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【315】今更?

 ルースがルシアス王子だという事が分かっても、友たちは変わらずルースに接してくれた。

 それはルースが一番心配していた事であったのだから、そんな彼らにホッと胸を撫でおろすルースだった。


 そんなルース達を乗せた馬車は、町に寄る事はあれど、自らを勇者パーティであるとは触れ回らず、ただの旅の冒険者であるとしていた。

 とは言え、行く町々では勇者の儀があった事を知る者は多く、人伝(ひとづて)に聞いた勇者の噂話が、何をせずともそこかしこで聴こえてきた。


「知ってるか?この前決まった勇者はヒョロヒョロで、随分と頼りない奴だったらしいぞ?」

「え?でも勇者に選ばれるんだから、ヒョロヒョロでも強いんじゃないのか?」

「それはわからんが、それにまだ若造だったと聴いたぞ?」

「ええ?!そんなんが勇者だって?…世も末だな~」


 と、少々小耳に挟んだ感じでこれである。

 ルースは思わず自分を見下ろし、首を傾ける。そしてそれを見た仲間たちが笑いを堪えるように肩を揺らしていたのだが、そんなほんわかした若者たちが勇者パーティだと、誰も気付かぬのは当たり前であると言えよう。


 そうして立ち寄る町では、ルース達は厩がある民間の宿に泊まる事になる。冒険者ギルドの宿には厩がない為、泊まる事はできないからだ。

 そうして先に宿を借りて冒険者ギルドへ顔を出せば、冒険者のそれより少し上品な装いとなったルース達パーティは、冒険者ギルドに入るだけで皆の注目が集まる。


 そして皆の視線がルース達を追う中で受付へと辿り着きギルドカードを出せば、なぜか奥へと通される事となった。


 ルース達は知らなかった事であるが、今回冒険者であるルース達が勇者パーティとして選ばれた事は、王都の冒険者ギルドを通じ、国内全ての冒険者ギルドへ周知されていたのだった。

 よく考えればそれは当然の事だとわかるのだが、当人たちはそんな事まで気が回らなかった為、王都を出て初めに立ち寄った町でいきなりギルドマスターの部屋に通されたものだから、何かしたかな?と呑気な事を考えたのだ。そしてギルドマスターと話してみれば、その事を聞かされたのである。


「今回、勇者に選ばれた者が冒険者であったと、ギルド内は湧いている。この様な事はギルドが結成して以来なかった事で、無理もないだろう。それに、君達の事はその前からチラホラと名前も聞いていたから、ギルドも妙に納得している雰囲気でもある」


 ここは王都を出発して3日目に立ち寄った最初の町、“ダダリオ”という所の冒険者ギルドだ。

 ここまでルース達は街道に沿って北上し、夜は野営をして過ごしてきていた。

 そのダダリオのギルドマスター“チャック・ニュース”という、強面で坊主頭の男性に話を聞いていた。


「王都から出発した君達が、冒険者ギルドに来たのは久々だろうから言っておくぞ。君達は勇者パーティという立場にはなっているが、今も冒険者ギルドに所属している冒険者でもある。だから旅の間に何かあれば、冒険者ギルドを頼れ。とは言え、こちらが頼りにさせてもらう方が多いかもしれないがな?」

 と、そこまで言ってニュースは頭を触る。


「それに例の魔の者には君達が対峙していたとギルドが把握しているから、その辺りの情報が出れば、まず声が掛かると思っていてくれ。それ以外にも頼りにされる事もあるだろうが、そこはまぁ、察してくれると助かる」

 とギルドマスターのニュースは、頭をポリポリと掻いて話してくれた。


 ルース達は勇者の儀の前に一度王都の冒険者ギルドでクエストを受けて以降、冒険者ギルドへは顔を出してすらいなかった。その為、2か月振りに冒険者ギルドへ顔を出したという事になる。

 しかしその間にルースが勇者になった事などは国内全てのギルドマスターには知られており、今後ギルドカードを提示した時点で身元がバレるのだと教えてくれた。


「それにな、今の君達はどう見ても普通の冒険者には見えん」

 そんな言葉に、ルース達は互いに顔を見合わせた。

 しかし自分達には特に変わった様子もなく、ソフィーも王都で着ていた様な服装を改め、ロング丈のサッシュブラウスの下に動き易そうな長いパンツをはいているし、ルース達も簡素な服を着ている。


