表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/348

【28】迷コンビ

 新しくE級と上書きされたカードを受け取ったフェルは、それを嬉しそうに眺めている。

 2人は受付から離れ、クエストの掲示されている場所へと移動した。


 まだこの早い時間の冒険者は少なく、貼り出されているクエストもさほど多くない。多分これからギルド職員が貼り出して行くのだろうが、F級のクエストはその中でも選べる位は残っていた。

 駆け出しの冒険者でなくなった者達は、やはりそのランクのクエストを受けたがる為だろうと、ルースはF級の掲示物を見ながらそう思った。


「なぁ、E級のクエストが余りないな…」

 ルースの隣で、フェルが掲示板を見ながらそう呟く。

「ええ。なので今日は、F級のクエストを受けようと思っています」


 その言葉に、フェルが驚いた様にルースを見た。

「え?せっかくE級になったのに、F級のクエストを受けるのか?」


 尤もなフェルの言葉ではあるが、ルースは一つ頷くだけだ。

「むう…」

 それに納得がゆかないのか、フェルが何か言いたそうな顔をする。


「今日が私たちの初日という事もありますが、まずはクエストというものを理解する為に、安全な所…基本から始めたいと思っています」

 この町のF級クエストは、町の人達からのクエストが大半であり、活動は町中で安全という事だ。

「それにこの町を知る為にも、町中で活動をした方が良いでしょう。町の様子や人々の雰囲気など、私達はこれからこの町の事を、学んでゆかねばなりません」


 そう言われてしまうとフェルも、そんなものかと思い始める。


「それに一番の理由は、F級のクエストを受ける人が少ないのか、まだこんなに困っている人たちがいる、という事です。それを手伝ってあげた方が町の人も満足しますし、私達も良い経験となるでしょう」


 フェルは、ルースの言葉を確認するように、F級のクエストを見る。イモの皮むきや在庫の数を数える等、町人が手伝って欲しい細々したクエストが貼ってあった。


「これを見る限り、冒険者は“何でも屋“ですね。金額こそ少ないですが、1日に何件かを受ければ、収入の問題も解消されます」


 そう言い切るルースに、なるほどなとフェルも頷く。

 冒険者登録をすれば、いきなり魔物と戦うのかと考えていたフェルだが、そもそもF級やE級には、魔物討伐クエストがないのだった。


「おう。それじゃ、ルースがクエストを選んでくれよ。俺はそれで構わないから」

 フェルは、やはりルースは自分と考えているところが違うなと、なかば感心していた。ルースをリーダーにしておいて良かったと、パーティの構成にも満足する。


「では、これにしましょう…まとめて何枚か持って行っても良いのでしょうか…」

 ルースは独り言ちて、クエストを手に取っている。

 フェルにもその声は聞こえていたが、自分もわからないので、聞こえなかった事にしたのだった。


 ルースは3件のクエストを手に取ると、フェルを促して受付へと戻る。

 受付は3ケ所で、それぞれ職員が立っている。しかしルースとフェルは、やはり見知ったハーディーの下へと歩いていく。


「すみません。クエスト申請は、一度に複数でも大丈夫ですか?」

 ルースは、手に持ったクエストをハーディーに見せながら、そう問いかける。


「ええ。ただし、期限があるものはその期間中に済ませないと、ペナルティとなります。ペナルティは、罰金だったり活動休止になったりといった物です。でも今お持ちのクエストは、全て期限の設定がないので、一度に複数を受けていただいても大丈夫ですよ」


 ハーディーの説明に、2人はルースの持つクエストを確認する。確かに“いつまで“と書いていないので、もし今日中に終わらせることが出来ずとも、翌日に持ち越せるという事なのだろう。

 2人はそれに納得して頷くと、3件のクエストをハーディーに出す。


「こちらをお願いします」

「はい。ではカードをご提示ください」


 そう言ってハーディーは、手際よく3件のクエストに2人の情報を入れていく。

「手続きは終わりました。では、頑張ってきてくださいね」


 にっこりと笑みを作ったハーディーに見送られ、2人はそのままギルドの扉をくぐり、朝日の昇る町へと出発していった。



-----



 冒険者ギルドを出た2人は、今しがたハーディーに聞いておいたクエストの場所に向かって歩き出す。

 そうやって歩き出せば、道の方々からやってくる冒険者らしき人達とすれ違う。少し早めにギルドへ行った2人だったので、これからの時間に受付が混みだすのだろうと、ルースは心に留め置いたのだった。


