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【322】最初の勇者の物語

新年あけましておめでとうございます

本年もルース達の旅にお付き合いの程 何卒宜しくお願い申し上げます

2025年1月4日 盛嵜 柊


尚、今話は新年の初回ではありますが、ルース達は出てきません。予めご了承の程、よろしくお願いいたします<(_ _)>


 

 遥か昔、人々がまだこの地に散らばる様に暮らしていた頃、その国土の殆どを自然に囲まれ、精霊や幻獣などといった人間とは違う種族もまた森の中や平原に姿を見せていた。

 妖精と呼ばれる小さな物は、瞬くように光り漂いいつも近くにいた為、それを当たり前の光景として受け入れられてもいた。


 そんな中、小さな村と呼べる位には人が集まる場所ができていく。

 寄り添い生活する事を覚えた人々が、雨風を凌げる囲いを作って家族と呼ぶ者と共に住み、それが何軒か集まっている程度の小さなものだ。


 いつしかそこには新たな命も増え、食べる為に草花を育て、獣を狩り、人としての営みを作り、そうして村は少しずつ大きくなっていった。


 その頃の王国にはまだ名前などはなく、統治している者もいなかった時代。そんな時代に自然と共存する彼らには笑顔が溢れ、別段不自由も感じてはいなかったはずだ。


 その中の小さな名も無き村に、新たに男の子が誕生する。

 子供の名前は“ルミエール(ひかり)”といって、文字通りその輝く金の髪と目を持っていた事が所以である。

 そして暫くすると村には新たに女の子が生まれ、その子供には“フローラ(めがみ)”と名付けられた。澄んだ水の如く透き通る様な碧い(あおい)髪と目を持った美しい子供で、年の近い2人は大変仲の良い幼馴染として共に野山を駆け回る日々を送っていった。


 そのフローラは生まれつき魔素(マナ)との相性も良く、小さな頃から少しの傷を癒す位には誰に教えられずとも魔法が使える子供だった。まだ魔法という概念がない時代、今の様に詠唱などというものは存在してもいなかった頃で、フローラは“少し変わった子供”という言葉で済まされていた。


 そのフローラは、傷ついた動物がいればそれを癒してやった。本来であればそれを食料とするところを、まだ子供という純真な心をもってそれを行い、そんな2人に動物たちも心を開きいつも彼らの周りには沢山の生き物たちがいた。

 その物珍しい子供達を精霊たちは可愛がり、見守りつつ次第に友と呼べるほどに親しくなっていった。


 そうして精霊たちは人間に心を許し、人々の住む場所にも頻繁に姿を見せるようなる。

 水の精霊、風の精霊、火の精霊、大地の精霊、心の精霊、光の精霊、そして時間の精霊などといった数々の精霊たちが、人との関わりを楽しんでいるようだった。


 その頃の人間と呼ばれる者達は皆純粋でおっとりとしており、体が透けて見える精霊であろうとそれを笑顔で迎え入れていた。

 そうして東の最果てにある小さな村は、笑顔の絶えぬ日々を送っていくのだった。


 だがそんな日々は、ある精霊に因って突然終わりを迎える。


 国中に人間が増えた事によって諍いや邪まな思いを抱く者達が増え、その人々の負の影響を受けてしまった精霊が壊れてしまったのだ。

 それは徐々にではあったのかも知れないが、傍にいた者達でさえその些細な変化に気付く事ができず、果てにその精霊は自我を失い、只の悪意の塊へと変貌してしまったのだった。


『ねえルミエール。私が私でなくなったら、これを使って封じて欲しい。今はまだ大丈夫だけど、とても嫌な予感がするんだ。だから助けてねルミエール、約束だよ?』


 小さな村で暮らしていた少年はその精霊とは友達であり、ある日そう言って手渡された物を見つめていた。少年はその彼の変化を少なからず感じ取ってはいたが、それを止めるだけの力も能力も、まだ小さな彼には持ち合わせておらず、やがてこの国はその精霊に因って惨憺たるものへと変わっていった。


 人々は逃げ惑い、人を犠牲にしてでも自分だけは助かろうとした多くの者達の人心は荒み、そのせいで更に元凶となる者の力が増えてしまうとも知らずに、混沌の時代は続いた。

 そうして青年へと成長したルミエールは癒しの魔法が使える幼馴染と共に、かつて友人だった精霊(もの)を助けるために立ち上がるのだった。


 それに力を貸したのは同族であった精霊王たちだ。精霊王たちは何の力も持たない彼に1本の(つるぎ)を渡してこう言った。


『ルミエールよ。あやつを止められるのは、友である其方だけであろう。其方はあの者と約束をしたはずだ。それを果たすため、其方に力と剣を授けよう。そしてその約束を果たすその時まで、我らはいつも其方の傍で見守っておる』


