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【31】茜色

本日2話目の投稿です。(2/2)

「お疲れ様、終わったみたいだね」

 2人の様子を見に来たであろうリヒトが、そう言って建物から出てきた。

 そして、しゃがみこんでいるフェルを見て苦笑する。


「ああ、すっかり流れが良くなってるね。きれいになったよ、ありがとう」

「いえ、ご満足いただけたのなら幸いです」

 笑顔で頷いたリヒトは、ルースから視線をフェルへ移動させると、やっと起き上がった様子に笑っている。

「悪かったね、疲れただろう?中に水浴びできる場所があるから、使っていってくれ」


 そう言ったリヒトに促され、道具を片付けた2人は建物の中に入る。入ってすぐ脇の扉をリヒトが開き、「ここだよ」と大判の布を2人へ手渡してから、また工房に戻っていった。


 2人は、ありがたくそこを借りる事にして中に入る。

 中は、2人用ベッド程の広さがあって、その壁の上部から短い筒の様な物が飛び出していた。そして足元には籠に入った石鹸まで置いてあるが、水を浴びるのにはどうするのだろうかと、2人は顔を見合わせた。


 この町へ着いてから、まだ2人は一度も水場に足を踏み入れていない。冒険者ギルドの宿で顔を洗った時も、ルースが出した水を使用していたので、はっきり言えば水場の使い方が分からないのだ。

 以前は当然2人共、村で水浴びなどはしていたが、それは井戸から汲んだ水を使っていたのであって、こういった町の施設のものは使った事もない。


「ここは水浴びをする部屋なんだろう?どうやって水を出すんだ?」

 ルースとフェルは、まだ服を着たまま入口に立っていた。

「私も知りません。ちょっと見てみますね」


 ルースはそのまま壁から出ている筒に近付き、それを見上げる。良く見ればそこから水滴が落ちている様で、ピチャッと音がする。

 そして、目線を下げればルースの肩の高さに窪みがあり、そこに青い魔石がはめてある事に気付く。

 魔石があるという事はこれは魔導具で、何かをすれば水が出てくる仕組みなのだろうと、ルースは見当をつける。

 1件目のクエストで魔石交換を行った際、初めて見る器具の魔石取り替えを手伝っており、色々と観察していた事がこんなところでも役に立つ。


「ちょっと触ってみないと分かりませんが、取り敢えず服を脱ぎましょう。このまま水が出てきてしまったら、服が濡れてしまいますから」

 ルースの言葉に2人は服を脱ぐ。入口脇の上部に棚があり、そこに服を置いていった。


 まずは、ルースがその魔石に近付いて確認する。その窪みは手が入る位の横幅があるので、ルースはその魔石に手を乗せた。すると“ツー“と上の筒から少量の水が出た。それは止まることなく流れるが、いかんせん浴びるという程の量ではない。

 それでもフェルが「おおっ」と声を出した。

 ルースはそのまま、体に当たる水を確認しながら魔石を揺すれば、回転すると気付きそれを回してみる。

 それをゆっくり行えば、少しずつ水の出る量が変わった。


「これは、回して水量を調節するようですね」

 と、当たる水量を多くしていき、適量の所で手を離した。

「おお…すげぇ便利だな」

 ルースは一度水の落ちる場所から離れると、濡れた髪をかき上げながらフェルの所に戻る。


「そうですね。これは魔石を右に回すと水量が出るようになっていました。勢いは調節しましたので、フェルも使ってください」

「おう!」

 フェルは嬉しそうに水の下まで行って、それを浴びる。

「う~気持ちいい…」


 暫く続いた旅で水浴びをしていなかった2人は、石鹸を借りて体の汚れを洗い落とすと、さっぱりとした気分で水浴びを終え、リヒトがいる作業場へと入った。


「ありがとうございました。とてもスッキリしました」

 ルースがそうリヒトへ声を掛ける。

「そうか、それは良かった」


 作業の手を止めたリヒトが2人に近付き、使った布を受け取った。

「うちは汚れる仕事だから、作業が終わればいつもあそこで水浴びをするんだ。汚れたまま町中を歩くと、皆に変な目で見られるだろう?」

 リヒトはそう言って笑う。


「あれは魔導具なのですね。初めて見ました」

「おや?そうだったのか。じゃあ、使い方がわからなかったろだろう?ごめんよ」

「いえ、何とかなりましたので、大丈夫です」

 と、ルースは苦笑して頭を掻いた。


「あの魔導具はね、出口の形状は違うけど、他でも使ってる所が多いよ。原理は良く解らないけど、回すだけで水が出るって便利だろう?この作業場でも水を使うし、もうあれが無いと何もできないよ」


