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【324】応援要請

 そんなルース達の束の間の穏やかな日々は、すぐに終わりを迎える事となった。

 それは、ルース達が滞在するソロイゾの冒険者ギルドへと顔を出したときの事である。


 ルース達が冒険者ギルドの扉を開けて入って行けば、ギルド職員がルース達の前へと慌てたように走ってきたのだ。


「月光の雫の皆さま。すみませんが、すぐに奥の部屋へお越しいただけますか?」

 慌てた様子のギルド職員に面食らいつつも顔を見合わせ頷きあうと、すぐにギルド職員に続いて奥にある応接室へと向かって行った。


 ここソロイゾでは1週間ほどを滞在する予定で、既に何日か冒険者ギルドへと顔を出していた為、ギルド職員はルース達が勇者パーティである事を知っており、それを認識したうえで慌てて声を掛けてきたのだった。


 ルース達が応接室のソファーで待っていれば、少ししてギルドマスターが入ってきた。

 この町のギルドマスターは“アルバート・サーケル”といって、40代位、青い長髪を後ろで括った彫りの深いイケメンと呼ばれる顔をしている。ただし体格は良くフェルよりも高い長身で、しっかりと鍛えられていると分かる筋肉も付いており、蛇のようにしなやかに動き狙ったものは逃がさないと云わんばかりの眼差しを持つ男性である。


 その人物が少々慌てた様に入室してくれば、ルース達にも何かあったのだと嫌でも気付く。

 ギルドマスターは挨拶もそこそこにソファーへ座ると、ルース達へと話し始めた。


「丁度良い所へきてくれた。今、呼びに行かせようとしていたところだった」

 わざわざルース達の宿へ使いを出そうとしていたというギルドマスターの話に、ルース達は背筋を伸ばす。


「何があったんですか?」

 そこでフェルが聞けば、フェルに視線を向けたギルドマスターは神妙に頷いて皆を見回し口を開いた。


「ああ。昨日ここから2つ離れた町に、例のものが出たと先程連絡を受けた。その町は“イヌーシャ”といってここよりも規模が小さい町なんだが、その町の半数ほどの人々が襲われたらしい。途中で気付いた冒険者達によって何とか食い止めたらしいが、結局は討伐までには至らず、この町にいる勇者に応援の要請をしてきた」

 “例のもの”と言葉を濁してはいるが、町の住人を半数も急襲できるものは魔の者くらいしかいないだろう。


 ルースはチラリと仲間たちを見れば、何を言わずとも皆頷き返してくれる。

「わかりました。これからすぐに出発し、そのイヌーシャへ向かいます」

 とルースが返事をすれば、ギルドマスターは渋面をルースへ向けた。


「ああ、すまないが急ぎで頼む。イヌーシャはここから東へ道なりに行くと2日程で着く。一日程の所に小さな村が1つあるだけだから、途中で物資の補給などはできないと思ってくれ。イヌーシャの町も混乱しているだろうし、食料などはこの町で調達していって欲しい。本当なら俺も行きたいんだが、この町も警戒態勢を取らねばならなくなったからな」


「はい。情報をいただきありがとうございます。出発前に食料などは用意して向かう事にいたします」

「ああ。向こうのギルドに行けば話は通じるはずだ。よろしく頼んだぞ」

「「「「「はい」」」」」

 ルース達は声を揃えてギルドマスターに応える。


 それから慌ただしくルース達は冒険者ギルドを出ると、町中で食料を買い込み、急いで宿へと戻っていった。

 そして宿に事情を話して滞在日程を繰り上げると、再び馬車に乗ってイヌーシャの町へと向かって行ったのである。



 今回この町で一週間程度の滞在を予定していたのだが、それは前回のルースの記憶で、この町近くの平原に魔の者が出た為であった。その時は街道を歩く人が襲われ、少し先まで進んでいたルシアス達が引き返してくる事になったのだ。

 しかし今回確実に“この日”という断定ができなかった為、前回よりも少し日程に余裕を持たせ、旅をしてきたルースである。ただしその事は皆には伝えてはおらず、滞在予定だけを提案している。


 それが今回はこの町の近くではなく、少し離れた町に魔の者が出現したとの事であり、前回とはルース達が違う道筋を辿ってきたように、相手も同じ行動をとるとは限らないという事を知る。


 そうなると肝心の闇の魔の者は魔巣山(まそうざん)にいるのであろうかという疑問も浮かぶが、ルースはそれだけは絶対に間違いないと思っている。ただし根拠はなにもなく、ただの感覚の問題であるのだが。


