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喪われし記憶と封印の鍵 ~月明かりへの軌跡~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
第八章 ~迷~

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311/348

【311】詰問者

「そして最後は、教会より派遣される勇者パーティを守護する聖女、ソフィア・ラッセンである」


 ワァーと歓声が響き、聖女が勇者たちの隣に並ぶ。

 入って来た扉付近には、白い制服に身を包んだ聖騎士たちを連れた教会の者の姿も見える。白い祭服を纏った者達は上座の脇に留まり、その聖女を誇らしげに見つめている。


 紹介された聖女が皆の前で美しいカーテシーを披露すれば、その背筋の通った姿に再びざわめきが起こる。

 サラリと流れ落ちる艶やかな銀の髪に白いロングドレス、その肩にはベルスリーブの袖に銀色の刺繍が施された丈の短いボレロが着用されている。胸元には銀色のリボンと教会のシンボルである剣を模ったクロスが輝いていた。


 その姿を見た者は聖女の美しい姿に吐息を落とすも、それらが多数であった為に一つの騒めきに変わり広間は熱気を帯びる。


「この5名が、我がウィルス王国の運命を担う者達である」

 国王が皆の反応に満足気に頷けば、広間にはゆっくりと楽器の音色が流れてきた。

 この後からは貴族たちが動き出し、国王や勇者へ挨拶に向かう。

 いつの間にか壁際には軽食や飲み物も用意されており、ここからは立食パーティの形式となっていくようだ。


 一気に大勢の気配が動き始め、広間は熱気と喧騒に包まれる。

 ルース達5人はカールセンの誘導で国王の前から移動し、その脇に寄って挨拶に来る者達への対応となる。


 勇者たちは国王より皆へもう紹介が済んでいるため、わざわざ挨拶に来る者にはルース達と顔見知りになりたいという思惑が含まれている。

 こうして集まってくる貴族たちには、ルースが代表して対応し話を合せる。

 尤も、フェル達4人は引きつった笑みを浮かべるだけで、どう対応して良いのか戸惑っているという事が大きい。ルースはその中で辛うじておかしくない程度の対応をして、その場をやり過ごしている。


 こうして折角5人が揃ったのであるから、本当はすぐにでもソフィーとの再会を喜び合いたいところではあるが、あからさまな態度を取ってしまうと勇者パーティと聖女が知り合いである事がバレてしまうため、ここではまだ互いに知らない振りをしている事しか出来なかった。

 そこは皆も分かっていて、気持ちを抑えている。

 この会場には聖女と勇者たちが知り合いである事実を知る者は、殆どいないのである。


 そうしてある程度の時間が経てば、勇者たちに興味がある者はいなくなったのか、ルース達の周りにゆとりが生まれる。

 そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「この度は勇者として選ばれました事、お慶び申し上げます」

 貴族らしく上品なダブルスーツを纏って頭を下げた人物に、ルース達5人はやっと少しの笑みを纏う。

「ご無沙汰しております、領主様」

「どうぞ、ストラドリンとお呼びください」

 口調は丁寧だが、その顔はいたずらが成功した様に口元が上がっている。


「では、ストラドリン伯、その節はお世話になりました」

「いやいや、大した事はしていない。改めて礼を言われる程の事はないですぞ?」


 以前よりも少し敬意を込めて話してくれるパッセルの領主ドナルド・ストラドリン伯爵は、後ろにいるもう一人を隣へ押し出した。とは言え、その大きな体は先程からしっかり見えているのだが。


「ダスティさんも、ご無沙汰しております」

「久しぶりだな。まさかルース達が勇者パーティに選ばれるとはなぁ…」

 そう言って5人を見まわして笑みを向ける。


「ダスティさんがこんな所にいるのが、何だか不思議ですね」

 フェルは見慣れぬスーツ姿のダスティに、困惑気味に言う。

「それはこちらのセリフだが…。まぁ自分でもそう思う」

 ダスティはフェルの言葉に怒るでもなく、そう言って苦笑を浮かべた。


 話を聞いてみれば、ダスティの父であるドナルドが勇者の儀に参列していた際、ルースが勇者の剣に選ばれた事を知った。その後ドナルドからの連絡を受けたダスティも、このお披露目会に参加する事になったのだとか。


「やはりこの格好は肩が凝る…」

 ダルディは周りの貴族たちをチラリと見て眉間にシワを寄せるも、再びルース達へ眼差しを向けた。

「しかし、こうして話せただけでも来た甲斐があった。まさか又5人が揃うとはな」

 小さな声で言って、チラリとソフィーを見たダスティは優しい目をしていた。


 ソフィーと別れたあの時ダスティもその場にいた為、ソフィーの事も心配してくれていたのだろうとその眼差しから感じる。その言葉にソフィーは微笑み、ルース達も言葉の意味を理解して頭を下げた。