 リヒトは話しながら作業場の壁を見る。ルースがその視線を追えば、そこの壁にも魔石が4つはめてあり、それぞれが1つずつの大きな桶に水を入れる物なのだと見当がついた。

「確かにとても便利です。わざわざ水を汲みにいかなくても良いのは、とてもありがたいですね」

 ルースがそう言えば、リヒトは笑顔で頷いた。


「では、お手数ですがサインをいただけますか?」


 ルースが出した物に手早くサインをしたリヒトは、ここが染色工房だと話す。


「俺は『染色師』なんだよ。子供の頃から色々な色に興味があってね、それを自分の手で表せないかと、染色師を探して弟子入りさせてもらったんだ。ここはね、革や布、木なんかも扱っていて、方々から注文を受けて色や模様をつけて染めたものを、納品しているんだ」

 染色師は余り居ないからねと、困ったように眉を下げる。

「ただ色って混ざると、最終的には濁って黒ずんだ色になるだろう?それでここの排水は、それらが混じって黒っぽい色になってるんだ」


 リヒトの話にルースは頷く。

 自分で試したことはないが、色は混ざり合うと最終的には暗い濁った色になると、本で読んだことがある。その為、やはりここの排水は、色が混じってしまった事で汚い色になっていたのかと考える。


「だからね、冒険者ギルドにクエストを出しても、汚いと言って受けてもらえない事もあって、害はない排水なのに、見た途端、そのまま帰ってしまう事もあるんだ」


「あぁ……」

 リヒトの話に、ルースの隣から声が漏れる。今の話にフェルも思い当たることがあるのだろう。その顔を見れば少しバツが悪そうだ。


「そんな事で、本当に助かった。ありがとう」

「いえ、お力になれて私達も嬉しいです。それに水浴びまでさせていただき、ありがとうございました。それでは、私達はこれで失礼します」

 2人はリヒトに頭を下げ、ドーラス工房を後にした。


 外に出たルースとフェルは、本日のクエスト3件を全て終わらせ、冒険者ギルドへと足を向ける。空を見ればもう茜色に染まり始めており、1日の終わりを迎えようとしていた。


 リヒト・ドーラスのクエストは、実労2.5時間で1000ルピル。その後水浴びをさせてもらって約3時間で終了。

 その為、今日の稼ぎは1件目が300ルピルで2件目が600ルピル、そして3件目が1000ルピルの合計1900ルピルだ。一人あたりは950ルピルとなり、目標の500ルピルは無事に達成した事になる。


「フェル、1日お疲れさまでした。今日のクエストはこれで終了ですよ。後は冒険者ギルドに戻って、完了報告を済ませるだけですね」

「おう…本当に疲れたな。F級クエストだからって軽くみてたんだけど、思った以上に大変だった…」

「そうですね。町中のクエストでも、体を動かせば疲れますね。フェルは1件目もずっと薪割りでしたし、お疲れの事と思います」


「おう…そうだった。じゃあ、俺の方がハードだったって事か?」

「おや?フェルは鍋磨きが簡単だとでも?」

「う…そうだった…鍋磨きもハードだな…」


 ルースとフェルは疲れた体を引きずるように、冒険者ギルドへ向かって歩く。途中、美味しそうな匂いも漂っており、疲労と空腹でヘトヘト気味の2人である。


「夕食は、ギルドの食堂でも大丈夫ですか?」

「ん?他で食べるのか?」

「いえ、ギルドまでお腹がもちますか?という意味です」

「ああ、そういう事か…腹は減っているけど、あそこは定額だからな。我慢する!」


 気合の入ったフェルに、ルースは笑う。

 こうして、2人は冒険者ギルドで完了報告を済ませると、冒険者としての初日を、無事に終えたのであった。


拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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