 精霊の王と呼ばれる彼らは同族の変貌に心を痛め、その友であるルミエールへと手を貸してくれたのである。

 そうして授けられた握った事のない剣を使い、人々の争いを鎮めて回りながら、ルミエールは変わり果てた友を救う為、その友がいるという遠く離れた地へと向かって行った。

 その実、その精霊がルミエールから遠く離れた地に居たのは、まだ辛うじて友としての記憶があった頃に、このまま友を手にかけてしまわぬようにと、最果ての村から遠く離れた地へと逃げて行ったがゆえであった。


 しかし時間とは無情なもので、ルミエールがそこへ辿り着いた時には既に、その精霊は自分が何者であったのかすらわからなくなる程に、人々が撒き散らした毒によって浸食され変わり果てた姿となっていたのだった。

 眩しい程に輝いていた姿は見る影もなく、今は漆黒の闇へと変貌を遂げていた。その為ルミエールを見ても何も思い出せない様で、射殺さんばかりの眼差しを向ける者は完全に自我を失っていると分かってしまった。


『ルミエール、ねぇルミエール』


 そう語り掛けてくれた精霊はもう見る影もなく、表情さえピクリとも動かない。

 その変わり果てた姿を見たルミエールは悲しみに暮れ、自分が約束を果しに来るまでに要した時間を悔やんだ。そしてもっと早く、彼がこうなる前に助けられていればと歯を食いしばって懺悔した。


 そうしてこの時を予期していた彼に手渡されていた物を握り締め、変わり果てた友へと近付いて行けば、もう精霊としての全てを闇に変えたものは牙をむき出し、まるで獣の様にルミエールへと襲い掛かってきた。


 しかし友に刃を向ける事を躊躇したルミエールは、友であったものが送り出した闇に染まる魔法で吹き飛ばされる事となった。たった一撃ですら容赦なく打ち込まれた魔法は、精霊だった彼の本当の力を垣間見るには十分であった。


『精霊は、人間にはどうする事もできぬ存在だ』

ルミエールがここに来る前に、他の精霊に言われた言葉を思い出す。

『あやつはもう精霊とは呼べぬものにはなってはいるが、根本にあるものは精霊のまま。そして人間には精霊を消滅させるだけの力はない。だからその剣とあやつが渡した物を使い、あやつを永遠に封じるしかないのだ』と、そう言われたのだ。


 吹き飛ばされ血の滲む口を拭いながら、その意味を身をもって理解したルミエールは、友であった者へと刃を向ける決心をした。

 しかしその時には既にその約束を果たせなくなっていたのだが、その時のルミエールはまだそれに気付いていなかったのだった。


 そうして旅をする中でルミエールに共感し付いてきてくれた仲間達と力を合わせ、闇となってしまった友へと剣を繰り出し、やっとその剣を闇に溺れた友へと到達させることが出来た時、約束の際に渡された物が無くなっていると気付いたのだった。

 これでは彼を完全に封じる事ができなくなったと気付いたルミエールは、幼馴染のフローラに望みを託し、剣を彼に刺したまま動きを止めるルミエールと彼を、このままこの地に封じてくれと頼んだのだった。


 元々魔法が使えるフローラには、途中で助けた小さな龍が寄り添っている。その龍と共に力を合わせれば、喩え一時的とはいえルミエールが成し得なかった封印をする事ができるはずだったからだ。


 ルミエールという幼馴染の懇願に涙を流しつつも従ってくれたフローラによって、ルミエールと精霊の成れの果てである友はこの地の奥深くへと封じられたのである。


 その後、この青年がどうなったかは誰も知らない。友である精霊を抱きしめるようにして消えていったルミエールの、その後を見た者などいるはずもないのだから。


 そうしてルミエールの犠牲の内に封印された精霊が姿を消せば、再び人々には平穏な暮らしが訪れるも、減っていた人々の数も増えて行けば、再び人心は乱れ悪意を持つ者が増えていく。

 それにより封印されしものは、それらの汚れた心で生じた負によって闇の力を溜め封印を破るまでとなっていく事になるのだが、いつの時代もその暴挙を止める事はできず、勇者と呼ばれるものが動きを止めている間に、聖女と呼ばれるものが封印をするという手段を取らざるを得なくなったと云われている。


 こうして今この時代にも受け継がれる勇者はその時の剣と共に、この精霊であった者を救うために、再び立ち上がる事になるのだろう。



 ― 最初の勇者の物語より ―


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― 新着の感想 ―
とても面白くて見事です!これからの物語を楽しみにしています!
更新お疲れ様です&明けましておめでとうございます! なるほど、勇者と呼ばれる存在はこうやって始まってしまったんですね…。ルミエールの願いは高潔なものですが、今を生きる人たちがその願いを叶えてあげられ…
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