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【305】セレンティア

この話では視点が度々変わります。ご了承ください。

『…と、そういう事だ』


 シュバルツはルースとの話の後フェル達の待つリアの家へと戻り、ルースからの言葉を伝えた。


「俺達もメンバーに選ばれたのか?」

「そのようだな。きっとルースがオレ達も加われるように、何かしてくれたんだと思う」

「僕もそう思うよ。それでなければ、僕程度が勇者パーティに入れる訳ないもん」

「…デュオ、もっと自分に自信を持て。デュオはレベルも高いし何より魔弓士でもある。弓士で魔弓士まで上る者は、そこまで多くないと聞いているぞ?」


 3人は勇者パーティとして呼び出しがかかると聴き、フェルは念願叶い、デュオは自信がなさそうに、そしてキースはルースが尽力してくれたことに感謝し、三者三様であるが皆は少なからず喜んでいた。


「へえ。あんた達すごいじゃないか。いくらあの子が推薦しようが、弱い者には声は掛からないはずさ。もっとみんな自信を持ちな。ここから先は魔の者どころじゃなくなるんだからね?」

 近くで話を聞いていたリアも、そう言って皆を激励してくれた。


 この頃にはフェル達が王都へ着て2か月近く経過しており、リアとも気安い関係にもなっている為、シュバルツが魔物であり念話で話ができるとリアも知る事となっていた。

 今はリアの家のソファーで、4人がシュバルツの話を聞いているのである。


「あんた達が何か持っているのはわかっていたが、勇者パーティになるとはねぇ…」

 リアはルースを含め、この4人が元々何かあるとは感じていたような口ぶりだ。

 そのリアの言葉に、3人は照れたように笑う。


「これから俺達は、城に行って王様に会うのか。騎士に会うのが夢だった頃が懐かしいなぁ…」

「フフ。そう言えばそうだね」

「ああ。それにやっとルースと合流できるしな。ルースも今頃一人で退屈しているだろう」


 3人にもたらされたルースからの情報で、城から迎えがくる前にフェル達はその事を知り、ルースに会えるその日に向け、フェル達は心の準備を始めたのであった。



 -----



明日(あす)、勇者に随行する者達へ迎えを出す予定です。その者達の所在は、モリソンに確認しておりますので滞りなく」

「その予定だったな。その後勇者パーティを民衆より先、まず貴族たちに紹介せねばならない。そちらの予定は?」


 宰相デイヴィッドとその補佐のカールセンは、宰相の執務室で今後の予定などの打ち合わせをしていた。とは言え、今デイヴィッドがカールセンに任せている事は勇者関連であり、そのカールセンから報告を受けている形である。


「その勇者パーティを披露する為の宴は、来週に予定しております。その旨の招待状は、既に貴族たちへ送付済みです。明日登城させる者達へはその宴に間に合うよう、衣装などの準備をさせる手筈も整えております」

「うむ。その宴には教会の聖女も出席させるのだったな?」


「はい。パーティ全員のお披露目という事で、教会へもその旨通知いたしました。教会からは既に色よい返事が届いております」

「そうか。教会もここぞとばかりに気張ってくるだろう。この機に多くの者たちと顔を繋げておきたいだろうからな」

「…はい」

「まぁ良い。流石にこの城の中では好き勝手はできないだろう。その後は任せる。他に報告は?」


 デイヴィッドは背もたれに背を預け、目を閉じて眉間を揉んだ。ここのところの業務で、少々疲労が溜まっているのだ。


「それから、先日の調査の進捗状況ですが…」

「ふむ。どこまでわかった?」

 デイヴィッドは瞑っていた瞼を開き、身を乗り出した。


「あの者が冒険者ギルドに登録した最初の町、カルルスまで辿りました」

「ほう、それで?」

「はい。あの者が申した通り、その時点では“ルース”という名前であったようです。王都に来るまでの間に立ち寄っていたスティーブリーの教会に、当時の記録が残っておりました。その教会でも確かに“ルース”という名前であったと…」

「そうか…。謎は謎のまま…か」


 デイヴィッドは、進めていた“ルシアス・モリソン”の調査内容を聞き考え込む。

 今までの常識からすれば、人の一生の中でステータスの名前が変わる事はまずありえないと思っていた。しかしそれが、“ルシアス”という者は王都に来る前までは“ルース”であったという。そして実際に調べた教会の記録にもそう残っていた。


 デイヴィッドが先日言ったように、ステータス表示とは人が自由に可変できるものでなく、特別な何かによって人々の内面を表示させているに過ぎず、いくら当人が名前を変えようとも、自身に刻まれたステータスまで変わる事はまずないと言えるのだ。


