーは防御を展開してください」

 ソフィーに礼を言う間もなくルースが風魔法を自身に纏わせつつ言えば、ソフィーは障壁(ソリッドシールド)を展開すると、ネージュの背に乗り後方へと下がっていった。


 そして目の前にいた影が揺れたかと思えば、それは一瞬にしてルースの目の前に現れ、ルースへと腕を振り下ろしていたのだった。



 最初に遭遇した個体はルース達を玩具と見做(みな)し、手には剣を形どった物を握って戦っていたが、次の個体はその様なものは出さず、自らの腕や体を使って直接攻撃を仕掛けてきた。そして目の前のこの個体も後者と同じであるらしいと、その腕が振り下ろされる一瞬の隙間にルースは思考していた。


 ― ガキンッ! ―


 高速で振り下ろされた黒い腕は今ルースの剣によって受け止められ、続けて“ジュッ”と何かが焼ける音が響く。

 攻撃を受けとめられるとは思ってもいなかったのか、黒い影の口元がピクリと動いた。


『シソンジタカ』

 それはザラザラと耳に不快な音。感情の起伏も抑揚もなく、まるで心のない者が話している様で、これは何度聴こうとも気持ちの良いものではない。


 ルースが受けとめた腕に剣が食い込んでいるのを見たフェルは、瞬時に判断し魔の者の背後から剣を振り下ろした。ルースもフェルの動きに合わせその腕を押し返すようにして後退し、フェルの攻撃を後押しする。

 しかし顔も動かす事無くそれを察知した魔の者は、その剣が振り下ろされる直前に一瞬にして消えた事で、フェルの剣は誰もいなくなった場所で宙を切った。


「チッ」

「フェル、以前よりも動きが視えるはずです。焦らずにしっかりと視て行きましょう」

「おうっ」

「キースデュオ、援護をお願いします」

「「了解」」


 ルースとフェルは飛び出すようにして後退していった魔の者へと向かって行くと、左右に広がった。

 そして3m程までに詰めた距離で、二人は同時に剣を振るう。

 それに両腕を上げて受け止めた魔の者は、先程のルースの剣で出来た傷が偶然なのかを試しているのかとさえ思う。


 ― ギィンッ!ガキンッ! ―

 ““ジューッ””

『ギ…ギ…ギ…』

 壊れた歯車の様な音を発する魔の者は、ルースとフェル両方の剣で己が傷つくと悟ったのか、再び後方へと飛び退るようにして消えた。


 その瞬間、移動先を予測していたキースとデュオの攻撃が飛ぶも、それが到達する寸でで再び姿を消したその場所にキースの火焔乱舞(フレイムロンド)が爆発を起こす。


 ――― ドカーンッ!! ―――


 ルースは更に風魔法を重ね掛け、魔の者の後を追うようにしてその暴れる炎の中へと躊躇なく飛び込み、黒い影の目前へと疾風のように躍り出る。その時間はわずか一秒ほどの間で、ルースはそこから既に剣を振り下ろしていた。


 ―― ザクッ!! ――

『ギェーェ!!』

 それは魔の者の肩から腰にかけて大きく傷を作り、その場所から煙が立ち上る。

 浅かったか、とルースは心の内で舌打ちするも、次の瞬間にはフェルが現れもう一太刀を浴びせていた。

 ―― ズサッ! ――

『ギギギィー!!』


 最早悲鳴とも呼べぬ声をあげる魔の者は、今度はフェルとルースから離れ、デュオ達がいる方へと消えるように移動していった。

 そこへデュオの連射が撃ち込まれる。キースもデュオのサポートをするべく、魔の者の移動を追うように魔法を連撃していく。


「“水槍(アクアランス)“」


 ― パリンッ!パリンッ!パリンッ!パリンッ! ―


 魔の者の動きを封じるようにデュオとキースが動いてくれている為、ルースとフェルも周りを囲むように走り出し、魔の者との間合いを詰めていった。

 この4人の武器には勿論有り余るほどのソフィーの魔力が注ぎ込まれており、そのどれを取ってもひとつひとつの攻撃が、魔の者に傷を負わせることになる。


 しかし魔の者も逃げてばかりではなかった。

 この4人の中のデュオに狙いを定めた魔の者が目に視えぬ程の早さでデュオの前に立つと、腕を振り払うようにしてデュオを吹き飛ばしたのである。


 ―― ドーンッ! ――

「ぐはっ!」


 ――!!――

「「「デュオ!!」」」

 ソフィーの悲鳴と3人の声が響く中、飛ばされて行った平原に背負っていた矢筒から矢を振りまきながら、20m程の距離を飛ばされ転がったデュオが動きを止めた。


 皆がデュオを見守る中すぐにピクリと指が動き上半身を起こすと、ルース達の方へと安心させるようにデュオは顔を向けた。

 それを見たソフィーが即座に動き、ネージュの背に乗ったままデュオの下へと駆け付けていった。


 デュオの事はソフィーに任せ、そちらを邪魔されないようルース達が気を引かねばならない。もう大丈夫だ、とルース達3人はデュオから視線を魔の者へと戻して武器を向ける。


 その魔の者は口元を引きつらせたように持ち上げ、まるで手応えを喜ぶようにデュオを薙ぎ払った手を開閉していた。

 それを目にしたフェルの目が吊り上がり、怒りに煌めく視線を向けたまま一息に飛び掛かっていった。


「うおぉぉぉーー!!」


 ルースはそんなフェルを見てすぐさま行動を開始し、一気にトップスピードで走り出す。その間にもフェルは瞬時に魔の者へと到達すると、盾で薙ぎ払うように渾身の力でキースがいる方向へと吹き飛ばした。


 ―― ボコーンッ!! ――


 キースは飛んでくる魔の者に攻撃を加えるべく、目の前に聖魔力の混じる分厚い氷壁(アイスウォール)を展開させた。


 ―― パリーンッ! ――

 そして吹き飛ばされた魔の者はその壁に当たり、氷壁(アイスウォール)が砕け散っていった。


 その衝撃で砕けた氷は、まるでガラスの破片の様に魔の者へと降り注ぎ、聖魔力の混じる無数の破片はその体を傷付けていった。


 一瞬それに耐えるようにうずくまった魔の者であったが、すぐに顔を上げた。

 そして手の届く場所にいるキースへ向けて殺気を膨らませると、睨みつけるように眼の無い顔を向けたのだった。


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