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【295】集まった者達へ

 皆の前に立った男性の説明が終わってから、話していた男性だけが城の中へと戻っていった。

 その後暫くは喧騒が続いていたものの、次第に城に近い方から人の列ができはじめると、それは騎士たちが出てきた王城の門へと延びていった。


 その動きに気付いた者達には自らも城の方へと進んで行く者、その場を動かない者などが入り混じり、ルース達はそれを見て顔を見合わせる。


「どうやら、あちらへ行くらしいな」

「俺達も行くか」

「そうだね。あっちに行ったら説明が聞けるんだろうし」

「はい」


『我は外で待っている。流石に鳥であろうとも、あそこに入れば拘束されかねないからな』

「そうだね。今日はテイマーであっても、獣を連れては中に入れないんだろうし」

『だろうな』

「では申し訳ありませんが、シュバルツは何処かで時間を潰していて下さい」

『承知した』


 そう言ったシュバルツはフェルの肩からふわりと舞い降りると、北の方角へと飛んでいった。

 それから4人は王城の門へと移動しながら、動かぬ者達を横目に見る。


「剣に選ばれる前に人に選ばれるとか、意味わかんないし」

「もしここで落とされた奴が勇者だったら、どうするんだよなあ?」

「そんで結局勇者は見付かりませんでしたーなんて事になれば、目も当てらんないぞ?」


 そんな声が耳に届き、ルースは心の中で苦笑する。

 確かにその通りではあるものの、それは表向きしか知らぬものが考える事だ。

 パッセルの領主が言っていたように、初めからこの中には勇者がいない事を知っているが故の、彼らの対応であるとルースは思う。

 そして前回の時と同じ結果になるのかは、ルースには何の確証もない。


 ルースがそんな思考に気を取られていれば、いつの間にか王城の近くまで来ていたようで、近くの騎士から声が聞こえた。

「この後中に入ってから説明がある。ここから2列に並んで中に入るように。城の敷地内で列から外れて勝手に別の場所へ行く者がいれば、その者は悪意あるとみなし取り締まる」


 先程までスーツ姿の男性の周りにいた騎士たちが、参加者たちの列を整理するように動き回っている。それにいつの間にか騎士の人数も増えており、怪しい者がいないかと辺りを警戒している様だ。


 ルース達も列に並んで順番を待っていれば、後ろに残っていた者達にはチラホラと引き返す者も見える。

「帰る奴らもいるな」

「そうだな。もううんざりした者もいたんだろう」

「さっきの説明には、耳障りの良い言葉は全くなかったしね」


 デュオが彼らを見送りながら言えば、フェルはフンと鼻を鳴らす。

「俺達はそもそも勇者になれるとは思ってない。どちらかと言えば、パーティメンバー狙いだからな」

「まぁ、そうだね」

「ああ、そうだな…」

 フェル達は、パッセルの領主が話してくれた事を暗に言っているようだ。

 そもそもソフィーの事が重要であり、それに事前に裏事情を教えてもらっているのだ。ここにいる者達とは心構えが違うとも言えた。


 4人が並ぶ列はどんどんと進んで行き、ルース達は門の入口で身分証を提示させられ、それを何かの魔導具にかざしてから城の敷地内へと入って行った。


「うわぁ…お城ってキラキラしてるね」

 そして入った途端、目を輝かせたデュオが小さな声で城を見上げて言う。


 門を抜ければ中庭があり、目の前には馬車でも3台は並走できそうな幅の白いレンガを敷き詰めた道が真っ直ぐと伸び、それは王城の大きな入口へと吸い込まれるように続いている。

 そこにある白亜の城は、まるで一つの山から切り出して作ったように周りから中心へと向かうにつれて高さを増し、尖った屋根がいくつも重なる様にして中央に一番高い屋根が見えた。それは沢山の塔を一か所に寄せ集めたようにも見え、何とも複雑で美しい造りの城であった。