「そういえば、フェル。一つ聞きたいことがあります」

 町中を歩きながら、ルースがフェルに声を掛ける。

「ん?何だ?」

「冒険者登録の事ですが、フェルは“フェルゼン“で登録したのですよね?」


 ルースがそう言いつつフェルの顔を覗けば、“しまった“とフェルの顔が言っている。

「私は“秘密“と聞いていたのですが、秘密でも何でもなくなりましたね」


 にっこりと笑みを浮かべたルースがそう言ってフェルを見ていれば、ガクリと肩を落としたフェルがボソリと呟いた。

「すっかり忘れてた…いつものくせで、そのままの名前を書いたんだった…。本当は“フェル“で登録しようと考えてたんだけど、あの時は頭が真っ白で、手が勝手にそう書いちゃったんだ」

 その話を聞く限り、うっかりだったという事の様だ。


 冒険者登録をする際、確かに本名で登録をしなくても確かめる事はできない為、渾名(あだな)でも偽名でも大丈夫だとは思うが、ルースはそもそも後からシンディにつけてもらった名前な訳で、自分も偽名なのかと疑問に思うも、ルースには名を偽っているという認識はなく、結果、それはどうでも良い事なのだとそこへ落ち着く。


 ルースの問いから一気に気落ちしたフェルだったが、それはもう仕方がない事だ。今更名前を変えてくれとギルドに申し出たところで、大変な手続きとなる事は安易に想像がつく。


「まあ別に、他の冒険者にそのカードを見せる事もまずないでしょうし、私が“フェル“と呼んでいれば、皆もそう呼んでくれますよ」

 過ぎてしまった事をいつまでも気にされては、これから行うクエストにも支障が出るだろうと、ルースは意識を切り替えさせるために、一応フォローを入れておく。

だが、

「私が爺臭くてフェルはうっかりさんの、迷コンビですね」

 と最後の余計な一言に、復活しかけたフェルがガクリと肩を落とした。

 ルースは案外、根に持つ方かもしれない。



 そうこうしている間に、何とか1件目の目的地へ着いたようだ。

 ここは町の中心からは少し離れた住宅街で、大きな家はないが寂れた様子もない一画だった。


「ここのようですね」

 ルースとフェルは、赤い屋根の家を見る。家の前には低い柵があり、途中の途切れた所から不揃いの平たい石が並べられ、扉の前まで続いているところを見ると、ここが入口という事だろう。


 2人はそこから扉の前まで進み、ノックする。

 コンコン

「すみません。冒険者ギルドのクエストで伺いました」

 ルースが声を張って呼びかければ、「はーい」と返事が聞こえて扉が開いた。


 出てきたのは50代位の女性で、資料によれば“エミリア・キルズ“という人であるはずだ。

「こちらはキルズさんのお宅でしょうか」

 ルースはまず、そう確認する。

「そうよ。来てくれて嬉しいわ」

 と緑の髪を揺らしながら、その人物は笑顔を見せた。


「私達は“月光の雫“というパーティで、私がルース、彼はフェルと申します」

 そう言ったルースとフェルが頭を下げた。


「私はエミリアよ。クエストを出したはいいけど、誰も来てくれないかと思い始めていた所だったの。受けてくれてありがとう」

 そう言ってホッとした様に笑みをこぼす。


「それで本日は、何をすればよろしいでしょうか?」

 ルースがそう聞いたのは、クエストの内容に具体的な指示がなかった為だ。このクエストは、家事の手伝いという内容だったので、これから指示をあおぐ事になる。


「そうだったわね、詳細は書かなかったのよね。一番は薪割りなの。いつもは私の弟がやってくれているのだけど、先日ギックリ腰になっちゃってね…だから弟がやってくれていた事を、今日はお願いするつもりなの」

 ドジよねぇ、とエミリアが苦笑する。

「まぁ、仕事中の事だったみたいだし仕方がないんだけど、そうなると私が困る訳よ」

「…では、初めは薪を作る場所に、ご案内いただけますか?」

「ああ、ごめんなさい。こんなところで話し込むところだったわね」


 エミリアは扉を出ると、裏へと回り込むように歩いて行くので、2人もそれについていく。

 そして裏庭らしき場所へ出ると、その片隅に40cm程の長さをした丸太が、こんもりと積んであるのが見えた。


「ではこれを薪用に割ってもらって、そこに積んで行ってくれるかしら」

「はい。わかりました。量はどれ位を?」

「手が届くところまで積み上げてくれれば大丈夫よ。それがなくなる頃には、弟の腰も治っていると思うしね」


そう言った量は、見たところ1時間もやれば出来そうな量だった。


「はい、承知しました」

「で、後は家の中なの…」


 そう話すエミリアに、ルースはフェルを振り返る。

「フェル、薪割りをお願いできますか?」

「おう、任せてくれ」


 ルースとフェルのやり取りに、エミリアが微笑みを向けると「じゃあ、ここはお願いね」とフェルに声を掛け、ルースを伴って、勝手口から家の中へと入っていったのだった。


いつも拙作にお付き合い下さり、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

引き続きお付き合い下さいますよう、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