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【316】トゥモルの町

 ルース達の旅は順調に進み、王都を出て約一週間後の夕方には“トゥモル”という町に到着した。


 今回の道はルース達が王都へ行った道とは違うため、初めて立ち寄る町が続いており、そこは皆知らぬ町に立ち寄れることを素直に喜んでもいた。


 そして厩のある宿を借り冒険者ギルドへと向かえば、そこは夕方と言えど尋常ではない程、ギルドの中が混乱していたのだった。

 しかしネージュとシュバルツを連れたルース達5人が姿を見せれば、その姿に気付いた者達が動きを止め、ルース達をチラチラと伺うような視線を向けてくる。


「こういう事か」

 とフェルがボソリという。

 先日ダダリオのギルドマスターに言われた事を思い出したらしいフェルが渋面を作り、キース達もそんなフェルに苦笑する。


 そしてルース達の前には自然と隙間が生まれ、それを利用して受付まで進むルース達であった。


「こんばんは。何かあったのですか?」

 ルースがギルド内の雰囲気の事を問えば、ギルド職員は躊躇いがちに口を開く、

「はい…いいえ…あの…」

 そのギルド職員が、見知らぬものに話して良いのかという態度を取った為、ルースはそっとギルドカードを差し出した。


 するとギルド職員はカードを受け取り魔導具へかざすと、魔導具とルースの顔を何度も見比べて、ハッと動きを止めた。

「失礼いたしました。ご提示いただきありがとうございます」

 とそれまでの態度に謝罪し、カードをルースへと返却するギルド職員。

 ルースはニッコリと笑んでそれに応えた。


「で、何があったんだ?」

 フェルがルースの隣から顔を出す。

「あ、はい。緊急招集が掛かり、皆さんにお集まりいただいていたところです」

「召集?」

 と、キースも訝し気に聞く。


「はい。今日この近くの森で、人が亡くなっているのが発見されました。この町にも自警団はあるのですが人員がそう多くない為、その犯人捜しのため冒険者ギルドに応援要請が出されました」


 ルース達は何を言わずとも頷きあってから、ルースはギルド職員へと視線を戻す。

「私達も加わります」

「え?はい!ありがとうございます!」

「それで、その原因は分かってるんですか?」

 とキースが質問する。


「確かな事はまだ言えないらしいのですが、状況からすれば恐らく強盗の類であろうという事です。これから冒険者の皆さんにも、その事をお伝えする予定です」

 そうギルド職員が言ったところで、受付奥の扉が開き一人の男性が姿を見せた。


 その人物は50代位で短く刈り上げられた髪には白いものが混じり、体格はさほど大きいとは言えないが鋭い目つきをしており、その動きには無駄がなくまるで捕食者の様な印象を受けた。


 そして受付にいるルース達を、その炯眼(けいがん)でチラリと視界に入れて眉をひそめる。

 その様子を見ていた目の前のギルド職員が、慌ててその男性へと近付き耳打ちをすれば、男性の目が僅かに見開かれ、その職員へと頷いてなにやら話をしている様子だった。


 室内はその男性が出てきた事で冒険者達もそちらを注視し、徐々に喧騒が鎮まっていった。

 そうして男性が受付脇まで進み出れば、皆は黙ってそちらを向く。


「俺は、ギルドマスターの“カルウェル・ステッドリー”だ」

 とそこで言葉を切りルース達へと視線を向ける。つまりこの名乗りはルース達へ向けての言葉であろうとルースは軽く会釈を返せば、ギルドマスターはその後視線を皆へと戻す。


「まずは召集に応えてくれた皆に感謝する。もう知る者もいるだろうが、本日この町の東にあるルルーの森で、人が襲われ死亡しているのが発見された。その襲われた者達は、夜間に森の中を通過していた商人であると分かった」

 ギルドマスターの話に一気にざわざわとし出すが、それを手を上げて制止する。


「その者達には刃物で襲われた傷があり、近くにあった馬車に荷はなく破壊された状態だったそうだ。その事から推測すると、盗賊に襲われたのではないかとの事だ。しかし今動いている自警団だけでは人員が足りず、その為冒険者ギルドに応援要請が入った。皆にはこれから手分けをしてその犯人の捜索と、町の見回りで二手に分かれてもらう。振り分けはC級以下が町の見回り、それ以上は外に出て強盗の捜索に当たって欲しい。この町の治安にも掛かってくる事だ、よろしく頼むぞ」