 こうしてルース達は魔の者が出たというイヌーシャの町へと、向かって行ったのであった。


 ギルドマスターからはイヌーシャは2日の距離と聞いていたが、馬車を引く馬には少し頑張ってもらい、その日の夜にはソロイゾの隣にある“ココット村”が見える所まできていた。

 出発したのは食料の調達などをしていた為に昼頃となっていたのだが、約一日掛かる隣の村には半日で着いた事になる。

 しかしココット村に到着したとは言え、その村に寄るつもりのなかったルース達は、村が見える位置から少し入った小さな林の中を野営地とした。


 村が見えた時、デュオには「寄らないの?」と聞かれたが、それにはルースは首を振って否定した。

「村に宿はありませんし、泊まる所もないでしょう。それに私達が行けば、食事の用意などでも気を遣わせてしまいますから」

「そうだよな。トリフィー村でも、村の施設を間借りしたんだもんな」

 ルースの説明にフェルも同意する。

「じゃあ村の規模だと、迷惑かけちゃうんだね。了解」


 デュオとキースがパーティに加わった後は、村と呼ばれる場所には寄る事はなかった。その為、ここで皆の意見の擦り合わせをした形になったのである。


 そうしてルース達は野営をするため林の中で馬を外して休ませてから、その近くで火を熾して設営を始めた。

 食料はすぐに食べられる物を買ってきていた為、今夜は軽くそれで済ませる。今は緊急時であり、いつでもすぐに動けるようにするためにも、今回ソフィーの手料理はお預けである。


「本当は明日にでも、丸にぎりとスープを沢山作り置くつもりだったんだけど…ごめんね」

 ソフィーは料理を用意できていない事に謝罪するが、皆はそれは要らぬ謝罪であると首を振る。


「ソフィーはそんな事考えなくていい。それは余裕のある時で、ソフィーがやりたいと思った時にすればいいんだ」

 とフェルは、困ったように微笑んでソフィーに言う。

「そうそう。ソフィーがいてくれるだけで僕たちの旅は安心感が違うんだし、食事なんてお店でいつでも買えるんだから」

 デュオもソフィーへと視線を向けつつ、茶色の粒が入ったパンで作ったサンドパンを齧りながら言った。


「このパンも美味しいですね。これは麦の胚芽まで入っているのだそうですよ。ソロイゾでは健康に良いと、最近はやっているらしいのです」

「だけど少し噛み応えがあるよな」


 フェルはそう言いつつ一口が大きく、手の平より大きいパンを3口でなくなる位の勢いでかぶり付いている。

 それでは確かによく噛まねば飲み込めないであろうと、ルースは苦笑した。


「よく噛んで食べないと、のどに詰まるぞ?」

 キースもフェルに視線を向け、ニヤリと口角を上げた。これは揶揄っている顔である。

 そんなキースが言ったそばから、のどに詰まったらしいフェルが胸を叩いているが、ゴールドのブレストプレートを装着したままである為、ただ金属音を響かせているだけに終わっているようだ。


「ちょっとフェル、スープで流して。はい飲んで」

 ソフィーがフェルのカップを差し出し、かいがいしく世話をしてくれている。

「うう…」

 それを受け取ったフェルは、まだ湯気の立つスープを一気に口に入れ、今度はそれの熱さで悶絶する事になった。


「誰も取りませんよ、フェル。ゆっくり食べて下さい」

 ルースは苦笑しながら水の入ったカップを隣のフェルへと差し出せば、それも勢いよく飲み干すフェルである。

「う…はぁ~。やっとスッキリした」


 懲りていない風のフェルに皆が笑い声をあげ、こうして緊張感のない食事を摂り終わる。今夜は見張りを4人が交代で行いルースとデュオが先に火の番をして、3時間後にフェルとキースへ変わるのだ。ソフィーは寝てもらうが、目が覚めれば火の番をお願いする予定である。


「3時間経ったら起こしてくれよ?」

「じゃあ悪いが、先に休ませてもらう」

「うん、お休み」

「はい、おやすみなさい」


 フェルとキースは焚火から少し離れ、外套にくるまり木に寄りかかって眠る。

 ソフィーはネージュと一緒に、馬車の中へと入って行った。

 これは今回王都を出てから野営をする時の定位置で、皆はもう何も言わずともその行動をとってくれる。

 始めはソフィーだけが馬車で寝る事に遠慮していたが、その方が安心できると皆が言いくるめ、ソフィーだけは馬車の中で眠ってもらうことにしたのだ。


 こうして夜の闇に包まれる中、ルース達は魔の者に警戒しつつ夜を過ごしていったのである。


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