 ルースもここから見上げる城を見て、ほぅっと息を吐いた。

 昔はいつもあの高い場所から町を見下ろすか、城の脇にある騎士団棟までの移動で外に出たくらいで、こうして王城をまじまじと見る事もなかったのだ。

 ルースでさえその城の姿に感心していると、立ち止まったフェルが騎士に注意されていた。


「ほらっ止まるな」

「あっすいません」


 王城の敷地に入って左にそれた列はそのまま長く続いており、ルースはその先に騎士団棟があったと思い至る。どうやら城の中には入らず、騎士団の演習場にでも集めているらしいと気付き、それもそうかとルースは心の中で苦笑した。


 いくら入口で身分証を提示しているとはいえ、こんな誰とも分からぬ者達を、王宮のある王城内へ入れる事はないだろう。

 だが騎士団棟にステータスを確認できる魔導具があっただろうかと、そこは疑問に思うルースだった。


 王城にも、ステータス確認ができる魔導具はある。それは魔術師団の魔導具研究をしている部署が、教会にある魔導具を研究し小型化したもので、王族のステータスを視る為に使われていた。

 流石に王族の情報を、おいそれと教会に公開する訳にも行かぬのだろうと、理由としては想像がつく。

 その魔導具は聖職者でなくとも起動できるように改良されており、魔術師団員がそれを起動させていたはずだ。ただしこの情報はルシアスの時の前回の記憶で、今それがどうなっているのかは分からない。

 ルースは足を進めつつ以前の記憶と照らし合わせながら、騎士団のある方角へと向かって行ったのだった。


「どうやら城には入れないらしいな」

「だよね。流石に、僕たちを城に入れてくれるとは思ってなかったし。でもどこに向かってるんだろうね?」


 列に続いて柵の中に入って行くと、広場の様な形状の何もない場所へと出る。

 やはりルースの考えた通り、自分たちは騎士団の演習場に連れて来られたようだ。そしてその場所が懐かしいと思える自分に、ルースは少し不思議な気分にもなっていた。


 ルースは前回勇者として旅立つまでの数年間、この騎士団棟に通い騎士団の一員として過ごしていた。

 ただ一応王子という身分であったために、いつもは団長や副団長と近い場所にいて日々の鍛錬などの相手をしてもらっていたのだった。その為、その他の騎士団員達とはさほど親しかった訳でないからか、こうして今周りにいる騎士たちの顔に見覚えはない。


 そんな思考の中にルースが落ちていれば、演習場に集められた者達の前に備え付けられた、高い台の上に立つ者が現れた。そこは騎士たちに向けて指示を出すための物で、演習場内の者からも良く見える場所にある。


「誰か出てきたみたいだな」

 フェルもそれに気付いて視線を向ける。

 ルースはその人物に視線を向け、その懐かしい顔に心の中で一人笑む。


「私はウィルス王国、近衛騎士団長、ジェラルド・オルクスだ。本日は勇者の儀の前に、皆の覚悟を試させてもらう為にここへ集まってもらった」


 演習場には、広場から少し減って移動してきた800人程の者達で溢れている。

 その皆の前に立つオルクス団長は、端から端へと視線を巡らせ、自分の言葉が届いている事を確認しているかの様にそこで口を閉ざした。

 しんと静まり返る者達の顔には戸惑いすら浮かび、これからどうなるのかと皆は固唾をのんでオルクス団長を見つめていた。

 そうして再びオルクス団長は口を開く。


「ここへ来た者達は既に勇者として立つ覚悟はできていると思うが、勇者になるという事は即ち“封印されしもの”と相まみえる事を意味する。その“封印されしもの”とは、多くの者が知るであろうこの国に古くから伝わる話の中の、最強なる悪の存在だと思ってもらいたい。それの力は甚大でその魔力の欠片でさえ、今回既に王国内にある村をひとつ壊滅させた事が分かっている。欠片ですら村を潰すようなものを相手に、勇者になる者とそれに随行する者達は戦わねばならぬのだ」


 オルクス団長はここにきて、皆に重たい一石を投じた。

 先程までの静けさから一転し辺りにはザワザワとした人の声がする中、フェル達3人は表情を引き締め、オルクス団長を睨むように見つめている。


 ルースは一人目を瞑り記憶として蘇った封印されしものの事を、オルクスの言葉によってまざまざと思い出していたのだった。


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