「はい、これで又みんな揃いました」

 フェルはダスティへと、屈託のない笑みを見せて言った。


 そうしてストラドリン伯が挨拶を終えて離れて行けば、今度は一人の男性が恐る恐るといった風に近付いてきた。


 正直そろそろ一度休憩をさせてもらおうかと思い始めていたところで、その近付く人影を見てルース以外の者から小さくため息が漏れた。

 それに苦笑しつつも、ルースは近付いてくる者に意識を向けていれば、なぜかその人物はギラギラした眼差しをルースの後方へ向け近付いてくると気付く。


 ルースは内心首を傾げる。大抵こうして挨拶をしてくる者は、勇者とつなぎを付けたい者達だ。しかしこの人物は様子が違っているなと、ルースは警戒する。


 そして5人の前に、少々やつれた紳士が現れる。ルース達の前で立ち止まると、やはり視線はルースにではなく、その後方へと向けてられていた。


「私はライオネル・ゼクヴィー子爵だ。君に聞きたい事がある」

 と唐突に話し出すもその視線の先はルースの後方、キースへと向けられていた。


 これは挨拶ではなく詰問ではないか、という位の勢いだ。そしてルースはその男性の名前を聞き、表情を引き締めたのだった。


「私はルシアスと申します。わざわざご挨拶いただき、ありがとうございます」

 ルースは、さも挨拶に来た者を出迎えるような対応を返した。

「ん?ああそうか、君が勇者なのだな。ところでその後ろの者に話がある。君、名前は?」

 ルースの挨拶にはおざなりに返し、ライオネルと名乗った者はルースの後方を執拗に気にしている。


「私のパーティメンバーに、何か御用ですか?」

「……先程からそう言っているだろう。君は黙っていてくれ」


 ルースが矛先を自分に向けようとしても、ライオネルはルースを軽くあしらう姿勢を崩さなかった。

 チラリとルースへ向けた視線は、お世辞にも勇者へ向けるものとは言えないもので、心底どうでも良さげという態度である。


「そうおっしゃられても、私どもは何もお話しする事はございませんので」

 あくまでルースが対応し、キースは口を引き結んだまま視線すら外していた。

 それを見たライオネルはイラついたのか、だんだん声が大きくなっていった。


「君は下がっていてくれ!私は後ろの者に…「どうかされましたかな?勇者様」」

 その時ライオネルの言葉に被せるように、聞き馴染んだが声が聞こえた。


 ライオネルは話しを邪魔されて怒ったのか、目を吊り上げてその声の主を振り返る。

「な!人が話をしているところへ……」

 と、途中まで話して視界にダスティ達の姿を入れた途端、ライオネルの肩がビクリと揺れた。

 ルースはストラドリン伯達へと、感謝の籠った視線を向ける。


 まだ近くにいたストラドリン伯はルース達がどこぞの貴族に絡まれ、困惑しているのに気付いて引き返してくれた様である。


「それで何を騒いでいたのか。君は…ゼクヴィー子爵であったかな?私はドナルド・ストラドリンという」

「…私は、ライオネル・ゼクヴィーと申します…」

 何かを言いたそうにしつつも、ライオネルはストラドリンが伯爵だと知っているのか、上位の者からの挨拶に応える。


「ふむ。勇者様方はこれから別室に移動となる時間だ。挨拶は済んだようであるし、それでは失礼する。さあ参りましょう、勇者様方」

「はい」

 ルースは機転を利かせてくれたストラドリン伯に笑みを向け、ライオネルに会釈をして背を向ける。


 こうしてルース達はストラドリン伯に連れられ大広間を出ようと歩き出せば、途中で控えていた聖騎士が近付いてきて、ソフィーだけを連れて行ってしまった。

「……」

 聖女は、勇者達とは違う部屋で休憩を取るらしい。


 それを見送る4人は、まだソフィーとは何の会話も出来ていなかった。しかし今は諦めるしかなさそうで、ルース達はそのまま広間を抜け、勇者たちが使う控室へと向かって行った。


 その扉まで付き添ってくれたストラドリン伯とダスティはそこで一礼して別れようとするが、それを止めたのはキースだった。

「すみませんが、少しお時間はありますか?」

 キースの只ならぬ様子に2人は顔を見合わせて頷くと、ルース達と共にその控室へと消えて行くのであった。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まぁ貴族が集まる場でしたから、この出会いは回避不可能でしたわなぁ…。討伐の旅に余計なちょっかい出されたら困りますし、出来れば旅立ち前にケリを着けておきたいですが…はてさて? そ…
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