「わかった。あの者についてはそこまで調査すれば良いだろう。そこまでわかれば、嘘をついていなかったという事の証左にもなる」

「かしこまりました」


 とデイヴィッドは口ではそう言ったものの、そうなると自分が考えている事にも引っ掛かるのだ、とは口には出さぬまでも、心の中ではそんな事も考えていたのであった。



 -----



 ウィルス王国の王族には、王子が2人と末に王女が1人いた。

 その王子が2人とも金の髪と目であるように、この王女も癖のない艶やかな金の髪に、宝石を嵌め込んだ様な煌めく金の瞳を持っている。

 王族が持つ色彩は金色だと決まっており、王族が降嫁して他の貴族との間に子が生まれても、なぜかその金色は受け継がれず、国王になる資格がある者のみに受け継がれているのが、この金彩色である。


 その王女、セレンティア・エル・ウィルコックスは、年が明けて今年18歳になった。

 第一王子が23歳、第二王子が20歳。

 年が近い事もあり昔は兄妹(きょうだい)3人仲が良く、子供の頃はよく兄達に遊んでもらっていたとセレンティアは思い出す。

 だがそれは、すぐ上の兄であるルシアスが居なくなり、プツリと途絶えてしまったのだった。


 その当時セレンティアはまだ7歳。王族であってもまだ子供で、勉強の合間に兄達と花を摘んだり乗馬をしたりと一緒に過ごす事も多かった。

 それがある時を境に突然なくなり、なぜ兄達はもう遊んでくれないのかと泣いたりもしたが、それが少しすれば家族の表情にも笑顔が消えていると、聡いセレンティアは気付いた。


 それからセレンティアが周りの大人達の様子を注視するようになると、すぐ上の兄ルシアスが忽然と姿を消してしまったのだと知ったのだ。

 それを知ったセレンティアは更に泣いた。年も近いルシアスにセレンティアが一番懐いていた為だ。

 いつも笑って自分の事を気に掛けてくれていた兄がいなくなり、こうしてセレンティアの生活は一変してしまった。


 父や母達はずっとルシアスを探していたが、それは口にしてはならぬとセレンティアは言われた。そして程なくしてルシアスは病気療養中であるという事になり、そしていつしかルシアスの話をするものは周りに誰もいなくなっていった。


 セレンティアはすぐ、いなくなった兄の代わりにこの国を守らねばならないのだと気付き、遊ぶ事も止めひたすら勉学に励むようになった。そして大人達の様子を注視し、なるべく口ははさまず大人しく振舞うようにしていれば、口の軽い者達が色々な噂を運んでくれる事も知った。


 こうして聡慧(そうけい)に育ったセレンティアは今、一人物思いにふけっていた。



 数日前に催された勇者の儀にはセレンティアも出席しており、勇者となった者とは謁見の間で対面もしていた。

 そしてそこで受けた不思議な感覚に、セレンティアは戸惑った。


 “もしかすると…”


 色々な事柄を合せ、この者がそうであるという確証はない。

 しかしセレンティアはなぜかとても懐かしい想いが溢れ、自分を押さえねば、今にもその者に飛びつきたい衝動に駆られてしまうのだ。

 それがなぜか、どうしてか…。それは当の本人にも分からないが、あの謁見の間で会って以来、セレンティアの心にはあの勇者が住みついていたのだった。


 “もしかして、これが一目ぼれかしら?”とあらぬことも考えてみたが、冷静に考えてその感覚ではないと確認もした。

 だとすれば…。

 とここ数日、セレンティアは常にそんな思考の中を彷徨っていたのである。


 そして今、セレンティアは一つの決断をして近衛を連れ、自室を出て行ったのだった。



 コンコン

「宰相閣下、王女殿下がおいでになりました」

 その声に、共に打ち合わせをしていたカールセンが即座に動き、その扉を開く。


「お邪魔しますわ、宰相閣下」

「わざわざのお出まし、ありがとうございます。狭いところですが、こちらへ」


 デイヴィッドはソファーから立ち上がり、自分が座っていた席へと王女を促せば、セレンティアはひとつ頷いて歩いてくると、そのソファーの前で足を止めた。


「宰相閣下、人払いを」


 その声でデイヴィッドはカールセンに目配せし、カールセンは一礼して退出していった。その間素早く王女と宰相の前には紅茶が出され、侍女もすぐに退出していく。


 こうして宰相の執務室には思いつめたような表情のセレンティア王女と、コープランド公爵だけが残されたのであった。


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