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喪われし記憶と封印の鍵 ~月明かりへの軌跡~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
第八章 ~迷~

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310/348

【310】宴に集う者

 勇者パーティとして集められたフェル達に合流したルースは、その後フェル達と共に再び王族に謁見した。


 その場のルースは二度目という形で参列したため、国王のお言葉をいただいたのはフェル達3人だけとなった。

 しかしその際も近くに控えていたルースへチラチラと上座から視線が向けられるものの、ルースは表情一つ変えずにその視線を受けとめていた。


 その中でセレンティアの視線が、前回の探る者から見守る者へと変化していたのは、前日の事があったからであろう。セレンティアは聡明に育ち己の立場とルースの立場をよく理解して、何も言わず見守ってくれているのだとルースは感じた。


 その国王たちとの謁見以降、翌週に控えている勇者パーティのお披露目までルース達は特に予定もなく、フェル達と共に騎士団で鍛錬をする日々を送る。しかしその中にキースは含まれていなかった。


 キースはと言えば、魔術師団員達にさらわれるようにしてそちらの棟へと連れて行かれたのだ。魔術師団棟は騎士団棟の反対側にあり、城の西側に建っている。


 その魔術師団員達は、所謂“魔法馬鹿”…というのは失礼だが、魔法について日々新しいものを求め魔法にしか興味がない者達ばかりであり、そんな彼らはキースが賢者だと知り興味深々だったというだけの事。

 どのみちキースが騎士団へ来ても確かに余りする事もない為、それはそれで合理的だという事で、キースもそちらへと喜んでついて行ったのだ。

 それにキースの魔法は独学で身に付けた物が多いため、この機に色々と教えてもらうのだと笑って去っていったキースも、中々の強者である。


 その様な日々を送りつつ、ルース達は貴族向けのお披露目会の日を迎える事となる。


 その日は朝から城中が慌ただしい雰囲気に包まれており、ルース達の所にも朝から侍女が部屋へと押しかけて来た。

 以前採寸していた衣装を着せられ、最終確認だとお針子たちも自分達の落ち度がないよう、満足が行くまでルースの衣装を調整した後やっと皆が引き上げていけば、ルースはそれだけでもうヘトヘトになってしまっていた。


 王族であった頃にもこの様に衣装を仕立てる事はままあったが、こんなに急ピッチに進める事はなく余裕をもって準備をしていた為、ここまで疲れた事は無かったように思う。


 ルースはやっと一人になった部屋で大きく息を吐く。

 今はまだ昼前で、宴は夕方からだと聞いている。

 女性ではないのでそこまで準備に時間が掛かる事もないのだから、この後は少しの間ゆっくりできるだろうとルースはホッとする。

 そうして暫しの間、ルースはソファーに身を預けるように目を瞑ったのだった。




 そうして始まった勇者パーティお披露目の宴は、城の南にある大広間での開催であった。

 この宴は国王より直々に、貴族たちへ勇者を紹介するという意味合いのものである。


 とは言え紹介される勇者達はこの後、封印されしものの復活を阻止する為に旅立って行くのだ。それゆえ一応は挨拶を交わすものの、貴族たちの目的はこの宴に集まった者達の動向を探るためのものであり、情報を仕入れ己の今後の行く末を安定させるためのものと云えよう。


 いうなれば、勇者は添え物である。

 ただし当の彼らが今後の鍵を握っている事は事実。彼らが封印されしものに敗れる事があれば、この国は亡ぶのだ。

 その為、貴族たちもこの勇者たちに頑張ってもらおうと、表面上では応援するのである。




 そんな多数の貴族が集まる宴に、覇気のない男も参加していた。

 その者の名は“ライオネル・ゼクヴィー”、57歳。最近一人息子に先立たれ、屋敷の中は静まり返っている。

 妻は現在体調を崩しこの大事な宴にも参加する事ができず、ライオネルは本日一人でここに来る事となった。

 一人息子であったがゆえに妻がその息子を溺愛していた為、今心を壊しつつあるのだ。


 ライオネルが若かりしころは色々と遊んでもいたが、自分が年齢を重ねた事もあり今は大人しく、誠実とは言わぬまでもそれなりに家を大切にしてきた。それが、息子がいなくなったことで家を継ぐ者がいなくなり、ライオネルは焦っていた。