 そう言ったギルドマスターはすぐに皆の中に割って入り、個人的な質問を受けたり指示を出し、忙しそうに立ち回る。

 そして少しすれば、受付の前で様子を見ていたルース達の傍へと歩いてきた。


 近付いてきたギルドマスターはルースと並べば同じ位の身長ではあるが、その眼差し以外にも威圧感があり、流石ギルドマスターと呼ばれる人物だとルースは思う。気の粗い冒険者を纏める者として、心技体を兼ね備えているのであろうと感じた。


「君達の事は職員から聞いた。悪いが手を貸してもらえると助かる」

「はい。私達もそのつもりです」

 ルースがそう言えば、フェル達も頷いて返す。

 元々冒険者としても、緊急クエストなどには積極的に関わるようにしていたのだ。


「では君達も外で捜索をして欲しい。まだその者達の人数や(ねぐら)など分かってはいないが、そう遠くない場所にいる事も考えられる。そいつらを発見した場合、無理はしなくても良いが、できれば一人くらいは話せる状態で残しておいてくれ。余罪の確認もあるだろうからな」


 ギルドマスターの話に、ルース達は無言で頷く。

「東のルルーの森は、町から2キロ程離れた場所にある。その森を中心に動いて欲しい」

「「「「「はい」」」」」


 冒険者ギルドで話を聞いた5人は、その後町を出て東の森を目指して移動していった。


 その森までは細い道があり、そこを辿っていく事となる。

 その道にはパラパラと冒険者達の姿も見え、走っていく冒険者達に紛れ、ルース達も小走りで進んで行く。

 そして程なくすれば、その道は森の中へと続いていた。


 この森の中に続く道は半日も歩けば向こう側へと抜けられるらしく、それゆえ整備された道ではないものの、王都へ行くために利用する商人も多いらしい。

 ただし見通しの悪い道であり、今までも魔物と遭遇したり窃盗団に襲われる事もあったのだとか。


 ここを利用する商人達は当然それを知っており、その為、必ず護衛をつけて行動しているという話であった。

 しかし今回の件についてはその護衛もろとも殺されていたらしく、荷を奪われた挙句それらは放置され、朝になって通りかかった者達によってトゥモルの町に知らされる事となったのだという。


 ルース達は森の中へと散っていく冒険者達を横目に、そのまま速度を緩めて道なりに歩いていく。


「シュバルツ、頼めますか?」

『承知した。では様子をみてくる』

 そう言ったシュバルツは、夜のとばりが下りる空へと飛んでいった。


「俺達はどっちに行く?」

 シュバルツが空から偵察している間、ルース達はどう動くか。

「まず、襲われていた場所に行ってみましょう」

 ルースの提案に、皆はギルドで聞いてきたおおよその位置まで移動する。


 この森に続く道の丁度中間当たりだと聞いていたので、この道を進んで行けば辿り着くはずだ。

 周りにいた冒険者達は既に森の中に入って行ったらしく、周りには人気はない。

 それを確認してネージュが一回り体を大きくすると、ソフィーを背に乗せたネージュと共に皆は走り出す。


 そうして森の中央付近に到着しても、そこにはもう何もある訳はないが、地面には所々に何かが滴り落ちた跡と焼け焦げた場所が残されていた。


「何人だった?」

「確か5人だと言っていたな」

 デュオが聞いたのは、ここに倒れていた人数だ。

 商人が2人だったとしても、その内3人は護衛であったのだろうと思う。


「って事は、それより多い人数だったんだろうな」

 フェルも気付いた事を口にする。

「そうですね。最低でも5人、下手をすれば10人以上の集団かも知れませんね」

 フェルとルースが話していれば、ソフィーは一人、胸の前で手を組んで目を瞑っている。

 優しい彼女は、ここで亡くなってしまった人たちの冥福を祈っているのだろう。


「あっ、あそこの木に矢が刺さってる」

 その時デュオが道の脇の森へ数メートル入り、そこから戻ってくると手に1本の矢を握っていた。


「襲われた時の物か?」

「う~ん、わからないけどそれっぽいね」

 キースの問いにデュオはそう答えた。

「って事は弓を射る奴もいるんだな」

『…それに、魔法が使える者もおるようじゃのぅ』


 フェルの言葉に続けて、ネージュも焦げた地面から視線を上げルース達を振り返ると、徐にそう付け加えたのであった。


MaryChristmas!

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― 新着の感想 ―
I wish you a merry Christmas.
更新お疲れ様です&メリークリスマス! せっかく久しぶりに皆揃っての冒険再開なのに、初っぱなから血生臭い事件捜査が最初のミッションか~…。弓はともかく魔法を使うやつがいる→ただの木っ端盗賊じゃない可能…
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