 そうして首を傾けるルース達に、ニュースは真面目な顔で話す。

「着ている物の素材が上質という事もあるが、それだけじゃないな。何といえば良いか…君達がいると自然と目が行く、目が素通りできない…とでも言っておくか」

 と、ギルドマスターは自分の言葉に頷いていた。


 そう言われても、ルース達は何一つ変わった覚えもないのだが。

 と眉間にシワを寄せていれば、フェルが何かに気付きルースの腰の辺りを見た。

「その剣のせいじゃないか?それって勇者の剣だろ?何か特別なオーラでも出てるとかさぁ」

 フェルの意見は正直言って短絡的ではあるものの、なまじ否定できない部分もあり皆は口を噤む。


 そこへギルドマスターの声が降る。

「まあ、それもあるだろうが。しかし勇者一人だけがという訳でもない。皆がそれぞれ目を引いて、それが集まっている分余計にって事だろうな」

 フェルは、そんなもんか?と肩を竦めるが、その答えは自分達では分からない。


「そんな事で声を掛けてくる者もいるだろうが、そこはよろしく頼む」

 とギルドマスターは苦笑した。

「はい、わかりました。色々とお教えいただき、ありがとうございます」

 ルースの礼に頷いたギルドマスターは、見た目に反して優しく、面倒見の良い人物だったと言えるだろう。


 王都から出発したルース達は5人で旅をしているのであり、勇者パーティだからといって騎士達を引き連れて旅をしている訳でもない。城に残った騎士達にも、王都を護る役目があるのだ。

 このたった5人がこの国の未来を背負う者達であり、そんな彼らは町々で助力を乞う事が許されているのだと、この町では教えられたのである。


 こうしてギルドマスターとの話の後で掲示板も覗いてみたが、緊急を要する物はなかった為、ルース達は町で食材を買うなど身の回りの用意を済ませ、宿へと戻っていったのだった。


 明日はもうこの町を出る予定だ。町の様子も特に問題はなさそうなので長居はせず、すぐに旅立つ。別にそこまで急ぐ旅ではないが、のんびりもしていられないのである。



「なあ、俺達は封印されしものの所に行くっていうのは分かってるが、一体どこに行けば良いんだ?」

 と、宿に戻って皆が寛いでいれば、フェルが唐突にルースへ尋ねた。

 そのルースがフェルへと視線を向ければ、他の皆の視線もフェルに集まった。


「ええ?!フェル今更?…あの本まだ、読んでないの?」

 デュオが驚いてフェルに問う。

「あの本?」

「ほら、最初の勇者の本だよ」

「あれか。いやキースが終わったから俺も読み始めてるが、まだ半分くらいしか読んでない」

 フェルの答えに、その本を先に読み終わっていたデュオとキースが顔を見合わせる。


「ではまだ知らないんだな…。フェルが御者をしているのに行く先を知らなかったとは、盲点だった…」

 キースは眉上げ、肩を竦めた。


「ねえ、その本って何の事?」

 ソフィーは3人の会話について行かれず、キースとデュオに聞いた。

「王都に行くまでの途中にデュオが買った本で、その本には最初の勇者の物語が載っているらしいです」

 ルースもまだ読んではいないもののそう説明すれば、ソフィーも興味を持ったのか目を輝かせた。


「私も読んでみたいわ。今はフェルなのね?終わったら借りても良い?」

『なんじゃ、ソフィアは勇者の話を知りたいのか?であれば我が語って聴かせようぞ』

 ソフィーの隣で寛いでいたネージュは、ソフィーの話に嬉々として名乗り出る。

「それは有難いけど、私はお話しとして読んでみたいの。ネージュに聴いたんじゃ、ちょっと意味が変わってしまうでしょう?だから気持ちだけもらっておくわね?」

『ふむ…さようか…』

 とソフィーに拒否されてしまったネージュは、眉を下げるように表情を崩し再び寝そべるとそのまま目を閉じた。


「それじゃ、俺の後はソフィーだな。ってその本に行先が書いてあるって事か?」

「そうだよ?その中で最後に戦う場所が、僕たちが行く場所だと思うんだ」

 キースもデュオに同意見とばかりに頷く。


 フェルが知らなくても、他の者が分岐で道案内すれば良いだけの事だ。その為、フェルは誰にも行先を教えてもらえないのである。


 フェルはその様子に行先を聞くのを諦め、その夜から再び本を読みだしたのであった。


サッシュブラウス:腰にリボンや帯などを巻いて絞っているブラウスの事です。


今日は24日でクリスマスイヴですね。

皆さま、素敵なクリスマスをお迎えください。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。イブですがメリクリ! >行き先どこですねん? 言われてみれば「そういえば確かに?」ってなる部分も有りますね。ルースはいわゆる二周目な訳ですが…ボスが一周目と同じ場所で勇者到来を心待…
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