 私の代で、このゼクヴィー子爵家を潰す事はできないのだと。

 そしてもっと色々なものに子を産ませておけば良かったと思った時、ライオネルは20年前の事を思い出し、その可能性に一縷の望みに掛けることにしたのだ。


 当時ライオネルは35歳の男盛りだった。

 しかし妻との間にできた息子は3歳になり、妻はその可愛い盛りの息子に付きっきりとなっていた。

 その為ライオネルは欲求を発散させるために、その時屋敷で侍女をしていた者に手を付けたのだ。そうして暫くして子供を宿したと聞き、家庭内に波風を立てる事を(うと)むライオネルは、そして生まれてきた子供を生後間もなく捨てに行かせたのだ。


 その時手近にいた傭兵にそれを頼み、戻ってきたら報酬を渡すと言いつつも口を封じようとまで考えていたが、それはライオネルの杞憂に終わり、その後その傭兵も赤子も行方不明となったのだ。


 戻ってこなかった事を幸いとし、ライオネルはその後その事をすっかり忘れていたが、今回の事で色々と考えてみれば、もしかするとその子供がどこかで生きているかも知れないと思い至り、魔導具師に捜索で使う道具を作らせることを思い付いたのだ。だがそんな物は今まで作られてもいなかった為、制作も進んでいないようだった。今になっても魔導具師からの吉報はない。


 折角自分の髪などの材料を用意したにもかかわらず…と、ライオネルはいつもの癖で爪を噛んでその感情を抑えていた。


 こうしてまだ自分の事が落ち着いていない最中に、勇者のお披露目という宴が開かれると王家から直々に招待状がきてしまった。その為ライオネルは気乗りせぬものの貴族としての立場を守るため、今日の宴に参加していたのである。


 しかしその大切な宴でもやはり気がかりな事ばかりを考えてしまい、このままその時の子が見付からなければ、今からでもまた誰かに生ませれば間に合うのでは…という思考も浮かびつつ、王城の大広間に到着していたのであった。


 ライオネルは薄い水色の瞳を持つ切れ長目に藍色の髪で、自分でも見目麗しい部類に入ると思っている。

 その為この年齢になってもまだ自分に靡く者もいるだろうと内心では考えており、この宴で勇者は二の次、まずは自分の子を産ませる女性を探そうと考えていた事を、他の参加者は知る由もないのである。


 付き合いのある貴族などとは挨拶をしながら、自分の目的の者を探していれば、いつしか国王の入場時間となっていた。

 本日の宴は夜半まである。まだこれから時間はたっぷりあるなどと思いつつ、表情は取り繕い紳士らしく真面目な眼差しを王族が現れる壇上へと向けるライオネルであった。


 そうして国王のお出ましとの先触れがあり王族が揃って入場してくれば、場内は歓声に包まれこの宴は幕を開けた。


 まずは国王より、今日ここへ足を運んだことへの労いの言葉をいただいた後、先日の勇者の儀で選ばれたという勇者とその随行者たちがお披露目となる。

 ライオネルは勇者などには興味もなく、その勇者の儀には参列すらしていなかった為、それらを見るのは今日が初めてとなるのだ。とは言えライオネルの興味があるのは自分の今後の事で、そちらばかりが気になっており、勇者が紹介されている間も端の方で辺りを見回していた。


「それではここに、勇者の剣に選ばれし者とその随行者を紹介しよう。勇者達よ、ここへ」


 国王の声の後、上座近くの廊下側の扉が大きく開き、そこから4人の若者が姿を現わした。

 近衛騎士に先導されながら、ゆっくりと国王の傍へと近付いて行く者達の先頭は茶色の髪をした者で、その者は後ろに続く者達とは違い、銀色に煌めく服を纏っていた。そして続く者達は濃い灰色で統一された服を纏い、最後尾の者は魔術師団員が羽織っている物と同じ濃紫(こむらさき)のローブを身に付けているものの、その動きに合わせ中の灰色の服が見え隠れしていた。


 勇者が銀色の服、そして随行者が灰色の服という事らしい。

「これが勇者パーティねぇ…」

 正直興味のないライオネルは半目でそれを見ていた。


 その後、国王より勇者の剣を渡される勇者が(うやうや)しくそれを受け取り、そしてその4人が貴族たちを振り返ったところで、国王から勇者パーティ一人ずつ名前が紹介されたのだった。


 そこでライオネルは眠そうにしていた目を大きく開き、一人の男の顔を凝視したのである。


「そして、この者はパーティの頭脳となる賢者、キリウス・ロギンスである」


 その時の国王の声だけはライオネルの耳にはっきりと届き、その黒髪と水色の瞳を持つ青年から、ライオネルは目が離せなくなっていたのだった。


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